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3章 1年1学期後半

55話 実はいた先輩

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「ここにゃね」


ボクはムクロス、今主君の依頼を受けて北の冒険者ギルドに来ているんだ。
内容は、勿論悪い奴らをやっつける事だけど、ボクには情報収集が指示され危ない事はしない様に言われてる。
なのでボクはちょっと不満なんだ。情報を持っているのはギルドの偉い奴で、ボクが調べるのは普通の職員だからね。


「今のボクなら、誰にも気づかれずに出来るのに、どうしてアレシャスさんは」


口調が戻ってしまっている事を忘れ、どうして信じてくれないんだろうっと、ボクは不満を漏らしたんだ。
普通の職員たちの話は、聞いていても全然情報にならなくて、ボクも聞いていて面白くない。


「学園の時みたいに出来るのに」


学園でも生徒たちを調べたけど、ボクに失敗は無くてしっかり出来た。
語尾と口調を戻して、少しくらい良いかなっと、天井裏からギルドマスターの部屋に向かったんだ。


「いたにゃいたにゃ」


さぁ良い情報を話すにゃっと、ボクは天井裏から耳を傾けたにゃ。
相手はお腹の出ているマスターで、いかにも動きが鈍そうな奴だったにゃね。


「やっぱり楽勝だよ。どれどれ~」


書類にサインをして普通の仕事をしているみたいにゃが、ベルを鳴らして誰かを呼ぶと、何やらあぶなそうな事を話し始めたにゃ。
内容は主君の担任からの依頼で、冒険者はダンジョン関係の依頼を受けない様に指示が書かれているそうにゃ。


「都合よく喋ってくれるにゃが、何を言ってるにゃ?主君は冒険者なんて雇ってないにゃ」


全然違う指示をしている担任に、これはどうしてにゃ?っと、ボクは不思議に思って聞いていたにゃが、そこでギルドマスターが立ち上がり部屋を出たんだにゃ。
どこに行くのかと天井裏から後を追うと、何と外に出てしまったのにゃ。


「この施設から出るのにゃ?それは困るにゃよ」


主君からの指示は、施設の中で情報収集にゃ、にゃから外からはボクの仕事から外れてしまうにゃ。
でも、僕は興奮していて忘れていたにゃ。どこに行くにゃと建物の屋根から移動をして追いかけ、西にある廃墟に着いたのにゃ。


「これって、もしかしてすごい現場を見れるんじゃ」


口調がまた戻っている事に気付かないほどに興奮しているボクは、主君であるアレシャスさんに良い報告が出来ると期待したんだけど、それは大きな間違いだったんだ。


「ふむ、随分簡単に姿を見せたなガキ」
「き、消えた!?」


なんと、ギルドマスターがこちらを向き短剣を取り出したと思ったら、急に姿が消えたんだ。
どこに行ったんだよと、キョロキョロしていたボクだったけど、その後直ぐに後ろから声がして驚いて前方に転がったんだ。


「フム、動きはなかなかだのう」
「ぼ、ボクに気付いてたのか」
「当然だろう、ワシを誰だと思っている」


闇夜の支配者リエルドとお腹を叩いて偉そうだけど、ボクは聞いた事ないって返したんだ。
気配に気づかれてもボクの方が絶対に強い、レベルが56なんだよ。


「ふむ、まだ余裕だのう」
「当たり前だろ、ボクは強いんだ」
「がはは!そうかそうか」


逃げる事は出来ると思っていたボクは、体勢を低くしてスキを探った。
またギルドマスターの姿が消えたら逃げようと思っていたんだ。でも、逃げる間もなく背中に痛みが走りボクは倒れてしまった。


「フンこの程度で見えないとは、やはりまだガキだのう」
「くっ」


覆面を取られボクは素顔を見られて子供と知られてしまった。
ボクが甘かったとアレシャスさんに迷惑を掛けられないと顔を逸らしたんだ。


「何処かで見たか?もっと良く見せて見ろ」
「ぐぁっ」

ギルドマスターはそんなボクの顔を髪を掴んで上げさせた。
見た事のないネコと言って、短剣を頬に突き付けて来た。ボクは少しでも抵抗しようとしたけど、どうしてか体が動かなかったんだ。


「ぼ、ボクに何をした」
「そんな事も分からなぬのか?後ろを簡単に取れるわけだのう」


そこからギルドマスターは得意げに話しを始めた。
ボクの後ろを取ったのはスキル【影移動】で、太っていても真後ろに移動し攻撃が出来るとか言ってる。


「そ、そんなスキルが」
「密偵には必須なスキルだぞ、これだから素人は困るのだ」


レベルが高くてもスキルが無ければ意味がない、こいつはペラペラと喋ってくれるけど、ボクの頭は後悔でいっぱいです。
こいつの容姿に油断してた、どんな動きをされても対処できると思っていた、だけどスキルはそれを越えて来て、更に短剣には毒が塗られていてボクは動けないんだ。


「さぁワシの話は終わりだ野良ネコ、今度はそちらが話せ」


誰の差し金とか聞いて来るけど、ボクが言うわけないんだ。
それだけは絶対に言わないと叫ぼうとすると、どうしてか口が勝手に動いてしまったんだよ。


「フム、アレシャスと言うのか」
「なっ!?どうして」


これもスキルだと、ギルドマスターは笑って来て悔しかった。
ボクは何も出来ないと涙が出てきて、昔の孤児院を思い出したんだ。


「レベルが上がっただけで何でも出来ると思っていたボクがいけないんだ」


動かない身体を何とか動かそうと必死にもがいたけど、そんなボクの背中をあいつが踏みつけて来た。
何も出来なかった時と同じで、とても悔しくて仕方なかった。


「あきらめの悪い野良ネコだ、お前はこれから尋問を受け死ぬのだ」


背中を足でグリグリとされ痛かったけど、それよりも心が痛かったんだ。
野良と言われアレシャスさんに迷惑を掛けてしまったと、悔しさと後悔が押し寄せてきたんだよ。


「こんな事なら、言いつけを守っていればよかった、うぅ~」


ちゃんと言いつけ通り、職員だけを見ていればこんな事にはならなかった。
ボクはもうおしまいだと諦め力を抜いたんだよ。


「諦めるにゃら、相手に噛みつくくらいするにゃ~」


ボクが体の力を抜いた時、ボクの目の前でそんな声がしたんだ。
顔を上げるとボクと同じ猫の種族が目の前にしゃがんでいた。


「だ、だれ?」


横にいるギルドマスターは、どうして何も言わないのかと不思議だったけど、その前に知らない人だったんだ。


「誰でも良いにゃ、それよりも根性を見せるにゃ」


ギルドマスターを見ると、その人には気付いていない様でした。
こんな目の前にいるのにどうして?っと思ったけど、どうやらこれもスキルみたいで【隠密】だとその人は教えてくれた。


「目の前にいるのに隠密が出来てるんですか?」
「そうにゃよ・・・っと言っても、これだけ喋ると見つかるにゃ」


その言葉通り、急に背中の重みが無くなり、ギルドマスターが距離を取ったのが分かりました。
何者っとタイミングの悪い事を言って来たけど、その人はにゃははっと笑って返したんだ。


「名乗るほどの者じゃないにゃ、おみゃ~も帰ればこのまま帰してやるにゃ」
「な、何をバカな事を!」


助けてくれた人は油断しているわけじゃないのは分かったけど、相手には後ろを取るスキルがあるから気を付けてとボクは教えようとした。
だけど、ギルドマスターが姿を消して間に合わなかった。でも、ギルドマスターはボクの時とは違い後ろを取る事が出来ず、その場に倒され手足を縛られてしまった。


「み、見えなかっただと!?」
「にゃははっ!出て来るのが分かっているにゃら簡単だにゃ」


後ろに罠を張っていたと言ってくるけど、何時そんな物を設置したのかと質問しました。
その人は【罠設置】と言うスキルと言って来たけど、そんなの反則だとギルドマスターと声を揃えてしまったよ。


「にゃはは~反則はスキルの代名詞にゃよ」


レベルよりもスキルを沢山持っていた方が勝つ、それはその人が教えてくれた事だけど、アレシャスさんがいつも言ってる事だった。
だからこの人はアレシャスさんの仲間なんだと、ボクは謝ったんだ。


「言いつけを守らず、ギルドマスターに近づいてしまいました、ボクは密偵失格です」
「それは違うにゃよムクロス少年。言われた事だけをしていたら密偵としてダメなのにゃ、ウチはそう思うにゃし、主君もそう思っていたにゃ。だからウチはここにいるにゃよ」


この人は、ボクを守る為に居たそうです。
そして、それを指示したのはアレシャスさんで、ボクの成長に期待してくれてたんだ。


「学園の時は、ずっと言いつけ通りしてたにゃ、にゃから心配していたにゃよ」


自分で判断して情報を集める事、それがボクのしないといけなかった事で、ボクはやっと前に踏み出すことが出来たんだ。


「ウチはケットシーのミケというにゃ、これからウチが指導するにゃよムクロス少年」
「よ、よろしくお願いします」


すごい人の指導を受けれるとボクは嬉しかったけど、ギルドマスターはそこで怒鳴って来た。
縛っていたのを忘れてたけど、ボクはどうするのかミケさんに視線を向けます。


「ますたぁは、おみゃ~を許すにゃろうけど、ウチは違うにゃ」


ミケさんは、獲物を見る様に目を丸くしていて、これはギルドマスターの命は無いんだろうと、ゴクリと緊張しました。


「わわ、ワシを殺すつもりかっ!?ワシはギルドマスターだぞ」
「にゃ~ははは、ギルドマスターだかゴルドマスターだが知らにゃいけど、必要にゃい人物がいなくなっても問題ないのにゃ」


準備は出来てると、ミケさんは言ってギルドマスターに耳打ちしました。
それを聞いてギルドマスターの顔色が青ざめ始め、力なく下を向いてしまいます。
何を教えたらあれだけ心が折れるのか、ボクは教えてほしくて目を輝かせたよ。


「にゃはは、そんな目をしにゃくても、後で沢山教えるにゃよ」
「おねがいします。ボクはもう何も出来ないボクに戻りたくない」
「それは違うにゃよムクロス少年。君はまだ子供にゃんだから、美味しい物を食べて学び遊ぶのが仕事にゃ」


ミケさんはそう言うけど、ボクはアレシャスさんに助けてもらい仕事も別で受けてる。しっかりとやり遂げないといけないんです。
それでもミケさんはそうじゃないって言います。アレシャスさんが仕事をくれるのは、ボクがそれで遊んでいると思っていたからで、ミケさんを付けたのは危なくない様にだったそうです。


「確かに、ボクはアレシャスさんの言ってた忍者に憧れてました。でもそれは凄いと思ったからです」
「にゃけど危険なのは分かっていたにゃよ。だからますたぁはウチを子守として付けたにゃ」


ボクのしたい事を叶えてくれていたと、この時のボクは初めて知ったんだ。
伸び伸びと育つにゃと、そんな言葉を貰ってボクは頑張ろうと決意をしたんです。
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