上 下
42 / 132
2章 1年1学期前半

42話 心の入れ替え

しおりを挟む
「さすがお姉さまたちです。得意な魔法では無いはずなのにあの威力、ほれぼれします」


分岐にいた団子スライムも氷魔法で難なく倒して進む映像を見て、魔法科の女子生徒たちから、黄色い歓声が聞こえました。
実力が上なんだから当然と思っているのは僕だけで、それでは限界が訪れるんだ。
次の中部屋に入るとその歓声は悲鳴に変わり、調子の戻っていたサイラスたちが落ち込んで戻って来たよ。


「な、何よあの鎧を纏ったスライムは!?」


女子生徒たちがすごく焦って画面を指差し、誰もが顔を青くなりだします。
それもそのはず、中部屋にいるのは1000の強さを持つリビングスライムで、そいつは鎧に入って戦ってくるから、なかなかに強敵です。


「中部屋の様式を変えないと出てこないし、知らないのも仕方ないけど、難易度が格段に上がって大変そうだね」


甲冑の置かれている装備部屋で片手剣を振り回してきます。
アレをかわして戦うのは、今のサイラスたちには難易度が高く、予想通りの展開が待っていたんだ。


「疲れた~」
「ひ、ひどい目に会いましたわ」
「お、お姉様気を確かに」


戻って来たサイラスたちは、さっきと同じ様にフラフラで、観戦している生徒たちは今度こそダメだって空気を出して来た。


「あ、あんなに素早いなんて、どうすれば勝てるんだ」
「ははは、動きが早すぎて大変だったね」


僕に助言を貰おうとサイラスはチラチラ見て来るので、僕は答えを言いそうになって止まります。
教えてばかりでは駄目だと、ウルフ装備はしまいながら助言を口にします。


「やはり速度か」
「そうだね、でもそれだけじゃないよ」


重い装備なんだから仕方ないっと、困った顔で伝え今のままでどうすれば良いのかを聞いたんだ。
当然サイラスたちは分からずに悩み始めた、僕はここで彼らに連携を考えてもらおうと計画します。


「リビングスライムの動きをよく思い出してよサイラス君、あいつらは最初どうしてた?」
「どうって・・・オレは見てないな」
「ワタクシは見てましたわサイラス」


紫ツインテのシェネルさんがみんなに教え始め、僕はしめしめとニッコリとします。
リビングスライムは、鎧の中には入らずに外でウネウネしています。


「そ、そうだったのか」
「そうですわ、だからあそこを狙えば」
「うむ、行けるかもしれない」


リビングスライムは、敵を視認したら慌てて鎧の中に入って武器を抜いて来る。
観戦している生徒たちもなるほどっとざわつき、部屋の中の団結を感じて、ちょっとこういった感じは良いかもって思ったね。


「僕がモンスターのみんなとしていた事・・・やっぱりこれがないと大きく向上しないよね」


サイラス君たちが作戦を決め、ダンジョンに入ろうとしている時、僕は間違ってなかったと再確認しました。
今度こそ倒すと言った雰囲気が部屋にも溢れ、みんなはリビングスライムと対峙するサイラス君たちを応援してくれた。


「勝てるかは分からないけど、応援するよ」


がんばれっと僕も応援したんだけど、対策を立てた彼らが負けるはずもなく、さっきの苦戦が嘘の様に倒す事が出来て、観戦者たちから凄いと歓声が上がったよ。


「しかし、相手が準備出来てない状態での不意打ちは美しくない、オレはそんな事したくないな」
「そうだけどさアランフェ、相手はモンスターだぜ」


順調に進む様になったサイラス君たちを見て、部屋の生徒も冷静になったのか批判する声が出始めます。
批判は個人の自由だけど、それだけで終わってはいけないんだ。サイラス君たちは先手を取れなかった場合の対策も立てているんだよ。


「君たち、サイラス君たちはそれも考えた位置取りをしてるよ。体勢が何処か違くないかな?」
「確かに、盾を斜めに向けているな」
「そうだよ、あれでもし攻撃されても、その攻撃で吹き飛ぶ事はないし、衝撃も少なくて済むんだ」


なるほどっと感心してくれた騎士科の生徒たち、更に後衛者に攻撃が流れない様な位置取りをしていると教えます。
戦いとはステータスの数値だけではなく、状況を理解する事が重要なんだ。


「相手の動きは鈍かったけど、それはサイラス君たちも同じで、体格の大きな方が勝ったという訳だね」
「そうだったのか」
「分からなかったぞ」


重装備でなかったなら、きっとあんなに苦戦はしないでサイラス君たちは倒せただろうっと、騎士としてのプライドを持っている彼らを称賛したんだ。
プライドを守り更に勝ち進むサイラス君たちはとても強い、僕のそんな言葉に部屋にいる生徒たちは、画面に釘付けになります。


「初級の魔法でも倒せてるわ」
「すごいですねお姉様たち」


詠唱のいらない初級魔法を使い始める後衛者も映り、魔法科の生徒からキャキャっと嬉しそうな声も上がって来て、団結しているとダンジョン科の生徒たちも分かり始めます。


「威力の高い魔法ばかりが得策ではないのですねジャケン様」
「そうだなケーニット、牽制やフェイントは大切だと言う事だろう」


ダンジョン科の生徒も納得し、ダンジョン製作の参考にしようと話し離れていく生徒が出始めたんだ。
やっと分かってくれたと、僕は少し嬉しくなったけど、バルサハル先生には違う物を与えてしまったらしく、納得した顔で離れて言った。


「なにか悪巧みを予感がする」


やれやれと言った感じで先生の背中に視線を向けた。
先生には伝わらなかったと、ちょっとだけ残念に思ったけど、それ以上にダンジョンから戻って来た功労者たちを出迎えるの先決です。


「お疲れ様」
「そなたのダンジョン、とても良かった・・・それと朝はすまなかった」


サイラス君たちが僕に謝罪してくれたけど、力が分からない間柄なら仕方ないと僕は返事をします。


「それなら良かった。出来れば午後も入りたいんだが、良いだろうか?」
「もちろんだよ、僕はいないけどダンジョンはまだまだ深いから、モンスターの心配はないし、どんどん入ってね」

握手を交わし今後も頑張ってと激励を送ったよ。


「感謝する・・・オレはサイラス・ラースベルグ、名乗りが遅れてすまなかった」
「気にしないで、これから仲良くしよう、みんなもそれで良いんだよね?」


これからよろしくと、他の子たちとも握手を交わした僕は、他の子たちからの自己紹介を受けました。
重騎士のもう一人はモンドル・サーバインと言って、サイラス君よりは小柄な生徒でした。


「わたくしはシェネル・ジェラートですの」
「よろしくね」


シェネルさんは、握手の時いい笑顔を見せてくれて、他の2人とそれに続いたんだ。
ブイロネ・オーストンにロッチェーネ・アグラリストスと、2人から家名を聞けて、昼食まで一緒にとってお話をしたんだよ。


「俺たちにあんな欠点があったなんてな」
「分からなかったよな」


食事中に知ったんだけど、サイラス君たちは優秀だけど、ちょっと問題を起こしていて困っていたらしいんだ。
だから僕のダンジョンに入れて助かったとお礼を言われ、初見のあの態度なら仕方ないと僕は少し思ってしまったね。
しおりを挟む

処理中です...