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1章 誕生

3話 到着

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「獣人さん!?もしかして獣人さんなの?」


僕はテンション高めに聞いちゃったよ。だってファンタジーって言ったら、エルフにドワーフとこの種族だよねって種族に会えたんだ、これで興奮しない訳ないよ。
窓から体を出していた為、落ちそうになったけど、それでも僕はテンションがおかしい事になっていて、お話も出来ると期待したんだ。


「獣人なんて珍しくもないだろ、変な奴だな」
「僕は見たのは初めてだよ御者さん。獣人さんは村には居なかったし、それに僕が話しかけたら、その子も僕も怒られるんだ。御者さんも言われてると思うけど、話しちゃいけないんだってさ」


貴族になるから平民とは話さなくても良いとか、勉強ではそんな理屈を聞かされたけど、それってこの国の教育方針がさせてることで、上下関係を分からせる為にやらせてるだけなんだ。


「それは俺も言われた事で普通だろう」
「そうなんだけどさ、僕は変だと思ってるんだよ」


子供の頃からそうやって教育すれば、貴族になっても疑問に思わなくなり、偏った貴族社会が出来上がる。
ダンジョンを作れる存在は強者だと見せたいのだろうと、僕は納得はしている。だけど従うかは別で、僕は仲良く楽しい生活をしたいんだ。


「だから俺に話しかけたのか?」
「御者さんそれは違うよ、僕はね独り言を言ってただけさ、今だってそうだよ?」
「くっはははは!!そうか独り言か!!それは良いな」


僕がそう返したら、御者さんは大笑いを始めます、僕も一緒に笑ってなんだか嬉しかったよ。
それ休憩の時間は、御者さんとのお喋りの時間になったんだ。馬車から外には出れないけど今までとは全然違う、僕の作戦勝ちだって、今後に光が見えた気がしたね。


「ほんと変わってるよお前」
「僕はアレシャスだよ獣人さん、それに変なのはこの教育の仕方だよ、だってそう思うでしょ?」


そう言ったら黙って下を向いてしまいました、それが何でか僕は知っています。獣人さんの首にはその証が見え、この国はやりたい放題だと、雰囲気が暗くなります。


「オレは奴隷だからな、この国のやることに文句なんて付けられない」
「うん、知ってる・・・でもさ獣人さん、家族と話したり、仲間や友達と話すのは普通でしょ」


そう言ったら、獣人さんは空を見て考えています。貴族や王族が下の者と話す時は、使用人を使って伝えるのが普通です。
ダンジョンヒューマンが普通に話しが出来るのは、同じダンジョンヒューマンや他の貴族だけになるけど、それだって爵位があるから気軽には話せない、そんなの友達とは言えないよ。


「それが普通か・・・お前は普通の心を持ってるんだな、だから他の奴と違う」
「僕は、最初からこんな暮らしはおかしい、変だと思って育ったからね。だって誰とも話しちゃだめとか変でしょ」
「まぁそうだな」


そう言って食事を食べ始める獣人さん、まだ名前は教えて貰えないけど、僕もおなかが空いたので今日はここまでと、馬車の中の料理の絵が書いてあるボタンを押したんだ。


「白パンにお肉の入ったスープか、美味しそうだね」


絵と同じ料理が出て来るけど、これは魔道具ではなく、あらかじめ料理された物が馬車の収納に入っているだけなんです。時間経過がされない収納だから冷めないし腐りません。


「それ、うまいか?」


僕が窓に近くで料理を食べていると、獣人さんが聞いてきた、正直に言うと美味しいよ。でもね、僕は涙が止まらないんだよ。


「美味しいよ、美味しいけど・・・寂しいよ」


もう父さんと母さんには会うことはない。そう思うと涙が出て止まらない。転生する前は大学生だったけど、心が泣いてて止まらないんだ。


「泣いても変わらないのに、涙が止まらないよ」
「そうだな・・・だが、それを変えるんだろ?」


獣人さんにそう励まされ、僕は涙を拭いて彼を見ました。僕の決意に満ちた目を彼は良い目だと言ってくれます。


「そんな目が出来るなら、きっと達成出来るさ」
「うん、絶対にみんなで一緒に暮らすんだ」
「頑張れよ」
「うん」


僕の言葉を聞いて、獣人さんも笑顔になり窓を隔てた食事が続きます。
そして、遂に彼の名前を聞くことが3日目にして叶ったんだ。彼はウサギ獣人のマルタ、旅商人をしてたけど、お金に困ってこの仕事に就いたそうです。


「ダンジョンヒューマンってのは、上の者たちが使っている用語で、オレたちはダンジョン貴族って呼んでる」
「そうなんだね」
「ああ、王族にもいるらしいがオレたちは会う事はないし、上の者は貴族と決まってるからな」
「確かにね」


返事をしながらマルタから情報を貰います。彼は色々な街や村を旅していて、ダンジョンヒューマンの視点ではない情報が得られた。


「えっ!?食料って足りてないの?」
「それだけじゃないぞアレシャス。生活に必要な薬、料理の味を付ける塩も足りていない」


教科書に載ってない情報は、僕にとってとても刺激のある物で、中でも食料や香辛料等の異世界で不足する代名詞が同じ様に不足していた事だった。


「ダンジョンで取れるはずなのにどうしてなのさマルタ」
「ああ、ダンジョンのある都市なら平気なんだが、村には貴族はいないからな」
「人が住んでる場所全部は無いって事なんだね」
「そうなるんだろうが、商人たちを使えば広める事は可能なはずなんだ」


確かにそうだろうとマルタに同意します。でも、上の人達もそれくらい分かるはずなんだけどっと、僕たちはお話をして行った。
とても楽しい毎日を送る事が出来た。でもね、そんな毎日はずっとは続かない、マルタとの付き合いは、教育の屋敷に着くまでなんだ。


「あれが教育の館なんだねマルタ」
「ああそうだぜアレシャス、そろそろ喋るのは終わりにしよう」


マルタと話しをする様になってから6日、話しの出来るマルタとの別れの時です。とても快適で楽しかったと伝えても、マルタはもう話しません。
マルタが運んだ他の子供の話を聞いたけど、偉そうにしてたり、なにも喋らなくて人に見えなかった聞いていた状態に戻ったんだ。


「もう会うこともないんだねマルタ」


僕の質問に、マルタは頭を左右に振って返事をしてくれた。僕とマルタはある約束を交わしてたんだ、その答えが彼の返事だったんだよ。


「ありがとうマルタ、約束は守るからね」


マルタとの再会は僕が領主になった時で、彼を雇う為に呼び出す時なんだよ。マルタの言葉は聞けないけど、耳をクイクイと動かしてくれて、しっかり頑張れと言われた気がしました。


「がんばるよマルタ、絶対専属にするからね」


その言葉を聞いて、マルタは無言でうなずいてくれたよ。もう館が見えていてメイドの人たちが見えるから、喋る以外の動作だって大きいと怪しまれる。もうほんとにこれが最後だねっと、僕はまた会う時まで元気でと伝えました。


「お待ちしておりましたアレシャス様」
「ど、どうも」


馬車を降りた僕に、一番前のメイドさんが早速挨拶をしてくれます。スカートを少し摘まんで頭を下げ、凄く綺麗だと感想が頭を占領したね。後ろに並んでいたメイドさんたちもそれに続き、偉い人の世界に来たんだと感じました。
メイドさんたちのその動作に僕は少し引いちゃったよ、こんな世界で僕はやっていくと思うと、かなり戸惑ってしまう。でも僕は負けない!!
自己紹介をする為に男性の礼の姿勢、左手を腰に右手を胸に置いたんだ。


「僕は」
「では、こちらですアレシャス様」
「え!?自己紹介とかはないんですか?」


コケそうになったのを何とか堪えそれだけは言いました。でも僕の問いかけにメイドさんは首を傾げてしまい、その答えはあれでしたよ。


「わたくしどもに名乗る必要はごさいません。それにわたくしどもゴトキの名前を呼ばれる必要もございません。御用の際は、この呼び鈴を鳴らして頂くだけで良いのですよアレシャス様」


メイドさんから小さいベルを受け取り、この会話も最初だけなんだ。だって他のメイドさんは話さないし、最初のメイドさんも質問の答え以外は話さない。


「いつでも鳴らせば来てくれるの?」
「そうでございますよアレシャス様、深夜ですと時間が掛かるかもしれませんが、必ず伺います」


これを鳴らせば誰かが来てくれる。ベルは音は小さいけど魔道具の様でメイドさんたちには良く聞こえるみたいです。僕の要望を聞き会話はなし、だから名前を知る必要がないそうですよ。


「先は長そうだね」
「どういう意味ですか?」
「いえ、これからよろしくお願いします」


僕は最後に出来なかった貴族の挨拶の礼を見せます。左腕を後ろに回し、右腕は胸に置いてしっかりとした礼をしたんだ。これは僕の決意と覚悟の証です。
メイドさんたちは驚いていましたが、この礼は彼女たちと仲良くなる為の宣戦布告です。マルタの様に話しが出来る環境を作る、その為の訓練場だと案内されながらフンス!と意気込んでます。


「こちらが食堂で、あちらの扉が座学をする部屋です」
「はぇ~・・・僕の家とは雲泥の差だね」


家が何個も入ると感想を胸に、部屋の内装の説明を聞いて、ここで生活をするのかと屋敷を見渡し緊張します。


「色々分かったけど、問題の名前は分からないんだよね」


色々教えてくれるメイドさん。名前が分からないのでメガネ美人と頭の中で呼ぶ事に決めました。
彼女の説明では、家で行っていた勉強と剣の稽古は変わらないようで、少し違うのはメガネ美人さんが教師となり、より専門的な事を教わる事です。


「専門って、ダンジョンの作り方とかもかな?」
「そうです、他にも夜の結婚活動がありまして、どちらかと言えばそっちの方が重要とお考え下さい」


なにそれ?っと、僕の足は止まり嫌な想像をしてしまいます。夜の結婚活動とは、言うまでもなく子供を作る行為の事で、その練習までここでするのかと頭が混乱したよ。


「そ、それはさすがに早いんじゃないかな?」
「今はそうですね。ですがアレシャス様の身体の準備が出来次第始まります。それまではダンジョンの知識を蓄え、己を鍛え磨きをかけてください」
「えっと・・・はい」


一言それだけしか言えず、僕はほんとに戸惑ってどうしようとワタワタしちゃいます。何も喋らない相手にそんな好意をするとか、雰囲気も何もあったモノじゃないと、僕はある考えが浮かんだよ。


「それじゃサラブレットを育ててるみたいじゃないか」


僕は種馬じゃないっ!!いや、馬たちだって気持ちを上げる為に一緒に放牧をしてるはずで、僕はそれ以下の扱いだよ。女性が来たら、ただ行為をするだけなんて絶対に嫌だっ!!


「こうなったら、それを使って仲良くなってやる」


今に見ていろっと、僕は陰謀を計画したよ。勿論前を歩く眼鏡美人さんには聞こえないようにね。
僕の陰謀大作戦が決まった所で、場所は食堂に移ります。料理はメイドさんの中で料理人をしている人が作ってくれてるそうで、これでお喋りが出来れば満点と言う味です。


「このスープ美味しいね、どんな食材を使ってるのかな?」
「「・・・」」


必要でない質問には返事は返って来ない。それは分かっているのに、僕はサイドに控えている新たなメイドさんたちに聞きます。


「馬車の料理も美味しかったけど、あれはここで作られてたのかな?味が似てるんだけど」
「「・・・」」


この時間はメガネ美人さんは他の仕事に向かい、その代わりにふたりが付く様で、僕から見て右手のポニーテールのメイドさんはポニットと名付け、左の緑髪短髪さんはミドリちゃんです。
料理を作ってくれているメイドさんは、見る事も出来ないのでコックンと名付け、味だけは美味しい昼食を食べて行きました。午後は早速ダンジョンの授業が待っていて、早く作りたいと思っています。
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