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3章 1年2学期

89話 アレシャスの不安

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「うわ!?」


背筋がヒヤってした僕は、変な声をあげてしまいました。
シャンティが急だったから、紅茶をテーブルに置きながら驚いているよ。


「平気ですかアレシャス様」
「ごめんねシャンティ、何でもないよ」


何だったんだろう?と、紅茶を飲み風邪を疑った。でも今は寒気が無いから、疑問に思いながらも昼食を済ませ、いよいよエマルのダンジョンの発表です。
正直僕から見て、ジャケン君とケリーさんのは失敗ばかりでしたね。


「まぁジャケン君の場合は、僕に【表に出てこい!】ってメッセージが強かった。その為にわざわざあんな感じにしたんだろうけど、僕は出る気はないよ」


エマルのダンジョンをそのままを作り、僕を挑発してきたんだ。お前が出て来て見せてみろってね。
対するケリーさんは、ダンジョンのバランスが悪くなっちゃってた。きっと初期モンスターを2つ星にして実験していたんだ。


「そうでなければ、あんなミスはケリーさんらしくない。でも、それはエマルも似たようなモノなんだよね、論文なんて書かせるからだよ」


エマルも時間が無くてダンジョンの改造が出来ませんでした。
論文を早く出せと言われ、僕たちはみんなで協力して作ったんだ。論文なんて書いたのは転生前の大学以来だよ。


「でも楽しそうでしたねアレシャス様」
「それはシャンティもでしょ、みんなと友達になれたじゃないか」
「そうですけど、アレシャス様がいたかですよ」
「それでも良いモノでしょ、これで学園祭の出し物の時は、また一段と団結出来るよ」


みんなの雇っている料理人に指導をして少し経つけど、初めての作業でうまくいってません。
直接指導出来れば良いんだけど、それが出来ず難航してるんだよ。


「でも、難しい事に挑戦して成功した時の達成感は、ホントに最高だよね」
「私はちょっとうらやましいです。これがアレシャス様の進む道なのですね、なんだか気持ちが暖かくなります」


シャンティのしっぽが優しく振られ、なんだか幸せそうでした。僕もそんな気分でシャンティの頭を撫でておきました。
そんな気持ちの中、エマルのダンジョンが紹介されるのを見ていると、エマルの騎士PT炎のエンブレムが紹介された。


「彼らはそこそこの実力らしいね」
「はい、ムクロスの話ではサイラスさんたちの半分と言った感じです」
「半分・・・他の3PTにサイラスたちがいなければ、ちょっときつかったかな」
「そうです、元々強さの低い人達でしたから、サイラスさんたち頼みです」


僕になでられているのに、シャンティはふにゃっとならず、それだけ心配が優っています。
いつものシャンティを見たいと思っていたら戦闘が始まり、シャンティの不安が的中したよ。


「サイラスたちの邪魔をしちゃってるよ」
「どうやら、PT同士の仲が悪いみたいですね」
「そこは調査してなかった・・・がんばれみんな」


司会の人も戦闘は評価してくれたけど、その後に喧嘩を始めてしまい、抑えるまで他の話で誤魔化していました。
しばらくして、なんとか進み始めたサイラスたちは、後方に位置して他のPTに任せる事になってしまったんだ。


「アレシャス様、あれでは最後まで持たないのではないですか?」
「そうかもね・・・まぁサイラスたちが残れば中ボスは倒せるでしょ」


ほんとにサイラスたち頼みになってしまい、やれやれと画面に注目した。
僕たちの予想通り、中盤あたりから疲弊し始めて、大部屋に入ると人数が減っていった。
最後の部屋では、サイラスたちだけになったんですよ。


「アレシャス様の予想通りになりましたね。味方をフォローしないのですから、こうなって当たり前ですけど」
「そうだね、サイラスたちが助けようとしたのに拒んでいたし、仕方ない」


僕の責任だと感じ、今後の課題として改善させないといけないよ。
戦闘を協力して行うために集まったのに、他のPTが戦っている間は見ているだけだった。


「あれだけケンカしたのに、さすがサイラスさんです」
「そうだねシャンティ、ケンカしてる場合じゃないってサイラスたちは分かっていたんだ」


これは評価は低いかもしれないと、僕は少し心配になります。
ダンジョンの構造は変わってないし、騎士たちの訓練も出来てないって見られる。


「幸いな事は、サイラスたちがデスウォーリアを倒せるって事だね」
「はい、そこで総評がどれだけ上がるのかです」


人数が減った事で心配がなくなり、サイラスたちは難なく進んで中ボスを倒してくれた。
僕たちは、帰って来たサイラスたちに拍手を送り喜んだんだ。


「それでは発表します。今回は誰もが驚いたダンジョンだったと思いますが、初めての事で問題も多かったですね。その中で1位と評価されたのは」


バルサハル先生がそこで止め、エマルたち評価される生徒に視線を向けます。
じらされて3人の顔が青くなるけど、先生は誰を呼ぶのかと観客は期待してる。


「1位はケリーさんのダンジョンです。彼女のダンジョンは部屋が多く設置されていて、他の2つよりもキングクラスが多数出現していました」


バルサハル先生が難易度がとても高いと評価して通路のあれこれが素晴らしいとわざわざ説明した。
エマルたちの方でおきたケンカは、他の2人の欠点と似たようなモノで相殺されたらしく、部屋数の多さが3人の差になったみたいです。


「2位はジャケン君のダンジョンで、彼は仕様こそエマルさんと同じですが、独自に通路や部屋を変えていました。ダンジョンが変われば、それに伴い状況も変えなくては行けません」


そして最後がエマルで、バルサハル先生は公表会の前のままだと言い捨ててきました。
忙しくても、ダンジョンの改造はしなくてはいけないと叱りつけてたんだ。これはバルサハル先生からの愛の鞭なのかもしれない。


「まぁ僕からしたら勝手すぎると思うけど、急がせたのは公表会前に教師で統一させたかっただけなんだろうね」


上級生が見に来るようにしたかったそうで、おかげで中ボスの使用は、多少なりとも理解できたと思います。
本当の発表は、3学期の学園祭の最中だから仕方ないけど、公表会で急ぐ必要は無かった。


「中ボスの使用を見つけて自慢したいのは分かるけど、勝手すぎるよ」
「エマルさんも、かなり気にしていますよアレシャス様、こちらを見てます」


シャンティが言うように、ステージでは3人がそれぞれ違う顔をしてこちらを見ています。
ジャケン君は睨みつけてるし、ケリーさんは真顔で見てて、エマルなんて泣きそうな顔をしていますね。


「後で励まさないといけないね」
「はい、きっとすごく責任を感じていますよ」
「騎士たちのケンカに、評価まで最下位じゃね」


こうして1年生の公表会は終了し、僕たちエマル派閥は一つの会議室に集まります。
反省会と思っているのか、誰もが暗い顔をしてて、笑顔は僕とシャンティだけですよ。


「ご苦労様エマル」


僕の労いから始まったんだけど、みんなは頭を下げてきます。
僕は勝ち負けは関係ないと、好評会が始まる前に話してた。この世界はそういった上下関係をかなり意識してる、だからみんなは気にしたんだ。


「もうしわけありませんアレシャス様、わたくしたちの騎士が喧嘩さえしなければ」
「すみませんアレシャス様」
「謝らなくて良いよ、騎士たちだってその内分かるさ。次の長期休暇で良くなることを願ってる。それよりも頑張ったねエマル、貰ったポイントは有効に使うんだよ」


みんながそこで驚いてジッと見て来た。
普通は貰ったポイントは、派閥のトップが貰うものなので、僕が使うのが当然なんだ。


「なに驚いてるのみんな、公表会に出たのはエマルだよ、本人が貰うのは当然じゃないか」
「で、でもアレシャス様、普通は」
「リリーナ、普通はそうかもしれないけど、この派閥はあくまでもエマルの派閥って事になってるんだよ。だから使うのは当然エマルだよ」


そう言って僕は、反論が出る前に話を打ち切りお祝いの挨拶に入ります。
乾杯の後、お楽しみの3学期の出し物の話をしようとしたんですが、そこで会議室の扉がノックされたんです。


「誰かな?シャンティお願い」
「畏まりました」


壇上にいた僕はエマルと交代し、派閥のトップだと分かる様にしてからシャンティにお願いした。
シャンティが扉を開けると、そこにはケーニット君とイサベラさんが立っていたんだ。


「「お話中失礼します」」


会議室に入ってきて、何を言われるのだろうとエマルに視線を送るけど、ふたりは壇上にいたエマルに頭を下げた後、エマルと変わって前の席にいた僕の所に真っ直ぐ歩いてきましたよ。
せっかくエマルと急いで場所を変えたのに、どうやら向こうはトップが誰なのか分かってる様です。


「おふたり揃ってどうしました?」


僕がちょっと困りながら質問すると、ふたりは揃って手紙を出してきたんだ。
手紙を受け取ると、二人はその内容を言ってくれた。
僕は、初めてお茶会のお誘いを受けましたよ。
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