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3章 1年2学期

83話 試験前に間に合った

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「今何回目だ」
「もう5回は死んでる、だがデスウォーリアもダメージは受けている、もう少しだろう」
「そうか・・・がんばれアランドロン殿」


回りの騎士たちがダンジョンに入らずにそんな会話をしていて、僕はそれを遠くで聞き戦いを想像しています。


「一撃食らったら終わりのデスウォーリア。それを受ける前にダメージを与えるかがカギになってる」
「きっと、一人ずつ倒れて行っていることでしょうね」
「そうだねシャンティ」


シャンティは僕にお茶を渡してくるけど、耳をぴくぴくさせていて、シャンティの耳の方が気になってるよ僕です。
今日は孤児院に行かず、珍しくシャンティが横にいて、動作が気になって仕方ないよ、やっぱりモフモフの耳っていいよねと、感情のままに触りたくなります。


「シャンティ、気になるなら向こうを見ても良いんだよ?この位置なら誰も気にしない」


僕たちの位置は、デスウォーリアと戦っている、エマルの画面から10mは離れてます。
歓声とか応援しか聞こえなくて、さっきの会話も僕がちょっと集中したおかげで全部聞こえてるだけなんだ。


「いえ、見たくて気にしているわけでは」
「じゃあどうして気にしてるの?こんなに耳をピクピクさせちゃってさ」
「はうっ!?」


どさくさでシャンティの耳をフニフニ触ると、可愛い声を聞けました。顔をちょっと赤くして、それがまた可愛いんだよ。
僕はネコ派だけど、ニャンコたちとはまた違った毛並みで気持ちがいい。でもそれはほどほどにしないといけません。


「それで、なにが気になるのさシャンティ」


耳から手を離し聞いてみると、新しいモンスターと戦いたいって事らしいです。


「孤児院のダンジョンでも色々戦ってるでしょ?」
「はい・・・ですが、あそこのはあまり強くないので、ちょっと物足りないんです。この前、エマルさんたちのダンジョンで戦ってみてそれを実感したんです」


本当の実戦とは違うんだと感じ、もっと戦いたいと言ってきます。
エマルたちのダンジョンの調整で、僕たちが入って戦ったあの時、確かにシャンティは生き生きとしていました。きっと獣人の血が騒いだんでしょうね。


「そうかぁ~シャンティもそろそろ次に行きたいって事だね」
「すみませんアレシャス様、わがままを言ってしまって」
「全然気にしないよ、僕もそう言った事があって、いつも戦ってるんだ」


申し訳なさそうにしているシャンティの頭を撫でて、僕が戦ってる相手を教えます。
流石にそいつらを相手には戦わせてあげられない。でも、野菜ダンジョンでも強いのはいるんだ。


「次はそいつらを作って戦おうか」
「よろしいのでしょうか?」
「そんなこと気にしないでよシャンティ、僕は暗い顔をしてる君より、明るく笑顔な顔が見たい」
「はい、ありがとうございますアレシャス様」


ちょっとクサいセリフだったけど、僕の本心を伝えました。
シャンティも喜んでくれて、遠慮なく笑顔になってくれた。


「じゃあ早速聞くけど、どんなモンスターと戦いたい?スピード系かな、それともパワー系?」
「新しく覚えた武技を沢山使いたいです。それに合ったモンスターでお願いします」


しっぽをフリフリさせてそう答えたシャンティを見て、僕は触りたいと手が動きます。でも、それはまずいので抑えて考えます。
シャンティの覚えた武技は【烈爪連撃】と言って、爪を使った連撃の武技です。


「それに耐えるモンスターは防御系だね。となると野菜ダンジョンで選ぶとしたら・・・あれかな」


丁度良いやとモンスターをすぐに決めたんだ。
野菜と肉に続き、魚を設置した後にふさわしくて、直ぐにでも増設したいです。


「次に行くのは4日後だったけど、これは明日にでも行きたいね」
「そ、そんな急がなくても」
「いやいや、僕が行きたいんだ。孤児院のダンジョンの強化は必要だし、そこで沢山倒そうね」
「はい!アレシャス様」


シャンティの返事を聞きながら、自分のダンジョンの観戦に移ります。
サイラスたちが4階層を攻略するところで、ラーツたちは2階層を1PTで攻略していました。
同時に向こうの戦いも終わり、倒して帰ってきたらしく、盛大な拍手と歓声が凄いです。


「まるで好評会だね」
「すごい事なんでしょうから仕方ないですよ」


あの程度で?っと、さっきまで気にしていたシャンティとは思えない冷たさです。


「やりましたわねアランドロンさん」
「ええ、なんとか倒せましたエマル殿、これがドロップ品です」


エマルの騎士PTは、いつぞやの騎士たちとは違い、ドロップ品をエマルに渡して来た。
黒い片手剣は、とても迫力があって見ている生徒が緊張してる。どう扱うのかとみんなはかなり気になってて、エマルはどうするのか僕も期待したよ。


「もしかしてこれは、ブラックソードですの?」
「そうです、我々が使っても良いのだが、ちょっと騎士にはふさわしくなくてな」
「そうですの?使ってもよろしいと思いますけど」


ブラックソードとはプラチナソードの暗黒版で、もちろん性能は高く通常のプラチナソードの2倍はあります。
あれを使えば更に強くなれる、そう思って周りも騒ぎ出してる。


「エマル殿の指示ならそれに従うが、惜しいことに刃こぼれをしているのだ。とても希少なモノには違いないから、最初のこれはエマル殿に献上したい。これからもよろしく頼むよエマル殿」


ゴブリンのハイエンダクラスだったからか、どうやら粗悪品だったらしく新品とはいかなかったんだ。
少し研ぎ直しをすれば使えそうで、エマルは費用を掛けて直すと約束してた。


「僕の指示も無しに、さすがエマルだ」
「彼女は元々ああですからね、きっと考えはありませんよ」
「シャンティは辛口だね。素直に褒めてあげなよ」


エマルは騎士たちと握手をして、今後もダンジョンに入って貰う約束を交わしてた。
ようやく契約する騎士たちを選んだ様で、後でお祝いだと辛口のシャンティに準備をお願いします。
そして授業は終わり、みんなと作戦会議と祝勝会です。


「まずはエマル、契約者決定とダンジョン制覇おめでとう」
「ありがとう存じますわアレシャス、ですが少しガッカリですわよ」


紅茶で乾杯をして直ぐエマルがちょっと暗い顔を見せて来て、問題のダークソードを机に出し、みてくださいと言ってきます。
みんなで集まり剣を見ていますが、かなりの刃こぼれがあって、修復できるのかとリリーナが心配して聞いていました。


「学園の業者に聞いてきましたわ。これだけ劣化していますと、直したら刀身が細くなりすぎて、性能の半分くらいしか出せないそうですわ。費用とプラチナソードを使ってることを考えますと、直さないで他の素材として残すのが無難ですわね」
「そうなんですね、何だか勿体ないですね」


エマルもガッカリして剣を鞘に納め始めます。
確かに、普通の人に頼めばそうなるでしょう、でも合成をするという手は確かに捨てがたいけど、僕が直すとは言いません。


「仕方ありませんわリリーナ、作り直すにしても3本はほしいところですから、揃うまでは作り直しも後ですわね」
「そうしますと、費用が更に嵩みますよね?」
「そうですわね、わたくしも含め騎士たちには払えませんわ」


エマルがお手上げとばかりに、やれやれって仕草をしてきます。
結局お金が掛かると他のメンバーもガッカリです。


「打ち直しではなく、合成の出来る職人はいないの?」
「アレシャスさま、合成なんて高度な事出来る人は学園にはいませんよ」
「そうですわよアレシャス、王都に数名はいますけれど、街で依頼しないといけませんし、費用は余計掛かってしまいますわ」
「そうなんだね」
「そうですわよ、だから費用が溜まってから騎士たちと決める事ですわ」


紅茶を飲みながらそう答えを出しため息を漏らして来て、他にメンバーも同じ感じで、折角のお祝いなのに暗いです。
僕たちの取り分である魔石も学園側が買い取ってくれますが、費用には足りません。


「じゃあ、試験まではこのままで対処するとして、みんなは3学期のお祭りは何を作りたい?」


この学園は、2学期の最後にまた長期休暇を取り、その後の3学期は他国を招いたお祭りをするんです。
そこではダンジョンを披露したり、自分たちの強さを闘技場で見せたりと色々盛り上がるんです。
そしてそれは、派閥で行動するのが主流で、僕は楽しみにしてて聞いてみたんだ。


「何を言ってますのアレシャス?わたくしたちは1年ですし、出し物はしませんわよ?」
「そうですよアレシャスさま、適当にみんなで回ってお終いですよ?」
「え!?」


そんなバカな!?っと、僕は一番驚いてしまったよ。
既に出し物も決めてたし、みんなに聞いたのは参加できるかの確認だった。


「まぁ1年生は大抵そうだって、そんな情報は入っていたよ。ジャケン君たちも、用意してる素振りが無くてそんな感じだったし・・・仕方ないのかな」


僕はとてもガッカリです。それを見て、みんなは励まそうとオロオロしていたみたいで、シャンティが孤児院の方に参加しようと励ましてくれます。


「ありがとシャンティ。でも僕はそっちには参加出来ないんだよ」
「そうでした、すみませんアレシャス様」
「仕方ありませんわね、何を作りたのですかアレシャス」


エマルが胸を張って手伝いを名乗り出てくれて、僕は涙目でニッコリした。
リリーナたちも後に続き、僕は嬉し過ぎて、笑顔よりも感謝の言葉が先行したよ。


「ほんとにありがとう、僕どうしてもやりたいことがあるんだ」
「良いですね、ボクも楽しみです」
「まったく、感謝したいのはこちらですわ」


エマルの返しは、リリーナと催しの話をしていた僕には聞こえず、何をするのかをみんなに伝えます。
みんなは静かに聞いてくれて、やってみたいと声を貰えてくれて、かなりの好感色でした。


「パンを薄く焼いた甘味・・・そのような甘味聞いた事ありませんわね」
「名前はクレープっていうんだ、材料は僕が揃えるから、みんなは料理人をお願い」
「料理人ですか、それでしたらボクでも何とかなりますね」


僕に揃えられないモノは人手なので、そこをエマルたちに任せます。練習時間も十分にあるので、しっかりとクレープの形は出来るはずなんだ。
その楽しい催しの前には、エマルの顔を売る為の試験が待ってる。みんなで頑張ろうと派閥の統一がなされた気がしたね。
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