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3章 1年2学期

77話 スタンピードバトル終了

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「あ、あれはなんですの!?」


エマルたちの声と共に、デスウォーリアが吹き飛ばされた。
ダメージはそれほどでもない様で、すぐに立ち上がって来たけど、エマルたちの動揺は計り知れない。


「向こうは驚いてるね、相手はキングクラスのカウンターコボルト、小さいけど強敵だよ」


シャンティもあれには苦戦したと頷いていて、普通のコボルトと同じ大きさのそいつには物理攻撃が効かないんだ。
1mくらいの背丈で、武器は持たずに大きな盾だけを構えて来る。


「あれは私も手を焼きました。物理攻撃反射なんて、反則ですよアレシャス様」
「ははは、シャンティは魔法が苦手だからね。でも良い訓練になったでしょ」
「それはそうですけど、あれは怖かったです」


僕をジト目で見て、シャンティが怒って来ます。
一撃に頼っているようでは、この先には進めないって教訓なので仕方ないって言っておきます。
それに、盾を使わせなければ反射は出来ない弱点もある、魔法が最適なだけなんだよ。


「3階層で覚えた武技を存分に使って倒す。これができない様じゃ次には進めないってことさシャンティ」


盾を構えている間は絶対に反射を使われます。反射された攻撃を自分の回避武技で避け、盾の隙間から次の武技を繰り出して倒す。
味方がいれば、2撃目を託す事も出来るから、倒す方法はいくらでも見つかる。


「訓練の為のダンジョンなのは分かりますけど、あれはほんとに恐怖ですよアレシャス様」
「サイラスたちも手を焼いていたし、良い訓練だったでしょ」


デスウォーリアは、自分の攻撃と同じ威力を何度も食らいボロボロになり始め、何も抵抗出来ずに消滅した。


「1人では出来ないこともある、いい教訓だね」


僕のその言葉を最後に、エマルたちは膝を付いて諦めてしまった。自分の武技を跳ね返されて倒される、ゲームではよくあることだよね。


「し、信じられませんわ!?わたくしのデスウォーリアが倒されるなんて!」
「さぁこれで僕のモンスターが攻めておしまいだね」


相手のモンスターはいないので、僕のモンスターたちは動きの遅いカウンターコボルトを抜き、4階層のウルフたちが先頭を走って行く。
そして、エマルたち全員のダンジョンを制覇したんです。


「325万とちょっとか、まぁこんなもんでしょ」


合計され、僕のポイントに加算された数値を見て僕はつぶやきました。
相手は床に座り込み、死んだような目をしてるよ。


「アレシャス様の強さも知らないで挑んでくるからです、ほんとに哀れですね」


シャンティが最後のトドメとばかりに言い捨てます。
さっきまでのエマルたちなら、その言葉を聞いて怒鳴って来るだろうけど、彼女たちにその元気はありません。


「まぁまぁシャンティ、彼女たちは僕の作戦の協力者だから、これからは仲良くね」
「アレシャス様がそう言うのでしたら、でも無礼な事をして来たら、今度は絶対許しませんよ」


いきなり騎士たちが強くなったら、ダンジョン側もそれに答えて強くなる必要がある。それに対応できない彼女たちがこうなるのは時間の問題だった。
シャンティを宥め、僕は予定していた作戦に入ろうとエマルたちの前に立ちました。


「じゃあ戦いは僕の勝ちって事で、ポイントは貰って行くね」


軽めにエマルたちを引き離し、彼女たちのやる気を確認です。
もし抵抗もしてこない根性なら、僕は彼女たちを使わず作戦の方針はケリーさんに向けられる。
ケリーさんやジャケン君たちは勝手に成長してくれる賢い子たちですからね。
この子たちの様に対処できなかった子を使うより楽なんだ。


「待って!」


来たかなっと振り向くと、エマルではなく最後に門を出していた子でした。
確か子爵家のリリーナさんで、まだ何かあるのかとちょっと強めに返事をします。


「あの、えっと」
「用がないならもう行くよ、君たちも誰かの下に付けば良い。そうすればポイントも少し分けてもらえるし、畑ダンジョンなら作れるよ」
「待って、お願いです待ってください!」


2年生の最後に行われる、上下関係を確立する学期末期テスト。今まで作っていたダンジョンは花形の方で、テストで点数が悪いと畑ダンジョンを作る取り巻きになる。
畑ダンジョンを作る生徒は、支える側になってポイントを花形に渡す事になるんだ。


「何かな?えっとリリーナさん」
「ボクたちが間違ってた、ごめんなさい、だからポイントを返してほしい」


土下座の姿勢でリリーナが謝って来る。
頭を床につけ上げないでお願いしてきた、僕はそれを見てちょっと胸がチクッとしたけど、予定通りに話を持ち掛ける準備を始めます。


「ちょっとそれは勝手じゃないかな?君たちから仕掛けてきたんだよ」
「うん、ボクもそう思う・・・だけどボクたちには後が無かったんだ。だからこんな酷い事をしてしまった、ごめんなさい」


リリーナさんの土下座を見て、僕は腕を組み考えている振りをしてます。
僕の中では彼女たちは合格で、これから頑張って貰う事が決まってます。


「それ位で済まないのは分かるよね?君たちは僕に負けたんだよ」
「はい、許してくれるなら何でもするので、ポイントを返してくださいお願いします」
「なんでもねぇ~・・・後ろの君たちはどうなのかな?」


僕の作戦は派閥を作る事。勿論僕がトップではなく代役を立てます。
その為の伯爵家のエマルに他の取巻達で、彼女たちが同じ気持ちで契約すれば、僕の作戦は成功するんだ。


「わ、わたくしたちも・・・何でもしますわ」
「ふむふむ、じゃあみんな同じ気持ちって事だね、じゃあ分かった返すよ」
「「「「「ほんと!?」」」」」
「うん・・・だけど僕の命令には従って貰う、それでもいいんだよね?」


僕の言葉に、全員が顔をひきつらせてます。きっと僕に無理難題を言われると思ったんだろうけど、そんなに難しい事じゃないよ。
上下関係が確立してしまうけど、それ以外は良い事だらけだし、戸惑うのは最初だけです。


「ポイントは返すけど、悪く言えば君たちは僕の奴隷になる、それでもいいんだね?」
「わ、分かりましたわ、あなたの命令に従うと誓いますわ」
「ほんとに誓えるの?言っておくけど、言葉だけじゃダメだよ。書面なんて生易しい物は僕は使わない、契約のネックレスを使用するつもりなんだよ?」
「そ、そんな!?」


契約のネックレスとは、ダンジョンヒューマンの間で使われる忠誠心の証で、使う人はほんとに相手を信じ命を渡す覚悟を持った者だけと言う代物です。


「君たちがもし僕に勝っていたら、僕にこれを着けさせゴミのように扱う予定だったよね?それと同じかそれ以上の事を僕はするんだ、それでもほんとに誓えるの?」
「うっ!?ううぅぅぅ~」


エマルが泣きそうで反論も返事も出来なくなった。平民上がりとずっと言っていた相手に負けただけでなく、奴隷の様に扱われる未来が見え、かなりショックなんでしょう。


「だから選ばせてあげるよ。まだ1年の中間も来てない、今残ってるポイントを使ってモンスターを設置すれば、まだやり直しはできる。なにも僕の下に付かなくても良いんじゃないの?」


僕の下と言う言葉を聞き、シャンティが少し反応します。
僕がそう言ったことを嫌いなのを知ってるから、きっと何かを察知したんだね。


「それは、たぶん無理です。ボクたちが君に戦いを挑んだのだって、それが理由だし、このまま帰って弱いモンスターを設置しても、誰もボクたちのダンジョンに入ってくれない。もうボクたちには選択肢はないんだ・・・だから、お願いします」


リリーナさんは顔を上げ泣きそうな顔で覚悟を決めて来た。
奴隷になるからポイントを返して、その言葉は僕に罪悪感を与えて来たよ。
そんな事しないけど、秘密は守らせ事になるから、扱いは奴隷と同じようなモノになる。


「やっぱり嫌だね、こういった上下関係」
「アレシャス様、これは仕方ない事です、私が付いていますよ」
「ありがとシャンティ」


リリーナは覚悟を決めたけど、他の子たちはまだの様で、どうするのかと言葉を突き付けた。
どうせ畑ダンジョンを作る事になるのならと、あきらめた子たちは契約に賛成し、最後に残ったのは伯爵家のエマルだったよ。


「これが最後だよ、エマルはどうするの?」
「わ、わたくしは・・・わたくしは伯爵家ですのよ、そんな契約」
「じゃあ君の家は没落する。ここで僕の手を取らないと終わりだ」
「う、うぅ~」


まだ決められないのかと、僕は最後にある約束を耳打ちします。
それを聞き、エマルは顔を上げ目には少しだけ光が戻った。


「ほ、ほんとですの?」
「ああほんとだよ、さっきも言ったけど、このままじゃ没落は確定する。君の力は平民上がりの僕よりも劣っているからだ。でも、僕の手を取ればその力は君のモノになる」
「で、でも奴隷になると言っていたではないですの」
「上下関係は仕方ない事だもん、それは耐えて貰うしかない。でも僕は、下に付いた者を守るし、ひどい事はしないよ」


そんな言葉に、エマルの目に力が戻って行き、彼女は世間を知らなすぎると少し心配になります。
僕の秘密を教える事になるから、そこら辺も教育しないといけない様で、僕のやる気は上がって行きます。


「わ、分かりましたわ」
「じゃあネックレスを付けてね、その後ダンジョン玉にポイントを返すよ」


ちゃっちゃと進める僕だけど、エマルたちは戸惑いながらもネックレスを首に下げました。
そして、ポイントが戻って来たのを確認して、ギョッとして僕を見てきます。



「あ、あのぉポイントが前よりも多いんですけど」
「リリーナ、これから僕の計画に協力するんだ、そのためには君たちが持っていたポイントじゃ足りないから、倍額渡しただけさ、けして間違いではないんだよ」
「そ、そうなのですか?」
「うん、これからバリバリ働いてもらうからね」
「「「「「は、はい」」」」」


みんなはよく分かってない感じで返事をしますが、僕は次の作戦に移ります。


「早速だけど、みんなのダンジョンの改善から始めるよ。会議室にレッツゴー」


最初の指示を聞いて、みんながぽかんとして付いて来た。シャンティはそれを見て笑っていたけど、僕もそうですよ。
会議室に到着した僕は、壇上に上がり先生の様に指導を始める。
注目してもらうと、コホンと咳ばらいから入りました。


「まず言わせて貰うよ。みんなのダンジョンは無駄が多すぎる!分岐は直線通路が2本分接続された方が本線だし、ほとんど曲げてないからモンスターも弱いまま。あれじゃ部屋を作っても上位のモンスターは生まれないよ」
「「「「「はいすみません」」」」」


ダリアの授業で分岐の先には通路を1本は設置しましょうと習いました。そしてその先に部屋を作れば、モンスターが強くなると聞いています。
この子たちもそれは知っていたけど、もう1本通路を繋げれば良くなると、勘違いしてしまった。


「それは意味のないことだよ。ダンジョンは、複雑にすればするほど難易度の数値が良くなるけど、直線通路を増やしても複雑にはならず難易度は上がらない。通路を曲げて設置するようにしないといけない」


先を見えなくする事こそが難易度に大きく関わる、そう伝えて黒板の道を書いていきます。
難易度が上がったその先では、強いモンスターが生まれる事を絵に書き、こうするんだよと教えたんだよ。


「そ、そうだったんですのね」
「そうだよエマル、ダンジョンのモンスターは、先に行けば行っただけ強くなる、その事から最初のモンスターよりも弱くはならない」


それは言い変えれば、最初に強いモンスターを設置すれば、最低でも同じ強さのモンスターが出ると言う事にもつながるんだ。


「そ、そんな事ほんとにあるんですか?」
「信じられないのも分かるよリリーナ、これはある程度ダンジョンの難易度が無いと出来ない反則技なんだ」
「「「「「は、反則技」」」」」
「そうだよ、これは失敗すると弱体化したモンスターが出現する。だから誰もやらないんだ」


反則技なので、決して使わない様に言い付けます。
そして、最終的に隠れ蓑となってもらう事を伝えたんだ。


「か、隠れ蓑?」
「僕はね、目立ちたくないんだ。だからその為に君たちには強くなってもらう、これは決定事項だからね」


僕のその言葉に、みんなが首を傾げシャンティは頷いています。コレが僕の作戦で、絶対に成功させないといけない事です。
生徒の半数が僕よりも成績が良くなれば、僕は目立たなくて済む、そして更にもう1つを加えれば絶対にバレません。


「その為にエマル」
「な、なんですの!?」
「君にはそれ以上を求める。ジャケン君やケリーさんと同じくらいの実力を付けて貰うからね」


みんなが更に首を傾げてきます。そう、僕のもう1つの作戦は、3つ目の派閥を作ることだったんです。
バトルを挑まれたと噂も流せるし、それに僕が負けた事にすれば、エマルの派閥に僕が入ったと直ぐに分かる。
こうして僕の指示の元で、エマル派閥が出来上がったんです。
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