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3章 1年2学期

74話 2学期突入

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「うはっ!?これはすごいね」


2学期に入り、僕は最初の授業に参加しています。
自分でやった事だけど、回りの騎士たちの装備がプラチナソードなんだよ。


「剣だけってのがリアルだけど、騎士科全員に行き渡って良かった」


そう言ってる間にも、ダンジョンに生徒たちが入っていき、サイラスやラーツたちも向かったんです。


「サイラスたちが夏休みの間に3階層をクリアしたから、新学期に4と5階層を作るよって約束して作ったけど・・・さて、ウルフ相手にどこまでやれるかな」


3階層の最後にはキング種の特殊個体が1体いて、そいつは力だけでは勝てないようになっていました。
サイラスたちは連携をしっかりとって倒し、そして4階層はみんなの連携強化に繋がる相手です。


「ウルフは頭が良くすばしっこいからね、今までの様には行かないよ」


画面を見て、頑張れと力が入ります。


「まぁ最初に出るウルフは1体でキング種と同じ強さだから、さほど苦戦はしないだろうけど、今までのように一撃とは行かないよ」


ウルフは素早さ系ですから攻撃を避けてきます。それよりも早く動けばいいだけの話しでああるけど。


「それが出来るのは、4人の中でモンドルだけだったから、守るので精一杯だよね」


とは言っても、僕の知ってるみんなの動きは、休み前のモノです。
もしかしたら強くなっているかもと、期待して応援にも力が入ってます。


「みんな本当に頑張り屋だから、きっと応えてくれる」


その期待は、見事に成し遂げてくれた。
なんとサイラスたちは、キングクラスのガロンウルフを倒しただけでなく、部屋にいた黒人狼も倒したんだ。


「これは、想像以上に強くなってる。他の生徒はどうなのかな?」


サイラスたちがこんなに強くなってるなら、プラチナソードに似合う実力を持った生徒がいるかもと、そちらを見る事にしたんた。


「あらら、これは酷い」


一番近くの生徒のダンジョンを見たけど、僕の期待はすぐに砕かれましたよ。


「力任せでとても見ていられないよ。みんな武器に任せて攻撃し過ぎ」


武器が良くなったからダンジョンは余裕だけど、アレじゃ強いモンスターが出て来たら終わるのが見てとれた。


「良質な武器を提供してこれじゃ、先は長そうだ」


出現するモンスターはゴブリンの上位種なので倒せています。
それが余計厄介な事になっていて僕の予定通りではあるんだ。


「でも、もう少し何とかならなかったのかな」


本来は何度も戦って作戦を考えたりするモノなのに、それをしないで済んでしまって、連携を考えない戦いになっています。


「まぁそれで倒せるのは上位種までで、その上のキングは考えないと倒せない。分かってるのかな?」


モンスターは倒せているので、見ている生徒も戦ってる生徒も嬉しそうです。


「あれが限界と言う事かな」


次はもっと強いモンスターを使い始めるから、答えはすぐに出ると僕は知らんぷりです。


「さて、今しっかりと戦えてるのは・・・やっぱりジャケン君たちだね」


その中で、唯一しっかりと対処しているのは、トップのメンバーです。
キングクラスと戦ったことがあるからか、落ち着いた戦いを見せてるよ。


「あらあら、そんなにわたくしのダンジョンに興味がおありかしら?」


誰のダンジョンかも分かってなかった僕に、ケリーさんが振り返ってきて笑顔で言ってきたよ。


「うん、すごく良いダンジョンだと思うよ、モンスターも強いのが出現してるしね」
「そうですわね、上限値の100体を設置しましたし、そろそろ次の階を作ろうと思っていますのよ」


ケリーさんは、そんな提案を口にして物欲しそうに僕を見てきた。
誰かに意見をして欲しい様だったのと、僕も求められたのが嬉しくて、拒まずに考えたよ。


「もう設置が出来ないんじゃそれも良いね、ケリーさんは次の階はどういったモンスターを使うの?」
「何を言っていますの?植物モンスターを使うに決まっていますわ、次の階からは上位種を設置しますのよ」


最初の階層はポイント稼ぎとして使い、次からは上位種を設置する。
当然上位種以上が出現する事になるんだ。


「よほどの事がなければキングクラスが沢山だね」
「そうですわ、アルラウネが生まれ、更にその上のハイエンダクラスのクイーンが出ますのよ。そうすればポイントも一気に増えますわ、おほほほ!」


アルラウネが1万Pだから、その倍は稼げるとケリーさんが凄く嬉しそうです。


「ははは、そうだね増えるね」
「なんですのよその反応は、不満ですの?」
「不満というかね、勿体ないかなぁ~と思っただけだよ」


僕としては、今の状態で下に行くのが良いとは思えなかった。
だからあまり進めたくないと、心の中では本音を言っています。


「どうしてですのよ?数も増えますし強さも上がりますのよ」
「それはそうだね。でも、君は作り方を変える気はないでしょ?」
「もちろんですわ、それがなんだと言うのです?」


だって上位種から設置している時点で、ちょっとお高くなるんだ。それなら、まだまだ無料で直せる部分のあるダンジョンの方を工夫した方が良いと思ってしまう。


「じゃあ、あなたならどうしますの?」
「僕なら・・・大部屋を作るかな、それと通路をもう少し工夫するよ」


僕の答えを聞き、ケリーさんはちょっと嬉しそうに笑った。
でもその後暗い表情を見せたから、ケリーさんは悩んでいたのかもしれません。


「あなたの言い分も分かりますわ。ですけど、通路はこれ以上案は出ませんでしの」
「通路の改善に案が無いの?」
「そうですわ、今の状態では大部屋を作っても無駄に終わりますわ」
「いやいや、よく見てよケリーさん」


画面を指差し僕は指摘した。100匹いる植物モンスターの内、騎士たちに倒されているのは60匹程度です。


「40匹は戦わないで残ってる道があるんだよ、もったいないでしょ」
「それはそうですけど、問題の」
「ちょっとあんた、言いたい放題じゃない!ケリー様に失礼でしょ」


ふたりで画面を見ていると、ケリーさんの取り巻きが現れ僕に注意してくる。
いきなり斬りかかって来たマリアルは、僕の目の前まで来て睨んできます。


「ケリー様、ご無事ですか?」
「あの人失礼です」
「ふたりとも落ち着くのですわ、マリアルもこちらに来なさい。ワタクシは彼の意見を聞きたいのです」


さぁ話してとケリーさんが要求してきた、だけど3人はとても警戒してる。
これで意見した内容が間違っていたら、大変な目に会うだろうね。


「何をしているのよっ!ケリー様を待たさせるんじゃないわよ」
「分かったよマリアルさん・・・今のケリーさんのダンジョンは無駄が多いんだ」
「「「な、なんですって!!」」」


言い方が悪かったのか、3人が同時につかみかかって来た。ケリーさんが止めてくれたから良かったけど、危うく殴られるところでした。
ケリーさんのダンジョンは無駄が多い、それは他の子にも言える事で、分岐を別れ道として使ってしまってるんだ。


「何言ってるんだお前」
「イサベラの言う通りね。あなた知らないの?分岐は別れ道にする為のモノなのよ」
「マリアルでも知ってるよ、あんたバカなのね」


3人に言いたい放題言われるけど、僕は反論はしないでそのまま進めます。
別れ道にした後、少しして合流させれば良いと教えます。


「こうすれば戻ってモンスターを倒してもロスは少ないし、100匹すべてを倒せる」


その答えは、3人を黙らせるのに十分でした。どうなんだろうと3人で話し合ったけど、試した事が無いみたいで、結局はケリーさんの答えを聞くために注目したよ。


「確かに、それでしたらモンスターは無駄にはなりませんわ。でもそれでは難易度が下がるのではなくて?」
「さすがケリーさんだね。今の状態では下がるよ」
「「「ふ、ふざけているの!!」」」


3人がいちいち僕を睨んでくる。出来れば自分たちで答えを出してほしいから小出しにしてるんだけど、これじゃ進みそうもないね。


「良いかいみんな、ダンジョンはモンスターの家なんだよ、それをよく考えて作るんだ」
「「「「家?」」」」
「住処と言った方が良いかもしれない。例えば、ケリーさんのお屋敷に侵入者が入って来たとする」


うんうんっと4人は頷いて僕のお話を聞いてくれる。ちょっとダリアさんの様だと思ってしまうけど、僕はあれほど優しくない。
廊下が直線だったなら、侵入者はどう考えるのかみんなに聞いてみたよ。


「そ、それはマリアルわかんない」
「おバカねマリアル、そんなの罠を警戒するでしょ、そうよねイサベラ」
「うむ、ライラの言う通りだ」
「そうだね、罠だけに注意を向ける。じゃあ曲がり角だったらどうする?」


答えを出したイサベラとライラ2人は悩んでしまう。マリアルに至っては頭から湯気を出し始めた。
そんなに難問でもないけど、初めての問題で難易度が上がってしまったんだろうね。
僕は、分かってそうなケリーさんに視線を向け答えを待ったんだ。


「先が見えないからそちらも警戒しますわね」
「その通りだよケリーさん。敵が先にいたとしても見えないから警戒する。じゃあみんなに質問、どちらの通路が進むのに時間が掛かるかな?」


その答えはマリアルでも分かったのか、手を挙げて一番に答えて来た。
そう、曲がり角の方が進むのに時間が掛かるんだ。


「つまりね、騎士たちを侵入者と考え、自分たちの住処を守るダンジョンにしないといけないんだ」
「「「「!?」」」」


僕の答えに、みんな驚いています。本来のダンジョンはそう言った目的で作るモノ、ゲームではいつもそうでした。
この国の様に国の為には存在していなかったんだ。


「じゃあ分かった所で、分岐の先に曲がり角と直線通路があります。みんなならどちらを進む?」


4人は悩まずに直線と答えます。その答えを聞き、僕はそこが難易度の下がる欠点だと告げたんだ。


「そ、そんな!?」
「聞いた事ないね」
「それはそうだろうね、これは僕が鬼畜と言われる原因だからね」
「「「「えっ!?」」」」


みんなの驚きも分かるけど、僕のダンジョンに直線通路は数えるくらいしかありません。
それだけで騎士たちは立ち止まり、モンスターたちは有利な状況で戦えるんだ。


「これが僕のダンジョンの難易度が高い理由だよ」


生徒のダンジョンは直線的で、必ず別れ道の先には直線通路を使ってる。
偶然曲がり角を使ってる生徒もいるんだけど、その場合は片方だけで直線通路が正解の道と騎士たちは進むんだ。


「この場合、必然的に生徒の進む道は決まってしまう。そして直線通路にはモンスターはいない」
「そうだったのですわね」
「そうなんだよケリーさん、だから別れ道の曲がり角の方にいるモンスターは残ってしまう」


そうだったのかと、全員が納得してくれた。これは上位のモンスターで知性の高い者たちを使っていれば分かる事で、この国ではそこまでのダンジョンは作られていない。
オーガの上、鬼神や翼の生えてるハイリザードマンクラスじゃないとダメなんだよ。


「更に言うとね、ケリーさんたちは通らないと分かってる道には部屋を作ってないよね?それも拍車を掛けてる」
「そ、そうだったのですわね」


ケリーさんは、騎士たちが通らないのを何度も見ていたから、気づかない内にそうしていたんだ。
その先の道には部屋がなく、配置した弱いモンスターのままで数匹が滞在する。


「これは確実に無駄だよね。道を複雑にすればモンスターも更に強いのが生まれやすくなる。そして最後に大部屋を設置すれば、今のケリーさんのダンジョンなら強いのが出るんじゃないかな」
「低価格でアルラウネが出ると言うことですわね。大部屋を作れば、あるいはクイーンが出るかもしれません・・・すばらしいですわアレシャス!」


凄く嬉しそうに僕の名前を呼ぶケリーさん、その表情は凄くキラキラしてて、ちょっと僕としては困る顔です。


「あくまでも僕の意見だよケリーさん。2階層を作って上位種から始めれば、モンスター数も増えて強いのが生まれるのは必然だよ。そっちの方が多くのポイントを稼げるのは言うまでもないよね」
「それならばそちらも進めればよろしいのよ!低価格で強いモンスターを出現させることが何よりも難しいのです。それをあなたは少し見ただけで答えを導き出した、そこがすばらしいのです!」


僕の両手をつかんで言いだし、僕はかなりまずいと思っています。
前までのケリーさんは、僕に対して【平民上がりにしてはよく頑張っている】程度の認識だった。
でも今の彼女の顔は、僕を完全に認めた様に見える。それは僕が一番やってはいけない事だったんだ。


「い、言い過ぎだよケリーさん。君なら僕が言う前にこの答えに辿りついたよ」
「そんな事はありませんわ。例え見つけたとしても、それはとても先の話ですわよ。優秀なワタクシですから、そんなに時間は掛からなかったでしょうけど、あなたはもっとすばらしいですわ」


ケリーさんを出来るだけ持ち上げたけど、どうやらて遅れの様です。
僕は、これ以上目立たない様に離れていき、ケリーさんには挨拶をしたけど、しばらくジッと見られていた。
取り巻きの3人はそうでもないけど、ケリーさんのまなざしは確実にマズイもので、僕は対策を早急に始める事にしました。
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