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2章 1年1学期前半

52話 採点

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「疲労困憊の騎士様たち、次の部屋で待っていたのはラビットマンです、これは今の騎士様たちにはきつい」


司会の人が疲れているにも関わらず頑張って解説をしてくれます。
ここでやっと終わりだと言うのが伝わって来て、観客は最後の応援を始めました。


「みんなの応援がとても篭ってない」


きっとみんなの感想は、嫌なダンジョンよりも騎士の残念さを思ってる。
見ていても疲れたし、そんな会場の空気とほんとに疲れている騎士様の姿がそれを伝えてくれる。


「でもねみんな、訓練はつらいものなんだよ。ここの人たちは死に戻りを使って楽をしてレベルを上げてるから知らないだけで、今起きてるのが普通なんだよ」


僕もワタガシでレベルは上がったけど、スキルを持ってなかったから壁にぶつかった。
きっと他の国が気づいたら、そういった作戦を仕掛けてきて、戦争には負けるかもしれない。


「そして今回、とことん弱い事が証明され、1年のダンジョンでも現役の騎士が負けた」


この国の騎士たちは、その事に今まで気付かなかった、でも僕は不思議なくらいに思ってます。


「それにさ、強いから連携も考えないで単騎で倒そうとするなんて三流だよ。それじゃ三位一体のラビットマンには勝てない、疲労もあるけど言い訳が楽しみだね」


画面を見ながらそれがジリジリと迫ってきます。
画面の騎士さんたちは5人なのに、3体のラビットマンに連続攻撃をされ対応できず一人ずつ戻って来たんだ。


「サイラスたちに反省点を見せてくれてありがとう」


会場とは違う拍手を送り、最後の騎士様が攻撃を受け挑戦は終わります。


「ああ~っと、ここで最後の騎士様が帰ってきたぁーここで終了です、お疲れさまでした」


司会の人が終了の言葉を告げて、みんなから安堵の声を貰いました。
僕の2階層は、見てるだけでも疲れるから拍手もそんな感じで、僕のダンジョンはダメなのが証明された。


「頼むよバルサハル先生」
「それではインタビューをしたいと思います、騎士様どうでしたか?」


イスにも到達できないほど、疲れ果ててしまっている騎士様たちに一言貰おうと、司会の人がマイクを向けました。
座り込んでいる騎士たちは、魔導具のマイク見た後、バルサハル先生たちがいる方をチラッと見て、ため息を漏らしたんだ。


「可哀想に、こんな依頼受けちゃダメだよ」


きっと凄く後悔しているのが伝わる程に、下を向いている騎士たちは、約束を守る為なのか、なんとか顔を上げ重い口を開いたよ。


「「「「「もう二度と入りたくない」」」」」


騎士たち全員の声が揃ったけど、それは雇われた事とは別に聞こえてました。
それは観客も同じ様で頷いている者ばかりでした。


「サイラスたちは、やれやれって顔をしてる、まぁ先輩があれじゃあね」


司会の人も、そうだろうねっと言いたいのか頷いていて、マイクを返して貰う時、心の底から出ている感じにお疲れ様と声を掛けていました。


「なんと言っていいものか、その・・・皆さん、参加して頂いた騎士様たちに感謝の拍手を送ってください。お疲れさまでした」


司会の人もそれしか言えなかったのか、その言葉が一番合うと思える選択で、会場からほんとに熱い拍手が起きたんです。
そして拍手で観客には聞こえなかっただろうけど、壇上にいた人達には聞こえていて、顔を青ざめさせていたよ。


「騎士の訓練の方がマシか、確かにそうかもね」


一番近かった司会の人は、それを聞いて顔をひきつらせていました。


「そ、それでは、どのダンジョンが優れているのかを採点いたしますので、休憩を挟みます。どうぞ退出してください」


10分後に発表すると最後に付け加えると、大講堂からフラフラとした足取りで生徒が出ていきます。
僕のダンジョンに入った騎士さんたちは、フラフラと退出していきましたけど、きっと二度と依頼を受けないでしょうね。


「参加賞として、プラチナソードだけは使ってね」


僕はその場のイスに座ったまま、騎士たちの背中に伝えます。
そして、今までずっと黙っていたメイドのシャンティは、テーブルを出してお茶を淹れ始めます。


「やっと終わりましたねアレシャス様」
「ありがとシャンティ」


予定通りとはいかなかったけど、きっと僕が思っている結果になってる。
シャンティもそれは予想しているみたいで、一緒に笑顔で顔を合わせたんだ。


「はぁ~おいしい、シャンティも食べられればいいんだけど、ここではそうもいかないんだよね」


僕の問いかけにお辞儀をするだけのシャンティを見て、僕はちょっと寂しいと感じながらお茶を飲みます。
ここでは貴族として過ごさないといけないから、メイドのシャンティはほとんど喋れないんだよ。


「個室なら良いのに、だから代表なんて嫌なんだよ」
「アレシャス、余裕だがいいのか?」


舞台でお茶をしていると、サイラスたちが注意してきました。
僕はイスを追加で出してみんなに勧めた、シャンティにお茶の追加をお願いすると、サイラスたちは座ってお茶をのんだけど、結果が見えているので心配そうだね。


「結果はどうあれ、採点するのはあちら側だからね、きっと良い評価はださないよ」
「良いのかよそれで、オレたちが入っていれば」
「僕は勝ちたい訳じゃないんだよサイラス、みんなだって知ってるでしょ?」


サイラスたちはそれを聞いて頷き、あの異変に気付いたのか話はそこに焦点が置かれた。
みんな強いモンスターが出て来て疑問に思っていたんだ。


「まさかゴブリンキングが出てくるとはな、かなり焦ったぞ」
「でも勝てたじゃないかサイラス、みんなの実力だよ」


頭では、先生たちに抗議に走ったジャケン君とケリーさんの事を考え、サイラスたちを誉めるとみんなはかなり苦い顔をしています。
どうしてそんな顔をするのでしょうねっと、僕は首を傾げだら後ろからもため息が聞こえて来。


「なんだよシャンティまで、僕が何かした?」
「まったくこれですわよ、こんなに無垢な笑顔を振り巻くクセに、ダンジョンの嫌らしさといったら、もう信じられませんわよ!」
「イヤイヤ、それはひどくないかなシェネル、僕はみんなに色々な方向で強くなってほしいんだ、だからああいったダンジョンになるんだよ」


僕は皆の為に作っている事を強調させた。
だけど、当然とばかりにサイラスたちはやれやれって顔をされたよ。

「強くなったのは証明されたからまだ良いが、あれは辛いぞ」


アメとして、みんなにはご褒美を用意してる。僕はバランス良くみんなを強くしてるんですよ。


「だが、このままでは本当に負けるぞ、それに今後ダンジョンに入ってくれるPTはいないだろう。アレシャスはそれでいいのか?」
「心配してくれてありがとサイラス、でもそれで良いよ。サイラスたちの様に分かってくれる人たちだけで十分さ」


ポイント稼ぎのいらない僕には、それで十分だし何より大切です。
今回の採点はかなり低いはずだから評判も落とせて言う事なしの成果なんだ。


「評価が低い方が良いなんて、普通じゃ考えられんな」
「だから僕は困ってるんだ。平均の成績で良いんだよ」


現役の騎士たちが疲労して倒されてしまう程だから、これ以上の宣伝は無かったね。
学園では、もともと短時間でモンスターを倒す事が重要視されています。


「元々方向性が違うから、最後にはそこで減点してくるよ」


PTのレベルを上げポイントも稼ぐ、そういったダンジョンが評価されるんです。
でも僕のダンジョンは、モンスターはそれほど強くなく、経験値もポイントも少ないんです。


「現役の騎士が最下層に行けなかった事が減点か」
「僕は戦い方を考え工夫しスキルや連携を重点に置いてる。レベルなんて、その間であがっていけばいいんだよ」
「確かにな、俺たちもその経験があったからあの戦いを切り抜けた」


ゴブリンキングには大技しか対策は無く、だからこそ一番威力のあるシェネルに大技を期待した。
もしウォーリアーなどが複数出てきた場合であっても、前衛のスキルがさく裂して倒していたと話してくれます。


「下に行けば、それだけスキルは重要だと思うよ。きっとみんなはそのとき分かる」
「そうだと良いのだが、オレたちがそれを理解したのは、手痛い仕打ちを受けた後だったからな」


僕をジッと見てそんな事を言ってくるサイラスの言葉は、みんなの総意の様で、最初のあの仕打ちはそれだけ堪えたらしいよ。
僕たちがそんな話を笑ってしていると、休憩が終わって結果が発表される時間になりました。


「くそっあの教師」
「許せませんわね」


壇上で並ぶジャケン君たちがどうしてか僕を睨んで先生の悪口を呟いてた、先生たちに何か言われたのか心配です。


「さぁまずはジャケン君の評価点です、バルサハル先生お願いします」


司会の人がバルサハル先生に振ると、マイクを持ってステージにあがってきました。
そして魔法文字を宙に書き始め、それぞれのダンジョンの解説が刻まれ、最後に総得点が表示されます。


「ジャケン君は45点でケリーさんは40点、そして僕は15点か」


名前の横に点数が出て、僕はやっぱりねって思いました。
そしてバルサハル先生が評価ポイントを説明しだしたんです。


「キングやアルラウネは経験値が高く強敵です。それが出現すると言うことは、それだけ優秀なダンジョンと評価しました」

対してと前置きをして、僕のダンジョンは優れたモンスターは出現しないと言ってきた。


「唯一キングクラスに匹敵するスライム騎士ですが、珍しいモンスターだったので驚きましたけど、経験値もポイントも低く、更にはPTに亀裂が生じるような品が出てしまう問題があり、これは大きな減点対象でした」


1階層目で散々な評価で、それは2階層目に入って更に拍車を掛けます。
騎士や魔法士の心を砕く最悪と言っても良いモノだったと誰もが頷く解説で、会場の心は1つになった感じが伝わってきました。


「あれはまさにイジメに近い構造です、これは学園としても認められない」


完全否定を貰い、テストの時よりも低く採点されたわけです。


「ダンジョンステータスで難易度が高く評価されても、マイナス面が多すぎます」


これからの評価も見据えた答えを聞き、僕は頭でガッツポーズを取りました。
この作り方を変えなければ、いくら難易度を上げても評価されない、やりたい放題が決まった瞬間です。


「サイラスたちを鍛える為にもこのままで行くよ」


色々考えていた事がもっとできると明日から楽しみと、視線がサイラスたちの方に向きみんながゾクっとしていました。
サイラスたちは、僕のダンジョンがかなり批判されているのを見て、かなり怒っているようでした。


「ダンジョンは厳しめだけど、これからは飴も用意するからね」
「よって優勝はジャケン君、準優勝はケリーさんとなります」


バルサハル先生がそういって、メダルを二人に渡しています。
アレにはダンジョンポイントが入っているらしく、これでふたりは更に強化してくるでしょう。


「ああ、でもふたりは納得してないね」
「おいっ!平民上がり」


大会が終了してみんなが帰っていく中、ジャケン君とケリーさんが僕の前に迫ってきました。
シャンティが少し警戒したので、僕は前に出ない様に手を後ろにして待つように指示を出します。
もし戦いになっても、ふたりでは僕にダメージは与えられないし、ここで騒動でも起きれば今までの結果が台無しです。


「なにかな二人とも?」
「いや、そのな」
「あなたのダンジョン、悪くないと思うのですわ・・・それだけ言いたかったの、じゃあね」


ケリーさんがそれだけをいって、プイッて体を反転させて離れていきました。
僕はそれを見てデレたの?とか思ってしまったよ。


「俺たちのダンジョンは・・・いや、俺もそう思う。おまえのダンジョンは良く考えられ作られていた、モンスターはねちっこいが、ポイントは考えて使われているし節約もされている。あの作り方なら平均的に見てもプラスだ」


ジャケン君は、参考になったと言い残して背中を向けました。
でもすぐに振り向いて来て、負けた訳じゃ無いからなっと、捨てセルフを残して言ったんだ。


「わたくしもですわ、次は勝ちますからね」


離れていく二人を見て、二人は誇りを持っている貴族だと確信したよ。
これなら味方に付けても良いかもしれない、そう思えて来たんだ。


「まぁ上げすぎるのは禁物なんだよね。学園の評価が低いんだから問題はないと思うけど、結婚対象とかライバルには考えて欲しくない」


退出していく僕ですけど、学園でやりたい放題出来そうでウキウキでした。
サイラスたちの為にダンジョンを作り、更には他のダンジョン貴族たちに助言をする。
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