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2章 1年1学期前半

45話 選ばれてた冒険者

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ここもそろそろ薬草が無くなってきたから、取る尽くす前に場所を変えないといけない。
そう思っているワタシは冒険者PTローズのリーダーをしてるシーラと言います。
今日もワタシたち1つ星銅等級冒険者は、安い報酬の薬草採取をしていて、腰が悲鳴をあげています。


「ねぇシーラ、どうして薬草採取なのよ」


ワタシの後ろでしゃがみ、薬草ではない草を取ってるロジーナが愚痴を言ってきたわ。
ワタシはそれを無視して、しっかりと薬草を取ったのよ。
その質問に答えても何も変わらないと、ワタシはため息が漏れてしまったわね。


「ねぇシーラってば」
「うっさいわねロジーナ、仕方ないでしょお金がないんだから。それとロジーナ、それはただの雑草よ」


ワタシたちの現状を考えれば分かる事で、お金が無くて失敗が出来ない状態なのよ。
だから安全な依頼を受けるしかないくて、こんな事をしてる、それが例え宿賃にもならず、1食の食事代に消えるとしても、ワタシたちにはそれしかないと、薬草を引き抜きます。


「ねぇお金がないならさ、モンスターの討伐に行こうよ、その方が稼げるでしょ」


立ち上がって腰を叩いてそんな事を言ってくるロジーナを見て、ワタシは文句を言わずに腰が痛くて背中を叩いたわ。
立ち上がって一度伸びをして、これからどうしようとほんとに考えてしまうの。


「そうなのよねぇ~」


この状況を改善するには、もう大型のモンスターを討伐するしかありません。
でも、それはワタシたちには難易度が高すぎるんです。


「失敗続きでこれ以上失敗はできない。1つ星の銅等級のワタシたちには、違約金をこれ以上払う余裕はないわ」
「まぁそうね・・・仕方ないか~」


ロジーナが諦めて、今度は毒草を取ってしまっているわ。
薬草の選定は難しいから仕方ないけど、回復魔法士のアーロや精霊魔法士のネムとは違うもの。


「せめてあの2人くらい獲れればねぇ~」


あの2人は、勉強をして良く知ってるの、ワタシはその2人に教えて貰ってギリギリ分かる状態なのよ。
そのおかげで何とか今までやって来れたけど、その原因も2人なのよ。
アーロとネムを横目で見ながら、それも限界が迫って来ていると、ワタシは薬草採取を再会したわ。


「でもさシーラ、このままじゃまずいんでしょ?」


ロジーナが下を向きながら呟くように言ってきました。
駆け出し冒険者と言うだけなら、薬草採取だけで何とかやっていけます。でもワタシたちには、他に事情があって足りていないんです。


「まあそうなんだけど、これ以上悪くない方に行かせるしかないのよ」


少し離れているアーロとネムに視線を移し何とかしたいと悩んでしまうわ。
あの二人を見捨てれば良いとか言ってくる奴はいたけど、そんな奴は殴り飛ばしてやった。
ワタシたちは強さは十分なんだけど、加減が出来ない半人前なんです。


「採取をしている時にラビットが出てきてくれるわ、それを倒してなんとかお金を稼ぎましょ」


ロジーナをそんな気休めで説得してワタシは薬草を取り続け、村や商人の依頼を受けないとやっていけないと分かってるの。
だけどそれは、失敗したら違約金が発生して、最悪奴隷に落とされてしまう。
だから躊躇ってしまい、こうして薬草採取でギリギリの生活をしているんです。


「でもさぁラビットはすばしっこくて、倒せてないじゃん」
「うっ・・・まぁそうね」


1日追いかけても1匹を狩れるかどうか、それ以上の大物は森の奥に行かないと会えないし、倒せてもそれが予定通りの利益にならないのが問題なんです。


「まぁ奥にいったら、ワタシたち死んじゃうけどね」


森の奥には、肉が高く売れるボアや3匹で宿代になるゴブリンがいます。
でも、倒せてもある原因があってお金にならないんのよ、だから森の浅い所でラットやラビットを狩る事しか出来ないけど、それなら薬草を取っていた方がお金になるわ。


「シーラ」


愚痴を良いながら薬草を採っているワタシに、ネムが森の奥地を指差しました。
この子はエルフだから口数が少ないけど、こんなに主張するのは珍しかったわ。
でもね、今回はもっと説明してほしかったわね。ネムが指差した先の茂みが動いたと思ったら、大きなモンスターが現れたのよ。


「お、オークじゃないっ!?みんな戦闘体制!」


ワタシは大声でみんなを呼び、傍に置いた剣を取りました。
ワタシたちは3レベルだけど、倒せるには倒せるのよ。


「せっかくの大物、ここは慎重に行くわよ」


ワタシたちの抱えている問題とは、強すぎる威力の技を持っている事で、どうしてもモンスターをボロボロにしてしまい売り物ならないんです。


「ネムっ!素早さ補助をお願い、行くわよロジーナ」
「ん」
「おっけー」


2人に指示を出し、ワタシは剣を振りかぶって突撃しました。
ネムが使える精霊魔法のおかげで、大剣も軽く振り上げられて走るのも楽なのよ。


「強化だけは素晴らしいのよね、ネム分かってるわね」
「う~」


ネムは唸って来るけど、それ以外の魔法が使いたくてムスッとしてるわ。
オークの攻撃を一発でも食らったら、レベルの低いワタシたちは終わりだけど、速度を上げればノロい攻撃は怖くないわ。


「このままロジーナと一緒に」
「あのあの、アーロはなにをすれば」


ロジーナとオークの棍棒をかわして戦っていた時、いつもの事態が起きてしまったわ。
遠くでオロオロしてるアーロがオークの標的になってしまい、ワタシたちを無視してオークが向きを変えて走り出したの。
もちろん、ワタシは妨害する為に大剣を振り下ろしたけど、焦って振り下ろした剣が当たるはずもなく、オークの妨害は出来なかったのよ。


「どうして、いつもアーロは標的になるのよ」


速度の速いロジーナにアーロを守る様に指示を出したけど、見事にいつも通りで泣けてくるわ。
ネムがいつの間にか詠唱をしていて、大きな魔法を準備していたの、それが発動してオークに向かって飛んで行ったわね。


「またなのネム、ロジーナ退避っ!!」


大声で撤退を指示して、オークに近かったワタシはその場に伏せました。
ネムの放った魔法は【クリムゾンフレア】と言う上級魔法で、その威力は山を吹き飛ばすほどの威力があります。


「弱まってるとは言え、凄い爆発ね」

そんな大魔法が普通に放てるわけもなく、ネムはそれを通常の威力にしたくてぶっ放すのよ。
それでも、オークを黒焦げにするには十分で、消し炭になって風に飛ばされてしまったわ。


「ん、やっぱり最高」
「じゃないでしょうが!!」


頭を抱えワタシは倒れたままで泣きそうです。
ネムはすごくウットリしてるけど、これのせいで強いモンスターとは戦えないんです。


「補助魔法だけって言ってるでしょネム」
「いや」


ネムの魔法の前に倒せればいいのだけど、今回の様にアーロが標的になってしまうんです。
ワタシの攻撃が避けら、ロジーナが代わりに攻撃しても、威力が弱くて倒せずネムの魔法が放たれる。


「あちゃーやっぱりダメだったか」
「まぁアーロの命には代えられないのだけど、もうほんとに何とかしないとまずいわよ」


アーロはネムの攻撃魔法を避ける事は出来ません。だからワタシとロジーナがアーロを助けないといけないんです。
二人をPTから外せば済むかもしれませんが、ワタシもロジーナもそんな事はしない。二人には命を救ってもらった恩があるし、大切な仲間なんです。


「あのあの、ごめんなさい」
「いいのよアーロ。あなたは回復魔法士なんだから、離れてるのは当たり前なの、それを守れないワタシたちが悪いのよ」


アーロの頭を撫でて説明したのだけど、ほんとにワタシたちのせいなのよ。アーロは成人したばかりの13歳だから怖いのは分かるわ、何度も陣形の事は話して練習はしているけど、急な時はどうしても戸惑ってしまうの。
モンスターとの戦いはこんなだけど、アーロの知識にはとても助かっていて、野草や果物は大切な食料になっていて、ネムも同じ様に頼りになっています。


「あのあの、すみません」
「仕方ないわ、次は頑張ってね」


灰になったオークだけれど、魔石だけは残ってくれます。
小魔石を拾い少しは足しになったと袋に入れます。


「これで薬草5個分の代金くらいね」
「ご飯」


今日はしっかりとした食事が出来るとネムは嬉しそうだけど、そんな空気を吹き飛ばす容姿をした者がワタシたちの前に突然現れたのよ。


「やっと見つけたにゃ」


剣を握る手を緩めたのは、聞こえた声が子供の様だったからで、手は添えたままで何の用なのかと聞きました。
こんなところに子供がいるはずがないのは言うまでもないけど、ワタシたちの命を狙う理由もないわ。


「な、なにか用かしら?」
「ん~にゃ、用はあるから探してたにゃよ」


命を狙うのと同じくらい、ワタシたちに用があるとも思えなくて困ってしまったわ。
相手は、ワタシたちを見つけてとても喜んでて踊っているわ。


「なんだかよく分からないけど、あたしたちピンチ?」
「ん、精霊はおとなしい、でも魔法撃ちたい」


踊っているせいで隙だらけで、ネムが魔法を準備しそうだったからロジーナに止めてもらったわ。
アーロは、あのあの言って戸惑っていたけど、こちらから仕掛けるのはまずいと感じているの。


「あの、用があるなら内容を話してほしいんだけど」
「そうにゃね、お姉さんたちにお願いをしに来たのにゃ。大剣に短剣使い、回復魔法に精霊魔法を使えるにゃし、おまけに攻撃魔法も持っていたにゃから、もう決定で最高だにゃ」


ワタシたちにお願い?どんな事なのかは武器や特技を言った時点で何となく分かるわ。
でも、明らかにワタシたちよりも子供の方が強そうで、必要なの?って思ってしまうわ。


「お姉さんたちには、南の孤児院の依頼を受けてほしいのにゃ」
「「「「はい?」」」」


ワタシだけでなく、みんなで声を揃えて聞き返しちゃったわ。
冒険者に依頼をするのは珍しくないけど、ワタシたちは新人なのよ。


「依頼の申し込みはとてもありがたいのだけど、ワタシたちでも出来るのかしら」
「出来るにゃよ」
「でも、孤児院の依頼なんて見たこと無いわよ、ほんとに貼り出されてるの?」


子供は長い尻尾を降り始め、もちろんと応えて来たわ。
語尾を聞く限りネコ族なのは確定したけど、依頼書を見た事ないのは本当なのよ。


「内容を聞いていいかしら?」
「それはダメにゃ、ギルドの職員さんに聞いてにゃ」
「ここじゃダメな理由があるの?」
「それはそうだにゃ、僕たちも始めて出したにゃから、慎重になっているのにゃ。とにかく受けるにゃ悪いようにはしないにゃよ」


子供の姿は、喋り終わる前から少しずつボヤけ始め、最後には完全に消えました。
ワタシたちは顔を見合ってしまった無言になったわ。


「ゆ、夢じゃないよねシーラ」
「ロジーナ気持ちはわかるけど、みんなで一緒に同じ夢は見ないでしょ、ネムはどう思うかしら」
「精霊は静かだった、悪い者ではない」


精霊魔法にはそう言った使い方もあり、危険な者ではなかったと、ワタシが見えない精霊たちと話し始めたわ。
騒いでなかったという事は、危ない者ではなかったという事で、問題は罠かもしれないと言う事です。


「アーロはどうかしら?」
「あのあの、孤児院はいつも困ってます、助けられるなら助けたいです」


アーロの意見は賛成のようで、ロジーナもそこは賛成みたい。
ワタシも助ける形ならもちろん賛成だけど、困っている理由が思い付かないのが問題です。


「あの気配は相当よねロジーナ」
「そうだねシーラ、だから食料とかは取れてるはずよ」


普通の孤児院なら、食べ物がないとか病気の子供がいるとか、色々思い付くのだけど、あの動きが出来る子供が助けを求めているので、その問題は考えにくいんです。


「じゃあ、内容を見てからにしましょう。お金にならないんじゃワタシたちが困るもの」


兎に角内容の確認が必要っと、ワタシたちは王都に向かいます。
依頼の内容次第ですけど、お金になるなら受けたいの、だって助けて欲しいのはこっちなんですからね。
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