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2章 1年1学期前半

32話 ダンジョンは凄い

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「たぁっ!」
「リミリル行くの!」
「オイラも蹴る」


ティアとシャンティを抜いた、子供たち3人で戦闘が始まり、相手はジャガウルフと言う狼モンスターです。
そいつは動きが早いけど、噛み付かれても痛みのない相手です。


「でも囲まれるとやっぱり怖いから、僕は見ておかないよね」


子供たちだけで戦っているのも、駄々をこねたのが理由で、ティアたちも仕方ないって応援してる。
モンスターが弱いし、みんなは油断してる。相手は弱くてもモンスターで、突撃でもされたら怪我をするんだよ。


「まぁ相手の強さがスライムの半分だから、身体能力の高い獣人なら躱せるかもしれない・・・でも経験値は少ないからレベルは上がらない」


自分のステータス欄にある経験値バーを見て不安になります。
探索を始めて1時間、今まで10匹倒したのに10しか入ってない。


「経験値1だから仕方ないけど、スライムでさえ2なのにねぇ~」


生産用モンスターだから仕方ないかと思いながらも、2つ目の目的であるモンスターの出現を待ち、早く出ないかとソワソワです。


「ねぇあんた、ほんとにあの野菜は貰って良いの?」


またかと思いながら振り向くと、ティアが子供たちの方を指差し、怒りながら聞いてきた。
威嚇してる感じだけど、僕にウソを付く理由がなくて何度も言ってるんだ。


「ほんとだってばティア。さっきも話しただろ、僕が欲しいのは」
「あんたが貰えるって言うポイントなんでしょ、それは分かってるけど、胡散臭過ぎよ」


ジト目をしてまた言われたと、僕はため息を付いてダンジョン画面を確認です。
シャンティはもう信じてくれてるのに、ティアは疑り深すぎるんだ。


「仲間と思ってくれたじゃないかティア、僕を信じてよ」
「それは嫌」


世間がそうさせてるのかも知れないけど、信じて欲しいです。
そうしている間に、僕が待っていたモンスターが出現し、僕はそれを見てすぐにみんなに知らせたよ。


「みんな!もう直ぐここに綿のようなモンスターが来る、そいつはすごく早いからみんなで囲んで倒すんだ」


これを倒せば、疑り深いティアでも信じてくれる。
そう信じてみんなをそいつの通る壁の左右に分けました。


「ちょっとあんた、強い奴じゃないでしょうね」
「平気だよティア、こいつは早いだけの存在で、僕が待ってたモンスターなんだ」


あいつはどうしてかダンジョンの壁をすり抜けることが出来るけど、そこが弱点でもあって、出てきた所を直ぐに迎え撃てば倒せるんだ。
みんなで囲わないと逃げちゃうけど、倒せば一気にレベルが上がり、今日は6レベルまで上げる予定なんだ。


「ほんとは10くらいまで上げたいんだけど、5レベル上げるとアレが来るから、きっとみんなそれどころじゃなくなるんだよね」


またティアに何か言われるかもと、頭が痛くなる問題が待っていて考えてしまう僕です。
それでも通らないといけない道で、ワタガシが出て来るのを待ったよ。


「来たの、あれがそうなの?」


リミリルが通せんぼしながら首をかしげ、僕は壁に逃げられない様に、回り込みます。
他の子たちも手を左右に広げて逃がさないようにして、僕の答えを待ってます。


「そうだよリミリル、ティアもシャンティもしっかりと手を広げて逃げられないようにして、僕が攻撃するよ」


ショートソードではなく、腰の短剣を出してワタガシを刺しました。
こいつはなんでもいいから一撃を確実に入れる事が大切で、それが出来れば倒せるんだ。


「やったけど、これが何なのよ」
「みんなステータスを見て見なよ。レベルが上がってるよ」
「「「「「え!?」」」」」
「嘘だと思うだろうけどほんとだよ」


みんなは、ステータス欄を出して確認したけど、これは嘘だと頬を抓っていました。
その数値を見てみんな同じ顔して僕を見てきたよ。


「ど、どうしてよ!?さっきまで1レベルで、あんなに倒しても経験値は10しか貰ってなかったのに」


ワタガシからドロップした砂糖の袋を僕が回収して、そうだよねぇ~っと返事だけはしたんだ。
ティアが軽い返事で怒って来たけど、これからまだ倒して貰うから、始まったばかりだと教えます。


「レベル差があっても経験値は貰えてレベルが上がる。これが僕の確認したかった事で、ダンジョンの強みなんだよ」


1PTなら分配される事が十分分かった。
後は野菜モンスターと出現してくるワタガシを倒し、予定のレベルまで上げていくだけ。


「さぁどんどん行こう」
「「「おおー」」」


子供たちは僕に習って片手を上げて掛け声を出してくれた。
僕たちはダンジョンを進み予定していたレベルに到達したのは、それから4時間後で夕日が落ちる時間でしたね。


「辛そうだねみんな」
「うぅ~何だか気持ちが悪いわ、これがあんたの言ってたやつなのね」
「頭痛い」


ティアが口を抑え、他の子たちが頭を抱えます。僕はシャンティの背中をさすって苦しさを抑えてあげたんだ。
僕も通った道だけど、二日酔いの最悪が続く感じで、本当にこれは辛いんです。


「ご飯を食べてゆっくり寝れば治るから、今日は切り上げて休むと良いよ」


ダンジョンを出て、孤児院の礼拝堂からフラフラと移動を始めます。
食事をした広い部屋に着くと子供たちが待っていて、心配だったのか泣き出してしまいます。


「平気よみんな、ちょっと横になるわね」


ティアのその言葉は、みんなを安心させたみたいで、子供たちは涙を拭き笑顔を見せてくれた。
その後は楽しそうなお喋りが始まり、ホッとして見てました。


「お礼の食料を出して、僕は退散した方が良いかな」


部屋の隅に移動した僕は、その間に食事を出して行きます。
山盛りのパンとスープの入った鍋を出し、肉串はもちろんの事。フルーツも沢山用意しました。


「じゃあ僕は帰るよ、これはダンジョンに入ってくれた報酬ね。沢山食べて元気になってね」


今日はこれ以上話せそうもないので帰ろうとしたけど、ティアとシャンティが「待って!」と同時に止めてきたんだ。
振り向くと2人は横になったままで、とても辛そうだった。途中の部屋に布団でも置いて帰ろうと内緒で考えたよ。


「まだ話が終わってないわよ」
「また明日来るから、話はその時にしようよ、2人とも辛いでしょ?ご飯を食べて寝た方が良い」
「それはそうだけど・・・そうなんだけどっ!」


ティアは、どうしてかその先を言いません。辛くて言えない感じではないので、どうしたんだろうと僕は首を傾げたんだ。
それを見かねたシャンティが体を起こして言ってくれた。


「アレシャスさん、ティアはお礼が言いたいんです。私も感謝してます、ありがとうございました」


シャンティのお礼を貰い、それを見てティアが耳を立てて赤くなってた。
全く素直じゃないと頭では思ったけど、僕は顔に出さず笑顔で返事を返す事にしたよ。


「どういたしまして。明日は朝10時位に来るから、その時までにみんなでダンジョンに入るか決めておいてね」


それだけ言って僕は部屋を出てきました。
本当はここで了承を貰いたいけど、話し合う時間も必要だと思ったんだ。


「よく考えて決めてほしいね」


頭が痛い状態では返事は聞けないし、ちゃんとした判断をしてほしかった。
それに、布団を設置する時間も欲しかったから、あの部屋を動けないのは助かったよ。


「野菜モンスターはあまりポイントにならなかったけど、疑問も解決したし、思ったよりも収穫があったね」


仲間と見られないダンジョンヒューマンが原因だった。
それに実験と思ってるダンジョンヒューマンは、装備も着けずに入ろうとしたのかもしれない。
色々分かって、僕はルンルン気分で学園に向かい、明日が楽しみでなりませんでしたね。
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