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2章 1年1学期前半

27話 学生のダンジョン

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「では、みなさんに学園から5000DPを与えます。良く考えて製作するように」


入学式は、良くある校長たちの長~いお話を聞くだけで、つまらないとあくびをして終わり、次の日からダンジョン科の建物に入って授業が始まりました。
僕たちの授業は、最初から最期までダンジョン関係にあてられ、他の学科は独学です。


「僕は良いけど、他の子たちは平気なのかな?」


独学には限界があり、家庭教師を雇えるお金持ちは平気かもしれない。
だけど、そうでない子もいるんだよ。


「それに説明が全然ないよ」


製作の説明は無く、ダンジョンポイントの入った指輪が配られるだけで、後は自分たちで進めると言う、結局独学じゃんっと、ツッコミを入れたくなりました。


「ダリアの授業で知っていたけど、これで終わりとか先生の意味あるのかな?」


少し疑問ですが、指示出しの出来る大人は必要かなと、無理やり納得です。指輪はポイントを付与すると、ぼろぼろと壊れちゃうらしく、僕の指から取れます。


「本当ににみんな作れるの?」


バルサハル先生が言ったように、いきなりダンジョン製作が始った。
生徒たちは指輪が壊れたのを見ても知らん顔で、画面をじっと見て製作してる。


「真剣に画面を見てるけど、最初は作るモノは決まってるから、悩む必要はないと思うけど」
「製作時間は30分、それが終わったら騎士と魔法士の生徒が待っている、ダンジョン広場でのお披露目です。みなさん良いですね」


他の人が戦うのを初めて観れるから、ちょっと楽しみではあります。
だから僕は全然集中しないで画面を出し製作を開始します。


「今までは玉を床に置いていたけど、ダンジョン玉用の台座ってどんなものなのかな?ちょっと楽しみ」


何より戦闘系の生徒たちを早く見たいと、僕は簡単に作り終わってしまう。
ちなみにダンジョンでドロップした品は、学園が買い取り騎士たちの生活費になります。
爵位の高い生徒や長男や長女とかなら、それほど必要じゃないけど、次男次女と実家を継げない子たちは、仕送りがあまり期待できず、資金が不足している生徒には死活問題です。


「まぁ5000Pしか貰えなかったし、時間も30分だからこんな物かな」


いままで僕が作って来たダンジョンに比べ、今作っているのは初歩にも程があるから直ぐに出来上がりました。


「3階までしかないし、1階にはスライム、2階にラビット、3階にコボルトとほんとに最初の頃のモンスターばかりだ」


なんだか懐かしいと、思い出を浮かべてモンスターを10体セットで設置します。
自動召還だと大変な事になるからこちらでは使わない。DPをその都度使う事になるけど、そもそもポイントはもうイヤというほど持っているんだ。


「他の人は貯まらなくて苦労するんだけど、僕の場合それは無いんだよね」


仲間のモンスターたちが頑張ってくれるし、そもそも倒すモンスターがとても高いんだ。
おかげで今では10兆くらい持っていて、問題としてはあのモンスターが出現するかもしれない危険性です。


「まあ、研究も検証もしたから、考え過ぎだけどね」


ワタガシは極まれのレア種だから、広さも難易度も足りない学園用では出ません。
絶対にそれはないけど、心配で仕方ないんだよ。


「あれのおかげで455だもんね、僕のレベル・・・さて3階層作って1500P、モンスター設置に4500P使った。うん、こんなものかな」


自分たちが年齢で貰えるポイントと今貰ったポイント合わせて6000P、それをギリギリまで使ったと思わせて作り、これで良しっと時間を見ると10分しか経ってませんでした。


「暇になっちゃった、他の子たちを見ようかな」


まだ時間の残っていた僕は、他の子達の製作をスキル【鷹の目】で遠くから覗きました。
全員が1階しか作らず2階も3階もありません。


「うわっ!あれは酷い。あらら、あっちもだ」


通路を簡易的にして、モンスター設置を優先しているようで、みんなはそれが欠点なのを分かってない感じです。
広さもそれほど無く、部屋も設置してない。これが学園の標準なのかと心配になりました。


「モンスターを倒すと1体分のポイントがもらえるから、5体分の利益になる10体は分かるんだけど、あれじゃ戦えないんじゃないかな?」


通路の幅が2mと狭く作っていて、あれでは小さな武器しか振れない。
それに、モンスターは直線通路には滞在しないから、少ない分岐や曲がり角に集まってしまう。


「騎士や魔法士の装備は分からないけど、大剣だったら絶対振れないし、ショートソードとかでも大振りは出来ないね」


そんな風に見える生徒が沢山いて、全然倒せそうもないと感想が漏れました。
5体分を倒し元を取るには、それなりの時間が掛かり大変だろうねと、僕の方が心配になった。


「やっぱり、何か基準をあげた方が良いんだ、何も無しじゃ無理だよ」


こうして生徒たちは、ポイントを無駄にして経験を積むのかもしれない。
僕にはそれは無かったなぁっと、ダンジョンの最初を思い返し、やはり戦ってる対象が好むダンジョンを作るのが良いと感じました。


「ラビットが500Pでコボルトが1000P、それを出来るだけ設置して、ポイントは使わない普通の通路でなんとかしてる子もいるね」


他の生徒のダンジョン作成画面は、本当は見えません。自分にしか見れないのはダリアが言っていた通りなんだ。
だけど、魔道具を作って眼鏡のレンズ越しに見れば話しは違ってくる。


「これは、僕のダンジョンは目立つね、しばらくはこのままかな」


最初だけなら物珍しいだけで済み、次第にみんなが追いついて来ます。
他の生徒を見ておいて良かったと今になって感じたね。


「備えあれば患いなし、作っておいて良かった」


そう思って30分が経過しました。
先生から終了の声が掛かり、僕たちは早速移動する様に言われた。


「ダンジョン科建物の中央部分にあるダンジョン広場。どんなとこかな?」


ダンジョン広場は、学年毎に用意され何処の階も階段の近くの中央部にあります。
これはダンジョン科でない生徒が迷わない為の仕様なんですよ。


「学年で1階全部を使ってるから7階建てなのは分かるけど、1階が保健室と職員室なのは使い過ぎじゃないかな」


2階から1年生が使い、上に行くにしたがって学年が上がる。
生徒たちは会議室や専門室を使う為、専用の教室が必要だけど先生たちは違う。どうしてなんだろうと考えたけど、どうせ碌な事ではないと、広場に入って行きました。


「あれ?男の子が結構いる」


広場は腰くらいの高さがある台座が点々と設置された部屋で、それ以外は何も無いとても寂しい場所でした。
その中には、既にダンジョンに入る戦闘科の生徒はいて、装備を整えてかなりカッコいいと思ったよ。


「いないPTもあるけど、1PTに1人か2人のとこもある」
「ダンジョン玉を台座においたら、各自始めなさい」


意外だなぁ~っと名前の書かれた台座に位置した僕は、ほんとに簡単な説明の後、玉を起動させ門を出現させます。
バルサハル先生は、ヨシヨシと頷きますけど、そこで僕は疑問を持ってキョロキョロします。


「僕のダンジョンに入る人がいない?」


みんなと同じに自分の名前が刻まれた台に玉を乗せ門を出現さてたのは変わらなかったけど、騎士科と魔法科の生徒が門を通って行く中、他の生徒と違って僕にはその人たちがいません。


「どうしたんだろう?おトイレかな」


余っている生徒もいないので、どうしてでしょうね?っとしばらく待ちます。
でも一向に現れないので先生に聞いてみると、眼鏡をクイッと上げて少しニヤリとしましたね。


「あら、アレシャス君の担当はいないのね」


ちょっと棒読みだった為、僕は何となく理解して目立たなくて済むとホッとしたよ。
バルサハル先生はタブレットのような板で名簿を調べ、ここもワザとらしく4人の生徒が休みだと告げてきます。
それでも良いけどねと、諦めた様な言葉が僕の頭を埋め尽くすけど、さすがにずっとは困るので、どうすれば良いのか聞きます。


「まったく仕方ありませんね、今日は他の生徒の見学をしていなさい」


他の生徒たちをチラチラ見ながら歩いていき、それだけですかとバルサハル先生の背中にツッコんでおきました。
勿論、聞こえない音量だったけど、仕方なく他の生徒の見学に向かいます。


「とは言っても、勉強にはならないんだよね」


ダンジョン製作画面は本人しか見れませんが、部屋のいたるところに浮いてるテレビの様な画面で、ダンジョンの中が見れてるんだ。
これは学期末の好評会でも使われて、観戦できる仕様なんだよ。


「難易度と一緒に採点対象だけど、見るのは初めてだね。視点は天井からなのか」
「よしよし良いぞお前ら、なかなかの腕を持ってるじゃないか」


戦闘科の生徒たちが背中から見える位置で、応援も出来ると少しワクワクしている僕だけど、ダンジョンを作った生徒は戦いを見てかなり上から目線です。
画面に見える騎士たちの戦闘を見て嬉しそうだけど、優位なのは最初だけと突っ込みたいです。


「相手のモンスターはゴブリンで10体も集まってる。いくら戦闘科と言っても、10歳の子供たちじゃ勝てないよ」


僕の予想通り、先頭の騎士がゴブリン1体を倒して喜ぶけど、後ろにいたゴブリンのこん棒を受けて倒れたんだ。
死に戻りはしないけど、腕が動かないみたいでとても痛そうにしてる。


「あれじゃ3体がやっとかな?」
「ああくそっ!どうして後ろの騎士が前に出ない!もっとしっかり守れよ、ああっ!?魔法士が矢を受けて死んだ」


床をたたき怒るダンジョン科の生徒ですけど、ダンジョンに入っていた生徒が帰ってくると、文句を言い合って騒ぎ出します。
僕からしたらどっちもどっちと思ったけど、相手はまだ10歳の子供なので仕方ないです。


「装備も体になってないくて大きいし、成長期の学ランじゃないんだよ」


文句を言いながらも再度ダンジョンに入って行くのを見て、ダリアの言ったとおりだって思いました。
僕のモンスターとは違い、HP等は全快で戻って来れて経験が積める様で、死ぬことを何度も経験すれば恐怖も無くなり、限界の以上の戦いをするようになるからレベルが上がる。
本当の死を感じた事がないのは、僕からしたら大変な事なんだけど、そこまでの戦いにならないから誰もそれに気づいてない。


「弱点はあるけど、これは強いわけだよ。まぁ僕としては薄っぺらい強さだけどね」


僕は今まで必至で戦って来た、それが否定されているようでイラっとしたんだ。
僕のダンジョンに入る生徒が出て来るか分からないけど、そこら辺も強化出来る様に製作しようと考えます。


「また戻って来て文句を言い合ってる。戦闘科が再度の突入するけど、昼までこれが続くんだね」


時間の許す限り続くのは強みだと感じ、他の生徒の画面に移動します。
そこでは、いきなり苦戦する戦闘が見る事が出来ました。


「あんなに狭い通路で囲まれたら、1年生の騎士たちじゃ勝てないよね」


2年生の実力は知らないけど、きっと全部は倒せないだろうねっと、相打ちで3体を倒した戦闘科を称賛したよ。
ダンジョン科の生徒は得られたポイントが少なくて、450Pかよ!!っと怒鳴ります。


「確かにゴブリン10体セットの元は取ってないけどさ、今の条件では十分頑張ったよ」


普通は何も出来ずに終わる、それだけ囲まれていたんだ。
あれでも文句を言うのかと、ダンジョン科の生徒は実戦を知らないと思ったね。


「勝てなくても何度も挑戦できるのは良いけど、なんともお粗末だよ」


何度も挑戦してすべてのモンスターを討伐する。それが授業で優秀と言われるダンジョンとなる様で、午前の授業が終わる時、モンスターを沢山倒した生徒がバルサハル先生に褒められていましたよ。
午後の授業は、ダンジョンの改善を30分行い、戦闘科の生徒がまたダンジョンに挑みます。ですが午前と午後では別の戦闘科クラスが挑戦する様で、今度は僕にも生徒が付くと期待しました。
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