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2章 1年1学期前半

21話 前途多難の予感

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部屋の前で先生は止まり、振り返るなり僕を睨んできます。


「な、何でしょうか先生?」
「学園の部屋は、王族以外は全て同じです。本来あなたの様な生徒には勿体ないのですが、仕方なく使わせのを覚えておきなさい。それと決して騒ぎを起こさない様にしてください」


どうしてそこまでするのかと思うけど、きっと平民出は素行の悪い生徒が多いんだろうと、自分なりの答えを出して気にしないと決めたよ。


「ここがあなたの使う部屋で、荷物はすでに運ばれていますから確認をしてください」


部屋の中は案内されないんだねっと、僕が納得してない表情をすると、先生はまた眼鏡をクイクイさせ始め、どうして自分の時間を使ってまで案内をしないといけないんだと、とても嫌そうに言って来た。
ダンジョン研究が順調でないのか、ブツブツ言い始めたと思ったら、どうしてか先生は順位を口にしたんだ。


「255位?」
「そうです、あなたは知らないでしょうが、順位の付く貴族は特別なのです」


400位よりも下は順位が付けられず、順位が付くのはそれだけ優秀なダンジョンを持っているとされ、誰もが上位を目指してます。そしてやっと先生の名前が分かり、二つ名も聞きました。


「孤高のメデューサ使いバルサハル?」
「そうです、深いダンジョンを作って尚44点と言う高得点を維持しているのです」


階層が何処まで深いかでその点数の価値は違うけど、正直僕は低すぎて悩んでしまったよ。


「落ち込むことはありませんよ、40階を作っても尚この点数を出しているワタクシは、それだけ優秀なのです。では7日後に」


勘違いしたバルサハル先生が廊下を戻って行きます。僕はやれやれとため息を付いて部屋の扉を開け、その豪華さに部屋が間違ってないか、扉に書かれた名札を見ちゃったよ。
部屋は確かにアレシャスと書かれていて、これが貴族何だと実感したよ。


「40坪はあるんじゃないかな?それに入学式が7日後って、僕はその間何をすればいいんだよ」


そこの説明もされてないので自由にはして良いはずだけど、きっとバルサハル先生はさっきので釘を刺したんだ。
早く研究したいから騒ぎを起こすなと、遠回しに言ってるんでしょう。


「う~ん、そこまで心配されるのかぁ~」


それなら部屋で引き籠っていようと、馬車の中で製作した新たなダンジョンに挑戦する事が決まったよ。


「それにしても・・・この部屋を一人で使うの?広すぎないかな」


僕一人で部屋を使うのは分かるけど、ベッドとタンスがあるだけで後は何も無く、ただ広いだけの空間です。


「自分好みに変えろって事なんだろうね、何か飾ろうかな」


奥の壁には他にも扉が見えるから、きっとお風呂とかトイレになってるんでしょう。
部屋の奥に向かいそうは思うけど、間違っているのは分かってる。だって扉は5つもあるんですよ。


「まさか、お風呂が3つでトイレが2つあるとか言わないよね?」


もしそうなら、人を連れ込む気満々だよっと、扉を開けるのを躊躇ってしまいます。
でも、流石にないよねっと、自分に言い聞かせて正面に位置していたドアを開けます。中は10畳くらいの部屋でベッドと机とタンスがありました。


「なんだよ、驚かさないでよねまったく」


ホッとして他の部屋も回ると、3つは使用人の為の部屋で、貴族様ならば必要と納得しました。


「使用人を3人まで連れてきて良いって事だね、僕は平民上がりだからいないけど、それが本来普通なのかな?」


お風呂とトイレは残りの部屋で、お風呂はとても広く作られていて、やっぱり人を入れる前提なの?っと疑問が生まれました。
トイレは魔道具になってて、しっかりと水洗なのは凄いと思ったよ。


「さて、やることは決まったけど、学園を見てないし、大講堂でも見学してくるかな」


さっきの説明ではわからない事が多いので、まずは見て確認です。
部屋を出て廊下を進み、他の科の建物を横切り大講堂に向かいます。
先生の言いつけが無くても、僕としても揉め事はごめんですから、綺麗な花壇を見て素通りですね。


「まあ、他の建物も立ち入り禁止じゃないんだし、女子寮以外は見てもいいかな」


気が向いたらねと一言呟き、目的の建物の前に来ました。でも他と同じ作りで、正直外見は見ても感想は出てこないよ。
奥に見える訓練施設も同じで、中に入ってからかな?っと、大き目の扉を開けて大講堂に入り、これは凄いと一言声に出てしまいます。


「劇をするような舞台があんなに下にある。個室の観客席が何階分あるんだろ?」


僕が入ったのは1階のはずだけど、正面の舞台は遥か下にあり、扇状に観客席が個室で並び、優雅に見ることが出来る仕様になってます。
下の舞台では入学式を行うためか、何人もの作業員がせっせと準備をしているのが見えます。


「映画で見たオペラの個室みたいだ、これだと本当に誰とも話さないよね?」


適当に入った個室から見える部屋は10階分はあります。手摺りから身を乗り出し観客席を上に下にと眺め、もう満足したので帰ろうとして、僕を見て来る視線に気づいたんだ。


「ま、まずいのかな?」


右横5つ目の個室に、僕を睨んでる2人の男の子がいて、まずいかもと個室から出ます。
でも、その2人も通路まで出て来て僕に声を掛けてきた。


「おい止まれ!聞こえてるか、お前平民上がりの奴だろ」


前を歩いていた、金髪を肩までのばした男子が僕を指さして言ってきます。後ろの茶髪の男子は睨んできていて、いきなり揉め事の予感だよ。


「そ、そうだけど、僕に何か用ですか?」


僕は普通に礼をして自己紹介をしますが、入学もしてないのに騒動はごめんですよと、胸の内ではソワソワです。
僕が顔を上げると、2人は腕を組んでいて偉そうにしていましたよ。


「ふんっ!なんともみすぼらしい、これが俺たちと同じ男性貴族と見られるのか、勘弁してほしいぜ」
「そうですねジャケン樣、自分も迷惑であります」


どうやら僕が気に入らないようで、文句を言ってきたんだ。でも2人はそれだけ言って大講堂を出ていきます。
暴力も出て行けとかも無しで、僕は少し拍子抜けでした。


「なにしに来たんだろ?まぁ騒動にならないなら良いけどさ」


いるだけで絡まれるなら、もう部屋に戻ろうと正面の大きな扉に手を置いた瞬間、後ろから殺気を感じた。
驚いて振り向いたんだけど、女子生徒が4人いて、3人が木剣を振り上げていましたよ。


「なんとも遅い」


僕はその剣を避けても良かった、だけど相手の仕掛けて来てない女の子を見て、その選択は危険と判断してしなかった。
剣が肩に当たると、その流れにちょっとだけ逆らいながら相手に手ごたえを与えつつ受けた。


「ぐわっ!?」
「きゃはっ!当たった」


肩からバランスを崩す様に3回転して、僕はその場に倒れて見せた。
その途中で他の2人の顔も確認して見た。2人はつまらなそうな顔をしてた。相手はまともに当たったと錯覚したみたいで、しめしめと思いながら僕は通路に倒れて顔を伏せたんだ。


「なによこいつ、ぜんぜんダメじゃん」


一番手前で僕を攻撃した赤毛の子の呆れた声がした。僕の首元に剣先を向けて来たよ。ボクが顔を向けると構えを解き、下げた剣で肩をトントンしてガッカリしています。
他の女子もやる気を無くて剣を腰の鞘に納めましたけど、一体なんのつもりなのか理解出来ないよ。


「あはは!全然反応できないでやんの、これで男性貴族なの?」
「ほんとねマリアル、今年の平民上がりの男子はハズレだわ、先輩に期待しましょうケリー様」
「そうですわねイサベラ、皆さん行きますわよ」


攻撃に参加しかなった、短い金髪の女子が最後にそう言うと、全員が大講堂を出て行きました。
僕はそれを確認してから立ち上がり、服の汚れをはたいたんだ。


「制服じゃなくて良かったよ、危うく入学前に汚すところだ・・・それにしても、貴族ってみんなあんな感じなのかな?」


相手を見下す事しかしない感じで暴力まで使ってくる。さっきの攻撃だって、僕がレベルを上げていたから、受け流して無傷だっただけだ、あの子達と同じ1レベルだったら大怪我だよ。
それにダンジョンヒューマンだったら、強さの確認は必要ないのは言うまでもなく、僕が疑問を持った理由もそこにあります。


「ダンジョンに入って、モンスターを倒しまくっていて正解だったけど、本当に何がしたかったのかな?」


この世界でレベルを上げるには、モンスターを倒して経験値を取得しないといけません。
本を読んだり、剣の稽古をするとスキルの方に経験値が行ってしまう。だから訓練と勉強しかしていない人はレベルが1のままで、ダンジョン貴族は大抵そうなり、彼女たちを1レベルと断定した理由です。


「まぁそれでも僕はやり過ぎたけど、夜は暇だったし、楽しかったんだよね・・・食堂にでも行って何か食べよ」


ここの生活が少し嫌になりながらも、あれだけ嫌われていれば楽かもっと、前向きに考えることにしました。


「そうだよ、先生にまで嫌われてるし、良い傾向だよ」


ここで成績が良くなると、自由のない男性貴族としての未来しかなくなる。
目立たずに普通の成績で卒業するのが僕の目標ですから、領地を貰ってからやりたい放題出来ればそれで良しと、少し前向きになります。


「すみませーん、ランチメニュー1をください」


寮の食堂に着いて配膳場所で声を掛けると、向こうからは返事のないまま食器に料理が盛られ、僕の前に置かれたトレーを持ち挨拶をします。


「ありがとう」
「え?」


運んでくれたお姉さんはビックリしてた、調理している人たちは貴族では無いので仕方ないですが、僕はここでも挨拶は欠かさないつもりです。


「食事だけでも美味しいって救いだね」


ここではしっかりと塩と胡椒が使われていて、かなり美味しい。
ここが国1番の教育施設だから当然かもだけど、まぁ値段は高いだろうね。


「これを少しでも平民に流す事は考えないのかな?」


そこは貴族だからって事で納得しますが、マルタやタルトはコショウを平民は使わないと言ってた、少しでも使える様になってほしいよ。


「みんなに頼んだ政策も王都には関係ないし、こっちでも流そうかな」


ごちそうさまと食器を戻し、部屋に向かいながら任せる人が欲しいと考えます。ここではダリアたちの様な人は期待出来ないし、僕が目立つ改善はしたくない。人を探す所からだけど、時間は沢山ありそうなので、隠蔽の装備を作ろうと決めたよ。
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