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1章 誕生

19話 変わった人でした

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「みんな2年間ありがとう、元気でね」


アレシャス様がここに来て遂に2年が経ち、学園に通う為王都に出発する日が来ました。
わたくし以外は来てしまったと、指折り数えていて寂しいと涙していたのです。


「早いモノですね、アレシャス様が来たのが昨日の様に思えます」
「そうかな?僕も早いとは思ったけど、そこまでじゃないよ。みんなとの思い出は沢山覚えてる」
「ふふふ、そうですね」


わたくしもその気持ちは痛い程分かり、みんなでその事を話し合いました。アレシャス様は賢い子ですから、そんな雰囲気では悲しまれる。ですので笑顔で送ると皆で決めたのです。


「アレシャス様、どうかお元気で、良いご領主になってください」
「任せて、みんなの教えはしっかり覚えてる、変な奴らにはだまされないよ」
「それは・・・何より・・・」

わたくしも笑顔を作っていますが、彼の笑顔がもう見れないと思うと、目が熱くなり、長く話すのが辛くなってきました涙が零れそうになります。
ですが、わたくしは皆を束ねる長であり、アレシャス様の期待を裏切るわけにはいかないと、ぐっと堪えたのです。


「ダリア、泣いてるの?」
「いえ、子供の成長とは早いモノだ思っただけですよ・・・さて、そろそろ本当にお別れてです」


昨晩のお別れ会の席で、アレシャス様がわたくしを世界で一番尊敬していると言ってくださった。だから心を抑えてアレシャス様を送り、密かに計画している2年後の再開を楽しみにしたのです。


「ありがとダリア。でも、僕はみんなの方が心配だよ、僕のせいでお喋りが癖になってるでしょ?次に来る子は僕とは違って喋らないから、前の様に接してね、話し掛けてクビとかにならないでよ」
「アレシャス様」


これから大変なのは、わたくしたちよりもアレシャス様の方なのに、このお方は心配して下さる。優しく良い子なアレシャスは、これから平民からダンジョンヒューマンになった者として、周りからイジメに会うかもしれない。


「わたくし共のご心配ありがとうございます」
「ダリア」


遠くに居るわたくしたちは助ける事は出来ないと、悔しさで拳に力が篭ります。
ですけど、わたくしは表情には出しません。キリっとしたままで、彼の心配する問題を華麗に答えるのです。


「ご心配には及びません、こんなにお話をするのはアレシャス樣しか居ませんわ」


その証拠にと、わたくしの後ろに控える皆は、今まで一言も声を出していませんし、最初の様に頭を下げるだけです。


「確かに、みんな喋らないけどさ」
「そうでございますよ、ですので安心してください」


これはもちろんアレシャス様を心配させない為で、本当は昨晩のお別れ会と同じ様に、お別れの言葉とハグをしたかった。
でもそれは、わたくしが必死で説得して止めました。必ず涙してしまうメイドが出て来てしまい、それは皆に伝染し歯止めが効かなくなります。


「そうなんだね、それなら安心かな」


だからこそ、無理をしてでも切り替えた事を態度で見せたのです。アレシャス様もホッとしたお顔をしてくれますが、その顔は我慢しているわたくしたちの限界ギリギリのモノで、わたくしは自分を抑えるのに必死でした。


「あ、アレシャス様」
「バカリリシャッ!」


じゃあ安心だねとお声まで掛けて貰った喜びからか、アレシャス様の声に我慢出来ず、リリシャが止められ、他にも数名が口を抑えられていました。
こんな事もあろうかと、アレシャス様に救われたメイドのサイドを固めていて良かったと、表情には出さずにホッとしました。


「ええ・・・でも、もしクビになったら、アレシャス様がわたくしたちを雇って頂けますよね?」


そんなアレシャス様に、少しだけ仕返しを考えたわたくしは、前屈みになってお願いしてみます。


「またですか!?」
「あら、ダメですか?」
「そうやって揶揄うんだから、ダリアには敵わないね」


このやり取りは、わたくしがアレシャス様を可愛い子供としてではなく、1人の男として見てからの行動で、それからは避妊の指輪もしていません。
惜しい事に子供は授かりませんでしたが、アレシャス様に雇って貰った後の方が都合が良いので、その時の楽しみにしているんです。


「ダメですかアレシャス様」
「も、もちろん雇うけどさ、こっちからお願いしたい位だけど・・・誘惑してくるのは違うからね」
「ふふふ、ではその時が来るのを期待していますよアレシャス様」


最後のお別れの言葉は、皆で跪いて告げました。本心では、皆でキスとハグをしたかったですが、ダメですよねっと、馬車に乗り込むアレシャス様を見守ったのです。
馬車の御者が見ているので手も振れない苦行、まったくどうしてこんな接し方が正しいと思えるのか疑問です。


「ダリア、行っちゃったね」


私の隣に来たリーナは、出発してしまった馬車を眺め聞いて来たけど、貴方も思っている事でしょっと返したわ。


「そうね、リーナもう泣いても良いわよ」
「うん」


リーナは泣き出してしまい、後ろの数名も同じです。皆良く頑張りましたと言っている自分の目からも涙が溢れます。


「頑張ったわねリーナ、みんなもご苦労様」


もう泣いても叫んでもアレシャス様には聞こえませんから、今は存分に泣きます。明日から、次の男性貴族を迎える準備のお仕事が始まり、その子がわたくしたちの最後の教え子となるのです。


「でも、アレシャス様の様な事にはならない・・・変わった人だったけど、楽しかったわ」


涙を拭き、もう見えない馬車に乗っているお方を思います。
アレシャス様は、ほんとに変わった方で、男性貴族と言うよりも、近所の男の子と言った印象で、普通にしていると可愛いだけの子供でした。


「それは最初の印象だけで、親しくなると見方は変わり、とても頼もしい方なのが伝わって来た、本当に変わったお方でした」


畑に森の落ち葉を敷き詰め土の力を上げたり、病気のメイドに薬を調合したりと、活発に動く方で見ていて飽きなかったと、リーナに同意を求めてしまったわ。


「ズズ、そうだわねぇ・・・それにダリア知ってた?あの子すごく体つきが良くなってたのよ、子供って良いわねぇ」


アレシャス様は料理も作っていまして、それがまた美味しくてみんな楽しみにしていたのです。中でも砂糖を使うお菓子が絶品で、誰もが奪い合って食べたものです。


「アレシャス様を羨ましく思うのも分かるけどリーナ、あなたは食べ過ぎね」
「うぇっ!?」


一緒にアレシャス様も食べていたのに、その身体付きで、メイドの数名は少し太ったと泣いていました。リーナもその内の1人でアレシャス様のトレーニングに参加していたんです。


「アレシャス様はいませんから、わたくしが指導してあげますよ」


仕事以外運動をしないからいけないのですが、今後はもっと注意しないとどんどん太ってしまう。これから予定を組んだ方が良いかもしれません。


「え~嫌よダリア」
「じゃあ、更に太ったら、リーナはおやつ禁止ですね」


うぐっ!?と涙目になりだすリーナですが、おやつだけではなく食事も減らさないといけません。何せアレシャス様は食材を大量に残してくれていて、わたくしはどうやって使おうかと考えさせられているのです。


「それが嫌かな、仕事で消費しますか?その方が大変ですよ」


存分に使ってと言われていて、全員が毎日使っても10年は持つほどの量ですから、普通ではないのです。
それを知っているのはワタクシだけで、更に収納の袋も貰っていて、アレシャス様はその時ドヤ顔を決めていましたが、やり過ぎですっと注意するどころか、呆れてしまったのです。


「うぅ~」
「唸ってもダメですよリーナ、運動が嫌なら食事しかありません、それで良いのですね?」


更には対策もしていて、わたくしたちが教えた体験談を倍以上に吸収していたと、ほんとの意味でわたくしは惚れてしまったのです。


「ふんだっ!そういうダリアだって少し太ったでしょ、こことか」
「ひゃっ!」


言い返せないリーナは実力行使に出て来て、不意にわたくしの腰をつまんできたわ。でも引き締まった腰だった為か、逆にショックを受け膝を付き落ち込み始めます。


「ど、どうしてよ」
「まったく、わたくしが太る訳ないでしょう」
「だって、見た目が」


わたくしが前より太って見えるのは、筋肉が一回り大きくなったからで、決して太ったからではないのです。締まるところはきゅっとしていて、出る所はボンッと出ている、スタイルが良いとアレシャス様は褒めてくれました。


「ほらリーナ、落ち込んでないでわたくしが相手をしてあげますから、運動をしましょう。じゃないと、本当におやつ抜きですよ」
「そ、そこを何とか、アレシャス様がいなくなったから、材料が無くなる前に食べないと無くなっちゃう」
「その心配がないから言っているのです、そうですねリリシャ」


どう言う事?っと、膝を付いたままで顔だけを向けるリーナは、頷くリリシャの話しを聞き、飛び起きてリリシャの肩を掴んで揺らし始めたわ。
みんながそれぞれアレシャス様に譲り受けていている物があり、リーナはそれを知って動揺したのです。


「そんな・・・アタシが密かに貰ったお菓子の量は凄いのよ?」
「そそ、そうなんです。でででも、みんなが貰っていますぅ~」


これでもかと身体を揺らされ、リリシャはフラフラで返事だけはしましたが、リーナの動揺する気持ちはとても良く分りました。
アレシャス様は、メイド服に収納袋と様々なプレゼントをわたくしたちに贈ってくれたのですが、その中には個人的に内緒にしている物も含まれています。


「じゃ、じゃああたしだけじゃなかったの?」
「そそそ、そうです~」


わたくしは今まで知らん顔をしていましたが、リーナは口を滑らせたのです。
わたくしの場合は様々な武器で、先程の食料とは違い、わたくしのメイド服のポケットが魔法の収納袋になっていて、そこに入っているのです。
アレシャス様は、歩く武器庫と笑顔で命名していまして、あの時も可愛いかったと思い返してしまいます。


「やっぱり持ってたわねリーナ、訓練も仕事もしてるのに、あなただけ太るから変だと思ったのです」
「あ、いやその・・・ね」


次の貴族様が来るまで、みっちりと訓練しますと、没収を餌に覚悟を決めさせました。
リーナは往生際の悪い事に、ちょっとぽっちゃりしてる方がアレシャス様は喜ぶとか言い訳を口にしましたが、メイドは皆容姿を好きと言われていると一喝します。


「ごごご、ごめんなさい」


彼の凄い所は、その場の勢いで言っているのではなく、それが本気と言う事なのです。
ほんとに好みなのかは分かりませんが、それだけ相手を想える方なのだと伝わって来て、そんな心の方を好きにならない人はいないのではないだろうかと確信しています。


「やっと分かったようですね」
「はい、これからは控えます」
「よろしい、みなもリーナを手伝ってあげてください」
「「「「「はい」」」」」


次に会う時、きっとアレシャス様の周りには友人が沢山いて、そこにわたくしたちも入るのです。そして平和にのんびりするというアレシャス様の夢も叶っている。きっとそんな未来が待っています。
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