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3章 第1次世界大戦

58話 急いては事を仕損じる

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首大陸の国境に付いたアタシたち紅の薔薇は、炎の壁に驚きそれ以上前に進めずにいた。ここに来る前には無かったんだが、急に地面から炎が吹きあがり止まらない。


「伝承通りみたいだなアンジュラ」

「ああそうだなアサルトレジル、敵意のある者が通ろうとすると、そこにフェニックス族の炎が立ちふさがる」


炎は敵意ある者にしか見えず、そうでない者は通る事が出来るらしく、そうでない者が通れば地獄の業火に焼かれてしまう。アタシたちはこれ以上進めない、通るとしたら国境砦のある場所からとなり、最強種との戦いが始まる。
楽しそうなアサルトレジルだが、アタシとヴェルネラは反対している、まだ胸大陸を制覇していないからで、今日ここに来たのは下見程度に考えていた。しかしアサルトレジルたちはやる気をみせている、だからやるなら団を抜けろと言ってやった。


「そう言うなよアンジュラ」

「そうっすよ、冗談っすからね」

「それなら剣から手を離せ」


こいつらは、敵が見えていたら斬りかかっていただろう。それだけの殺気を放っていたし、素直に3人が剣から手を離したのを見て、アタシはやれやれと思ったんだ。だがその時、アタシを含め数名が背筋が凍るような感覚に見回れた。
いったい何が起きたのか、それを口にする前に炎の中から一人のフェニックス族が出て来た。それは真っ赤な翼を持った死の象徴で、事態は最悪と言って良い。


「お前たち、この炎を出した奴らだな」


ちょっと喋っただけなのに、アタシたち以外はその場に倒れてしまう、それだけの存在感を持ち相手は威圧をして来た。
こんなのに勝てるわけがない、アサルトレジルたちのせいだと顔を向けると、3人まで震えていた。あれだけ啖呵を切ったくせにその程度かと言いたいが、アタシですら立っているのが精いっぱいな状況だからしかたない。


「フンっ!!これしきの威圧で喋る事も出来ない奴らが、我らに牙を向けるか」

「あ、アタシは」


自分が何とかしないといけない、そう思って声を発したんだが、フェニックス族に睨まれた事で声が出なくなった。これが最強種なのかと血の気が引いて行った、それを見てかアサルトレジルがアタシの前に移動したんだ。
動けるのかと思ったが、アサルトレジルも限界まで抵抗している様で、肩で息をしていた。


「ほう、お前はなかなか見どころがある」

「それはどうも・・・だがな、そう言っていられるのも今の内だ、行くぞお前ら」

「「おうっす!!」」


剣に手を掛け姿勢を低くしたアサルトレジルたちは、その体勢のままでフェニックス族に突っ込んで行った、剣はフェニックス族の広げた翼によって防がれたが攻撃は出来たんだ。
ほんとにやるなとフェニックス族が口にすると、アタシたちの身体に掛かっていた負荷が無くなり動けるようになった、どうやら何かの技を使われていたらしく、アサルトレジルはどうだと言っていたよ。


「体が動けばお前なんかに負けないんだよ」

「良く吠えるサルだな、我たちの力があれだけだと思っているのか?」


まだ何かあるのかとアタシは見ているだけだった、その間にアサルトレジルたちは青い炎に包まれてしまう、その炎は3人のすべてを焼き尽くした、剣は溶け鎧は跡形もなく灰となった。
丸焦げで倒れた3人を呼ぶが反応は無く、アタシはそれを見てショックが大きかった。アタシと同格の強さを持ったアサルトレジルが一撃で倒された、これはもう終わりだと思ったよ。


「つまらんっ!!その程度で挑みに来るとは、やる気も失せたわ、直ちに立ち去れザコども」


フェニックス族が炎の壁に戻って行き、アタシはその場に座り込んでしまった。ヴェルネラも横で同じ感じだが、アタシとは違い戦う意思はなさそうだった。
あんなに強い奴がいた、アタシは挑んでみたいと感じた、アサルトレジルの様に一撃でも入れて見たいんだ。


「ヴェルネラ、あいつらを弔ってやろう」

「わ、分かりました」


返事はしたんだが、ヴェルネラは立ち上がる事が出来なかった、戦意を失っただけでなく腰が抜けたのだ、それだけ力の差を感じる出来事だった。
アサルトレジルたちのおかげで強さを体験できたと、それだけでも称賛してやった、勿体ないとは思ったが黒焦げでは助からない。
ヴェルネラが無理だからアタシが運んでやろうと、アサルトレジルだった物体の前に来る、だがどうしてかアタシは悔しさが込み上げてきたよ。


「情けないっ!!こいつは頑張ったのに、アタシは見てる事しか出来なかった」


実力は同じだったが、アサルトレジルよりも弱かったんだと、アタシは初めての感覚に見回れた、あいつとの子供が欲しくなったんだ。
もうアサルトレジルはいない、心の何かが欠けてしまった感覚を受けたアタシは、涙を堪えながら布でアサルトレジルを包んで行った。
全てが手遅れと思っているアタシだが、どうしてか絶望はしていなかった、アタシはアサルトレジルが言っていたある事を思い出していたんだ。


「ジルベルトに勝ちたい、あんなに強いアサルトレジルがそいつだけには負けたくないと言っていた、そいつを見つけてフェニックス族に復讐してやる」


布を抱き上げアタシは誓った、アサルトレジルの存在は捨て石だと持っていたが、アタシはアイツが好きだったんだ。
それを教えてくれたフェニックス族には、その分の代償を払ってもらう、絶対に倒して見せるぞ。
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