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3章 第1次世界大戦

57話 普通の戦い2

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サーティンとの戦もそろそろ終わりが見えて来て、連勝続きの俺たちは余裕を見せていた。それと言うのも、補給がほんとに途切れずに送られてくるんだ。
しかもだ!!っとテーブルに置かれた料理を睨み、これのどこが戦場の飯だと、俺はフォークを肉に差して掲げて叫んだんだ。


「美味いっ!!美味すぎだぞこの飯は」


日持ちする食材が出て来るのが戦場で、それはかなり質素になり飽きるモノだ。しかし新鮮な肉にシャキシャキの野菜が運ばれて来て、どれをとっても何だこれはと言いたくなる。
美味い飯が食べれるのは俺も文句はない、しかしそれ以外に言いたいことがある。それは休む為のテントが建物になり、ベッドが上質な事だ。


「どうして今まで使わなかったんだ」


風の通るテントに固いベッド、あれは戦いを終わらせた兵士にとって休める場所ではない。この建物を前にしてしまえばその答えに至ってしまう。
そして、ポンと投げれば簡単に設営が出来るこの建物は、本来出陣の時に持たせるモノで、それをここまで進んできてから物資として届けられたのは、俺たちに秘密にしていたという事なんだ。
持って来た部下を見つけ俺は問い詰めたぞ、もっと前に使っていれば戦況はもっと良くなっていたとな。しかし兵士はそれを聞いて一通の手紙を俺に渡してきた。


「誰からの手紙だ?」

「それは勿論ライーネ様です」


アイツからの手紙かと、俺は開けて読むのが嫌になったが、そんな事を言ってる場合ではないと渋々開けて読んだよ、そして自分が愚かだったと悟ったんだ。
今回運ばれてきた品は最初から出来ていたモノではなく、やっと開発できたものだったのだ。それを使い進軍する様に手紙には書いてあり、俺の思っていた様な事はライーネはしてなかったんだ。


「隠していたわけではないのだな」


アイツはアイツで大変なのだと理解した、手紙を持って来た部下も俺の言葉を聞き頷き納得していたんだ。この戦いは協力しなくてはいけない、それが良く分かり俺も心に刻んで動く事にした。
兵士たちの体調は万全だ、これなら山の様な塞砦が相手でも勝てると、俺は難問である砦に視線を向けた、山を削って作られたグランツ砦は、難攻不落で有名だ。


「それが3国の兵士が駐屯しているとなれば、いくら強くなった我々でも難しいかもしれんな」

「その為の支援物資ですよアルステル様、さぁ作戦を立てましょう」


オレの作戦を凄く期待して来る部下だが、そんなにキラキラした目をするなと言いたい。山を使った砦の攻略は考えるまでもなく、門を破壊できるかにかかっている。
他の場所は堅い岩の壁だから当然だが、そこをオレがどう作戦立てるのか期待しているとみて、オレは言い出せないで考えた。
ライーネの用意した装備を使っても突破は難しいだろう、ここは新しく運ばれてきた兵器に期待したいと、部下に詳細の書かれた書物を持って来るように伝え時間を作ったんだ。


「さて、いなくなった所でどうするか」


こちらは3000の数しかいない、相手は8000とかなりの数がいる、正面に陣取るしかないオレたちには突撃しかない。囲むことが出来れば、相手の食料が無くなるのを待つ手もあったが、この山はそれも出来ない様に作られている。
幾つもの隠し通路があり、そこから物資を運んでいるからまず不足もしない、どうしたものかと考えていると、部下が資料を持ってきてオレはそれに目を通してみる。


「鉄の杭を打ち付ける兵器か」

「そうですよアルステル様、他にも突き刺したクイを引き抜く兵器、それに爆発する樽と色々変わった物があります」


今までもすごいと思ってはいたが、今回はこの砦の為にある兵器だと納得し、門の破壊をしないで壁の破壊を決行した。部下はさすがに反対するが、それを黙らせる言葉をオレは簡単に引き出した。相手の砦は、門の周りにしか反撃の為の穴を掘っていないんだ。


「つまり、そこからの攻撃が来なければ良いのですか?」

「その通りだ、砦の窓は多数あるがそこからの攻撃は矢と魔法に限定される、それならばこちらの鉄傘で防げるし、何よりそこに樽爆弾を投げ込めば侵入も出来るかもしれない」


投石器で樽を投げ壁を破壊する手もある、相手が出てこないのなら、兵士で両方の策を進めれば良いのだ。部下もそれを聞いてさすがと賛成してきた、侵入さえできれば強くなった我らに負けは無い。
さぁ戦いの始まりだと、オレの宣言から作戦が始まり、爆発音の響く戦いが始まった。岩の崩れる音がする頃には、太陽が一番高い場所にまで登っている時間だ、朝からさすがに長時間の戦いになったので一時休憩を挟む様に知らせ、オレは砦の状態を見て唖然としたぞ。


「砦部分が崩壊しているな」

「ええ、兵士たちが突入しなかったのは、爆発で山が崩れたからです。午後は岩の除去が優先されるでしょう」


山の砦にも弱点はあった、掘り進めた為衝撃には弱く、爆発の衝撃で崩れてしまったんだ。これはもう戦いではなく救助だなと、オレは部下に指示を出し、部下もそれを聞いて良かったとホッとしている感じだ。
戦争の相手ではあるが、戦えない相手に剣を向ける必要はない。これから相手に向けるのは慈悲の心で、オレたち戦場で戦う者のルールだ。


「さすがですアルステル様、急いで準備しますね」

「そうしてくれ、出来るなら治療の出来る援軍も呼んでくれ」

「分かりました、急いで呼んできます」


部下が急いで部屋を出たが、医療班が必要なのは俺たちの為だ、山が崩れたのならこの後も起きるだろうからな。
2手3手先を見てそれに備える、戦いとはそう言うモノで相手もそれは分かっているだろう。きっと今頃、俺たちの背後を取ろうと動いている、それに援軍がぶつかりオレの本隊は無傷だ。


「助けている間は襲ってこないだろうが、不意を突くのは道理だ」


ライーネの物資のおかげで陣は砦の様になっている、いつでも良いぞとニヤリとしたが、そう言えばと思った事がある。報告に来ていた部下は誰なのだろうかと言う疑問だ。
アイツはライーネの傍にいたはずなんだ、確か名前はイサーシュだったか?メイド服を着ていないから分からなかったと、疑問に思ったよ。


「まぁどうでもいい事か、まずは救助が先だな」


この救助で敵国も考えを変えるだろう、だからオレたちは救出を急ぐ。命を賭けて戦った者に向ける誠意だ。
しかしオレは、ライーネのメイドがどうやってここに来ていたのかを知らなかった、そして物資を運んでいた隊は無く、そいつだけで大量の物資を運んでいたんだ。
それを知るのは、オレが救護隊を招いた時だが、それは次の日の昼と言うとてつもない早い段階で、絶対にライーネには敵対しないと心に刻んだよ。
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