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3章 第1次世界大戦

49話 イースラム国対ドルドン国

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野営地のテーブルに敵陣営とこちらの駒を並べ、私はため息を付きました。私ササージュは、ドルドンとの戦いの総隊長の任を受け戦場に立っているのですが、相手が弱すぎて困っています。
装備を整えたこちらの傭兵だけでも、余裕で勝ってしまう程の力の差を相手はどう思っているのか、降伏するしかないのは誰でも分かるのです。


「そもそも、ドルドンはどうして仕掛けてきたのでしょう、クージュ国を味方に付け、パーススは同盟を求めて来たわ。それを了承すれば小規模国が敵う範囲を超えるのよ、それなのに攻めて来たから訳が分からない」

「恐らくですが、ガルカルとの密約があったのではないですか?」


イスラの意見くらいしか考えられないのです。でもガルカルからは攻撃はされずドルドンだけだった、きっと裏切られたんでしょう。
それなら早々に降伏してこちらに付き、報復としてガルカルを指名すれば良いだけなのに分からないのです。
私たちには大きな目的があるのです、それなのに始まって直ぐに足踏みをしてしまっている。右翼大陸を統一し大国になる事、それが私たちの使命だったのに、初戦で時間を掛けてしまっていると、私は焦っているのです。


「もしかしたら、相手は時間をずらして攻める予定なのでは?」

「それも考えられますねイスラ。きっと奴らは兵器が少数と思っているのです」


多く保有している私たちの部隊をここに留め、今まで静かだったドルドンが攻めて来る予定なんだと考えました。ですが、それは大間違いで既に十分な数が出来上がっています。
だから焦る必要はないと、私は深呼吸をしましたわ。補給物資も、どこかの商人が率先して運んでくれていますから、どこが戦場になっても十分な量があります。その商人は恐らくジルベルトの息が掛かった者なのでしょう。


「確か、アネモネと言う商人でしたか」

「ええ、若くして子爵の位を授かった少女ですわ。遠くにいても私たちを支えてくれる、ジルベルトは頼もしい方ですね」


南の領地を持っている貴族でしたが、どうしてか戦争が始まる前から動き出し、傭兵を雇って防衛をしてくれたのです。おかげで被害は最小限にする事が出来て、今はガルカルに攻める事が出来ています。
部下がテントに入って来て、この場の戦いは勝利したと報告をしてくれます。テーブルの駒を兵士に動かして貰い、私は状況の整理を始めました。こちらの被害は軽微で、今すぐにでも出発出来るようでしたわ。


「兵器も使っていませんし、ササージュ様ここは相手の策に乗りましょう」

「そうですわね、これで相手の出方が分かります」


駒を動かしていた兵士に進軍を指示して、私たちは急ぎ進軍を開始しました。そして2日後に相手の砦に着き、国からの報告書が届き予想が的中した事が知らされます。
私とイスラは、これで速足で進むと嬉しくなりました。知らせに来た兵士は不思議そうでしたが、気にせずに砦戦に入る事を指示すると、さすがに危険だと意見してきました。


「心配はいりませんよ、相手はこちらを知らなすぎるのです」

「し、しかしガルカルだけでなくヴィローも参加しています」

「お前は配属されて間もないから知らんだろうが、今二つの国が攻めようとしているクージュ国はな、今までと違い最強の盾を持っている」


訳が分からないと兵士は首を傾げたわ、それもそのはずクージュ国は、いやいやながらイースラム国に統合された事になっているからです。ライーネ様の結婚式の後、密談は何度も繰り返し行われ、クージュ国はライーネ様の物となっているのです。
それはライーネ様の派閥でも、私たちの様なジルベルトを知っている者だけしか知らない事で、誰にも悟られず知られずに終わった事なのです。


「そ、そんな事があったのですか」

「今だから言いますけどそうなのです、だから攻める事をしない代わりに、あちらの戦いで負ける事はありません」


今頃、強襲したヴィローとガルカルの軍はビックリしているでしょう。ある場所から敵軍が視認されると、地面が盛り上がりとても高い壁と変わるのです。そしてその壁はとても硬く入り口は何処にもありません。
ワタクシは説明していて、ほんとにあるのかと思ってしまいますが、それを作ったのはジルベルトなので、ありえないなんて事は無いのです。


「その壁には防衛機能が付いていて、国の端から端までを完璧に守るのです」

「ササージュ様の言う通りだ、高い山にもそれが出現し、存在しない場所は海だけになる。しかし海に面してないヴィローとガルカルでは船は出せない」

「イスラの言う通りです。そして海に面しているヴィローの南西に位置するハーメルは、精霊族のエルフの国で船を作る事を嫌っています」


エルフは木を切る事を禁忌としています、だから船を出すにはヴィローの南に位置するユーリユか、その東のブイロンに話を付ける必要が出て来ます。ですがそこから船を出しても、長い航海が待ち構えているため、現実的ではないのです。
そこまでを説明しやっと兵士は納得しました。それだけ準備が万全だったと、兵士の男の子は希望に満ちた目をし始めましたわ。


「だから安心しろ」

「はいっ!!失礼しました」


元気よく返事をして出て行く男の子はとても可愛く見えたわ。ジルベルトもあれだけ可愛かったと思い出してしまい、イスラとため息が揃ってしまいました。
結婚式から1月、向こうではどんなすごい事をしているのかと、楽しみな反面心配でもあります。


「まあジルベルトですし、普通の事はしてませんわね」

「そうですね、エーハル様もそこら辺は濁しているようですし、きっと国を掌握するくらいはしてるのではないですか?」


流石にそれはっとふたりで笑いましたが、段々あり得ると思ってソワソワし始めてしまいました。国を作るなら、最初からある国を取った方が早いですから、きっとジルベルトは実行していると考え冷汗が出て来てしまいました。


「ま、まぁさすがに国は早いですよササージュ様」

「そ、そうよねイスラ。一つの街くらいは取ってるでしょうけど、さすがにね」


はははっと笑いつつ、私たちも頑張らねばと作戦を話合ったのです。ジルベルトはフェリトス国に向かうまでの道中で、立ち寄った街を数日で掌握していました。その速度を考えると3ヶ月もフェリトスに滞在しているのであり得ると、私とイスラの脳裏に残ってしまっているのです。
おいて行かれるのが怖くて私たちは砦を攻めます。ジルベルトに呆れられたくないのですっと、必死になって戦いました。兵器を有効に使い砦を瓦礫にして突入し、敵兵士は痺れさせるか寝かせて捕獲したのです。
その報告をあの男の子兵士のロロルがしてくれます。イスラが捕虜の処遇を指示した後、私は傭兵の方はどうなっているのかを確認しましたわ。


「傭兵は食事と寝床でこちらに誘えましたか」

「はいササージュ様、既にほとんどがこちらに寝返っています・・・ですが、ほんとに宜しいのですか?報酬はお金の方が」

「傭兵が金を欲しがるのは、生活の為なのですよロロル、お酒と食事と寝床を与えれば報酬として十分です。更に装備はこちら持ちですから、断る理由が無いのです」


なるほどっとロロルは納得して退出します。私は最初にそれを提示したジルベルトをさすがと尊敬しましたわ。
製作魔法があってもそこに気付くのは凄い、そう思って私は南東の方を見てしまったわ。その先にはジルベルトがいるフェリトスで、今も楽しく美味しい食事をしているんだと、昔を懐かしんでしまったわ。
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