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2章 発展競争

44話 王族の来訪

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今更騒いでも遅い、ワタクシは再三鉱山だけではいつか終わりが来ると、他に手を考えようとお母さまに言っていたの。でもお父様に費用は出せないと言われたから無理の一言。ワタクシの言葉は、お母さまに簡単に切り捨てられたのです。
それなのに王族総出で視察を始め、それがただ回るだけとか、どう考えても無駄だとワタクシはとても嫌になります。専属メイドのアサーニュからお茶を貰ったのだけど、馬車の移動だから朝に淹れた物で冷めてしまって美味しくないし、食事も固いパンに干し肉とほんとに最悪ですわよ。
窓の外を眺めため息しか出なくて、もうほんと最悪だとやる気が出ません。


「またため息をついて、それでは幸福が飛んで行きますよフェシューラ様」


ため息もつきたくなりますとアサーニュに愚痴をこぼしたわ。この国はもう終わりを迎える、今更騒いでも何も出来ないのです。
ワタクシはフェシューラ・フェリトス、この国の第5王女で5番目の妃の長女です。今年成人したばかりのワタクシにまで視察の仕事を振って来た時点で、非常事態だと言ってるようなモノなのは、勘の良い人物ならそんな答えにたどり着いているでしょう。
お母さまはどうして聞いてくれないのかと思ってしまいます。きっと年若いワタクシの言葉だから聞いてくれないのです。


「またそんな事を言って、今からでも頑張りましょうよ」

「アサーニュは前向きですね」


彼女ならきっとワタクシの話を聞いて、何かの策を行ったでしょう。ですがお母さまは聞いてくれず国は傾いています。視察に同行しているクルモーニュ大臣もイヤなのよ、顔も悪いし太っていて油っぽいしで、何もかもが嫌なのです。
仕事は大臣に任せて、ワタクシは海でのんびりできないかと思っています。それ位しないとやっていられませんよ、ワタクシは怒っているのです、話を聞いてくれなかったのに、今更過ぎるのですよ。


「大体あのクルモーニュとか言う男は何なのですかっ!!フーフーとうるさいですし、汗が気持ち悪いのです、食事の席で毎回一緒とか勘弁してほしいわ」

「仕方ないですよフェシューラ様、有能な大臣たちは国王様の近くを離れませんし、街に同行するのは下の方の大臣です」

「国の未来が掛かっているとクルモーニュは言っていましたけど、全然力を入れてないじゃないのよ」


王族を頭に視察をして、ただ単に見栄えを良くしているだけに見えるのです。これでは本気度が伝わらず、どこの街でも発展はしません。
ワタクシはもう遊ぶ事を念頭にしようと考えを決めました。せめて食事だけでも良い物が出る事を願い、辛い旅を続けやっとの事で到着した街並みは、ワタクシを喜ばせるモノでした、馬車の窓からワクワクが止まらないわ。


「見てよアサーニュ、あの建物七色に光って綺麗よ」

「フェシューラ様、あれは白い建物に海からの光が当たっているだけですよ、王都ならもっと立派な建物があります」


王都と比べてしまったら、それは他の国の王都くらいしか比較できないと言い返し、ワタクシが言いたいのは、海がこんなにも綺麗で素晴らしいと言う事なの。
前に来た時はこんなじゃなかったはずなの、かなり昔の小さな時だったから、もしかしたら違ったかもしれない。でもこんなに綺麗な物を忘れるとは思えない、だからこれからがとても楽しみになったわ。
馬車から飛び出して、今すぐにでも遊びに行きたい衝動が押し寄せて来たけど、そこで止めたのはアサーニュよ。


「だめですよフェシューラ様、遊ぶのはお仕事が終わってからです」

「分かってるわよアサーニュ、どうせ仕事なんて直ぐに終わるものね」


政策なんてどこにもないのだからと、ワタクシは上がった気持ちをどん底まで下げてしまったの。馬車から降りてもその気持ちは変わらず、商業ギルドの長が挨拶をして来ても裏の空でした。ギルドの応接室に案内され説明をされても、内容は入って来ませんでした。


「すまぬが、もう一度言ってくれるか?」


クルモーニュの怒っている声が聞こえ、ワタクシはやっと耳を傾ける事が出来ました。そこには睨まれている商業ギルドの長がいましたわ、オドオドとして言いよどんでいましたね。
きっと政策が無かった事を怒っているのです、彼は旅先でもそんな事を言っていました。でもそれは彼のせいではない、そう言おうとしたのだけど、クルモーニュはせっかくの制作の説明が出来ていない事を怒っていました。


「でで、ですからこれからその現場に向かいます、そこに行けば説明はなされるのです」

「それでは聞くがな、何故その場所に向かわず応接室に連れて来たのだ、ワシたちは疲れておるのだぞ」

「も、申し訳ありませんっ!!」


結局クルモーニュは動きたくない様で、気分が悪いとギルド長に宿まで案内させたのです。ワタクシも同じ場所に案内されそうになったのだけど、そんな勿体ない事はしないわ、街を案内してもらえる職員を借りて街を散策よ。
先頭を歩く職員のウィーメアは、街の事を何でも知っていたわ、食べ歩きなんて初めての体験で楽しかった。途中に入れる政策の話が無ければね。


「あそこに見えるのが造船所で、明日は見学する事になります、あの山は」

「ちょっとウィーメア、お仕事の話は止めてください。ワタクシは今楽しんでいますのよ」

「そうでしたね・・・では、最後に綺麗になった海をご覧ください、丁度夕日が落ちる時間で綺麗ですよ」


それは良いと、ワタクシは嬉しくさを体全体で表現しました、飛び上がってもう楽しくて仕方なかったのよ。だけどそれは夕日を見て更に上昇したわ、とても良い景色で涙が出て来たわ。
こんなに良い景色がワタクシの国にあったのかと、誇りに思ってしまう程の物だったけど、どうして知らなかったのかと思ってしまったわ。


「昔は見てない、それははっきりと覚えています。どうしてなのかしら?」

「きっとこの時間に来てないのですよフェシューラ様、だって夜は危険ですもの」


夕日が落ちて、今は暗くなっているから当然です。ですが月明りに照らされた海が更に美しくて、目が離せませんでした。
ほんとに知らないだけなのかそれは分からないけど、ワタクシはこの光景を忘れる事は無いわ。


「とても綺麗ですね」

「綺麗なのは分かるけど、君はその後にも言葉が必要だ」


海を見ていたワタクシたちの背後からそんな言葉が聞こえ、ワタクシたちは振り返りました。そこには男女が立っていたわ、ワタクシたちが誰なのか知ってる風だけど、彼の言葉の意味が分からなかったの。
だからワタクシは何の事だと聞いたのよ、そしたら彼はガッカリした表情を見せて来た、そして綺麗なままを維持する様に国を挙げて動かないといけないらしいわ。


「そんな事、ワタクシに言わないでくださいまし、それは大臣のお仕事ですわ」

「一緒に来たクルモーニュとか言う男ね、アイツは今呑気に酒を飲んで寝てるわ」


女性が答えて来たけど、かなり機嫌が悪いみたい。せっかく待っていたのにとか言って怒っているわ。
それを止めたのは隣の彼だけど、彼も1日を無駄にしたと怒って来たのよ。でもワタクシに言われても困りますと、ワタクシも怒ったのです。


「困った子ね・・・どうするのよジルベルト」

「まあ想定内だよキョーカ。だけど両方使えないのは問題だ」


ふたりが良く分からない話し合いを始め、ワタクシは蚊帳の外ですわ。しばらくして大臣に指示を出せと男性が言ってきましたけど、アイツがワタクシの言う事なんて聞くわけがありません、どうしようもないのだと言ってやったわ。
男は時間の無駄だとその場を離れて行ったけど、アサーニュが無礼な奴だったと困り顔です。ワタクシを守るのがメイドの仕事なのにと、後ろからジト目をしてしまいましたわ。


「ウィーメア、あの男は何者ですか、随分偉そうでしたわね」

「彼はこの街を変えた人物でジルベルト様です。明日はきっとお話になるので、どうか仲良くお願いします」


仲良くなんて出来そうもないと思ったのですが、案内をしてくれたウィーメアを困らせるのもイヤだったので、相手次第だと言っておいたわ。
ホッとしたウィーメアに宿まで案内してもらいましたが、そこはとても上等な部屋が用意されていました。王宮のワタクシの部屋よりも広く、良いモノでした。


「夕食は屋台で済ませてしまいましたが、これは食事も期待できるかもしれないわね」

「そうですねフェシューラ様、湯あみも出来るみたいですよ」


アサーニュが壁に見えた扉を開いて湯あみの準備を始めました。宿の部屋で湯あみが出来るとは思わず、潮風でベトベトの身体を洗えると嬉しくなりましたわ。
湯あみ中に考えをまとめたワタクシは、彼の凄さを実感したのです。街でそんな部屋を用意できるなんてと思い至り、明日は穏便に済ませようとベッドに寝たのですが、そのフカフカの素晴らしさと旅の疲れで直ぐに寝てしまいました。
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