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2章 発展競争

39話 向こうの技術?

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ワタシの知ってるふたりの最終位置は、鳳凰大陸の右足大陸で、正確ではないですけど6か国を通った先の3500キロ離れた、とても遠い場所だったのです。
ワタシが式に参加する名前を確認したのは一昨日の事、そこではふたりの名前は見ていません。つまり、その後に追加で名前を記載したと言う事になり、1日でここまで来たことになるんですよ。
ほんとにどうしてと信じられず、エーハルに聞いてみる事にしたのです、彼女は向こうの乗り物を製作魔法で作って飛んできたと答え、ワタシはまた信じられないって顔をしてしまいました。


「そうよねぇ~普通はそうなるわよねぇ~」

「ほんとに・・・エーハルたちは、ほんとに空を飛んできたのですか?幽霊とかではないですよね?」


どうしても信じられず、ワタシはそんな答えしか出ません。それほどの距離をふたりは超えてここにいるのです。
乗り物の現物が見たいと要求すると、その声が大きかったのか周りがざわめき始めます。これはまずいと口を抑えましたけど、事態は更に悪化する事になります。見張りを交代し、式に途中参加してきたササージュたちが、ジルベルト殿の姿を見つけ集まって来てしまったのです。
ラーハルとワタシが集まった時は、エーハルがいたのでそれほどでもありませんでした。ですがこれだけ集まると注目は集まってしまいます。


「おやおや、最近名前をお聞きするお方たちがお揃いで、何かの集まりですかな?」


最初に近づいて来たのは、ワタシたちが警戒している伯爵家のロイアス・ローデンバログ殿です。彼は他国とつながりがあると噂で、まだクリエイトブロックの件は教えない派閥の注意する人物です。今日も挨拶だけはしましたが、後は王位を継ぐ可能性の高いお兄様たち3人にくっ付いていました。
ササージュたちも分かっていて、何とか情報を与えずに避けようと考えますが、さすがに無理そうだとワタシは感じています。なんとか打開策はないか考えていると、ジルベルト殿が動きましたわ。


「お騒がせて申し訳ない、エーハル様に招待された田舎貴族の私がいけないのです。ここに並べられた料理がどれも美味し過ぎて、ご指南の為に皆様を呼んで騒いでしまったのですよ」

「そうでしたか、確かにどれも美味ですからなぁ」


はははっとジルベルト殿とロイアス殿が笑い合い、調理法だけでもとジルベルト殿がササージュにお願いします。話を合わせ了承したササージュに、ロイアス殿も便乗してその場は収まりました。
ロイアス殿が離れると、他の者たちも調理法を教わりたくて集まってきて、後日全員に教えると約束しましたよ。
貴族たちが離れると、エーハルがさすがとジルベルト殿を褒めていました。確かにあの機転は素晴らしかったわ、何も得られなければ相手は引かない、だから痛手にならない程度の情報を瞬時に見つけて彼は提示したのです。


「ほんとすごいですよ、ワタシだったら情報を与えたくないから、黙ってしまいます」

「俺だって、その場で考えたわけじゃないぞササージュ、事前に決めていた情報提供範囲を述べただけだ。あの範囲なら例え裏切る可能性のある奴でも、こちらの為に勝手に動いてくれる」


調理法だけが流れれば、こちらが教える手間が省ける。更には新たな試みを行っていると錯覚し、製作魔法が注目されない。
そこまで考えていたのかと、ワタシはジルベルト殿の見る目が変わったわ。ロイアス殿を引かせる為だけでなく、今後を考えた情報操作と誘導までしていた、それは簡単には出来ない事です。


「何だか、向こうにいた頃を思い出しますねジルベルトさん」

「そうだなラーハル・・・なぁラーハル、こっちに連れて来てくれて感謝するよ、今俺はとても楽しく暮らしてる」


それは何よりと、ラーハルとジルベルト殿が目だけで語り合ってるわ。ワタシたちが入れない空気を感じますが、ワタシはそれでも無理やり入り、ここに来る為に使った物を見せてほしいとお願いしましたの。
ラーハルは、何で邪魔するんだよって顔をしてきますけど、ワタシはどうしても知りたかったのです。エーハルがあんな顔をする乗り物を見てみたいのですよ。
仕方ないと案内された場所は、会場のガラス窓を開けた先のバルコニーでした。みんなで出てもそんな乗り物は見当たらず、何処にあるのかとササージュとイスラがキョロキョロします。


「そっちじゃないぞふたりとも、もう少し上だ」

「「上?」」


不思議に思いながらも、みんなで視線を上に向けます。そこには空が見えるだけで何も見えなかったのです。強いて言うのなら、見えている小さな雲が、何だか低い位置にある気がしました。
何も見えなかったのでイサーシュが嘘つきと怒ります。ジルベルトが見にくいかと空を見ると、小さな雲が彼の横に降り立ち、ワタシたちは信じられない物を見て固まってしまいましたよ。


「ほらぁ~ジルベルト、普通はこうなるわよ、雲に乗るなんてアタシだって信じられないわ」

「まぁ~これは架空の品だからな、俺の中で一番早いのはこの【筋斗雲】だから使ったけど、そんなに変だったか?」


キントウン?っとワタシたちは声を揃え、エーハルが説明をしてくれます。その雲はある物語の乗り物で、本当には存在していない物だったのです。そんな物は普通は製作すらできないのですよ。
ジルベルト殿だから出来た事とエーハルは呟き、どうして製作できるのか謎だと、ため息と不満が込められていました。


「フィクションの品物をどうして製作できるのよ、本当に存在しないからフィクションなのよ、絶対変よジルベルト」

「シャルーよく考えて見てくれ。フィクションと現実ってどうやって区分するんだ?俺の中じゃ異世界はフィクションだったけどさ、こうして本当に来て存在してただろ。それなら見て触れたら、それはそこに存在している現実で本物だろ?」


向こうの世界ではVRという機械があり、それを使えば存在しない物でも、見て触る事が出来たそうです。ジルベルト殿はそれを使い体験した経験があったそうです。その時は作り物と認識していたらしいのですが、フィクションと思っていた異世界に来て、自分が知らないだけで本物は存在すると、体験したすべてを再認識した事で作る事が出来たそうです。
雲を製作し乗り物にするなんて考え、普通は出来ませんが、彼はそれを可能にしている。これはほんとにすごい事だとワタシは思いました。


「ジルベルトさん、もしかして向こうで色々体験しました?」

「それはそうだろラーハル、色々なゲームで遊んだし映画も色々見たぞ。ラーハルは体験しなかったのか?」


勿体ない事をしたなっと、ジルベルト殿は寂しそうにしていて、ラーハルは悔しそうだけど、一度乗って見れば作る事が出来ると、ジルベルト殿は雲に乗る事を勧めて来たわ。早速みんなは試乗し始め、空の散歩を順番にして行きましたわ。
意のままに動く空飛ぶ雲【キントウン】は、ものすごい速さで空を飛ぶことが出来ました。ワタシは怖くて遠慮しましたけど、ラーハルと一緒なら空のデートをするのも良いかもしれません。


「ジルベルト殿、他に何かすごい物は作りましたか?」


好奇心とは怖い物で、空の散歩が気に入ったイサーシュは、目を輝かせジルベルト殿に聞いていました。どんな物を作っているのかワタシも興味はあります、ですが同時に怖くもあります。
ジルベルト殿は、何処までも伸びる棒や鎧、スイッチを押して投げると家がボンッと出現するカプセルを作ったと言ってきたわ。エーハルの使っている人形もその一つだと、とんでもない事を聞いてしまったわね。


「それはSF映画の品物だな、遠い星の人たちが地球で暮らすために使ってたやつだ。他にも自動で農作業をしてくれるAIロボに、出来上がった料理が入ってるダイコンの種とかいろいろだな」

「そ、それは凄いですね・・・じゃあさっき私にくれた」


イサーシュがジルベルト殿に何かを聞いていましたが、今のワタシはそれ以外に気を取られていて聞いていませんでした。
ジルベルト殿は、向こうで数年暮らし耐性を持っているラーハルとエーハルが引くほどの品を作っていると、正直ワタシは怖いと感じていたのです。この方が敵になれば確実に敗北する、そんな恐怖を感じたんです。
ですがササージュたちはそんな感じを見せません、ラーハルは彼を信じているので分かりますけど、後でその理由を聞かなければ、今日はゆっくり眠れないでしょう。


「じゃあ俺たちは帰るよ。言い忘れたけど結婚おめでとうラーハル、それにライーネもお幸せに」


キントウンに乗ったジルベルト殿がワタシたちを祝福してくれます。エーハルに手を貸しながらでしたけど、その言葉はとても深くワタシの心に響きました。それを受け、何だか疑うのがおかしく感じたんです。
祝福の言葉は、挨拶の時に散々他の方からは聞きましたわ。ですが今の言葉が一番心が籠ってる様に聞こえたんです。
それがどうしてなのか、ササージュたちに事情を聞いて分かりました。彼は仲間としてワタシを見て、心を込めて祝福してくれたのです。
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