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2章 発展競争

30話 小さな見張り役

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今度こそ死んだ、あたしはあの時かなり焦ったのよっ!!まさか監視対象のジルベルトに食べられそうになるとは思わなかったの。だけど、やっと落ち着いてきたから、あたしはある場所に報告に飛んだわ。
ジルベルトの部屋にある、あたしの小さな個室には、ちょっと特別な通信機があります。これは向こうの世界にあった無線機をあたしの製作魔法で作ったの。


「こちらシャルーです、本部応答してください」


周波数を合わせて、初めての通信に入ります。本部はイースラム国にある会議室で、あたしの本当の姿と同じ人種の部下が対応してくれたわ。
弟のラーハルが無事姫様と婚約し、近くに結婚式が行われると、逆の知らせを貰って喜ばしいけど、こちらも報告を始めます。
フェリトスに着き政策を始め、ジルベルトも順調にこちらの常識に順応し始めていると報告したわ。


「了解しましたエーハル様、それと悪い知らせです。召喚者の残りの方たちに付いていたメンバーですが、全滅しました」

「なっ!?」


妖精アバターを使い、それぞれの転移者に付いたのは、転移時にバラバラになると予想されていたからよ。誘導して我が国に招く予定だったのに、どうしてあたし以外全滅したのかと返答を返して、あたしはジルベルトが最初に言ってた事を思い返したわ、そして更に悪い事にもなってたの。9名の内、6人は転移者と一緒に盗賊に殺されたらしいけど、残る3人は味方である召喚者に討たれたのよ。


「どうしてそんな事を」

「理由は分かりませんが、最後の通信での報告です。エーハル様、異世界人は危険です、直ぐお戻り下さい」


そんなバカなと思ったけど、成績上位3名ならやりかねないと、飛行機に乗る前の目を見て思ったわ。あいつらは戦いを面白がっていたし、ジルベルトの様に楽しそうにはしてなかったのよ。
もっと早く報告していれば、そう思って悔やんでしまったわ。ジルベルトの様に製作魔法を使えないのが悔やまれたわね。


「そう言う訳にはいかないわ、みんなの為にもね」

「わかりました、十分注意してくださいエーハル様、あなたが亡くなられたらラーハル様も悲しみます」

「分かっているわ、でもあたしはもう人種じゃないから、これからはシャルーと呼びなさい」


了解と返事を貰って通信を切ったけど、部下はあたしの名をもう一度呼んだの。それだけ慕われているのだけど、あたしは妖精のシャルーなの、もうラーハルの姉には戻れないのよ。
こちらに来るには、ゲーム通りのアバターでなければいけなかったの、ラーハルは唯一のプレイヤーだったから報告の為にもそのままの姿で帰って来た。でもあたしたちの仕事はまだ続いているわ、こちらに転移した時点で覚悟していたけど、まさかプレイヤーに殺害されるなんてひどいわ。


「無理矢理連れて来た訳だし、混乱しての、そんな覚悟もしてたけど、ゲームだと思っての事なら嫌ね」


無理やり連れて来てしまったから、何をされても仕方ないけど、何もこんなに小さな妖精の命を取らなくても良いじゃない。あたしたちは、召喚した責任があるから、あたしたちは元の姿を捨ててサポートキャラになったの、なのにひどいじゃない。
それだけ召喚は酷い事なのかと、あたしは自分たちも同じかもしれないと落ち込んだわ。ジルベルトも最初は戸惑っていたし、本心では恨んでいたのかもしれないと、こころが更に暗く落ちて行ったの。


「謝って済む問題じゃないけど、ジルベルトにしっかりと謝ろうかしら」


ゲームの題材となった場所に招待したのは嘘じゃないけど、戻れなくなることは言わなかった。観光と思ってた彼らが怒るのも無理はありません。
あたしがサポートキャラとして見張り続けているのも、考え方次第では裏切り行為だと、部屋を出てジルベルトの元に飛びました。


「おにぎりが食べれなくなるのは嫌だけど、仕方ないわよね」


向こうで散々美味しい食べ物は食したわ、だけど彼の作るおにぎりはとても美味しかったの。製作するおにぎりの握る力が絶妙なのか、彼の愛情が籠ってるのか分からないけど、ほんとに美味しいの。
サポートの為に向こうで散々勉強したけど、それを引き合いに出すのは卑怯だと、あたしは何も言わずに説明する事を覚悟したわ。


「ジルベルトにも仲間が出来たし、みんなとも会えるかもしれない。連絡を済ませたあたしの役目はもう終わったわ」


部下のみんなはあの世という場所できっと待ってる、隊長としてそれに答えるのも良いかもしれない、そう決めて綺麗な街の飛んで、これも最後かなってしんみりして来たわ。
遠くの道にジルベルトたちを見つけ、4人で楽しそうに歩くのを見て、決意が揺らいでしまったわ。あんなに楽しそうなのに、真実を知ったらどうなってしまうのか、とても心配なの。


「今は言わない方が良さそうね・・・うん、今夜にしましょう」


最後の晩餐をするのも良いかもしれない。故郷を見れないのは悲しいし、ラーハルの結婚式くらいは出席したかったけど、それはわがままだし無理よね。
飛んで帰る間、あたしはずっとやりたいことが沢山浮かんでしまい、未練が押し寄せてきたわ。涙まで出て来て、こんな顔でジルベルトに会ったら逆に困らせちゃうと、しばらく1人で空の散歩をしたけど、あたしの心は落ち着かないままだったわ。


「まあでも、それくらいの方が良いかもしれないわ、優しいジルベルトは直ぐに溜め込んじゃうものね」


こちらに来ての付き合いだけど、ラーハルが気に入るのも分かって来たの、彼は純粋で優しい子なのよ。
彼ならきっと世界を平和にしてくれるわ、あたしがいなくてもきっと成し遂げてくれる。それだけは約束してもらわないといけない、そんなお願いを決めて馬車に戻っておにぎりをやけ食いしながらジルベルトを待ったわ。
夕方までやけ食いしても、まだまだ食べれるのはこの体の良い所ね、美味しい物が無限に食べれるわ。


「また食べてるのかシャルー」

「お帰りジルベルト・・・あのね、今日はちょっとお話があるの」


やっと帰って来たジルベルトが、食いしん坊妖精とか言って来るけど、あたしの楽しみなんだから仕方ないわ、それよりもお話を進めたのよ。
全てを包み隠さず、あたしがサポートキャラではなく、監視人だと知って彼はどう思うのかしら?っと怖かったけど、話を聞いたジルベルトは普通の顔をしているわ。


「な、なんとも思わないの?」

「いや、そもそもシャルーがサポートキャラとして役立ったのって、そんなにないよな?他の何かだったらそんな所だろう」

「なっ!?」


そもそも、それすらもしっかりとこなしているのか心配してしまう位だと、とてもひどい答えをジルベルトから貰い、あたしは凄いダメージを心に受け、膝を付きその場に倒れてしまったわよ。
ジルベルトは前からそんな感じだったと、何とかあたしは復活して、まだ謝ってないのだからそれだけでも伝えたわ。


「黙っていてごめんなさい」

「イースラム国に報告してるなら別に気にしないぞ、それよりもシャルーは俺のサポートキャラじゃなくて参謀だ、いなくなると逆に困るよ」


サポートキャラとしてはいなくなっても良いとか言って来たから、あたしはどうせ説明も碌にしなかったわっと怒ったわ。だけどひどくないかしら?もう少し何かあるでしょっと、あたしは突っ込んだけど、ジルベルトは今更だろとか返して来たわ。
こちらに来てからの短い付き合いでも、既に分かってるとか言って来て、あたし凄くショックよ。


「これじゃ、あたしが言い損みたいじゃない」

「良いじゃないか、お互い隠し事が無くなったと思うべきだ。それよりもラーハルの結婚式には参加したいな、何とか出来ないか?」


あたしよりも弟優先とか、ほんとにひどいと思ってしまったわ。だけど結婚式には参加したいし、通信で聞いてみる事になったわ。
喜んでくれるジルベルトを見て、こういう人だったと、あたしは暗い気持ちが吹き飛んでしまったわ。死なないで済んで、部下たちに会うのが遅くなったとシリアスになりたいけど、そんな気分じゃないわ。


「でもジルベルト、許可を貰って日取りが分かっても、ここからじゃ遠くて行けないわよ、どうするの?」


魔力馬車は速いけど無理ね、寄り道しないとしても1月は掛かるのよ、だからフェリトスの政策を進めてる今では無理よね。
ジルベルトはそんな説明を聞き、何を言ってるんだって顔してきたわ、何か方法があるって事なのは分かったけど、イラっとするわね。


「じらさないで教えなさいよジルベルト」

「別にじらしてないぞ、シャルーが向こうの技術を勉強したなら分かるだろ?空を飛んで行くんだよ」


はい?っとあたしは変な声で返事をしてしまったわ。製作魔法を使う時、その物の情報が詳しく分からないと作れないのよ、だから子供たちには料理を素材から作らせている。それなのに精密機械である空を飛ぶ飛行機なんて作れないわ。
知ってるから作れるとジルベルトは答え、出て来た物はアタシの知ってる飛行機じゃなかったわ。というか向こうでも乗り物として無い物で、信じられないっ!?っと声を上げてしまったわ。
それでもジルベルトは、作ったばかりのそれにぴょんと乗って、フヨフヨ浮いてるの。そんなバカな!?っとあたしは口をあんぐり開けて茫然よ。
そしてアタシは悟ったの。彼を連れて来たのは正解だった、これに勝てるのは誰もいないと思ったわね。
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