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2章 発展競争

26話 無い物が多すぎ

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海に近いのにどうしてだよ!!俺の頭の中はその言葉でいっぱいだ。なぜならばだ、他の国と同じ様に塩が高級品だったからだ。なんと料理に少量しか使われず、その料理も土地のせいで作物が育つのに不向きとかで不足していた。
魚は確かに売っているが、釣りでの漁しか使っていないので少量となり、結局は足りていない。街を歩いて景色は良いのに、俺のテンションはどんどん下がって行く。隣を歩くミーシュの楽しそうな顔だけがこの散策での唯一の収穫だった。


「平地が少ないとは言っても、ここに来るまでには十分ありました。どうしてこんなに食料が少ないのでしょう?」

「きっと潮風が原因だよミーシュ」


海に近いせいで風に塩が混じり、土にも影響を与えている、作物の成長を阻害してしまっているんだろう。品種改良をすればいいのだが、それが出来る状態ではないし、少なくても作物を育てないと生活できない、足りない部分は他国に頼っている状況なんだろう。
豊富な鉱物資源があってこそ、屋台のハマグリを買って勿体ないとミーシュに手渡した、一緒に食べたが塩が少ないせいであまりおいしくない。ふたりでいまいちと言った顔を揃え、もういいかとギルドに戻り依頼を受けたんだ。


「さてみんな、とても困ったことになったぞ」


馬車の食堂で現状をみんなに伝える。それは何から始めるのも難しい、とても大変な状況だという話だったんだ。
いつもならば、依頼が出ているのでそれを行いつつ、次の依頼が張り出されるのを待っていた。しかし今回はその望みは薄く、初歩の物を全て俺たちで張り出さないといけない、しかも相手はその意味を分かってないから、その依頼を受ける者は出てこなくて、俺たちだけでする事になる。


「前みたいに人を雇えば良いじゃん、兄ちゃんいつもそうしてるだろ?」

「トミル君、いつもとは訳が違うんだよ。みんなは初めて作る物はじっくり見たり、俺やシャルーに聞くだろ?それをしなかったら作れると思うか?」

「そんなの無理に決まってるよ兄ちゃん」


その通りとトミルを指差して褒めておく、そして今の現状と照らし合わせて教える。やってる事が分からないと好奇心も生まれず、儲かるとか生産できると思う事もない、だから初歩は全部俺たちがという話に戻るんだ。
そこまで説明して、子供たちは分かったようで、じゃあそう進めるんだと張り切り始める。そこで俺は困っている原因を皆に伝えたんだ。


「やり過ぎはダメ?」

「そうなんだネーシュ。初歩とは言え、全てを動かしているのは直ぐに知られる、そうなれば良からぬ奴らが動き出す。ここは人口がそれほど多くないから、そいつらに雇われた奴らを倒していると、この都市は傾いてしまう」


知名度はあちらの方が上だから、その前に働ける子供だけでも取り込むべきだが、慈善事業は一番目につくからタイミングが重要だ。
じゃあどうするにゃっと、チャンミーが手を挙げて質問してくるが、それが分からないから会議をしているんだ。問題を一つずつ改善していくしかないとみんなには伝え、まずは情報収集からだと答えを出した。


「でもさぁ~無い物が多いんだろ?」

「その通りだキョーカ、だから一番無くて困ってる物が先だ、依頼書はそっちに偏らせて様子見をする。同時に味方につけやすい人を探すぞ」


最初の依頼書は屋台の運営で、簡単に食料を提供できるモノだ、他でも使っていた手でお手軽に住民との仲が築ける。
人が無くて困るのは衣食住とされている、だから現状でない食料の生産を優先する。そこで次に有効なのが、他でも作ったトウモロコシなどの野菜の生産だ。それと一緒に枝豆などの豆類も植える、栄養が豊富で収穫も早い物優先だ。
ここでは今、他と同じで麦を作っていてうまく作れていないのが現状だ、まずは畑を借りなくてはいけないので、屋台組と情報収集組と商業ギルド組に別れて向かう。


「情報収集組は、品物の売買も同時にしてくれマリーナ、シャシャもアリーもよろしくな」

「任せてくださいっす、さあ運ぶっすよふたりとも」

「「は~い」」


元サンセットの兵士がリーダーと補佐に付き、その下に子供1人という組み合わせで作業は進む。150人は残って馬車の中での仕事を任せ、苗の管理や品種改良と様々な作業をこなして貰う、大人数だと役割分担が出来て迅速に作業が進む。売る為の品も沢山量産済みで、製作魔法で最初の素材を作り、後は皆で製作作業をするのが俺のやり方だ。こうすることで、製作魔法で最初から完成品が作れる様になる。
どんな物が使われ、工程を知らないと作れないモノがあるのが製作魔法の欠点でもあり、魔力消費の節約にもつながっている。


「さすがの手際だな」

「いつもやってるからな、じゃあサンセットにキョーカ、俺たちも行くぞ」


商業ギルドには、傭兵隊の責任者である俺たち3人が向かう。ちなみに屋台はチャンミーが先頭で指揮をとり、75人で多数の屋台を切り盛りする。情報収集組はさっきの3人で、馬車内はネーシュが担当だ。
ギルドに入ると早速と言った感じに男性職員が近づいて来る、青地の洋服が海と合ってていい感じに見える、さすが商業ギルドだと称賛した。


「商業ギルドにようこそ、どのようなご用件ですか?」

「土地を借りたいんだ、平地と海岸を借りられるかな?」


土地の借り入れと分かり、職員は別室に案内してくる。資料などが沢山必要で、女性職員が手伝うため途中で合流した、他でも同じ感じだったから気にしないで待つ。俺たちが待っいるのを見て、女性店員がお茶を配り始めた、忙しいのに待遇はとても良い、土地を借りる者はそれだけお金を持っていると思っているのかもしれない。
陸の土地は山側しか空いてないと言われ、海岸はどこでも良かった。街から近い空いている場所は、畑の休息地で空いているわけではないとキョーカが質問して返されたよ。


「休息なんて必要ないって言ってもダメなんだろうな」

「申し訳ありません・・・どうしてもというのであれば、畑を使っている人に直接という手があります」


分かったとキョーカは引き下がるが、俺の横でボソッと「何処も同じだな」と口にした。俺もサンセットも頷くだけで返事をして、山の近くの土地と街から見える海岸全てを借りた。
そんなに広く!?っと職員は驚いていたが、港を借りれない時点でほとんどが無駄に広いだけと冷静になったようだ。船の製造や魚の捌く作業と、土地はいくらあっても足りないとキョーカたちと話していると、職員はその都度気になる様子を見せて来た、これで情報が他にも行くだろうとワクワクしてくる表情だ。
月額のお金を渡すと職員は営業スマイルで対応してくるが、俺たちが退出するタイミングで職員が止めて来たんだ、俺たち3人はやはり来たとニヤリとしたぞ。


「差し支えなければ教えて下さい、海岸でほんとに船を作るのですか?」

「そうだぞ、その為の木材は持って来てある」

「で、でしたら!!わたくしどもも参加は出来ますでしょうか?」


早速食いついて来たと、3人で視線だけで会話を始める。俺は賛成なんだが、男性職員だからキョーカとサンセットは反対してくる、こいつはどう見ても下っ端だから余計警戒しているんだ。
ここで了承はしないで、相手の情報を得る事を二人に伝え方向性を決めた、職員の食いつきようは傭兵ギルドの冷めたい感じと違いすぎる、だから余計違和感を生んだんだ。


「悪いが、俺たちが作る船はかなり高度な物でな、情報を外に漏らすわけにはいかない」

「そ、そこを何とか!!お願いします」

「何か事情があるのですね、それ次第で許してはいかがですかジルベルト」


サンセットにそうだなっと返事を返すと、頭を下げていた職員は顔を上げ涙目でいた、そして事情を聞いて、これは大事だと3人で喜んだぞ。
男が言うには、国が突然食料問題にメスを入れようとしていて、3ヶ月後に各地の大きな街に王族を送り視察に来るそうなんだ。だから何かしないといけないが、どうすれば良いのか分からず、商業ギルド員が頭を抱えていたらしい。


「でも変だな?傭兵ギルドじゃそんな感じは見られなかったぞ」

「ここでの傭兵の役割は主に仕事斡旋所ですから、わたくし共が決めてからの話だと思っているんです」

「ああ~なるほどな、だから屋台の仕事を出した時は、向こうの顔色が変わったのか」


キョーカが言うには、新たな政策かと少しざわついたらしいが、規模が小さく持ち込みの食材を使うと聞き冷めたそうだ。
この国の生産品で新しくというのが必要だと職員は呟き、再度のお願いをしてくる。
大きな獲物が釣れると分かり、ふたりは賛成ムードに変わった。俺も賛成ではあるが、期限が3ヶ月となると話はそれだけでは足りない。


「こちらは賛成だが、正直3ヶ月では形になってるか怪しい、そちらはどれくらい出せる?」


協力するのだからそれは当然と、職員は費用の8割を負担すると言ってきて、サンセットとキョーカはびっくりだ。それだけ力を入れて成功させたいんだろうと、その話で了承する。職員は喜んでいるが、俺の詳細を聞いてもその表情が持つのか心配だな。
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