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1章 天職が不遇

14話 戦闘開始

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「無茶ですよローム様」


イースラムの隊が砦前に到着する前に何度も襲撃をした私は、その情報を正確に隊長たちに教えたんだ。それなのにまだ攻める事を諦めてない隊長のローム様は、私の隊に出撃の命令をして来た、だから反対してる。
逃げ腰になる事はないとまだまだやる気なんだが、今回はローム様の隊以外も投入するらしい。だから私は余計反対している、それで負ければ砦を守る事も出来ないのだから当たり前だ。
そう言っても聞き入れてもらえず、私は仕方ないから敵の詳細をもう一度話す事にした。


「私はすごい物を見たのですローム様、砦の様な高い壁を一度の野営の為に作っていた、しかも継ぎ目もなく強固です。正直どうやって作ったのか分かりません、ですが突撃しては勝てないのです」


最初の襲撃は衝撃的で誰の目にも明らかな結果を残し、私はそこを追求して説明した。傭兵たちが帰って来なかったことから疑問持ちしっかりと調査した、だからこそ強敵だとわかったのだ、それなのにこれでは無駄になる。
どうしてわかってくれないのですかと、ローム様に何度もやめる様に伝えたが考えは変えてくれない、これは最悪の事態を想定するべきだと、私は作戦の方向を変え諦めた様に見せたのだ。


「っと言う事だアース、ローム様を頼んだぞ」


ローム様の近衛兵であるアース・シャルランは頭の良い奴で話が分かる。今の事態を把握しているアースならば、私たちに何かあれば即撤退してくれる。ローム様はあれでも第一王子だ、ここで失うわけにはいかないんだ。
アースは振り向かずに頷きローム様の後を歩いて会議室を出ていく。会議室に残った他の部隊長たちは気付くことはなかった。
この戦いはもう勝てない、そうそうに和平の話し合いをするべきなのだ、会議室を退出した私は、自室に戻るなり椅子にドカッと座って諦めのため息を付いた。私の近衛兵であるミーシュからお茶を貰い、どうすればローム様を逃がせるかと考えていた。私がお茶を飲むと会議はどうだったかとミーシュが聞いて来るが、私はそこでため息の混じった返事として頭を左右に振るだけに終わったよ。


「やはりダメでしたかサンセット様」

「ああ、明日の朝早々に出陣だ」


それもこれも、ローム様を焚き付けている分隊長のジャヒーが悪いと、私はイライラを机にぶつけるように握り拳をぶつけた、ミーシュが紅茶が溢れると忠告してきたがそれどころではない。
今回の出陣も奴の口車に乗ってしまっているから止められなかった。ローム様の隊にいる以上、あいつ自身は出撃はしない。
何とかしなければと思うのだが、子爵令嬢である私の発言力はそれほど高くない。今回会議で反対を許されたのも、敵の事を知っているのが私だけだからで、普通なら処罰を受ける。


「もう止められないのですね」

「すまないなミーシュ、国に帰ったら休暇を許す、費用は私が全部出すと約束しよう」


ありがとうございますっと、ミーシュは戻れないことを分かって笑顔をしてくれた。全ては力のない私のせいだ、ここで私たちは命を落とす、それだけ相手の強さはそれだけ脅威だ。
もう一人の部隊長アンブ・ソソアズも、今頃部下たちに最後の晩餐を与えているだろう。会議室を退出する時飲むと言っていた。


「私も飲むかな、ミーシュ付き合ってくれるか?」

「勿論ですよお姉様」


学園時代の様に私を呼んでくれたのはミーシュなりの気遣いだろう。血は繋がってないが親族以上の関係で、私を慕ってくれている彼女は、私のせいで命を落とす事になる。そんなミーシュを助けられない、自分の力の無さを恨んだよ。
その日はふたりで沢山酒を飲んだ、久しぶりだったが昔の話も出来て楽しかった、最後の時間として最高のひと時だ。
いつの間にか寝てしまった私は、目を覚ますとベッドに横になっていた。ミーシュは酒に強いから運んでくれたんだろう、それを思い涙が出たよ。


「どうして助けられないんだ私は、もうダメなのか」


何とかしてミーシュだけでも、そう思ってしまうがそれは反逆と同じだ、ミーシュもそれは望んでいない。死ぬなら二人一緒だと昨日は誓い合った。
それでも彼女を助けたい、神に祈りお願いしたが、それは叶う事が無く進軍が始まった。森を進むが敵はまだ見えず、私たちは隊列を組んで進軍する。兵士たちの緊張はかなり高いようでこちらにもそれが伝わって来たよ。


「士気も最悪か」


最後の晩餐は楽しかっただろうか?やり残した事がない者はいないだろう、国に帰れば家族が待っている。だから守る為に戦うのだと私は演説をし、誰もが暗い顔のままで武器を抜き国の為にと武器を掲げた。
少しでも士気を上げ突撃を命じる為に手を高く上げた私だったが、それを振り下ろす事はなく、近くで爆音が響いた。
どうしたのだと叫ぶが爆音が更に響く、兵は混乱し隊列は崩れた。そんな混乱の中敵兵士の声が聞こえだし理解した。突撃されたのはこちらだったんだ。


「サンセット様このままでは」

「落ち着けミーシュ、まずは隊列を整えるぞ」


ミーシュにアンブ殿にも伝える様にと伝言に走らせた。時間はそれほど無く、負けるにしても何もしないのは絶対避けたかった。
負けるなら少しでも抵抗してやる、そう思い兵士たちに声を掛けた。爆音は敵の攻撃だと分かり負傷者が出ていた、しかし私たちは迎え撃つ、やられたままで終わるモノかと兵士に応戦する様に叫んだのだ。
皆のやる気のおかげか、突撃してくる敵はそれほど強くなかった、守るだけなら勝てるとさえ思ったんだ。しかし何かが引っかかると私は考えを巡らる事にした。伝言を伝え戻ってきたミーシュが私を守ってくれたよ。


「すまんなミーシュ」

「いつもの事じゃないですかサンセット様、早く見つけてください」


私が考え事をする時は、必ず大変な事態の時だ。そしてそれが終わる時、解決策を見つけ勝利を納めることができたんだ。だからミーシュは私を信じて命を賭けて守ってくれる、それに答える為私は考え見つけたんだ。
これは罠だと答えを出した私は、敵に誘導されていると考え、このまま戦っていたら誘い込まれ全滅すると思った私は、ミーシュと一緒に部隊を引き連れある方向に突撃する事を提案した。


「それは無茶では無いですか?」

「これしか無いのだミーシュ、行くぞっ!!」


敵を蹴散らし突き進む私たちは、途中でアンブ殿の隊と合流した、そこで作戦を伝え私たちが防衛をしている間に撤退する様に提案した。私はアンブ殿の了承を貰い再度突撃を始めた、襲撃をされた時点で撤退しても処罰はされないだろう。


「ミーシュ、それに皆もすまんな」


これは私たちの命を捨てる戦いでアンブ殿たちを逃がす為の作戦でもある。敵は突き進む私たちを追ってくるだろうが、少しでも多くの兵士を返り討ちにしてやる。


「くらえクージュの雑兵」

「黙れ雑魚が!!」


敵兵士の剣を盾で受け、右手に握った剣で相手の脇腹を斬ったが、今まで弱いと感じていた敵兵に苦戦した。追われる立場になると流石にキツく感じたよ。アンブ殿たちは無事に戻れただろうかとふと空を見上げて思っていた、しかし私たちに休んでいる時間はなく、見える範囲の敵兵士を倒すと再度の進軍を始めた。
私の出した答えは捕虜になる事だったんだ。国が交渉するタイミングを作る為に私たちは捕まる、それが最善の作戦だと私は決めた。
捕虜の扱いは最悪だ、私たちでも同じ扱いをするだろう。情報を引き出す為に拷問を受けるのは当然で苦しい思いをするだろう。
どうか皆、敵に捕まったら抵抗しないでくれと指示を出す、そして死なないでくれと願ったんだ。私たちの情報なんていくらでも喋って良い、皆が無事な事が第一だ。


「何を言うんですかサンセット様、みんなあなたを信じていますよ」

「そうですって、帰ったらご褒美期待してますよ」


走りながらも皆が励ましてくれるが、この先で私が一番ひどい目に会うんだ。だから無理をするなと皆が逆に心配してくれる。
そんな心優しい部下は200人、敵の懐に向かうまで何人が犠牲になるのだろうか。私の考えはいつだって部下の犠牲でなりたっていた。あそこでアンブ殿と一緒に戻ってもまた出陣させられると思った私は、兵士が捕まればローム様でも話し合いの場を作ると考えたんだ、たとえアイツが横から口を挟んできてもだ。


「その為の最小限の犠牲、これが最善なんだ」


力いっぱい走り、あいつさえいなければと怒りが込み上げて来る。無能な奴の為に優しい者たちが犠牲になる、そんなのは間違っている。
だから部下たちだけでもと、顔も知らない敵国の者にそんな期待を込める。望みはとても低いが、私はどうなっても良いとお願いすれば叶う可能性はある。情報を隠さずなんでも話せばきっと平気だと願ってる、あいつの様な輩でないのならな。


「でもおかしいですね、敵に会わなくなりました?」


部下の1人であるハーニャがキョロキョロして報告してきた。心なしか辺りから声も聞こえてこない気がする。敵は予期しない私たちの動きについて来れず諦めたのよっと、もう一人の部下であるハープンが答えた。確かにと皆が頷いたがそんなはずはないんだ。
私たちは迂回したとは言えほとんどまっすぐに進んできた。敵部隊と遭遇しないわけがないから、きっともう直ぐだと皆に緊張感を持たせた。
そしてそれは当たっていた、森を抜けると敵兵士が横に長く隊列を組み待ち構えていた、弓でもない変わった武器をこちらに向けてきたよ。


「武器を捨て投降しろ」


男の声でそんな警告を貰った、それを聞き最初の心配は無くなった。出来るだけ皆が無事でいられる、そう確信して私は武器を捨て手を挙げて前に出た。投降すると宣言してミーシュたちにも続かせた。
そんな私たちに近づいてきたのは背の低い男だった。一人だけで私たちの腕に縄を掛けると言って来たが、目の前に来た彼を見てなんとなく分かったよ、彼は年齢の低い兵士見習いだ。成人しているかも怪しい少年だがとても勇気がある、そんな彼に責任者と話をさせてくれと頼んだ。


「俺に言わなくても、この後はそうなると思います」


ニッコリして答えた少年は、とても可愛く見えた。私としたことが見惚れてしまったが、ここからは地獄なのは変わらない。気持ちを切り替えて少年の後に続いて敵の陣地に入っていったよ。
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