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1章 天職が不遇

10話 やっと来た

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開門しろと国の軍隊の先頭にいる奴が門の外で叫んで来る、俺たちは別に断っているわけではないが、命令口調なのをチャンミーが嫌だと俺に抱き付いて来た。やれやれと思いつつキョーカに指示をして門を開き軍隊を招いたが、砦側からは喜びの声が上がらない。何故ならば入って来た軍のリーダー3人の内、2人が文句を口にして入って来たからだ。
ここでは俺がリーダーになってしばらく経つが、そんな俺をチビのガキと見下してきたのも理由の一つで、更には勝手に砦を改造したと文句も言ってくる。自分たちの仕事を取るなとズカズカと奥に入っていくのを見て、子供たちは一斉にあっかんべーをしていたぞ。


「これからそいつらと今後を話さないといけないとか嫌になるな、キョーカに任せたいよ」

「嫌だぞジルベルト、オレは剣士隊の隊長だ、ネーシュは魔法隊でチャンミーは闘気隊、肩に乗ってるシャルーは投擲隊でその上にいるのがジルベルトだろ」


雇ってるという口実は、主に外側の奴らを黙らせるモノで、みんなはもう団員だと思っている、自由に出来る俺の団は食事も食べ放題で寝床もフカフカと居心地の良い団で楽しいとかなりの評価を貰ってる。
だからこそ、そんな場所を作った俺に対しての相手の態度にみんなは怒ってる、このままでは国を出る事になるかもしれない。それでも良いのだが、もう少し国同士の勢力図を知っておきたい所ではある。嫌な奴らでもこのチャンスに使わせてもらうつもりで我慢して会議室に向かったよ。


「それで、ほんとにそなたがここを仕切っているのか?」


まだ信じてなかったのかと口には出さずに返事を俺は返した。会議室に通した国の隊長に自己紹介をして相手の名乗りを待ったんだが、隊長の1人が信じられないと再度言ってきてさすがにイラっとした。しかし俺はもう一度肯定して名乗ったんだ、そこで国から来たのが3つの部隊だと分かった。しかもそれぞれが別の勢力で数は500ずつだったよ。
俺たちの人数は今80人になっている。10歳以下が70人の最弱に見える傭兵団だから相手も下に見ているが、どうしてこんなに頭が回らないんだと言ってやりたい、俺たちは初戦を勝ち抜いた傭兵なんだからな。
だがそこは黙って今後の話を聞いてみる、時間があったのでキョーカたちとじっくり話をして俺たちの作戦は決まっている。だから相手がどんな指示を出すのかが分かっているんだ、見事にそのままだったよ。


「全軍で突撃ですか?」

「そうだとも、相手は逃げ腰だ、それなら突撃あるのみであろう」


ウルグスとか言う太目の隊長は考えなしの様で突撃するの一択。対するもう一人のイヤルドは、早く占領して物資が欲しいとか言い出す始末だ、つまり同じような考えなしで使えない奴らと言う事だ。
文句を言って来たふたりがこの始末でガッカリした俺は、他の国に行くのが得策かもしれないと思い始めている。だがそんな考えを変えたのは残った隊長の言葉だったよ。


「お二方待ってください。この砦を占領したのは彼らなのをお忘れですか?状況も分かっていないワタクシたちが全軍での進軍をすれば、背後を取られる可能性があります。敵を良く知っている彼の意見も聞くべきです」


良く分かってるじゃないかと、ササージュと名乗った女性隊長さんを見てホッとした。彼女は優秀みたいで、分かってないふたりが言い返そうとしても兵士たちの疲労も付け足して止めてくれた。更にトドメとして、ここの領地を誰が統治するのかと質問したんだ、それはふたりが欲しい様でそっちの話し合いを始めた。
これで決まるまで進軍はしないと無言のササージュが視線を俺に向けて来た。ナイスな時間稼ぎだと称賛して、今後は彼女に任せようと決めたんだ。しかし俺が退出しようとしたらササージュに止めら、後でお話があると別室の招待をされてしまった。


「ここじゃダメなんですか?」

「ここに来るまでに見た変わった武器、それに戦闘の詳細もお聞かせ願いたい」

「戦闘の詳細・・・それは傭兵ギルドに報告済みですよ?」


報告書は全て提出している俺だから断りたかった。しかし現地で戦った者に直接聞きたいとお願いをされてしまった。これはほんとに優秀そうでだと断る事はせず、別室は夕食を取れる様にこちらで用意すると約束した。
その時は、国の情勢もしっかりと聞きたいと表情には出さないで席を立ち部屋を出た。肩に乗っていたシャルーは、我慢していた様で部屋を出るなり怒り出したぞ。


「貴族って、ほんとどうしてああなのかしらね、突撃とかバカじゃないの」

「そうだよなぁ~」


そんな戦い方では、数が多い方が勝つのは当たり前で、大国にでも目を付けられたら滅びの道しかない。別室を応接室に整えている間、シャルーはいくつかの作戦を口にして怒っているから、俺は相槌を打つだけにしている。
訓練をもっと積んで強くなれと最後に強めに締めたんだが、俺はそうだよねぇ~っと相槌を打ったが作戦としてなかなかと話を良く聞こうと考え直し、シャルーのイライラを快勝する為にもいいだろう。
次の砦はここから5日の位置にあり、数は3000とチャンミーが調べてくれている。こちらは全軍でも1500と少しだから力技ではまず勝てない。正面の門を破ると見せかけて反対側の門を攻める囮作戦が最適だと結論を出したんだ。


「もしかしてシャルーは、参謀とかに向いてるんじゃないか?」

「何を今さら言ってるのよジルベルト、訓練でもアタシはいつも勝ってるでしょ」


確かにそうだったと思い返して悔しさが押し寄せて来る。俺を含めここでの行軍訓練でシャルーに勝てた奴はいない。勿論突出している俺やキョーカたちは出る事は禁止だが、兵器なしで標準装備のみと言う縛りのある物では負けなしだ。
俺たちが出れば勝てるだろうけど、誰にでも得意な物があるとシャルーを褒めておいた。今日からダメダメサポートキャラは返上し、作戦参謀に任命したぞ。


「これからよろしく参謀」

「分かったわジルベルト、任せなさいよ」


小さな手で胸を叩いて張り切ってくれるシャルーは頼もしいよりも可愛かったな。しかしその時の俺は気づいていなかったんだ、シャルーは食べられそうになって助かってから作戦考案の為に頑張っていた、何かの役に立ちたいと頑張っていたんだ。
それが分かるのはもう少し後の話で、今は強い味方が出来たと素直に喜んだんだ。そして俺たち傭兵側が兵士たちの為に開いた夕食会に顔だけを出そうと会場に行くと、既に酔っぱらってるチャンミーに掴まってしまう。


「ジルにゃ~ん、こっちに来て飲むにゃんよぉ~」

「ジルにゃんって・・・ちょっとチャンミー酔い過ぎじゃないか?」


略称なんて初めて言われ戸惑いながらも離れろよっと肩を押すが、チャンミーはいつも通り体を押し付けて来る。頼みのキョーカは兵士たちに手ほどきをしてくれと言い寄られてるし、ネーシュがそこに助けに入っているから俺の方には来てくれない。
何とかしてくれと子供たちに視線を送るけど、これもいつもの光景で食事以外目に入っていない。違うのは肩に乗ってるシャルーだけで、珍しく料理には向かっていかないでチャンミーを押してくれてる。


「チャンミー止めなさい、ジルベルトは嫌がってるでしょ」

「なんにゃよぉ~シャルーにゃん、ジルにゃんは喜んでるにゃよぉ~」


シャルーが俺を睨んでくるが男なんだから仕方ないだろうと言っておいた。これを拒絶出来る男は、そっちに興味のない人だけだと言ってやった、だから俺は悪くないぞ。その言葉を聞き、味方だったシャルーに頬を引っ張られてしまった。
もうこのまま行ってしまおうと整えた応接室に入った。事前にトミルに使いとして知らせに行って貰ってよかったとホッとしたぞ。部屋の中にはちょっと機嫌の悪いササージュと、それを守る騎士が1人待っていたんだ。


「あらあら、人を待たせて随分と良い御身分ですね、ジルベルトさ~ん」

「まことに申し訳ない、ちょっと向こうで揉めてしまってね、分かるでしょ?」


傭兵と兵士のもめ事とは、腕試しの要請でそれは良くあるんだ、今回はキョーカが受けていて俺には関係はないがササージュは納得してくれた。しかし俺に抱き付いてるチャンミーを見てまだ機嫌が悪く、何とかならないのかと言った視線を送って来る、これから真剣なお話をするから当然だろうな。
酔っ払いなので話には関係はないので、俺は長めのソファーを製作しチャンミーを寝かせた。俺はそのまま横に座って頭を撫でてやり、これで話は出来ると妥協してもらう要望をした、ササージュ殿と騎士さんは嫌々ながらも了承してくれたぞ。


「感謝します」

「はぁ~・・・もうお分かりと思いますが、ワタクシはあなたと交渉したくてここにまいりました」


それはそうだろう了承を口にして頷いた。俺としてもこちらの意図が分かって貰えて話がしやすいと返しておいた。そしてそちらの考えはどうなるのかと聞いてみると、ササージュは国に仕えてほしいと言って来た。
まぁそうなるよなっと肩のシャルーと見合った。しかしその答えは、俺たちの中では既に決まっていて、それを聞いてササージュは戸惑いを隠せないよ。


「ど、どうして断るのですか!?報酬は約束しますし、地位だって砦を勝ち取ったのですから、国からそれなりの用意がされるでしょう」

「俺たちはそこら辺には興味がないんだ。傭兵だから戦があればそこで戦い、それが無くなったらここから移動する」


キョーカたちから聞いて、ここでの戦いが後数回で終わる事が分かっている。数回では傭兵の等級だって上がらないし、俺たちには利益にならない事だらけだ。等級なしはいなくなったが、今回2回の勝利ではなく1回とカウントされてるのも断る理由だ。
俺が国を作るには、最低でも銀等級は欲しい所なんだが、そんな考えはササージュたちには言わない。国を作ろうとしていると知られると敵国が増えると思われる恐れがあるからだ。


「で、ですが国に仕える事が出来るのですよ、ラーハル様もそれを望んでいますし、お待ちしています」

「え!?」


ここでその名前を聞くとは思わず驚いて声を出してしまい、ほんとにラーハルなのかと聞いてしまったぞ。それが本当ならこの国は見込みがあると、俺は考えをすぐに変える事にした、今のうちに友好関係を築くのが得策だろう。
俺の笑顔を見て、ササージュは驚き騎士は警戒したぞ。当然の反応だけど、俺はササージュたちが考えている考えはしていない。だから平和で豊かな国を目指していると伝え、向こうではそんな国にいたと教えた。
ラーハルがいるのならば、この国はきっと俺に協力してくれるとかなりの安心感を感じたよ。
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