上 下
9 / 66
1章 天職が不遇

9話 作れる物とそうでない物

しおりを挟む
う~んっと、俺はテーブルに数種類の武器を並べて悩んでいた。それと言うのもゲーム機が作れなかったからなんだ。
ゲーム内にもあった物なのに、どうしてだよっ!!そう叫ばずにはいられなかったよ。少し息抜きに遊びたかっただけなのにどうしてだと苦悩してしまったんだよ。


「どうしてこんなにぐにゃっとしちゃうかな」

「ジルベルト~いい加減本題に入りなよ」


頭に乗っているシャルーに注意され、おふざけをそこで終わりにする時間だ。ゲーム機の様に作れない物が判明してその原因を考えなくてはいけない。まず生き物はダメで、子供たちにいたっては鉄装備までしか作れなかった。
銀装備やミスリルと上位者が装備する物は俺しか作れていない。これは熟練度などが関係しているかもしれないから、子供たちには練習をさせている。


「まぁゲームとは違うから縛りは必要だよな。製作魔法を戦闘時以外で使えば伝説級が作れるとか、チートにも程があるよね」

「そうそう、ジルベルトがおかしいんだよ」


ちょっと酷いシャルーだが、なんでも作れたらそれこそ大変だろうとシャルーを叩いておく。そこんとこを色々教えるのがサポートキャラの役目だろうとツッコミも入れておいたよ。
そんな事はないよと、シャルーは叩かれた頭をさすって目の前に降りて来たが、仕事をしてないのだから仕方ない。主に虐められた~っと泣きながら飛んで行くシャルーを見送るだけで俺はその場の作業に戻って行くが、これは最近ずっとしている事で、今は誰も気にする事ではなくなっている、シャルーも気分が晴れたら帰って来るだろう。


「それにしても、国の部隊が来るのが1月とか遅すぎないかな」


報告の早馬は3日で到着するらしいが、国の準備はその後で30日は掛かるらしく、軍の移動だから常識だとキョーカたちに言われてしまった。
ゲームではそんな移動はないから分からなかったが、仕方ないのでその間自分に出来る事を試しているが、結果は御覧の通りだよ。
生き物でないなら、混合物の火薬でも何でも作れる、それなのにどうしてゲーム機はダメなんだと、テーブルを【バシバシ】叩いてしょげてしまうよ。
何時までもしょげてもいられないから、いつか作れる事を願い今日の予定を消化する為に家を出た。ここは敵の砦があった場所で、今は俺たちで修理して保有している。壊した方の壁側には敵の部隊は見えないが反対側で待機しているんだ。


「集まって来たのが7日前、早馬で知らせを受けて動き出したんだよな?相手も同じって事かよ」


制圧して直ぐに攻撃でもされたら大変だったが、砦の敵を全て倒したからその心配をする必要はなかった。それに今も怖気づいて攻めてはこない、あの宣伝は効果があった。
あの戦いの後、戦いで奪った命に祈りを捧げた。戦争だから仕方ないと思えば楽だが、相手にも家族はいて悲しむ人がいるんだ。俺がいるからこちらには余裕があり負傷者も少人数だった、もし襲撃を受けても対処は出来ただろうし、相手とは違う。


「それでも、そろそろ限界だよな」


相手も痺れを切らせる頃合いだとキョーカたちと話していて、近い内に仕掛けてくるとキョーカが教えてくれた。そうなる前にこちらの力を見せる予定で、それを見れば撤退して行くだろう。
こうして国の軍隊が来るまでここを死守するのが俺たちの仕事だ。普通なら相手の抵抗が激しくて今の戦力では無理だった、国の軍が来てから砦戦が行われるのはその為だな。


「逆に言えば、陣を張ってる相手側は、今が攻め時なのにな」


しかし相手側は動く気配はなく、命令を下す奴が怖がり出せないでいる。その間にもこちらは着々と準備が進んでいて、今戦えば相手側だけが無駄な被害を受けるだろう。
修復した壁の上に広がる通路を通り、俺は無傷での勝利を確信している。普通ここには弓兵や魔法兵が立ち敵に遠距離の攻撃を浴びせるが、数の少ない俺たちの場合は、兵器【オート連射式バリスタ】が迎え撃つ。
1人の傭兵が操作すれば数百人の役割が出来るんだ。それを超え壁に貼り付いた兵士には、上から【空気銃(クナイ)】が狙撃する。そもそもそこまで来れるのかと思える大きな兵器が広場に設置済みだ。


「攻城兵器【投石機】これがこちらにある時点で、相手は近づくことも出来ないだろうな」


広場が狭く感じるほどの存在感で、ゲームでは攻め手側がいかに素早く設置できるかで勝敗が決まった代物だ。もちろんゲームでは守り側も設置してあるから、この兵器をいかに使用し防衛するかでプレイヤーの力量を判断た、しかし今回は相手側にこれはないという話だ。
そもそも兵器が存在していないらしく、梯子を使い壁を登って来るのが初手で、それとほぼ同時に魔法攻撃が始まる。壁を壊すか丸太で門を破壊して突撃と言う流れで、それの繰り返しの戦闘が砦戦だとネーシュが言っていた。


「投石機で爆薬を撃ち込めば、相手側は怖がって終わりそうだ」


火薬を詰めた大樽に手を乗せて先を読んでしまった俺だが、それほどに相手の動きがない。相手が攻めて来たらそれは現実になるが、こちらの傭兵たちもストレスが溜まって仕方ない。


「捕縛した傭兵も雇い済みだし、ここで新人歓迎会でも開くかな」


何か発散する行事でも考えるべきかもと、独り言をつぶやいて空を見上げた。今日も良い天気で気持ちの良い風が吹き、小鳥がさえずり平和を感じた、このままのんびりと出来ればいいのにと思っていると、見張り台から大きな声が発せられた。


「やっぱり来たか、投石機の準備っだ!!合図したら放てよ」


いつの間にか俺が指示を出す立場になっているが、兵器の事を1番知っているからで、本来はランクの高いキョーカたちがするのが良いんだが、訓練を任せている彼女たちは多忙で緊急時に間に合うか心配だった。
暇なのは俺しかいなかったのが本当の理由だと理解しているぞ。それで不満を持っている大人(あいつらの様な輩)はいるけど、そいつらも今回の実戦で理解する。
大樽の設置が済むと直ぐに投擲が開始されるが、別に当たらなくても良い適当さで撃っている。相手は被害が出なくても撤退するし、遠くで爆音が響くとそれは現実になって現れ、見張りの傭兵が喜んで報告してきたぞ。


「さて、後は国の軍が到着するまで暇かな」


不満を持っていた奴らも勝利して喜んでるから、俺はしめしめと思いながらも発散方法を思いついたんだ。別にあいつらなんて放っておけばいいとは思うんだが、ああいった輩以外は既に雇っているから、正直邪魔でしかなく、前回のキョーカたちの活躍を見て団に入りたいと言って来る迷惑さだ。
砦で裏切りの可能性があるのはあいつらだけと、準備が出来てるのがそっち方向も入っていると分かるだろう。


「料理は肉中心にするとして、飲み物はエールとブドウ酒、宴会にはちょっと不足だな」


他にも出そうとアルコール度の高い日本酒、それとワインも出していく。子供もいるからオレンジとモモとブドウのジュースを用意していき、デザートも出そうとクリエイトブロックまで用意して、食事風景を思い出して止めた。
初めてケーキを出した時、俺の使えないサポートキャラがケーキにダイブし大参事になった。あれはサポートキャラじゃないっと真剣に思ったよ。


「ダイブ禁止とは言ったけど、あのダメ妖精は聞かないからな、今回は作らない方が無難だ」


まったく困った妖精だとため息が出る。肉にダイブした時も注意したんだが、次そんな事をしたらチャンミーに食べる様に言ってしまおうと、料理を並べて冗談半分に思っていた。
しかしその夜、冗談だった事が不幸な事に起きてしまった。豪華な料理を見て興奮したシャルーが肉にダイブしたんだ。その直後にチャンミーも飛び付き、大口を開けて一口で食べてしまった。噛む前にキョーカがなんとか止めてくれたけど、間に合わなかったら大惨事だったぞ。


「ケーキの時は、大きかったからシャルーも中で逃げれたが、今回はほんとに危なかったな」


これで反省するよなっと、キョーカからシャルーを受け取り、羽を持って他のテーブルまで運び座らされた。シャルーを叱ったんだが、今回はほんとに反省してる様で、怖くて震えていたぞ。
やっと分かったかとホッとして説教を始める。美味しいものはまだ沢山ある、そんなに焦らなくても沢山食べれるだろうと、ドーナツをお皿に乗せてテーブルに置いたんだ。
シャルーは一口食べて笑顔に戻ったが、本当に分かったのかと心配だ。


「ジルベルト、これ甘くておいしいよ」

「そうだろ?だからダイブしなくても食べれる、もうダメだぞシャルー」


分かったよとドーナツを頬張り始めるシャルーを見て、可愛いとか不覚にも思ってしまった。そう思ったら負けだと感じるけど、妖精は可愛いモノだから、これは仕方ないと自分に言い聞かせたよ。
宴会を遠目から見て、みんながとても幸せな表情をしてるのが分かり、ガス抜きが出来たと不安の一つが解消された。
しかしそれで終わりではなく、後は待つだけの案件が控えている。俺1人で砦の広場に出ると、そいつは予定通り後ろから斬り掛かって来たよ。


「やるじゃねぇかチビガキ」

「せっかく仲良くなるために宴会を開いたのに、どうしてくれるのかな?」


攻撃された為、俺は距離を取って忠告をした。男はそれを聞かず、後ろに手を振って合図をした、その方向には投石機が置かれていて、その影からあの時囲んで来た4人が出て来たんだ。まったく人の努力を何だと思ってるんだろうかとガッカリだ。
俺を殺してここの全員を掌握する、そんな訳の分からないことを言い出して来ている。だから言ってあげたよ、出来ない事はしない方が良いってな。


「随分な自信だなクソガキ。覚えてるぜお前、木の剣で他のガキを倒すことも出来なかっただろ」


良くご存じでとは思ったが、その先を知らずに笑いを浮かべ、男は近づきながら剣を抜いて俺の前で振り下ろして来た。当然躱して距離を再度取った俺は短剣を構えたよ、男たちは笑って余裕を見せて来る。
このままここを出るなら許してあげる、そうでないなら命は貰う、そんな忠告をしてあげたが、男たちは拒否してきた。俺が弱いと思ってるから余裕なんだろうと、本気で相手をする事に決めた次の瞬間、男たちの背後に俺は位置した、距離は離れていたから男たちが見失って探し始める、そんな中一人の男は動かないで倒れたんだ。


「人の命を取ったのは初めてだったが、抵抗はないな」

「てて、てめぇ~何をしやがった」


身体が震えたり吐き気がしたりは無かった俺は、男の叫び声を無視して考え込んでいた。男は見失う程の速度を見て俺を発見しても震え始めたがもう遅いぞ。俺は攻撃力が1ではあるが、それを補うのは簡単な事なんだ。一撃で倒せないのなら、何度も攻撃をすれば良い、ゲームでも最終手段として残していた俺の奥の手だ。
短剣術の中には【サイクロン】と言う5連撃攻撃のスキルで急所を突く、それを俺の速度で使えばこうなるんだ。急所5連撃は生き物にとって致命傷だ、たとえ攻撃力1でも刃物は刃物、男たちを倒すくらいは出来るんだ。


「それだけ子供たちが大切って事かな?砦戦も指示をしただけとは言え俺が原因だし、きっとそれが理由だな」


お終いだねっと残りの男たちを倒して行き、最後に残ったのはもちろんあいつだ。名前も知らないボサボサ頭の男、土下座をして謝って来ているけど、本気じゃない。
俺が分かったと言った瞬間、男は隠し持っていた短剣を突き付けて来た。普通ならそれに刺され俺は倒れたかもしれないが、俺のスピードならば触れる瞬間に気付いても間に合うほどの速度を出せるから、軽く躱して心臓を5突きだ。


「ち、ちくしょ~う」


倒れる男を見て冷静に状況を整理しがっかりしていた。どうしてあんなにバカなんだと思ってしまう、暗殺なんて最低の所業だよ。
俺を利用して美味しい思いをするとか、敵に情報を流して裏切るなりいくらでも作戦はある。だがコイツらは何も得られない暗殺を選んだ。
傭兵とは言ってももう少し頭を使ってほしい、キョーカたちは特別だったんだなと実感して、これからが大変そうだとため息が漏れたよ。
しおりを挟む

処理中です...