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1章 天職が不遇

6話 説得

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「大変にゃよキョーカ・・・って何をしてるにゃ?」


チャンミーが偵察から帰って来て、ネーシュを抑えてるアタシを見て頭を倒して不思議そうにして来たわ。でもその理由は簡単なの、ジルベルトの事を仲間のネーシュに話したら、直ぐに会いに行きたいと言い出して飛び出そうとしたの、だからまだダメと必死に止めてるの。
チャンミーの返事を聞いてからじゃないとダメだし、最後まで話してないのよ。アタシは製作魔法の事を言っただけなのにネーシュは目の色を変えてあの勢いだったわ。
正直な所、チャンミーにも言いたくはないけど、言わないわけにはいかない、こんな面倒が起きるとは思わなかったと頭が痛くなってきます。


「なんにゃキョーカ、随分嫌そうな顔にゃね、もしかして男にでも振られたにゃ?」

「バカ言わないでよチャンミー」


男に言い寄られても嫌なだけ、前ならそうだったけど、でも今は違うのよ。相手がジルベルトだったら、そう思っただけでも顔が熱くなる、チャンミーがそれを見てびっくりしてるけど、遂に春が来たとかネーシュまで言って来たわ。
そんな話は後で良いと二人を落ち着かせ、まず今日会うのは諦めてもらったのよ。そこを約束させてから話をしようと考えたけど、どう言えば大人しく聞いてくれるのか悩んだわ。ふたりは勿体ぶってるとか笑ってるけど、それは必要な事なのよっ!!だって、彼は何でも作れる製作魔法士なんだからね。


「製作魔法にゃ?」

「そうよ、彼は家を建てられるほどの使い手なの。だからアタシは雇われることにしたわ、チャンミーはどう思う?」


勿論賛成とチャンミーは二つ返事ね。ネーシュは早速会いたいとか約束を忘れてるのを止めたわ、明日は早く戦場に出るから休むべきと注意よ。
報酬の件は言えない、そう思っていたけどネーシュが雇われるという言葉に気付いたの。どうして団に入らないのかとチャンミーは質問してきたから、アタシは素直に彼の考えを伝えたわ。


「なるほど」

「良く分からないにゃ、どういう事にゃ?」

「彼は自分たちの国を作るつもりなのよ、だから他の国に入るわけにはいかない。更に言うと、メンバーが何処かの国に勧誘があった時、その子の判断で抜けられるようにしてるのよ」


彼はとてもやさしい人と分かる考え方で、表情や容姿もそう感じさせるけど、立派だと思ったわ。だから惹かれてしまうの、同時に危険とも思ったし、誰かに騙され裏切られて折れてしまうんじゃないかって心配なのよ。
守ってあげたい、そんな気持ちもあって雇われる事を決めた。ふたりは納得したけど、男嫌いのアタシの気持ちを変えたジルベルトはどんな人かと聞いて来た。渋々教えたんだけど、強さを知ったチャンミーは、ネーシュみたいになったから、アタシは急いで抱きついて止めたのよ


「だからダメだってばチャンミー」

「何で止めるにゃキョーカっ!!強い奴が近くにいるにゃよ」

「それは明日にしなさいっ!!それに偵察の報告はどうしたのよ」


腕が自由に出来ないチャンミーは、尻尾でアタシの顔をはたいて来たけど、何が大変だったのかを問い詰めると、チャンミーは少し落ち着いてつまらなかったの一言よ。相手の陣には強者がいなかったそうなの、ネーシュもそれを聞いてガッカリね。
熱が冷めたチャンミーをベッドに座らせ、アタシとネーシュも椅子に座って落ち着いきました。
こちらの酒場の質を見てもそうだとアタシは口にしたけど、予想よりも酷いかしらね。だから彼がいたのは意外だったのよねっと、また彼の話しに戻ってしまうけど、この戦いはこちらが圧勝しそうね。


「強敵はいない?」

「そうにゃよネーシュ、傭兵の中にはいないのにゃ」


この戦いは始まったばかりだから、まずは傭兵のアタシたちだけの戦いで、まだ国の兵士を温存するのよ。戦況次第だけど、どちらもあまり深入りしないで戦う作戦かもと、ネーシュは読んで口に出したわ。集まった傭兵たちの力量次第となってるから、今後の展開でどう変わるのかが楽しみね。
アタシたちはいつも通り、後方で突出した敵を撃つ予定だったけど、チャンミーは反対でみたいよ。まずはジルベルトの実力を見たいってお願いして来たわ。ネーシュもそれには賛成で、まずは力を確かめたいとヨダレを拭いてたわ。


「美味しい物が食べたいだけでしょネーシュ」

「美食は長寿のエルフにとって命」


エルフは美食家だから分かるけど、戦いの前で食べ物に魔力は使わないわよっと、アタシは指摘したわ。
アタシも美味しい物は食べたいけど、その前に装備も貰えたいの、まずは戦いの準備を済ませてからよね。


「弱そうな相手を見てたにゃから、楽しみが出来て良かったにゃ」

「うん、これなら食事がまずかった埋め合わせが出来る、早く次に行きたい」


この戦いで勝利を収めたならば、次は国の兵士が動く事になるのが道理です。そうなれば食事や宿の質が上がるから、ネーシュはそれに期待しているのよ。
だから彼の報酬が言えなかったと心の声を抑えます。明日戦場に出発するタイミングで、アタシたちはジルベルトとの合流を決めたわ。


「それが妥当」

「そうにゃね、どうせ手合わせにゃんて、戦闘前じゃ出来にゃいしね」


それは聞いてホッとしたわ、ふたりにも自制心があったと口を滑らせ、装備が新調できると言ってしまったの。それをネーシュは聞き逃さず、急に眼の色を変え、顔を近づけて来たわ。
それはどういう事?っと一言呟くと、チャンミーがどうしたのかと聞き始め、目の色がさっきと同じに変わってしまった。ネーシュが最初に会いたいと言ったのはただの好奇心だったけど、不遇である製作魔法で食べ物だけじゃなく、装備まで作れると分かれば一変したの、仕方なくふたりに話したわ。


「な、何でも作れる?」

「どういう意味にゃ?」


チャンミーが分からずにネーシュを揺すり教えてもらった後、二人してアタシを見たと思ったら、タイミングを合わせて飛び出そうと頷いたの。ふたりの襟をつかめて止めれたから良かったけど、間に合わなかったら大変な事になってたと焦ったわ。
2人はそれでも行きたいと駄々をこねてきたわ、だから夜遅いのに起こすのはジルベルトに悪いと忠告したの。それで止まるのなら世話はないけど、更に強めの一言をふたりに言います。嫌われたら雇ってもらえないし欲しい物は手に入らないと言ってあげたわのよ、さすがに二人もそれはかなり効いたみたいで、しょんぼりして諦めたわ。


「分かった、今日は諦める」

「よろしい」

「うぅ~でもにゃ~」


チャンミーはどうしても会いたいと諦めたくないみたいで、床に座り涙まで流して来たの、そんなに会いたいのかと逆に聞いちゃったわね。
お腹いっぱい食べてみたいと、チャンミーの夢を教えて貰い、ネーシュは美味しければ量はそれほどいらないと言ってきたわ。でも今日はダメだと2人に伝え、チャンミーを抱きしめて、アタシだってゆっくり寝る場所が欲しいと本音を話したのよ。彼の所に行けばそれが叶うわ、だけど今日は我慢した方が良いの。


「キョーカは、どうして我慢できるにゃ」

「チャンミーそれはね、これからずっとそうなるからよ。会えば分かるけど、ジルベルトは信じられる人だから、そんなに慌てなくても良いの」

「うぅ~分かったにゃ」


良い子ねっとチャンミーを撫でて、同い年の18歳なのに子供ねっとお姉さん風を吹かせ、彼に会いたい気持ちを妥協案を伝えて抑えたの。朝早くに彼に会いに行けば、優しい彼なら朝食をきっと貰えると提案したの。
ふたりは喜んで賛成して落ち着きを取り戻すと、早く寝やうと支度を、初めてたの。3人で1つのベッドに入り、ギュウギュウになって寝るのがアタシたちの日常で、もしかしたらこうやって寝るのは今日限りかもしれないわ。
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