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1章 天職が不遇

4話 初戦は生存者1割

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子供たちがお腹を押さえ動けなくなってしまったが、幸せそうな顔をしているから何も言わないけど、やっぱり子供なんだなぁ~っと和んでいた。見た目は大体同じに見えるけど、俺は二十歳代で一番の年長者で彼らの雇い主だ。
これで心置きなく明日の戦場に出れると、ジャクソがボソッと呟いたけど、初戦なんてどうと言う事はない。そう返すとジャクソは暗い顔を作ったぞ、どうしてそんな顔をするのかと聞いてしまったよ。


「ジルベルトはこんな力があるから強いんだろ?でもオレたちは弱いんだ、いくら装備を良くして、明日生き残れるのはほんの一握りさ」


新人の傭兵の生存率はそれ程に低いと、ジャクソからその数値を聞いて疑わなかった。何せ半数は木の剣を武器としてる兵だし、子供で戦力として見る事も怪しく思ったんだ。
生き残るのは銅の剣を持った者が当たり前で、だからこそ試験はみんな必死だった。等級なしになった子供の落ち込む理由はそこにもあったんだ。


「銅の剣だって、オレたち子供の力じゃそんなに強くない、だから守りに徹するんだが、それでも生き延びられないんだ」


なるほど、そう思ってみんなが生き延びる方法を考えた。子供たちだから防具を渡しても動けなくなるだけで、ゲームの様にブーツで足が速くなったりはしない、ましてガントレットで力が増す事もないんだ。
それなら戦わなければ良いと、俺の様に後衛でサポートをする案が浮かんだ。後衛の傭兵団とか俺らしくていい、もうこれしかないと思ってしまった。


「嬉しそうだけどジルベルト、何か良い案があるのか?」

「簡単な事だよジャクソ君」

「ジャクソ君って!?」


ジャクソが君付けされびっくりだが、その後の俺の説明を聞き更にびっくりだ。そんなに変だったかと思っていると、まず無理だとか言われてしまい、さっきの話を聞いてなかったのかと怒って来たんだ。


「魔力が足りないんだって言っただろジルベルト、普通はこんな簡単に作れないんだよ」

「それはなジャクソ、製作魔法を間違って使ってるからなんだ。まずクリエイトブロックを作ってからにすれば良い、そうすらば魔力はそれほど使わない」


これもゲームでは最初知られていなかった事なんだ、戦場で手間の掛かる工程をしていては死ぬとか思われていた。でも消費を抑える為には必要な工程なんだぞ。
製作魔法は誰にでも出来るが、そんな手間のせいで不遇になり誰もが使わない。試しにジャクソにクリエイトブロックを作ってもらってみる、20センチ角の箱が簡単に作れ、魔力もそれほど使わず疲れていない。
そのままおにぎり製造を任せて見ると、ジャクソは出来るわけないと口にした。だが1分後には、彼の手の中におにぎりが1つ出来上がったぞ。


「ほんとに出来た」

「そうだろジャクソ、でも1分の間集中しないといけない。だから戦場では使えないと思われていたんだ」


そんな事はないのになっと、アハハっと笑って見せて団の方向性はそれに決まった。これなら武器が弱くても戦えるし、更に防具が無くても死なないんだ。
俺には使ってもらう人が必要だし、30人の子供たちがいれば分担も出来る。兵器も余裕で使えるようになれば更に良くなるだろう。明日の戦いは小型の飛び道具を使い離れて戦えば誰も死なない、ジャクソにそう言ったら泣かれてしまった。


「泣くなよジャクソ」

「泣いてねぇー!!これは汗だ」


目から汗が出たと、弱い所を見せたくないジャクソはそれ以上は言わなかったよ。お腹が落ち着いて来た子供たちが起き上がる頃、夕日がとても綺麗な時間が訪れた。
本来なら最後の夕日とか思って、子供たちは暗い気持ちになっていたんだろう。しかし今は違う、全員でクリエイトブロックを作る練習を始め明日を生き抜こうとしているんだ。
子供たちのMPはそれほど高くはなく、10個作れるかどうかという感じだった。それでも充分で、それは全員がおにぎりにしたのは言うまでもない。まだ食べたいのかと突っ込んでおいたよ。


「だって美味しいんだもん、ねぇシャルー」

「トミルは分かってるわね、そうよおにぎりは最強なのよ」


意気投合したシャルーと最年少のトミル君だが、彼は4歳と言う年齢でここにいる。シャルーが言うには、最近多くなっている年齢だそうで、これは終わりが近づいているんじないかと俺は思ったよ。
練習を一度終わりにして、次はフカフカのベッドの製作だ。30人が入れる家を建て、部屋に3段ベッドを作っていく。村の端っこにそんな大きな建物が突然出来て、見た奴は驚くだろうが、そんなのは宣伝になるだけだ。


「こ、こんな大きな物も作れるのかよ」

「驚くのは早いぞジャクソ、明日の戦場では兵器も沢山作る、今日は風呂にでも入ってゆっくり休むと良いよ」


風呂と聞き、ジャクソは分かってない感じで首を傾げた。お風呂を知らないとかかなり困ったが、仕方ないので使い方のレクチャーをしてみんなには使ってもらい、その間に俺は夕食の支度だ。
おにぎり以外にも美味しい食べ物はあるんだと子供たちに教えてやりたい。まず肉を食べさせようとから揚げを作っていったぞ。


「油で揚げなくて良いとか、凄く便利だな」


製作魔法ならではだが、これはゲームには無いもので、俺は考え事をしてテーブルに置いていく。
風呂から上がって来たジャクソは、テーブルの料理に釘付けだが、一緒に風呂に入っていたシャルーは唐揚げに飛び付いた。


「美味いわ!!これはとても美味いわよ!!」

「風呂から上がってそれかよシャルー・・・ドンドン作るから、みんなも遠慮するな」


作っていく先でシャルーが叫び、あの小さなお腹にから揚げが消えていく。ほんとに何処に入っているんだと思ってしまうよ。
みんなの分は残すように注意してどんどん製作していくが、俺は少し安心していた。お風呂から上がって来たジャクソたちは力の抜けた顔をしていて、子供の顔だったんだ。


「さてみんな夕食が終わったら、フカフカのベッドが待ってるぞ」


わ~いっとみんなから喜びの言葉が飛び出す。クリエイトブロックの練習でおにぎりを作り食べていたが、それでもまだ食べれるのは喜ぶべき事でドンドン食べろと言っておいた。みんなは分かるんだが、あれだけ食べたシャルーも一緒なのは、正直心配だ。
MP回復には食事を取り睡眠をとる事が大切だからみんなが食べるのは分かる。限界まで食べたその後に練習で消費した、だからまだお腹には余裕がある。
みんなの食べる姿を見て、みんなが無事でいられる事を願った。明日は戦場に向かうから、多少の怪我はするかもしれないんだ。


「治療道具は作れるけど、蘇生のアイテムはない。ゲームにもあるポーションで治る範囲だと良いんだけどな」


食事をすればステータスは上がるが、まだまだ先の話だ。欲しいのは明日だからほんとは心配でならない。やはり守れる者が必要だと、俺は外の酒場に向かった。
シャルーは付いてこない、お腹がいっぱいで動けなかった。トミルと一緒に寝る様に伝えておいたが、ほんとにサポートキャラなのかと突っ込みたいよ。


「でも、あの大人たちと同じようなのしかいなかったら・・・その時は違う戦場に行くべきかな」


シャルーが教えてくれた戦いの場所だけど、ここに愛着があるわけじゃない。戦場は他にも広がっているから、優しそうな人材を探して行きたい。
ここでは凄く期待しないで村に唯一ある酒場に入った。いきなりの熱い視線を受けるが、俺は酒場の奥へと歩いて行く。
これは映画でもあるあれが始まるかもしれないと思いつつ酒場の亭主の前まで来た。ご注文はと言われたので、定番のあれを言うことにする。


「ミルクを頼む、後は気の優しい傭兵とか注文できるかな?」


酒場の亭主なら色々な傭兵を知っているだろうと、傭兵証と一緒に貰った銅貨を5枚全部出して要望だ、他の客(傭兵たち)からは大笑いを貰ったな。
子供に見える俺だから当然の反応かもしれない。だがしかし、亭主は冷静に対応してくれる紳士で、こうでなくてはいけないとミルクを受け取ったよ。傭兵の情報はその後で、かなり期待した。
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