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1章 天職が不遇

1話 最強のサポート

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俺は一ノ城健也(いちのじょうけんや)小さな容姿と違い、とっても男らしい名前の小さな男性25歳の俺は、そのせいでいじめられ引き籠る生活を送っている。
いや、引き籠っていたと言い換えるべきだな。今の俺はとても自身に溢れ、容姿を気にせずそれすらも利用した戦いをするまでになった。
この会場で行われている【ジャルダル傭兵記】というフルダイブ対戦ゲームで【俺?僕の間違いだろ】とか【チビ】と悪口を言ってくる相手を翻弄し遊んでやったんだ。
そのおかげで決勝にまで残り、今最後の戦いの合図がされたので動き出す。俺のゲーム内での呼び名はジルベルト、神の手を持つ後衛機工士とか呼ばれ始めてる、150センチの男性プレイヤーだ。


「ジルベルトさん、武器の生成よろしく」

「任せろ!!【クリエイトブロック】」


20センチ角の青く光る箱を魔法で生成し、そこに魔力を送ると形が変わり、色々な物に変化させる事が出来る。それを使って戦い、相手チームに勝利するのがこのゲームの醍醐味なんだ。
俺に声を掛けて来たチームプレイヤーが持つのは木の剣で鎧は装備してない、誰もがそんな布の服の裸足状態からスタートするこのゲームは、いかにポイントを稼ぐかに掛かってる。
敵を倒したり装備を作ってチームに貢献すればポイントが加算され、1時間の制限時間終了後、相手チームよりも多くポイントを持っていれば勝利となる。
なにも知らないプレイヤーは、そのままの装備で突っ込み死に戻って来るのが通例で、無駄なポイントを相手に与えるのは愚策だと熟練者は怒ってる。
でも今は決勝だからそんな奴はいない。まずは俺の様に後衛で装備や兵器を作るプレイヤーの傍に行き装備を貰う。
俺の凄さを知ってるメンバーが列を作りまだかまだかと期待してくれる、それがとても楽しくて嬉しい。
時間のロスはゲームの敗北を意味するけど、俺の場合は最小限で済んでる、何せ製作に必要なステータス【スピード・MP】に極振りしているんだ。
木の剣の次の武器【銅の剣】なら1000個、次の【鉄の剣】なら500個を瞬時に作る事が出来るんだよ。


「鉄の剣とブーツと鎧に兜、それにガントレットが250個出来たぞ、検討を祈る」

「さすがジルベルトさん頼りになる」


お礼を言いながら装備して行き、戦闘に向かうプレイヤーを俺は見送る。
普通のプレイヤーにとって戦いは死に戻りの連続だ、そんなプレイヤーの為に俺たちは製作を何度も繰り返す。1000人いたプレイヤーのほとんどは、ロスタイムを感じないで装備を新たに戦いに向かった。
そんな中、残っている100人の内20人の後衛支援プレイヤーは、次の作戦の為に準備をしている。彼らは俺の様に製作をしているが、最初から装備は作っていない。
装備を作らず次の工程の為頑張っていて、それはこのゲームのカギを握る兵器作成だ。
3人から4人で1つの兵器を作り出す事で戦いが有利になる。矢が連射できるクロスボウ馬車3台と、移動式投石機2台が開始15分で出来上がった。
本来戦闘が始まって30分はしないと作っても壊されて終わる。それはプレイヤーの装備が弱いからなんだが、俺がいるのでそれはクリアされている。
死に戻って来たプレーヤーが早速運んで行くのを見送り、次の拠点では兵器が活躍して占領できるだろうと期待して手を振る。


「さて、俺は主力が戻って来る前に上位装備を作らないとな」


1つで鉄の剣を50個作れるクリエイトブロックだが、その一つに1分間魔力を注ぎ作れるのは、このゲームで最強の剣である【青龍剣】だ。
これは1つ星から始まる装備の中で10つ星に位置している1つで、普通のプレイヤーが1人で作るには、20分間の魔力注入が必要な品とされ、兵器よりも時間がかかるから作る奴は初心者だと笑われる。
しかし1人ではなく、後衛支援プレイヤー全員で作ったりすれば話しは変わる。だから最後の大勝負に使われる装備として知られているが、極振りの俺なら1人で作れるんだ。


「さて、死に戻りが減ってきたから、ソロソロだな」


5人分を作った俺は、自分たち用のブーツとガントレットを作り始める。ブーツは走る速度が上がり、ガントレットは器用さや腕の力が上がる。それを後衛プレイヤーに装備させ、死に戻りの少ない主力プレイヤーと共に俺たちも前線に移動だ。


「さすがですねジルベルトさん、もう出来てるんですか」

「君はさっきの?」


最初に列に並んだプレイヤーだったから覚えていた彼もまた強者の1人だった。1、2回しか死なないのは強者の証拠で、最強装備に必要な所持ポイント数を得て最強装備に着込んでいく。
笑顔の彼を見て俺も笑顔を返し名乗っておいた。彼はラーハルと名乗り、俺たちには敵を近づかせないと張り切っているよ。
次の拠点に移動する行動は、このゲームを知ってる者なら誰もが注意する事だ。
後衛プレイヤーを妨害する事が勝利への近道で、必ず奇襲を仕掛けてくる。整えられてない道の幅は10mで、周りは森と奇襲に有利なのがこのゲームの常識だからだ。
だけど俺の装備があれば、比較的安全に移動出来る。最短で向かう最強プレイヤーと後衛支援者のコンボで、俺のチームはここまで勝利を納めて来た。
今回もそのまま行くと思っていたが、相手がそれを許すはずもなく、森から矢が飛んで来て後衛プレイヤーの1人がやられたんだ。


「さすが決勝、ジルベルトさんは僕の後ろに」

「頼んだぞラーハル」


張り切って俺を守ってくれるラーハルは、小さい容姿の俺を守ってくれる騎士の様でとてもカッコイイ。だが敵は大人数を投入してきているらしく、森からどんどんと湧いて来る。
さすがのラーハルたちでも勝てないかもしれないと感じた俺は、隠していた力を見せる事にする。鉄の短剣を構え、ラーハルと俺を囲んでいるプレイヤーの後ろに回り一突きした。6人の敵プレイヤーは倒れ、ラーハルは何が起きたんだと茫然としてしまったな。


「まだ倒してない油断するなラーハル」

「っは、そそそそうでしたか」


短剣の中には、状態異常を起こせる物がある。攻撃力1のオレだけど、それを使えば動きを阻害するくらいは出来るんだ、その間に他のプレイヤーに倒して貰うのが俺の戦い方で、今まで使わなかったけど決勝で使う事になった。
形勢が逆転したと思っていた俺たちだが、相手もこの作戦にすべてを賭けていた様で全然数が減らないだけじゃなく、小型兵器【空気銃(クナイ)】を撃って来る奴まで出て来た。また1人後衛プレイヤーが倒れ、俺たちは兵器を守る為一ヵ所に密集する事になったんだ。


「まずいですよジルベルトさん」

「そうだなラーハル・・・死に戻りのロスタイムは5分」


遠距離の攻撃に変えた相手チームには、流石の強い剣も遠距離では意味をなさない。武器だけを最強にしていたこちらを良く知ってると称賛したよ。
相手がそこを突くならば、俺はもう一つの切り札を使う事を決意する。ラーハルたちの前に出て少し離れて短剣を構えた、ラーハルは危ないと叫ぶがこれで良いんだ。
飛んで来るクナイは俺に集中するが、そのクナイは次の瞬間には相手に向かい飛んで行く、森の中でそれを受け悲鳴が聞こえて来たぞ。


「じじじ、ジルベルトさん」


どうなってるんだと聞きたいラーハルの声が響くので、仕方ないと解説をする事にした。忍者が使うクナイは、構造上握り手の後ろに穴が開いている、どこかの漫画で穴に紐を付けて起爆札を付けていたりもしたかもしれない。
その穴に短剣を突き刺し相手に投げ返しただけだ、ラーハルはその説明を聞き、あの数を出来る訳ないとか突っ込んできたよ、それが出来るから製作も早いんだけどな。


「スピード極振りは伊達じゃないんだぞラーハル」

「そんな一言で終わらせないでください」


俺の攻撃力が1でも、相手の武器ならば数値は相手側、このゲームで知られていない情報で、これを使うと修正が入るからしたくなかった裏技だ。次はこうはいかないかもしれない、少しため息が出てしまう。
相手が撤退したのか攻撃が止み俺たちは進んだ、そして砦を勝ち取り勝利を収めたんだ。MVPはこちらのメンバーからえらばれ、なんとラーハルが貰う事になったよ。


「襲撃で倒した数以上に倒したからこそだ、良かったな」


凄い奴だったと、壇上に向かい拍手をしていると、ラーハルがマイクを借りて俺を呼んだ。みんなから注目され壇上に上がる事になりとても緊張だよ。
本当のMVPは彼とかラーハルは俺を皆に紹介し拍手を貰うけど、みんなが協力してくれたからこそだよ。分担してなかったら分からなかったと、壇上でそう言ったんだが、ラーハルはそんな事はないとか推して来る。


「ジルベルトさんも知ってるでしょ、装備や兵器はポイントで手に入れる事も出来るんです。だけどジャルダル傭兵記でMVPを取るには、相手プレイヤーを倒しポイントを稼ぐ事が必須で、ポイントを使わずに装備を手に入れる行為がない事は凄く助かるんです。更には兵器も使えるとか、これは革命と言っても良い事ですよ」


製作で得られるポイントはとても少ない、ポイントで得られる物を作るプレイヤーはいない、だから誰もやらないでゲームが進んでいた。そこに後衛プレイヤーとして俺が現れ製作の重要性が広まったんだ。
そんな流れを作った俺にこそ、最初の大会のMVPはふさわしいと、ラーハルのそんな言葉に誰もが賛同し歓声が上がった。俺はそこまでの事はしていない、やりたかっただけなんだよ。


「ですからジルベルトさん、僕のチケット貰ってください」

「え!?」


今大会でトップ10名に入ったプレイヤーは、ジャルダル傭兵記が参考にしたお城や砦に旅行が出来るチケットを貰えるんだ。1月の長旅で全てゲーム会社持ちという豪華さで、ラーハルがそれを俺に手渡してきた。
これはさすがにダメだ、そう言ったけど会場は既に称賛している、受け取らないわけにはいかないですよっとラーハルの笑顔が言ってくる。


「図ったなラーハル」

「そんなつもりはありませんよ、楽しんでくださいジルベルトさん」


家から出ない俺だけど、正直このゲームの聖地巡礼は行きたい。渋々と受け取り数日後に空港に集まる事になったんだ、引き籠りから外に出るのが1月の旅行で、とても緊張して家を出たよ。
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