上 下
33 / 38
2章 歩み

33話 元勇者との戦い

しおりを挟む
「そ、そんな馬鹿な」


僕とドスモスの戦いが始まった直後、自らの一撃を躱されそのままの勢いを止められずにこけたドスモスは、信じられないって口にして僕を見上げて来た。
開始の合図をされて直ぐだったため、僕が反応できずに隙を突いたと思ったんだろうけど、そんな事は実戦を繰り返している僕たち冒険者にとって当然の対策でした。


「ドスモス、君弱くなり過ぎじゃないかな?」
「な、なんだと」
「だってそうじゃないか、戦いに合図なんてない、それなのに準備もしないなんてありえないよ」


剣を構えるだけが準備ではなく、魔力や闘気を溜めるのは基本で、そんな事もしなくなったのかと指摘しました。
ドスモスはおそらく、奴隷の様に戦う様になったから、自分から先手を取らなくなっていたんだ。


「安全圏からモノを見て、言われたタイミングで攻撃をする、前の僕と同じなのに僕と違うんだね」
「な、何が言いたい」
「君は何も反省して直そうとしない、それがいけないんだよ」


味方の力を合わせる事もしないから、普通の冒険者の域を超えられなかった。
それがこれだけの差になってしまった事を教える為、混合闘気を見せてあげました。


「な、なんだそのオーラは」
「これはねドスモス、君たち元勇者PTで散々トロいとか言われてた中、僕が試行錯誤して導き出した答え【混合闘気】だよ」
「混合闘気?」
「そうだよ、伝承の中で勇者が使っていた虹色の闘気の正体さ」


物語の中だけの技とされていたけど、僕はそれを付与の力でなんとか再現しようとして、限界を超えて死にそうになったんだ。
そのおかげで未来予知なども覚えたので、その点は感謝しているとドスモスにお礼を言いました。


「でもね、君たちはそれを教えても信じないで拒否した、それがいけなかったんだよ」
「そ、そんな事いつあった」
「そんな事も覚えてない、だから君の未来は処刑なんだ」


始まったばかりだけど、僕はもう終わらせる気で剣を抜きました。
ドスモスも最後の抵抗とばかりに闘気を上げてきたけど、レベルもあまり変わってなくて、付与も強化もないドスモスの闘気はとても弱かった。


「ど、どうだこの闘気を受けて見ろ」
「何を言ってるんだいドスモス?」
「ほざいていろクソムシ!剣技【フィニッシュスラスト】」


最強の突き技と呼ばれる戦技を打ってきたドスモスだけど、闘気は足りないし速さも遅くて僕は避けたんだ。
観客はそんな僕の動きを見て驚いて静かになったけど、そもそも勇者が勝つと思っている様で焦っていたよ。


「今更だけど、やっぱり人気ないよね付与魔法士ってさ」


後衛の魔法士が勇者に勝てるわけがないと、賭けの倍率も大変な事になっていて、僕に賭けてるミイシャル様が笑っていた。
僕の横でドスモスはもう動けずにいて、このままちょこっと力を入れて殴りました。


「ぐはっ!」
「防御も弱まってるね」
「こ、これしきで俺が」
「当然だよ、ものすごく手加減したからね」


もうフラフラのドスモスは、何とか立ち上がって剣を振ってきたけど、もう威力は無いから素手で止めてあげました。
もう片方の手で腹に一撃を入れ、その場に倒しました。


「これで終わりだけど、既にあいつの姿が無いね」


未来予知で分かっているけど、ドスモスが勝てないと分かったのか、直ぐに逃げ始めた子爵は、今頃街の門にいた兵士に取り囲まれています。
唖然としてる観客に手を振り、僕の勝利を宣言してもらったけど、終わった事も分かってなくて誰も聞いてません。


「さて、後はミイシャル様たちの方に行って跪いて終わりだね」


言葉の通り、僕は会場のミイシャル様たちの座る方に向き、跪いて勝利を贈りました。
それを見て、伯爵は決闘の結果を観客に説明し、僕たちの勝利が決まりました。


「そして、勝利したアレストには、褒美として爵位を与える事になる」


そうなんだよねぇ~っと、僕はちょっと困ってしまいます。
子爵の領地を管理する貴族が必要だからで、僕はその場で喜んで受けるしかないんだ。


「詳細は後日知らせる、みなアレストの勝利を祝ってくれ」


伯爵がしめくくり、観客から拍手を貰っていたけど、これで僕はミイシャル様と婚約することになるんだ。
屋敷に戻りその話をされて、僕は断る事も出来ずに一緒に帰る事になったよ。


「あの、アレスト」
「ミイシャル様、そんなに緊張しないでください」
「で、でも・・・ワタシたちは婚約したのよ」
「そうですけど、メイドさんも一緒ですし、二人きりではないんですよ」


街に向かっている時も僕は馬車に同席していたし、婚約を言い渡されただけです。
この後、正式に書面が届くけど、そこには一緒に領土を統治しようと言う話になるから、もっと緊張してしまうんだ。


「で、でも・・・ワタシ、こういった事は初めてで」
「それでしたら、まずはお互いを知る事から始めましょうミイシャル様」
「そ、そうねアレスト」


そう言っても、ミイシャル様から何か話題が出る訳もないので、僕から趣味を聞きました。
貴族のご令嬢だからか、ミイシャル様はダンスが好きな様で、今度僕は教わる事になったよ。


「僕にできますかね?」
「アレストはなんでも出来るもの、きっと直ぐに覚える事が出来るわ」
「そうだと良いですけど、僕には既に結婚を約束した人がいますから、そこも分かってくださいね」
「それは勿論よ、ちゃんとお話しないとね」


キョウコには既に話していて大歓迎されているけど、その理由は分かっています。
でも、僕だって理性はあるのでほどほどにするつもりで、ミイシャル様が相手に入るのなら、それこそやり過ぎない様にしようと思っています。


「ですけど、メイドさんが睨んでいる通り、まだミイシャル様とはいたしませんからね」
「分かってるわ、式はお母様の屋敷になるわよ」
「イヤそっちではなく、夜のお話です」
「夜って・・・そそそ、そうよね」


婚約するのだからと、真っ赤になって納得してくれたけど、キョウコが焚きつけるので数日後には一緒になります。
メイドさんもそこは納得するけど、ニコニコしていたよ。


「それで、村の発展の事ですが」
「急にまじめな話ね、道を増やすって事よね?」
「そうです、その為にも手に入れた領地から志願者を募ります」
「その受け入れの手配をすれば良いのね」


それもそうだけど、身元の確認や素行の悪さも調べなくてはなりません。
それでもすべては分からず、すり抜けて入り込んでくるので、僕のお仕事が際立つとにっこりとしました。


「頼りにしてるわアレスト」
「僕もですよミイシャル様、お互い頑張りましょう」
「アレスト、もう様はいらないのよ」
「そうですね、じゃあ計算も出来る様になろうねミイシャル」


嫌がるミイシャルにメイドさんと一緒になって教える事になり、馬車の旅はお勉強とお菓子タイムにつぎ込みました。
そのおかげもあり、婚約者としての緊張は無くなり、親しく話すことが出来る様になって、僕たちは村に無事戻ったんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

捕獲されました。酷い目にあう前に死にたいのですが、友人が自分の命を無理やり預けて行ったので、そうもいきません。早く返してしまいたい。

ともっぴー
ファンタジー
ある日罠にかかってしまったレイラ。捕まるくらいなら死を選ぶつもりだったのに、友人のシンが無理やり自分の命を押し付けて行ってしまった。冷酷な男?に飼われながらも、どうにかシンに命を返す事が出来たのだけど、これから先、私が生きていく理由って? 揺れながら、流されながら答えを探します。「逃げよう等と思うなよ。今日からお前は俺の物だ。」カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアップ+さんにも掲載しています。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

魔導具士の落ちこぼれ〜前世を思い出したので、世界を救うことになりそうです〜

OSBP
ファンタジー
科学と魔導が織りなす世界。そんな世界で、アスカ・ニベリウムには一つだけ才能があった。それは、魔導具を作製できる魔導具士としての才だ。だが、『かつて魔導具士は恐怖で世界を支配した』という伝承により、現状、魔導具士は忌み嫌われる存在。肩身の狭い生活をしいられることになる‥‥‥。 そんなアスカの人生は、日本王国のお姫様との出会い、そして恋に落ちたことにより激動する。 ——ある日、アスカと姫様はサニーの丘で今年最大の夕陽を見に行く。夕日の壮大さに魅入られ甘い雰囲気になり、見つめ合う2人。2人の手が触れ合った時…… その瞬間、アスカの脳内に火花が飛び散るような閃光が走り、一瞬気を失ってしまう。 再び目を覚ました時、アスカは前世の記憶を思い出していた‥‥‥ 前世の記憶を思い出したアスカは、自分がなぜ転生したのかを思い出す。 そして、元の世界のような過ちをしないように、この世界を救うために立ち上がる。 この物語は、不遇な人生を送っていた少年が、前世を思い出し世界を救うまでの成り上がり英雄伝である。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

地蔵が行く! ~異世界で奇跡を起こすぶらり旅~

猫目 しの
ファンタジー
  私は名のない地蔵である。 昔は日本に住んでいた私であるがある日の地震で死んでしまった。 そして、私は転生したのだ……地蔵にと。 日本での私の記憶はない。 私の家族のことも、友達のことも、私自身のことも。 だけど、それでいいのだ。 私は地蔵、神様に依頼され奇跡を起こす地蔵である。   イラスト製作者:天舞美羽 様 ※小説家になろう、にも転載してます。

処理中です...