上 下
19 / 38
1章 派遣

19話 予想外の村

しおりを挟む
道が悪くて、ワタシは気分が悪くてフラフラしてうんざりしていたわ。


「こんなんで山に入ったら、もっと悪くなるわよねアリータ」
「そうなりますね、でも仕方ないですよお嬢様」
「そうだけど、このままじゃワタシ、水しか飲めないわよ」


ギルドの求人で人が集まらなかった理由が分かってしまい、あまり攻められない気持ちになりました。
まだ3日もあると思うと、本当にきつくてどうしようと思ったわ。


「あの時はきつい事を言ってごめんなさい」
「お嬢様、ギルドの長たちはいませんよ」
「だって~つらいのだもの」


馬車の中で横になり、ワタシはもうダメかもしれないとアリータに弱音を吐きました。
でも、それで馬車酔いが治るわけもなく、何とかしてとお願いしたわ。


「お嬢様、人はそんなに万能ではございません、揺れをどうにかする事は出来ませんよ」
「そうだけど、何とかしてほしいのよ~」


もうダメだと思っていたら、馬車が止まりラルソニーの声で呼ばれたから、ワタシたちは何事かと外に出たの。
外では、道の幅を広げて押し固めている人達がいて、どうした事かと思って聞いたわ。


「これはですね、アレストの指示なんです」
「アレストって、冒険者ギルドから派遣された職員さんね」
「ええその通りです」


男性は、道の幅を広げて押し固めるだけでなく、苗木を道の端に植えて舗装し、更に道の片側には川を流す予定で掘っているそうです。
街まで続ければ、山からの水も引けて街は水不足にもならないと、アレストと言う職員はそこまで考えてくれていたの。


「それなのに、ワタシたちは協力もしなかった・・・最低ね」
「アレストさんはそうは思っていません、ですのでこれからですよ」
「そうね、その通りだわ」


男性に励まされ、ワタシたちは先に進みましたが、馬車が全然揺れないから驚きよ。
あれだけ気持ち悪かったのに、その後は全然楽になり、これだけ違うのかって嬉しくなったわ。


「それに、宿泊施設も作ってるとか、どういう事なのよ」
「そうですねお嬢様、アレストと言う職員は凄腕ですね」
「そうね、さすが派遣を推薦されただけの事はあるわ」


もっと早く協力していればとは思いますが、あの男性が言ったように、これから頑張れば良いのです。
やる気を出して宿泊施設のベッドに入りましたが、その布団の寝心地にワタシは寝過ごしてしまったわ。


「お嬢様」
「ごめんなさいアリータ、でも旅の疲れもあったし仕方なかったのよ」
「分かりますが、そっちではなく、利益になると言いたいんです」
「た、確かにそうね、考えておきましょう」


村に着いてもいないのに、こんな嬉しい事があるとは思わず、本当に期待してしまったわ。
山に上がる道も同じように快適で、宿泊施設も泊まるのが楽しみで仕方なかったわ。


「な、何よこれ!」


更に2日が経ち、村が見えて来たことをラルソニーさんに知らされ、馬車の窓から外を見たら、村とは思えない広さと建物が見えました。
こんなに凄い状態になっているのなら、きっとこれから人を呼び込みやすくなると、ワタシは早くアレストさんに会いたくなったわ。


「急ぎましょう」
「そうですね、自分も楽しみになりました」


馬車が動き出し、村まで数分と言う話でしたが、その数分がとても長く感じたわ。
そして、到着すると村長さんが挨拶をしてくれて、なんとお客様用の屋敷に案内してくれたのよ。


「こ、こんなものまで作っていたの?」
「それはそうですよ、ここは街になる事を前提に発展させています」
「山の上なのにですか?」
「はい、最終的には、ダンジョンを囲んで山全体を街にするそうですよ」


そこまでの構想が出来ていて、アレストさんを呼ぶように村長に伝えたわ。
屋敷で寛ぐ様に村長には言われたけど、部屋を見て回っていたら時間が来て、玄関で鉢合わせしました。


「これは領主代行様、良くお越しくださいました」
「あなたがアレストさんかしら?」
「はい、冒険者ギルドから派遣されたアレストです、よろしくお願いします」


深々と頭を下げてくれて、ワタシはちょっとタイミングを逃してしまったわ。
応接室でのお話をしようと、アレストさんが他の方と一緒に先頭を歩いてくれて、考える時間を貰えたの。


「お嬢様」
「分かっているわアリータ、しっかりと言わないとね」
「そうですよ、そして協力を求めて婿に引き入れてください」
「はい?」


アリータが変な事を付け加えて来て、何を言ってるんだと思ったのだけど、これだけのやり手なら引き入れておくべきと推してきます。
確かにそれも良いとは思いましたが、貴族でない彼は対象外と即答しました。


「そんなの今だけですよお嬢様、その内褒美にもらえます」
「何言ってるのよ、そんな簡単な事じゃないわよアリータ」
「普通はそうでしょうけど、よく考えてくださいお嬢様」


今回の村を街にしただけでも、立派な功績となり、領主であるお母様に報告して推薦しても良いと、アリータはとても前向きです。
どうしてそこまでと思っているワタシは、適当に話を合わせて応接室で謝罪をしたわ。


「そんな、領主代行様のせいではありませんよ」
「いえ、ワタシたちの管轄内なのでワタシたちの責任です、次からは無いようにしますから、これからは協力させてほしいのです」
「そういう事でしたら、こちらも人手は欲しいので助かります」
「ありがとうアレストさん、今回色々持ってきたので、良かったら使ってください」


ワタシの騎士も使える様には伝えたのだけど、あまりそこは嬉しそうではなかったわ。
それほど実力が無いと思っているようで、そこは自信があったから提案する事にしたのよ。


「何でしたら、ダンジョンの探索をさせても良いわよ」
「騎士様にそのような事はさせられませんよ、皆さんはお客様ですから、ゆっくり視察してください」
「あら、もしかして実力を疑っているのかしら?」
「そう言う訳ではなく、実戦を知らない感じに見えるだけです」


的確に言い当ててきたアレストさんに、さすがという言葉をアリータが漏らしていて、どれだけ期待しているのかと思ってしまったわ。
でも、そこで意見したのが騎士の隊長をしている【ジェルフィナ】で、実力は3つ星冒険者にも引けを取らないと宣言したわ。


「それはご立派ですね」
「その言い方、信じていないわね」
「そうではありません騎士様、実力は確かにあるでしょうが、実戦と試合は違うのですよ」
「言うじゃない、そんなに言うなら見せてみなさいよ」


ジェルフィナがワタシに許可を求めて来て、他の騎士たちもぜひ見たいと言った顔をしてきました。
謝罪をしたばかりなのにとは思ったけど、彼の実力も見たかったし、彼もまた嫌がっていなかったので了承しましたよ。


「ミイシャル様、ありがとうございます」
「ですがジェルフィナ、どんな結果でも納得しなさいよね」
「分かっています、必ず勝って見せます」


そういう意味で言ったのではないのだけど、やる気を出しているジェルフィナは、他の騎士たちに応援をされていたわ。
アレストさんは外の庭で戦おうと先頭を歩いたけど、一緒にいる女性たちはちょっと不思議な表情をしていたわ。


「彼が戦うのは珍しいのかしら?」
「お嬢様、楽しみですね」
「そうねアリータ」


そうは言っても、正直後衛の付与魔法士と騎士では戦いにならないと思っていて、期待する戦いは見れないと思っていました。
ですが、実戦が試合ではないと言った彼の言葉を信じ、ワタシもちょっと期待したんです。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

転生貴族の異世界無双生活

guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。 彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。 その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか! ハーレム弱めです。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

処理中です...