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1章 旅立ちの一歩

閑話 賭けをしましょう

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「あの者たちは大丈夫だろうか?」


私がラリーファファ様たちの馬車を見送っていると、ギルマスのローグナス様がため息を付いて呟いていました。

私はそれを見てやれやれって感じです。


「ローグナス様、ラリーファファ様たちなら分かってくれますよ、ほとんどの貴族はああいった生き物、下の者たちの事なんてなんとも思っていません、でもあの方は違う、それを分かってもらう為に、あえてあいつに会わせるんでしょ」


ラリーファファ様が作戦を提示した際、私は更にファンになりました、誰も討伐が出来ず大国ですら放置していた天災、大怪鳥ラフォールを討伐した方ですから当然です。


「そっちではない!俺が言いたいのは、このままあいつに捕まり、奴隷になってしまうんじゃないかと心配なんだ、あいつの後ろにいるのは得体の知れない国だぞ」

「何だそんな事ですか」


ローグナス様の言葉に、私はほんとにやれやれって感じです、ローグナス様はちょっとムッとしていますが、私は全然心配をしていません、私たちはローグナス様の部屋に移動してお話を続けました。


「それで、お前のその自信はなんだ?あの者たちにどんなことがあると言うのだ、お前に言われギルド員や門番に態度を改める様に言った時も思ったが、優秀な傭兵というだけのレベルではなかったぞ」


ローグナス様も忙しい人ですから、報告書を全部は見ていないのでしょう、ですがあの納品報告書はしっかりと見てほしかったですね。


「大怪鳥ラフォールですよローグナス様、ラリーファファ様はあの大災害と言われているラフォールを討伐したんです、素材の買取を報告書に出しましたよね?」

「え!?・・・まさかそんな」


ローグナス様が信じられないって顔しています、私は頷いたのですけどまだ信じていません、私は報告書を棚から出して見せました。


「ほんとだ、素材の買取だけだったから流し読みしてしまっていた、ほんとなのかこれは?」


まだ信じられないようですが、素材の買取で大金を渡しています、これで偽物だったら大変なことですよ、まぁアビルドが鑑定をしたから間違いないわ。


「そ、そうか・・・信じられないがそうなのだな」

「はい、あのフェーリアの大国が大昔戦い、森に封印する事で世界の平和をもたらした、あの天災を倒したのです、そこら辺の傭兵が敵うわけありません」


胸を張り宣言しました、本来なら討伐したと国中、いえ世界中に流れるんですけど、依頼を達成したわけではないですし、傭兵になる前の話なので素材の報告だけになってしまい、書類を各国に送る来年まで誰も知りません、なので私は即狙ったわ、掘り出し物なんてものではないわよね。

大怪鳥ラフォールは羽がとても硬く、普通の攻撃は効きません、そして魔力を食べるので魔法を準備していると、魔力を吸われ食べられて使えないのです、大国が勝てなかったのはそのせいでもあります。


「そうか、登録した後も森で!?ベノムを倒しているのかっ!」


報告書を読み直して驚いています、私は頷きながらウキウキしています。

そう、私も最初は掘り出し物くらいにしか思っていませんでした、でもモンスターの討伐や酒場の情報を聞いている内に、ラリーファファ様のすごさを知りファンになったんです、それからですよ、注意するように見ているとあの方は普通に話をしているのに、どことなく違うところを見ている様に見えたのは、もっと奥の誰も知らない物を見ている、そんな気になるんです。


「ダンジョンのボスも3人で討伐か・・・これは本物だな」

「そうですよローグナス様、なので不意をつかれようとも、あんな親殺しに負けるはずありません、私の全財産、いえ命を賭けても良いですよ」


今回のゴブリン討伐もそうです、ラリーファファ様の作戦と道具があったからこそ、誰も負傷せずに撃退出来ました、普通は大きな損害を受けるほどの事なのにです、それに戦いに快勝したことで誰も気にしてませんが、ゴブリンの数は400はいました、それも森から出て来たゴブリンでその数です。つまりその倍はいたかもしれないんです、そうなると上位種がいたはずなのに森からは出て来ていない、見ていないから誰も気付かないけど、キングは絶対にいたはずなんです、下手をしたらその上のロードも範囲に入ります、それをラリーファファ様たちは気づかれずに倒している、私はそう確信しています。


「そうまで言うのか・・・まぁラフォールを討伐したのならそれも分かるな・・・歴史に残らない英雄か、すごい者たちが家の傭兵になったものだな」

「そうですよローグナス様、だからメリーナ様の専属兵士になってもらい、国王に極大魔石を納品してメリーナ様の株を上げてもらうんです、他の国になんて渡してはいけないんですよ!」


メリーナ様は貴族の中でも話の分かるお方です、そうなればこの国は変わります、ちょっと性格と趣味があれですが、他の貴族とは雲泥の差です。私はローグナス様にそこら辺を押しました、ローグナス様はちょっと引いていますが、それでも足りないんですよ、あの作戦を決めた頭脳を目の辺りにしたから言えます、絶対にメリーナ様の兵士、いえ騎士になってもらった方が良いんです。


「熱くなり過ぎだカリーサ、ちょっと落ち着け、それと机から降りろ」


気付くと私はローグナス様の机の上に乗りだしていました、ちょっと熱くなり過ぎましたっと降りて一息です、でもローグナス様は分かってなさそうなので、ちょっと危機感を覚えたんです、他のギルド職員たちと同じです、なのである事をすると決めました。


「まだ分からないようですねローグナス様、じゃあ賭けをしましょう、もしあいつに怒って帰ってきたラリーファファ様がローグナス様の話も聞かず、この街を出てしまったら私の負け、でも話を聞いて先を読み、残ってくれたら私の勝ちです」

「ほう面白い・・・俺は話を少し端的に言うぞ、それでもいいのか?」


ローグナス様が保険を掛けてきました、普通ならそんな事をしたら逃がしてしまったり怒るところです、ローグナス様も私がそう言うと思って賭けを無しにしようとしていますが、そうはなりませんよ、ラリーファファ様ならそれすらも読み、状況を見るはずです。


「いいでしょう望むところです、私が負けたら一生タダ働きしますよ」

「ほんとに自信たっぷりだなカリーサ、もしかしたらこのまま俺たちに会わず、街を出てしまうかもしれないんだぞ?」

「ふっふっふ、だから良いんですよ、馬車にラリーファファ様たちが乗る時、ローグナス様は心配そうな顔をしていましたよね、でも私は笑顔で見送ったんです、それを見ていたラリーファファ様が気づかないわけありません、ええもう、ほんとすごい人なんですって!」


また私は机に乗り出し言いました、あの方はほんとに何処まで読んでいるか分かりません、サーラの受付に行ったあの時だっておかしいのよ、一番他種族を嫌っていて、仕事をしてなかったサーラを選んだのは偶然じゃないわ、ひと目見ただけでそれを見抜いたの、あれは今後対応しないと報復すると言っていたんだわ。

だから私は、急いでローグナス様に進言して対策を取ったのよ、やり過ぎちゃったけどね。


「まったく・・・じゃあもしお前が勝ったらどうする?専属はもうお前で決定だが、一生分の給金となると」

「それはもう決めています、ラフォールの爪でお願いします」


ローグナス様のかなり引きつった顔を見ました、美人のそんな顔を見れて役得ね。って思いながら私は契約書まで用意しました、これで私の本気を理解してローグナス様も分かってくれるはずです、ラリーファファ様たちの対応はほんとに気を付けないとダメなんですよ。


「分かったサインしよう、ほんとにこれは大変なことなんだな、やっとわかった気がする」

「そうですよローグナス様、ラフォールを倒しているんですからね、分かってください」


ラフォールの討伐は世界の悲願と言っていい程ですが、さすがに私たちが産まれる前の話しで、寝る前に聞くお話しですから大きすぎることなので、実感が湧かないのでしょう、私も実物を見ていなかったらそうだったかもしれません、解体をしたアビルドですら、すごすぎて良く分かってない感じでしたからね。

ローグナス様は真剣になりサインをしました、私は勝ちを確信していますから儲けたと心の中で喜びました、これもラリーファファ様のおかげですね。
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