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1章 旅立ちの一歩

23話 貴族らしからぬ貴族

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「まったく、兄上がこうもバカだったとは思わなかったっす」


自分は今、兄上が統治している元父上の街に向かっているっす、それも乗り心地のひっじょーに悪い馬車でっす。

それもこれも、国を裏切った兄のせいっす。


「幸い戦争の前に分かったっすから、何とか兄上だけ爵位はく奪で済みそうっすけど、もし間に合わなかったらと思うと、ゾっとするっすね」


危うく縛り首っす・・・自己紹介が遅れたっすどうもっす、自分はメリーナ・バーストンっす、爵位が男爵になってしまった可愛い子爵令嬢(元)っす、こんな喋り方っすけど、女性貴族のはしくれっすよ、社交の場ではちゃんとした喋り方をするっす。

今は気にしないでほしいっす、兄上を捕まえる為に、アーボラの街に急ぎ向かっているっすからね。


「メリーナ様少し落ち着きましょう、ここで焦ってもどうしようもありませんよ」


馬車の向かいに座っているメイドのキャミカルに言われたっす、でも焦るなって方が無理っすよ、ここで失敗して逃げられでもしたら、落とされた爵位だって一瞬で消えて首が飛ぶっす。父上が亡くなってから悪い事が起きすぎっすよ、兄上に小さな領地を任されて、のんびりしていたのに最悪っすね。

まさか兄上が父上を暗殺していたなんて、ホント最悪っす、自分は領主になる気はなかったっすのに、もうホント最悪っす、でもこうなっては仕方ないっすから、少し落ち着くっす。


「キャミカル、後どれくらいで着くっすか」


自分は深呼吸をしてキャミカルに聞いたっす、でも答えが返って来る前に馬車が横転したっす、キャミカルが自分を庇ってくれて怪我は、頭を少し打ったっすかね。


「め、メリーナ様!無事ですか?」

「頭を少し打ったっすけど無事っす、キャミカルは平気っすか」


自分の質問に肩を痛めたと返してきたっす、自分も頭から血が落ちてきて目に入りそうっす。手当てをキャミカルがしてくれているっすけど、外では騒がしい声がするっす、これは襲撃されてるっすね。


「安心してくださいメリーナ様、護衛の傭兵は4等級です、きっと倒してくれます」


4等級の雷帝とバルチザンっす、王都の有名な傭兵PTで、近々国に召し抱えられると言う話しっす。

キャミカルはそう言ってるっすけど震えているっす、自分たちの馬車を先に攻撃されている時点で、相手は襲撃に成功した凄腕っす、簡単にはいかないっすよ。自分の手当てを済ませ、肩の固定をしたキャミカルが窓から外を覗き始めたっす、顔色は悪いっすね。


「メリーナ様、傭兵がまだ残っている内に森に逃げましょう、あそこを抜ければアーボラは直ぐです」

「そ、そうっすね」


森を迂回した所を狙われたっすかね、キャミカルの言葉に自分は肯定し、キャミカルが横になったドアを開け森に走ったっすよ。でも途中で足に痛みが走り、自分は転んでしまったっす、どうやら足も痛めていたようっす、キャミカルが支えてくれたっすけど、森まで行けなかったっす。

目元以外を隠している黒服の者たちが5人自分たちを取り囲んで来たっす、もうホント勘弁してほしいっすね。


「こいつか?」

「金髪で長髪をうしろで2つに分けている、服は黒でメイド服の様な変わったドレス、間違いないだろう」


キャミカルが自分を抱えて木を背中にして座り込んだっす、そして5人の襲撃者の内2人が何か言ってるっす。自分はピンクとか白とか赤が嫌いっす、だから普通は着ないんすよ、ドレスは黒を使ってるっすから貴族でも浮いてるんす、失敗したっすかね。


「お前たち下がりなさい!」

「おっと!?」


キャミカルがふとももに着けていたナイフを取りだし、黒服たちに向かって行ったっす、でも直ぐにナイフを取られ捕まったっす。

キャミカルもなかなかの手練れだったのに、あんなにも容易く、これは敵わないはずっす。


「じゃあ始末するか、そっちのメイドはお前たちの好きにしろ」

「ヒャッホウ!さすが隊長分かってらっしゃる」

「メリーナ様!」


キャミカルは4人の黒服に連れて行かれ、森に入って行ったっす、声からして男っすね、このままでは自分たちはもてあそばれて死ぬだけっす。

そうはいかないっすよ。


「お前たち!キャミカルにひどい事をするなっす、自分が相手になるっすよ」

「ふん!お前のような小娘じゃ部下は満足しない、お前は大人しく死んでろ」


多分リーダーであろう黒服の者が短剣を持って歩いて来ているっす、自分は悔しいっす、確かに17歳にしてはない方っす、でもそれが良いと言う人もきっといるっすよ!でもそれなら他の方向に持って行くっす。


「お前たちは兄の差し金っすよね、兄の出した報酬の3倍を払うっす、こちら側に付くっすよ」


そう言ったっすけど、リーダーっぽい黒服の男が笑ってるっす。そして笑い終わると、変わったナイフを自分の顔すれすれに投げてきたっす、頬に少し痛みがあるっすけど、怖くて動けないっすよ。


「俺たちを見くびるなよ小娘、金の為にやってるんじゃねぇんだよ!」

「で、でも兄に付いてるっすよね、それなら」

「はんっ!それはあいつを使ってるだけだ、たまたまこちらの作戦にハマったのがお前の兄だった、もう用済みだからな、今頃は俺の仲間に始末されてるだろうよ」


そう言って男が笑ってるっす、つまり他に目的があるっすね、それに兄がまんまと使われたと言う事っすか。


「お、お前たちの狙いは何なんすか」

「それを聞いても意味がないだろう、お前は今ここで死ぬ」


男が新たなナイフを腰から取り出し、近づいてくるっす、もう自分も終わりっす、せめてキャミカルだけでも逃げてほしかったっすけど、無理みたいっす。


「悪く思うな、これも仕事なんだ」


そう言って男がナイフを逆手に持ち、上に構えたっす、自分はそれを見て体の力が抜けたっす、やっぱり死ぬのは怖いっすね。


「あらあら、そんな事させないわよ」


自分が目をつぶり身を固めていると、すぐ近くでそんな声がしたっす。
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