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4章

62話 サリーたちのダンジョン

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「ここには氷を置こうよサリー」

「ダメよミサ、ここは肉系のモンスターを設置したでしょ、果物や野菜の場所にしましょ」


サリーたちがタブレットを操作しながら楽しそうだが、内容はダンジョン製作といったちゃんとした仕事だ。
サリーたちの村にダンジョンを設置したいと言う事で、吾郎に頼んで人数分のタブレットを取り寄せた。今更だが、自分が作ったダンジョンは異世界に出現するらしく、ミーシャのダンジョンが獣人の村で有名になり、それがテレビに映って分かったんだ。
そこで、丁度ここにいるサリーたちに頼み、勿論本当に出来るかは分からないが実験も兼ねて試しと言うわけだ。だが問題もある、サリーたちの思ってる場所にダンジョンを設置出来るのかと言う事だ。


「設置に自分が関係しているのなら、きっとそれは強い思いだろうから、行けるか?」


ミーシャの時は、出来たら喜ぶだろうというくらいだった。そこにミーシャの想いも乗りダンジョンが誕生したと考えられる。それならば、サリーたちを想えば行けるだろうと、仕事の依頼と思い実行している。
楽しそうに話し合っている姿は、ゲームを楽しんでる子供に見える。他人を見て素直にそう思える様になった自分も少し変わったなっと思ってしまったよ。
庭のテーブルには、サリーたち以外も遊んでいる者たちが見える。自分は庭の少し離れた場所に向かい笑顔で手を振ったぞ。


「シュンだー!収穫を手伝いに来たの?」


大きなカボチャを抱えたミーシャが走って来る。頭を撫でてやり成果を聞くと、とても嬉しそうに報告してくれた。
ミーシャの振り向いた先では、子供たちがキャベツの収穫をしている。子供たちも自分に向かって手を振ってくれるぞ。
みんなを招く様になって、どういう訳か庭の区画が広くなった。理由は分からないが、自分は必要だと思っていたから助かっている。ここでは野菜が1日で出来る様で、サリーたちが野菜の育ち方を学ぶ最適な場所になってるんだ。


「大物だなミーシャ、重くないか?」

「全然平気だよシュン、これはどうやって食べるのかとても楽しみ」


早く調理がしたいとミーシャが自分の手を引っ張って来る。子供たちも作業を止め戻るようなので、みんなで野菜を持って屋敷に歩く。子供とは言え、自分がミーシャ以外と手を繋ぐ様になるとは、ほんとに変わったと思ったぞ。
ミーシャのおかげだよっと、片方の手を取っている彼女にありがとうと伝えた。ミーシャは分からず、頭をコテンと倒してくるのがとても可愛いと撫でたくなった、後で撫でようと楽しみが増えたぞ。


「シュン様、また折り紙を教えてください」

「良いぞシュシュ、その後はピザ釜をつかうか」


気分が良いから簡単に答えるが、自分の手を握っているシュシュはミーシャと同じでとても可愛い。男の子だけど、小さくてウサギの耳も小さな尻尾もとても良いぞ。撫でたいんだが、ミーシャが怒るからしない。
野菜たっぷりのピザにお肉のピザと、フルーツを乗せたものと沢山作ろうとシュシュと話し込む。子供たちもそれを聞き楽しみにしてくれるから、自分はそれがとても大切に思える。もう作る事はないと思っていた絆だったが、やっぱり良いなと実感した。
ミーシャの影響が大きい、そう思って無言でミーシャを笑顔で眺める。ミーシャは笑顔で見上げてきたが、その笑顔は自分は大好きだ。


「こう折るの?」

「そうだぞミーシャ、シュシュもイローンも同じところを間違ってる、一つ戻って直した方がいい」


サリーたちのテーブルから少し離れ、自分たちは折り紙を始めた。カブトムシに恐竜と難しいモノから、ツルや手裏剣と簡単な物までだ。ちなみにピザ窯はサリーたちが準備してくれていて村で使える様にしたいんだそうだ。
口で説明するよりもまずは自分自身でするのが良い。自分が作った物をその後で扱えば失敗が少なくて済むから、異常な成長をする作物も扱える、自分の作る物のデメリットだな。


「さて、サリーたちのダンジョンはどうなったのかな」


子供たちが折り紙を折ってる間、ミーシャと出来栄えを見に向かう。10階まで作ってあるようだが、明らかに没だと分かったぞ。ミーシャと視線を合わせ笑ってしまった程だ。
欲しい物しか用意していなくて、ダンジョンとは呼べないとひと目で分かる物になってしまっていた。これはしっかりと教えなければいけないと、ミーシャと一緒に指摘する事にしたぞ。


「部屋はモンスターだらけ、通路が狭い」

「そうだなミーシャ、これでは一列になってしか進めないし、狭い区域に部屋を作り過ぎたんだ」


空間の制限はないのに、どうしてか村の敷地くらいに収めようとしてワンフロアがとても狭い。そして5人が欲しい物を手に入れる為のモンスターを設置したからギュウギュウだ。
教えていないのだから仕方ない、サリーたちも落ち込んでしまうだろうが、それで良いと怒る事はしない。失敗はするべきなんだ、成功ばかりでは人は成長しない、今回はワザとそうした。


「シュンが教えてたんじゃないの?」

「設置の仕方とか、最初の手順だけさ」


言われた事だけをしていてもいけない。まずは楽しくのびのびと作って欲しかったし、サリーたちの欲しいモノも分かった。
ここから少しテコ入れをすれば、より良いダンジョンが出来るし、失敗しているから反省点の意見も沢山出る、その為の失敗だな。
それにも限度はあるんだ、一度ここで料理を任せたんだが、鍋を爆発させ中身の色が変色していた。あれはさすがにまずいと、自分も失敗をして成長した瞬間で、落ち込んでいた自分に勇気をくれたのが佐々木君だった。
彼は今頃どうしているだろうか?とても心配になってきたよ。


「結婚の挨拶をするって約束、絶対に守ってくれよな」


佐々木君が生きてることを願い、窯にピザを入れてるサリーたちの所に行きお勉強タイムだ。欲しいモノばかり入れるにしても、分散させたり入る人の事も考える様に伝えた。
ピザが焼けても食べさせないで続けた、少しは罰と思って貰う必要があるからで意地悪ではない。ミーシャには窯を任せた、子供たちと先に食べてもらい、サリーたちはそれを見て悔しそうだよ。


「分かったか?そうやってほしい物があるのは良い事だ。だがそれも過ぎるようでは毒になる、今君たちが受けているピザの様に、食べれないだけならいい。しかしそれが大切な人だったら?もう後悔では済まないぞ。サリーたちは強いからそれを忘れている、もう少し考えて作ってくれよな」

「「「「「はい、すみません」」」」」


自分の言ってる大切な者、それは子供たちの事だ。あの子たちも強いがまだ経験も知識も足りない為、不利な状況に陥ったら分からない、子供とは無茶をするからな。
説明が終わる頃、エルフふたりのお腹が限界を迎え凄い音が鳴り始めた。勉強も出来たしそろそろ良いだろうと、お皿とナイフとフォークを渡して行くと、サリーたちから良い笑顔を貰った。


「じゃあ飯にするか」

「「「「「は、はい!」」」」」


ご褒美みたいになってしまったが、サリーたちも分かってくれたから問題はない。しかし次やったら飯抜きだと伝えておく、失敗もやり過ぎはダメだからな。
その夜サリーたちは頑張っていた、リビングで話し合いちゃんと作る事が出来たとタブレットを持って来たんだ。
そして最終確認は、自分ではなくミーシャがしている。やりたいと自分から言ってきたので撫でながら許したが、少し心配だ。


「ふむ」


ミーシャが偉そうにしている姿はとても可愛い、全然様になってないのがまた可愛いんだ。度の入ってない眼鏡も似合うから更に可愛いさが増しているぞ。
見た目から入る物、そう言って自分が付けさせたが、ナイスだと自画自賛だ。


「良いと思う、サリーたちよくやったね」

「ほんとミーシャちゃん」


ミーシャが「先生と呼んで」と返し、眼鏡をあげてる仕草がなかなか様になっていた。しかしサリーが頭を撫でたら、その顔がふにゃってなってしまう、そこは断るか怒るところだ。
それが出来るミーシャではない、威厳を考え次からは自分も自重しなくてはいけない。サリーたちのダンジョンを内緒で確認しながらそう思ったよ。


「じゃあお願いしますシュンさん」

「良し!任せておけ、それで領主の娘さんとはうまくいってるのか?」


やっと本題に入れたと自分はそう思ったんだが、サリーたちの顔色が語っていた。これは聞いてはいけないまずい話題だったようなんだが、聞いた手前先に進まないわけにはいかない。そして顔の原因が分かり、自分も困った顔になったよ。
領主の娘さんにサリーが気に入られたようで、何とか親に許可を貰いずっと村に滞在しているらしい。その間ずっとサリーにくっ付いているから、ミサたちは暖かい目で見てるそうだよ。


「畑仕事も手伝ってくれますから、まぁ村の中では問題ありません。でも、私たちはモンスターとも戦わなくてはいけませんから、その時大変なんですよ」


疲れた顔をして言われた内容は、確かに大変な物だった。娘さんに危険だから離れる様に言っても相当渋るらしく、無事に帰って来てと抱き着いて離れないんだそうだ。
ミーシャみたいだなとか思ったが、自分の場合はモンスターとは戦わない。今では子供たちと遊んだりと離れる時もある。
大変だなとしか言えなかった自分だが、出来る事なら協力したいものだ。ダンジョンの設置はその為にも役に立つ、絶対成功させようと決意を更に固くしたな。


「まぁ統括者と仲が良いのは良い事だな。自分に出来る事は協力するぞ、アイスでも食べるか?」

「アイスは要りませんシュンさん・・・出来れば、クーシャ様と会っていただけませんか?」


かなり悩む案件だと、用意したアイスをサリーに渡さず自分で食べて考えた。子供たちとも話せるようになって来ているから、会うだけなら何とかなる、しかし家の中ではないし、まだ不安だ。


「領主の娘さん、護衛のメイドがいるんだろ?その人はダメだぞ、それでも良いのか?」

「うっ!?それは・・・無理かもです」


そうだろうと、食べかけのアイスを渡し、まずは落ち付いて考える様に言ったんだ。メイドの説得が出来るのか、そもそもここに来れるのかと思ってしまう。
自分に害を与える者はここには来れない、それは今後裏切らないことまで入っているんだ。その後で自分はしっかりと話せるのかという問題が出て来る、だからメイドはここには来れないだろう。


「まぁ時間はあるからな、ゆっくり説得してくれ」

「はい・・・頑張ります」


素直にアイスを食べて嬉しそうだ、張り切ってるなと自分も少し考えを改めた。裏切りられるのを怖がるのは当たり前だ、しかしそれをいつまでも引きずっていてはダメだ。
ここから出る気にはならない、しかしそれ以外なら何とか出来るかもしれない。サリーたちの村に行きたい気持ちもあるし、ミーシャもきっと見てみたいと思っているはずだ。
そう思っていたら、日本の方の入り口からチャイムが鳴り、ビックリして玄関に向かうと更にビックリしたんだよ。
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