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4章

60話 形だけなんてありえない

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「ルーどうですの、凄いでしょ」


驚いて屋敷を見回してるルーに、ワタクシは胸を張りましたわ。屋敷は仮設どころかとても立派で、少し作りが変わっていても気にならなかったのですわ。
屋敷に入ると、玄関が1段高くなっていましたの、そこからはスリッパという、室内用の履き物に履き替え、屋敷内に入るのですわ。そして扉も変わっていますわ、横に動くフスマという扉を開けるのですわよ。
その先はタタミという草を編んで作られた板が床に敷き詰められ、変わった香りのする部屋になっていましたわ。タタミの上に座る様に言われたワタクシたちは、床に座るのかと戸惑いましたわ。ですがザブトンというクッションをサリー様が敷いてくれたのです。


「変わっていますのね」

「こんな部屋が先に幾つもあります。食事はコタツというテーブルを使って食します。クーシャ様の寝室は一番奥ですね」


サリー様の説明を聞きつつ進むのですが、ルーがキョロキョロしていますわ。ワタクシは足元が気になってますの、草を編んだタタミの匂いが独特で良い香りで、なんだか草原にいる様ですわ。
それに壁や柱も凄い作りですのよ!ただ建てられているわけではなく、花や草が彫られ細工をされていますの。そう言えばフスマにも鳥の絵が描かれていたと思い返し、あれだけでも装飾品として上質ですわね。


「花瓶や絵を飾る以外にも装飾は出来るのですわね・・・素晴らしいですわっ!!ねぇサリー様、2階はどうなっていますの?」


2階に行きたいのは、外を見たいからですわ。ここに来る前、均一な白い石が庭を満たし独創的でしたの。四角く加工された平たい岩の上を歩き屋敷まで来たのですが、何処も珍しくて驚く事ばかりでしたわ、そこ景色を上から見たいのですわよ。
サリー様がいうには、2階は客間になってるそうですわ、1階の寝室と同じ作りの部屋が沢山区切ってあるそうですのよ。


「2階の食事は、食台を運んで部屋で食べる事になります。ここでの注意としては寝る時ですね、ベッドではなく布団を床に敷き寝るんですよ」


床に寝ると聞き、ワタクシもさすがに動揺しましたわ。その為にスリッパに履き替え清潔にしているんだそうですの。汚れを入れない様に考えられた作り、ワタクシはとても感心してしまいましたわ。


「ほんとに素晴らしいですわ、でも清潔にと言う事はお風呂はありますの?」

「もちろんですよクーシャ様、こちらです」


サリー様に案内されたのは、最初の部屋の横に見えた通路でしたわ。フスマとは違って色の付いたガラスという板の扉で、中に入ると服を脱ぐ為の広間が用意されていましたわね。
その先に浴槽があると、ワタクシたちは覗いてみましたわ、そこで驚きの景色を見ましたのよ。


「木の浴槽ですわ!?」

「ほんとですね、石で作っていません。これはどうやって組まれてるんでしょうか?凄い細工です」


遠くから見ても木の浴槽はとてもツヤツヤしています。きっと何らかの加工がされているのですわ。しかも先の方にも扉が見たので、ワタクシはサリー様に聞いてみたのですわ。
その先にはロテン風呂という、岩を加工したお風呂があるそうですの。しかも外に作られていて景色を見ながら入る事が出来るそうですわ。


「衝立はしっかりと作ってありますから、覗かれることはありません。更に魔法も掛けられていますから、不埒な人がいれば後悔する事でしょうね」


サリー様が凄く怖い笑みを浮かべていますわ。それだけの防衛魔法が掛けられた衝立なのだと理解しましたの。
魔道具も優秀なんてほんとにすごいですわ。畑でも変わった食材を育てているそうなので、これは明日からの視察が楽しみですわね。


「ワタクシ、もうここに住みますわ」

「くく、クーシャ様!?それはダメです!今回は視察なんですよ」


ルーが止めてきましたが、ワタクシはここが気に入りましたわ。ラザーランドに戻っても屋敷から出られませんし、ここの方がのびのびできますわよ。


「ルーさん、申し訳ありませんけど、しばらく滞在する事になると思いますよ」

「「え?」」


驚いたワタクシとルーは、その理由を教えてもらいましたわ。あの裏切ったスチールクラスの冒険者の代わりがいないそうなのですわよ。戻る為には護衛は必要ですから、そうなると次の物資運搬が来るまで掛かるそうですわ。
ワタクシはそれを聞いて、ガッツポーズをとりましたわ。勿論ルーに見えないようにですわよ。


「本来はクーシャ様たちと来た人達が往復していました。それが今回は戻れなくなったので、新たな商人が選任されるまで待つ事なります」

「そ、そんな!?誰か知らせに出しましょうサリー様、そうすればすぐにでも冒険者は来ます」


ルーが抵抗していますがそれは無理ですのよ。ここでそれが出来るのは、主力のサリー様たちだけですわ。強いと言っても残るのは子供たち、さすがに任せられませんわよ。つまり今までの往復期間にプラスして、向こうが気付いてくれるのを待つことになるのですわよ。
移動に7日、村の滞在に2日から3日が書類に書かれた日数ですわ。どれくらい経てば、向こうがおかしいと思うのか分からず、更に異変に気付いて、初めて冒険者に調査のクエストが依頼されるのですわ。


「それは・・・少なくても、最短で1月は掛かりますね」

「そうですよルーさん、商人の人たちもそんな予想をされてると思います。まぁ皆さん喜んで滞在するでしょうね、いつも帰る時絶対また来るって言ってくれますからね」


サリー様が少し困った顔をしていますわ。どうやら何か秘密がありそうですわね。
ルーも諦めたようで、ワタクシはとても嬉しいですわよ。裏切ったあの男たちには感謝ですわ。


「こ、これが食事ですの?」


その日の夕食はサリー様が運んでくれましたわ。変わったお皿が使われここでも驚きでしたの。そこには見た事のない、花びらの様に飾り付けた料理が並んでいま。
焼かれた魚も普通に置かれるのではなく、食べ易い様に身を分けられ、野菜で包まれているのですわ。
それは素晴らしくおいしそうでしたの、パンの代わりで出されたハクマイという穀物は、一粒一粒が宝石の様にオワンと言う入れ物に盛られ、ミソシルというスープも暖かそうですわ。


「ちょっと、食べるのが怖いですわね」

「安心してくださいクーシャ様。商人の人たちも同じ物を食していますがみんな好評ですよ。ここではこれは普通で、この後お出しする物が特別ですから、それは楽しみにしてください」


ウインクしてサリー様が可愛く言ってきましたわ。ワタクシそれを見て倒れてしまいましたの。
少しして意識を取り戻して食事をいただきましたが、とても美味しく食料難である事を忘れる程食べてしまいましたわね。
そしてワタクシたちだけの特別な物、それはとても冷たくて甘い甘味でした。ワタクシそれをとても気に入りましたわ。


「サリー様、美味しかったですわ」

「ご満足して頂けて良かったです。後はお風呂に入って寝るだけですが、寝る時にはユカタと言う服を着ます。後で説明も兼ねて一緒に入りましょう」

「ふぇっ!?」


サリー様と一緒にお風呂!?それを聞きワタクシは鼻から血が出てしまいましたわ。サリー様と一緒に入るなんて、天国でもありません。
待望のお風呂を楽しみ、ワタクシはルーに髪を解かして貰っています。ほんとはサリー様にしてほしいのだけど、それはさすがに言えませんわ。


「どれもこれも良かったですわねぇ」

「そうですねクーシャ様、あんなお風呂初めて入りました。まさかワタシまで一緒に入るとは思いませんでしたよ」


ここでは使用人とか関係なく、一緒に入るそうですわ。だからサリー様も一緒に入りましたの、それはとても良い物でした、みんなで入るとは楽しい物なのですわね。
お風呂の出来事を思い返し、ワタクシ鼻血が出そうになりましたわ、サリー様の姿を目に焼き付けましたのよ。


「サリー様の体、スラッとしてて良かったですわねぇ~」

「クーシャ様、それはご本人には決して言ってはいけませんよ、きっとクーシャ様と比べてしまってショックを受けます」


サリー様がそんな小さな事を気にするとは思えませんけど、ショックを受けてしまうのはワタクシも本意ではありませんの、なので言わないようにいたしますわ。
それからワタクシの村生活が始まりました。それは2ヶ月間も続き、村に来た商人に手紙を渡しお父様に無事だと知らせたのですわ。追加で村は完成しているから、戻る必要はありませんと報告書を添えたのですわ。お父様が手紙を読み驚く顔が浮かびますわね。
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