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4章

59話 村が出来てる!?

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「ルーそろそろ見えて来るのではなくて?」


ワタクシのそわそわした質問に、ルーは「まだまだですよ」と返してきましたわ。馬車の椅子に座り、またソワソワとワタクシ落ち着きませんの。
この時をどんなに待ったか、学園から領地に戻って来て1年、ワタクシはお父様にずっとお願いしていましたの。そこにはワタクシの想い人がいるのですわよ。


「サリー様、早く会いたいですわ」

「クーシャ様、ほんとに彼女たちなんですか?普通はあり得ませんよ」


ルーがそう思うのも分かりますわ。彼女たちは新人のブロンズクラスですから、普通は一箇所に留まり、相応のクエストを幾つもこなすものですの。ですがラザーランドに彼女たちはいなかったのですわ。
ギルドに聞いても、個人情報だからと教えてもらえなかったのです。だからいなくなった理由を必死で考え、これしかないと確信を持てる案件がありましたのよ。


「資材を運んでる業者たちに聞いたのです、確実に彼女たちですわ」


新しい村の開拓は、領主であるお父様と各ギルドが協力している事業ですの。普通ならば、彼女たちでない可能性は高いのは言うまでもありませんの。
ですけどワタクシは動いたのです!!物資を運び、帰って来た者たちに話を聞いたのですわ。その結果、女性と子供たちが村を作っていると、普通なら信じられない報告を聞く事が出来ましたのよ。
そんな事が出来るのはあの方たちだけだと、確信を持ったワタクシが仮の統治者として立候補したのですわ。お父様も未来の為に良い勉強になると賛成してくれました。
ですが、開拓はそんなに簡単ではありません。始めたばかりの村に行く事は許して貰えなかったのですわ。現地に行きたいのに、報告書ばかりを読み状況を思うだけでの1年でしたわ。
やっとお父様の許しを貰えて、今まさに向かっているのですわ。


「女性と子供だけの隊ですから、まぁそうかもですね。それに報告書をみても討伐してるモンスターが異常です。ファイアーリザードとか、メタルスパイダーって、普通は無理ですよ」

「そうですわっ!!討伐するには、ミスリルクラスの冒険者が10人は必要ですのよ。それなのにブロンズクラスの5人が討伐したと報告書にはありますわ。これだけでもう確定ですわよ」


統治者と名乗りを上げたのも、詳しい情報を手に入れる為ですの。報告書にはランクと倒したモンスターが記載されていますし討伐者の名前が書かれているのですら。その名をみですぐにでも村に向かいたい衝動にかられましたわ。
でもそれは許して貰えませんでしたわ。何せあの時は護衛はいませんでしたの、今だって物資の輸送団に便乗しなければいけないのですわ。


「それにしても、あれから1年ですか、早いものですね」

「ルーは短く感じましたの?ワタクシは、とても長かったですわ。お父様は1年でそれほど開拓は進まないとか言ってましたけど、お父様は知らないのです。開拓を進めているのは、あのサリー様たちのなのですわよ」


普通は開拓には時間が掛かる、それは分かりますわ。早い時期に統治するワタクシたちが訪れれば、それなりの対応をしなくてはいけなくなり、邪魔にしかなりませんの。だから反対されたのですが、書面を送り来訪を知らせたら、歓迎すると返って来たのですわ。


「あの文面だと、領主の館を1年で建てた事になります。正直期待しない方が良いですよクーシャ様」

「それならそれでもいいのですわ。サリー様たちと一夜をご一緒出来ますもの、それは幸運ですわよ。ただ疑問なのは、ワタクシたちの事を知らないのに報告が来たことですわ」


領主の館は、村を作る場合最後にするものですわ。だから書面を送った時期を考えるとおかしいのです。
立派な建物は作られてないとルーは言いますけど、サリー様たちが相手ですから、ワタクシはとても安心していますの。
どんな所なのかしら?と話していると、馬車が止まりましたわ。ルーはまだ着くはずがないと窓から外の様子を見て、そこからルーは動かなくなり、外側から扉が開けられましたの。
外にいた護衛に雇ったはずの冒険者が剣を持って入ってきましたわ。明らかにまずい状況ですわね。


「危険が迫っている、お嬢様とメイドは降りてもらえるか」

「ぶ、無礼ですよ冒険者!武器を納めなさい」


ルーがワタクシを庇ってくれたのですけど、外に出てるだけならば武器を出す必要はありませんわ。
これはもしかしてと、ワタクシはルーを止め素直に従ったのです。外では運搬を任せていた商人たちが縛られていましたわ。


「どういうことですの、あなた達は護衛でしょう」


この光景を見れば誰でも分かりますわ。でもワタクシは聞かなければいけません。
時間を稼ぎさえすれば、助けは必ず来るのです。だって、ワタクシの目でもここから村が見えるのですわよ。きっとサリー様たちは気づいて来てくれますわ。


「どうもこうもねぇよ、なぁザルン」

「そうだなジェクサ、俺たちは毎回物資を抜き取ってたんだ。それがお嬢様たちが同行するって話になってよ、今回は出来てねぇ。もうこの仕事を辞めるから、手間賃代わりにあんたらを誘拐して金を貰う事にしたんだよ。シューザにテンジ拘束しろ」

「「へ~い」」


縄で縛られながらワタクシは思っていましたわ。毎回物資を取ってたなんて万死ですわ、ルーも自分勝手だと怒っていますわ、男たちは言われるだけだから笑っていますわね、だからワタクシは言ってやったのですわ。


「あなたたち縄を解く事をお勧めしますわ。今ならまだ冒険者のランク降格程度にして差し上げますのよ。ですけど、この後になれば容認出来ませんわよ」

「「「「あ?」」」」


男たちが疑問の声を揃えましたわね。ワタクシが頭がおかしくなったと思っているのですわ。でもそれは大間違いで、遠く離れた道に見えて来ていますのよ。
その人影は、段々と姿がハッキリとして来ます。ワタクシはワクワクを抑え男たちにもう一度だけ告げましたわ。時間稼ぎをしているとも知らず、男たちは笑い出しましたわ。
もうお終い、ワタクシは馬車の屋根に視線を移し、あのお方のお姿を目に焼き付けたのです。あのお方は男たちを見下ろし剣を抜きました。これからが楽しみですわと、ワタクシはワクワクですの。


「あらら~ついに尻尾を見せちゃったのね、あなたたち武器を捨てなさいっ!」


男たちは振り返りワタクシを睨んできましたわ。ここでやっと囮と分かり剣を抜いたのですけど、もう遅いのですわ。
ワタクシに視線を向けたのも悪手で、馬車の間から4つの影が現れ男たちを後ろから1撃で倒します。
ワタクシはとても嬉しかったのです、あの時の再来だと、飛び跳ねたいくらいですが、今はまだ我慢です。ルーの縄を解いたのはエルフのお方で、ワタクシはサリー様が来てくれるのを待ちましたの。


「災難でしたねクーシャ様」


待望の時間が訪れて、ワタクシは倒れそうですわ。でもまたまた我慢して、そうでもないと告げたのですわ。


「サリー様たちが来てくれると信じていましたもの、この距離なら見えていたでしょ?」


サリー様は「分かってましたか」と頬を掻いていましたわ。どうやらあの男たちは、ここら辺でいつも物資を取っていたようですわ。だから準備をしていたみたいですのよ。
おバカな人達ですねっと、サリー様と笑ったのです。それ以上にワタクシはやっと再会出来たと言う気持ちでいっぱいです。


「報告書に記載して頂ければ、あんな奴らワタクシがしっかりと処罰して差し上げましたわ」

「いえ・・・実はですねクーシャ様、こいつら以外にもいたんです。近くの盗賊が1枚嚙んでいたんですよ」


盗賊たちを捕まえる為に泳がせていたそうです。さすがサリー様ですわと、ワタクシはサリー様の手を取って尊敬の眼差しを送りましたわ。サリー様はテレていましたけど、ほんとにすごい事ですわ。


「では、今から盗賊を打ち取りに行くのですか?それとも既に捕まえてますの?」


もう捕まえたと、サリー様の視線に合わせて森の方角を見ましたの。その先から子供たちが出て来て、大人数の大人を引きずってきましたわ。ワタクシはビックリしましたわよ。
サリー様たちが倒したのなら分かりますわ、でも盗賊たちを引きずっている子供は、どう見ても10歳以下ですわ。何処にあんな力が?っと不思議でなりません。


「こここ、子供たちが捕まえましたの?」

「そうですよクーシャ様。あの子たちは子供ですけど、立派な狩人です。成人したら冒険者になりたいそうです」


子供たちは、ワタクシたちに手を振った後、土魔法で荷馬車を作り、盗賊たちを乗せて行ってしまいましたわ。ワタクシはそれを茫然と見ていることしかできませんでしたわよ。
ルーもびっくりしてワタクシの元に飛んできます。見えなくなり始めている子供たちを指差し、とても慌てていますわね。


「く、クーシャ様!あの子たちは一体」

「ルー落ち着きなさい。きっとサリー様たちが鍛えたのですわ、普通の子供は出来ませんわよ」


魔法をあんな風に使えるのは、相当な熟練者の証ですわ。サリー様たちが訓練をしたからこそだと考えないと頭が追いつきませんわ。
無理やり答えを出し、ワタクシたちは移動を開始しましたの。もちろん縛られていた商人の皆さんたちも解放しましたわ。
そしてワタクシは馬車の中、ゆっくり進む至福の時間ですの。ワタクシの隣にはサリー様が座っていて、他の方は外で護衛ですわ。ルーがお茶を渡してくれて、ワタクシはクッキーをサリー様にあ~んとしていますのよ。


「く、クーシャ様、近くないですか?」

「そんな事はありませんわ、さぁお茶もどうぞ」


サリー様の腕に寄り添い、ルーから貰ったお茶を飲んでもらいましたわ。このひと時がずっと続いて欲しいと心から思いましたわね。
その間、村のお話を沢山してもらいましたの。ほとんど村が完成しているそうで、さすがサリー様だとまたまた尊敬しましたわ。


「アタシだけの力ではないんですよクーシャ様・・・それよりも、もう少し離れましょ」

「馬車は狭いのですから仕方ないですわ。それよりもほんとに1年でそこまで作っていますの?」


その質問をした時、馬車が止まり到着してしまったのです。もう少しサリー様にくっ付いていたかったですが、ワタクシの最後の楽しみが待っています。
サリー様が先に降りて手を借してくれるこの時間は、考えただけでワタクシは嬉しくてサリー様に飛び込みましたの。サリー様の手を握るだけでなく、抱きしめてもらうチャンスだったのですわ。
とてもとても嬉しかったと、ニヤニヤしながらサリー様をギュッとしました。サリー様はやれやれと呆れていましたかが、それでも突き離す事はしません、ワタクシを受け入れ、ある方向を指差しましたわ。それを見てワタクシとルーは驚いて固まってしまったのですわ。
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