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3章

51話 魔族側の英雄

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これはどういう事なのか、我は腕を組んで考えてしまったのじゃ。
書類を見て、内容を何度読んでも不思議でならないのじゃ。しかしじゃ、その結果だけは喜ばしい事が書かれておるのじゃ。ヒューマンとの戦争で押し返していると報告されたのじゃよ。


「魔王様、結果が良いのですから、それでよろしいではないですか」

「メールシャよ、我の知らない援軍が空から降り立ち、駐屯していたヒューマンたちを撃退したのじゃぞ、楽観視できんじゃろう」


サビールも言っていたのじゃ、今は味方でも今後どうなるのか分からない、薬指大陸にいた部隊を撃退し、次は中指もじゃ。人差し指にも表れるじゃろうが、理由を明らかにしなくてはいけないのじゃ。
サビールには、その者たちをここに招待する様に伝えたのじゃ。褒美を与え味方に取り込む為じゃが、同時に理由も明らかにしなくてはならないのじゃ。
玉座から窓に視線を向け、今頃むこうでは、戦闘が始まっていると心配になったのじゃ。良い答えを頼むと、サビールに向け呟いたのじゃよ。


「魔王様、サビールさまなら平気です、きっとやってくれますよ」

「そうじゃといいのじゃがな」


我たちは今勢いがある、それがいつ終わるのかとても心配なのじゃ。メールシャに伝えても、考えすぎと言って来るのみじゃ。しかしそれが今回で起きない保証はないじゃろう。
勇者がいなくなったとは言え、勢いのあったヒューマンたちの遠征軍。それを引かせた相手が得体の知れない者なのじゃ、とても心配じゃと眠れぬ数日を過ごした。そしてサビールが戻ると、朗報が届けられた。なんとここに来る事を約束してきたのじゃ。


「誠かサビール」

「はい魔王様、明日にはここに来るそうです」


それはとても楽しみ、そう思っているのは我だけの様じゃった。皆の顔色はとても悪く、その理由は何となく分かると理由を口に出したのじゃよ。
そうならぬ様、指示を出すことにしたのじゃ。相手はたった5人で軍を退いた者たちじゃ。
ドラゴニスがここにいないのが懸念じゃな。勇者との戦闘で傷を負っていなければ、そう思ってならぬのじゃ。ギャギャンもガガーランドも今はおらん、サビールだけが頼りじゃ。


「それでサビール、その者たちを招くのに外に席を設けるぞ」


事前の話では、4mほどのゴーレムだという話じゃ。更には5体のゴーレムは合体する事が出来るそうなのじゃよ。体長30mほどになるらしいから大変じゃ。
城の部屋には入らない、中庭にでも用意するかとサビールに提案じゃ。食事は何を取るのかと気になり聞いてみると、サビールが複雑そうな表情を浮かべだしたのじゃ。


「サビール、どうしたのじゃ?」

「魔王様・・・実はゴーレムの中に入っていた者がいたのです」


何じゃと!?我はメールシャと一緒になりビックリじゃ。ゴーレムをその者たちが動かしていたから、話しやすくはなったと、サビールは心にもない事を最初にのべ暗い雰囲気じゃな。
城の中での歓迎が出来るならば、城内での宴を提案したのじゃが、我も同じで不安が増したのじゃよ。
誰かの指示を受け我らを助けていた、それを深く感じたのじゃ。その者は強い力を持っていて、更に慎重にならねばならなくなった。緊張を強めたサビールは提案を支持してきたが、慎重差は更に増したのじゃ。
そして数日掛けた準備が整い、城にその者たちが舞い降りたのじゃ。我はガチガチに緊張しておるよ。


「よく参られた英雄たちよ、歓迎するのじゃ」


5体のゴーレムに歓迎の挨拶をする我は、内心では気が気では無い、いきなり襲ってこないかと心配なのじゃ。ゴーレムの動きはとても速いと聞く、今の距離では一瞬で終わるのじゃよ。
そんな心配を他所にゴーレムの腹が開いた。そこからとても小さな種族が降りて来たのじゃ。
我はその者たちを見た事がない、似ているのは勇者一行かのう?明らかに我の生み出した魔族ではない。


「お招きいただきどうもでしゅ」


1mあるかどうかの小さき種族5人。その者たちは名乗りながら跪いてきた。
忠誠心はあると、我は少し安心して肩の力を抜いたのじゃ。
我も名乗り、場所を移動する事を提案したのじゃ。とても小さき者たちは、城の中を見回して楽しそうじゃ。
その姿を見て更に安心が深まった。嘘や裏切りとは無縁に見えたのじゃ。


「なんとも無垢な者たちじゃな」


助けてくれたのはどうしてなのか、その答えを聞くのがとても楽しみになったのじゃ。じゃから予定を変え、応接室に案内した、玉座の間ではなく対等に話したくなったのじゃよ。
応接室に着き対峙して座ると、まずは助けてくれた事にお礼を伝えたのじゃ。
サビールが既に伝えているのじゃが、彼らを見て、どうしても自分の口から伝えたかった。


「魔王様、あなたはどうやら優しい人なのでしゅね」

「よしてくれレッド殿、我は感謝を伝えただけじゃ」

「その言葉を口に出来るのは、痛みの分かる人だけでしゅ。魔王様は・・・シャングラ様は皆を大切に出来る人でしゅ」


レッド殿はそう言ってくれたが、しかし我はそれしか出来なかっただけなのしゃ。力が無かった不甲斐ない魔王なのじゃ。
ヒューマンが他の種族を集め攻めてきても、ただ守るのが精いっぱいじゃった。勇者が現れると、それすらも出来ないダメダメ魔王なのじゃ。
それが分かるから良いのだと、レッド殿は言ってくれた。だから反省して改善するのだと教えてくれたのじゃ。その為に力になると言ってくれたのじゃ。


「優しい者には力がない者が多いのでしゅ。だからボクチンたちが来たでしゅよ、今後も助ける事を約束するでしゅ」


レッド殿は手を差し出してくれた。その手を取ろうとしたその時、応接室の扉が開きギャギャンが入って来たのじゃ。
サビールが無礼だと止めるがギャギャンは止まらない、我に握手をするのは止めろと言って来たのじゃ。
それを聞いても我は止めない、これは感謝の印なのじゃ。ギャギャンの大声はそれでも止まらず、サビールが剣を抜き止めろとギャギャンに向けた、それを見てギャギャンはやっと止まったのじゃよ。


「魔王様、そいつらは恩を売り取り入ろうとしているだけです。このままでは乗っ取られますぞ」

「何をバカな事を言うのじゃギャギャン、そなたには分からないのか?」

「魔王様、あなたこそ分かってない」


ギャギャンは乗っ取られることを恐れ叫んだのじゃな。しかし我はそれを聞いてため息が出てしもうた。
それはレッド殿が教えてくれた様に、我にしか分からない事。サビールや他の者はギャギャンの言葉に揺れておるのじゃ。我はそれが悲しくてならなかった。
レッド殿たちも我を見て同じ気持ちの様じゃった。じゃから協力してくれると約束を交わし、力を正しい道に使える、それが我の役目なのじゃな。


「分かっていないのはそなたじゃギャギャン。乗っ取りなど起きても良いのじゃよ、平和になりさえすれば良いのじゃよ」


トップが変わる事は、それ程重要では無いのじゃ。レッド殿たちがそれを望むのなら、それは我が使えなかっただけの事。
そう説明しても、ギャギャンは分かってくれずに叫ぶだけじゃ。だからダメなのだと分かったのじゃ。
レッド殿たちもそれが分かっている様子じゃな。じゃから自分たちがここにいると言って来たのじゃ。
自分たちの主は、それがあるから現れない、今日一番の悲しそうな表情をしていたのじゃ。


「お前、何を言っている」

「君には分からないでしゅ、ボクチンたちは魔族ではなく、魔王のシャングラ殿に力を貸すのでしゅ」


ここに来たのもそれを助かめる為。そう言ってレッド殿たちは席を立ち、ギャギャンを悲しそうな目で見ていたのじゃ。その意味が分からないギャギャンでも、我が導けば平和が近づく。
話すだけ時間の無駄だと、我はギャギャンに隊長たちを集める様に指示を出したのじゃ。これは魔族部隊の総意が必要じゃ。


「しかし魔王様、こいつらをこのままに」

「聞こえなかったのかギャギャン!!我はこの者たちを信じると決めた、急ぎ皆を集めるのじゃ」


考えるのは我の役目、ギャギャンもそれは分かっているから従ったのじゃ。部屋を出て部下たちに怒鳴っておったな。
やる事は沢山ある、しかし必要な事は全部やらねばならぬ。レッド殿たちに指示を出している者にも会いたいのじゃ。
そんなお願いをしてみたのじゃが、レッド殿は我だけならばと条件を出してきた。それに反対したのはサビールじゃったよ。


「サビール、どうして止めるのじゃ?今後の為にも会っておくべきじゃろう」

「それは危険すぎるからです、ワタシも信じないわけではありません、しかし一人でなんて無茶です」


サビールでもそんな考えに至ってしまう。じゃからレッド殿たちはここにきて確かめに来たのじゃ、もし我が信じるに値しない者だったのなら、その時は我らの敵になっていたのかもしれないのじゃよ。
レッド殿たちが魔族を平和に導いてくれる、それはとても喜ばしい事じゃ。ちょっとだけゾクっとしてサビールを抑え、レッド殿たちの条件を飲んだ。怖かったからゾクっとした訳ではないのじゃよ、会うのがとても楽しみなのじゃよ。


「で、ではせめて近くまで」

「そうじゃな、それくらいなら良いじゃろう、レッド殿どうじゃな?」


そんな妥協案を聞き、レッド殿は考え込むよりも先に答えを口にしたのじゃ。何でも、領域にはどうせ入れないそうなのじゃ。
近くで待てないと分かり、サビールはまた止めて来たのじゃ。やはりダメかとガッカリじゃな。
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