上 下
50 / 72
3章

51話 魔族側の英雄

しおりを挟む
これはどういう事なのか、我は腕を組んで考えてしまったのじゃ。
書類を見て、内容を何度読んでも不思議でならないのじゃ。しかしじゃ、その結果だけは喜ばしい事が書かれておるのじゃ。ヒューマンとの戦争で押し返していると報告されたのじゃよ。


「魔王様、結果が良いのですから、それでよろしいではないですか」

「メールシャよ、我の知らない援軍が空から降り立ち、駐屯していたヒューマンたちを撃退したのじゃぞ、楽観視できんじゃろう」


サビールも言っていたのじゃ、今は味方でも今後どうなるのか分からない、薬指大陸にいた部隊を撃退し、次は中指もじゃ。人差し指にも表れるじゃろうが、理由を明らかにしなくてはいけないのじゃ。
サビールには、その者たちをここに招待する様に伝えたのじゃ。褒美を与え味方に取り込む為じゃが、同時に理由も明らかにしなくてはならないのじゃ。
玉座から窓に視線を向け、今頃むこうでは、戦闘が始まっていると心配になったのじゃ。良い答えを頼むと、サビールに向け呟いたのじゃよ。


「魔王様、サビールさまなら平気です、きっとやってくれますよ」

「そうじゃといいのじゃがな」


我たちは今勢いがある、それがいつ終わるのかとても心配なのじゃ。メールシャに伝えても、考えすぎと言って来るのみじゃ。しかしそれが今回で起きない保証はないじゃろう。
勇者がいなくなったとは言え、勢いのあったヒューマンたちの遠征軍。それを引かせた相手が得体の知れない者なのじゃ、とても心配じゃと眠れぬ数日を過ごした。そしてサビールが戻ると、朗報が届けられた。なんとここに来る事を約束してきたのじゃ。


「誠かサビール」

「はい魔王様、明日にはここに来るそうです」


それはとても楽しみ、そう思っているのは我だけの様じゃった。皆の顔色はとても悪く、その理由は何となく分かると理由を口に出したのじゃよ。
そうならぬ様、指示を出すことにしたのじゃ。相手はたった5人で軍を退いた者たちじゃ。
ドラゴニスがここにいないのが懸念じゃな。勇者との戦闘で傷を負っていなければ、そう思ってならぬのじゃ。ギャギャンもガガーランドも今はおらん、サビールだけが頼りじゃ。


「それでサビール、その者たちを招くのに外に席を設けるぞ」


事前の話では、4mほどのゴーレムだという話じゃ。更には5体のゴーレムは合体する事が出来るそうなのじゃよ。体長30mほどになるらしいから大変じゃ。
城の部屋には入らない、中庭にでも用意するかとサビールに提案じゃ。食事は何を取るのかと気になり聞いてみると、サビールが複雑そうな表情を浮かべだしたのじゃ。


「サビール、どうしたのじゃ?」

「魔王様・・・実はゴーレムの中に入っていた者がいたのです」


何じゃと!?我はメールシャと一緒になりビックリじゃ。ゴーレムをその者たちが動かしていたから、話しやすくはなったと、サビールは心にもない事を最初にのべ暗い雰囲気じゃな。
城の中での歓迎が出来るならば、城内での宴を提案したのじゃが、我も同じで不安が増したのじゃよ。
誰かの指示を受け我らを助けていた、それを深く感じたのじゃ。その者は強い力を持っていて、更に慎重にならねばならなくなった。緊張を強めたサビールは提案を支持してきたが、慎重差は更に増したのじゃ。
そして数日掛けた準備が整い、城にその者たちが舞い降りたのじゃ。我はガチガチに緊張しておるよ。


「よく参られた英雄たちよ、歓迎するのじゃ」


5体のゴーレムに歓迎の挨拶をする我は、内心では気が気では無い、いきなり襲ってこないかと心配なのじゃ。ゴーレムの動きはとても速いと聞く、今の距離では一瞬で終わるのじゃよ。
そんな心配を他所にゴーレムの腹が開いた。そこからとても小さな種族が降りて来たのじゃ。
我はその者たちを見た事がない、似ているのは勇者一行かのう?明らかに我の生み出した魔族ではない。


「お招きいただきどうもでしゅ」


1mあるかどうかの小さき種族5人。その者たちは名乗りながら跪いてきた。
忠誠心はあると、我は少し安心して肩の力を抜いたのじゃ。
我も名乗り、場所を移動する事を提案したのじゃ。とても小さき者たちは、城の中を見回して楽しそうじゃ。
その姿を見て更に安心が深まった。嘘や裏切りとは無縁に見えたのじゃ。


「なんとも無垢な者たちじゃな」


助けてくれたのはどうしてなのか、その答えを聞くのがとても楽しみになったのじゃ。じゃから予定を変え、応接室に案内した、玉座の間ではなく対等に話したくなったのじゃよ。
応接室に着き対峙して座ると、まずは助けてくれた事にお礼を伝えたのじゃ。
サビールが既に伝えているのじゃが、彼らを見て、どうしても自分の口から伝えたかった。


「魔王様、あなたはどうやら優しい人なのでしゅね」

「よしてくれレッド殿、我は感謝を伝えただけじゃ」

「その言葉を口に出来るのは、痛みの分かる人だけでしゅ。魔王様は・・・シャングラ様は皆を大切に出来る人でしゅ」


レッド殿はそう言ってくれたが、しかし我はそれしか出来なかっただけなのしゃ。力が無かった不甲斐ない魔王なのじゃ。
ヒューマンが他の種族を集め攻めてきても、ただ守るのが精いっぱいじゃった。勇者が現れると、それすらも出来ないダメダメ魔王なのじゃ。
それが分かるから良いのだと、レッド殿は言ってくれた。だから反省して改善するのだと教えてくれたのじゃ。その為に力になると言ってくれたのじゃ。


「優しい者には力がない者が多いのでしゅ。だからボクチンたちが来たでしゅよ、今後も助ける事を約束するでしゅ」


レッド殿は手を差し出してくれた。その手を取ろうとしたその時、応接室の扉が開きギャギャンが入って来たのじゃ。
サビールが無礼だと止めるがギャギャンは止まらない、我に握手をするのは止めろと言って来たのじゃ。
それを聞いても我は止めない、これは感謝の印なのじゃ。ギャギャンの大声はそれでも止まらず、サビールが剣を抜き止めろとギャギャンに向けた、それを見てギャギャンはやっと止まったのじゃよ。


「魔王様、そいつらは恩を売り取り入ろうとしているだけです。このままでは乗っ取られますぞ」

「何をバカな事を言うのじゃギャギャン、そなたには分からないのか?」

「魔王様、あなたこそ分かってない」


ギャギャンは乗っ取られることを恐れ叫んだのじゃな。しかし我はそれを聞いてため息が出てしもうた。
それはレッド殿が教えてくれた様に、我にしか分からない事。サビールや他の者はギャギャンの言葉に揺れておるのじゃ。我はそれが悲しくてならなかった。
レッド殿たちも我を見て同じ気持ちの様じゃった。じゃから協力してくれると約束を交わし、力を正しい道に使える、それが我の役目なのじゃな。


「分かっていないのはそなたじゃギャギャン。乗っ取りなど起きても良いのじゃよ、平和になりさえすれば良いのじゃよ」


トップが変わる事は、それ程重要では無いのじゃ。レッド殿たちがそれを望むのなら、それは我が使えなかっただけの事。
そう説明しても、ギャギャンは分かってくれずに叫ぶだけじゃ。だからダメなのだと分かったのじゃ。
レッド殿たちもそれが分かっている様子じゃな。じゃから自分たちがここにいると言って来たのじゃ。
自分たちの主は、それがあるから現れない、今日一番の悲しそうな表情をしていたのじゃ。


「お前、何を言っている」

「君には分からないでしゅ、ボクチンたちは魔族ではなく、魔王のシャングラ殿に力を貸すのでしゅ」


ここに来たのもそれを助かめる為。そう言ってレッド殿たちは席を立ち、ギャギャンを悲しそうな目で見ていたのじゃ。その意味が分からないギャギャンでも、我が導けば平和が近づく。
話すだけ時間の無駄だと、我はギャギャンに隊長たちを集める様に指示を出したのじゃ。これは魔族部隊の総意が必要じゃ。


「しかし魔王様、こいつらをこのままに」

「聞こえなかったのかギャギャン!!我はこの者たちを信じると決めた、急ぎ皆を集めるのじゃ」


考えるのは我の役目、ギャギャンもそれは分かっているから従ったのじゃ。部屋を出て部下たちに怒鳴っておったな。
やる事は沢山ある、しかし必要な事は全部やらねばならぬ。レッド殿たちに指示を出している者にも会いたいのじゃ。
そんなお願いをしてみたのじゃが、レッド殿は我だけならばと条件を出してきた。それに反対したのはサビールじゃったよ。


「サビール、どうして止めるのじゃ?今後の為にも会っておくべきじゃろう」

「それは危険すぎるからです、ワタシも信じないわけではありません、しかし一人でなんて無茶です」


サビールでもそんな考えに至ってしまう。じゃからレッド殿たちはここにきて確かめに来たのじゃ、もし我が信じるに値しない者だったのなら、その時は我らの敵になっていたのかもしれないのじゃよ。
レッド殿たちが魔族を平和に導いてくれる、それはとても喜ばしい事じゃ。ちょっとだけゾクっとしてサビールを抑え、レッド殿たちの条件を飲んだ。怖かったからゾクっとした訳ではないのじゃよ、会うのがとても楽しみなのじゃよ。


「で、ではせめて近くまで」

「そうじゃな、それくらいなら良いじゃろう、レッド殿どうじゃな?」


そんな妥協案を聞き、レッド殿は考え込むよりも先に答えを口にしたのじゃ。何でも、領域にはどうせ入れないそうなのじゃ。
近くで待てないと分かり、サビールはまた止めて来たのじゃ。やはりダメかとガッカリじゃな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

レベルカンストとユニークスキルで異世界満喫致します

風白春音
ファンタジー
俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》は新卒で入社した会社がブラック過ぎてある日自宅で意識を失い倒れてしまう。誰も見舞いなど来てくれずそのまま孤独死という悲惨な死を遂げる。 そんな悲惨な死に方に女神は同情したのか、頼んでもいないのに俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》を勝手に転生させる。転生後の世界はレベルという概念がある世界だった。 しかし女神の手違いか俺のレベルはカンスト状態であった。さらに唯一無二のユニークスキル視認強奪《ストック》というチートスキルを持って転生する。 これはレベルの概念を超越しさらにはユニークスキルを持って転生した少年の物語である。 ※俺TUEEEEEEEE要素、ハーレム要素、チート要素、ロリ要素などテンプレ満載です。 ※小説家になろうでも投稿しています。

【完結済み】 50のオッサン 異世界に行く

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
帰宅中の電車の中で、うたた寝をして起きたら異世界だった! オッサン「俺もチートで、ヒャッハァ~!?」  作者「いや、君 最後までチート無いからね。 勿論、飯革命も政治革命もね。子供にも成らないからね。」 オッサン「マジかぁ~・・・。」  作者「うん。最後まで活躍できるなんて思わないでね(笑)  勿論、スローライフをさせる気なんて毛頭ないからね(笑)」 オッサン「スローライフも送らせてくれないで。主人公が活躍しない作品なんて・・・」  作者「そこは、最後まで読んでの、お楽しみってことで(笑)」 チートも特殊な力も無く。 果たしてオッサンの運命は如何に?  * * * * * * * もしも、50のオッサン(作者)が、異世界に転移したら こんな感じ?と言う妄想で書いてみました(笑)

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

処理中です...