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2章

36話 待ち構えていた

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「どど、どうしているんですかお嬢様!?」


私たちが野営地に着くと、火を熾してるメイドさんと、クッションの上に座ってるクーシャ様がいたのよ。
クーシャ様は、私たちを見て笑顔で手を振り、私たちを待っていたと言ってきます、そして座る様に進めて来たわ。


「ど、どうするのよサリー」


座る前にみんなでコソコソと話を始めます。
クーシャ様は笑顔で待ってるけど、あれは確実に引かないつもりです。ここは素直に座って話を聞いた方が良い、そう決めてクーシャ様の向かいにみんなで座りました。
メイドさんは、タイミングを合わせ、お茶を私たちに配ってくれましたよ。


「そう言えば、ルーを紹介してなかったですわね。ワタクシの専属メイドのルーよ」


クーシャ様がメイドさんを紹介してくれると、ルーさんはスカートをつまんで礼をしてくます。私たちは頭を少し下げて挨拶をして、話を先に進めて貰ったわ。
どうやら、私たちに専属兵士になってほしいそうよ、次の戦争に参加してと頼まれたわ。


「ラザーランドの道中は安全だから、ワタクシの護衛を用意しないほどです。だからお願いしますわ」


クーシャ様が頭を下げてきてその姿に驚きました。
貴族の人が平民に頭を下げるなんて、絶対ありえないと思ったからよ。メイドのルーも慌てているわ。


「頭をあげてくださいクーシャ様、私たちは目的があってラザーランドに帰るところです。兵士になるとそれは叶わなくなるから、申し訳ないですけど、お断りします」

「そうですの、それだけ重要なのですわね・・・分かりましたわ、でもラザーランドまでの護衛だけでもお願いしますの。あの襲撃があって怖くて眠れません。」


それくらいならと、私はみんなの顔色を窺って了承したわ。クーシャ様はホッとして馬車に入って行きました。


「護衛を受けていただき有難うございます」


馬車を見ていた私たちにルーさんが頭を下げて来たけど、何処となく機嫌は良くないわ。きっと頼みを聞かなかったからね。
でも、それは仕方ない事だと、私たちも休む為に見張りの順番を決め直した。私がまた最初になってしまったけど、これは仕方ないわよ。


「クジ運が無いわね私・・・ルーさんも休んで良いわよ、明日は馬車の運転でしょ」


火の番をしてるルーさんに聞いたけど、頭を左右に振って断って来たの。どうやらスキルを持ってるから平気みたいです。


「そう言えば、私もあまり眠くないのよね。街に帰ったら、絶対確認しなくちゃね」


あれだけ走ったのに眠くないんです。スキル書で見た、臨機応変を持っていればこんな感じになるかもしれないわ。
あれは休める状況にない時、3日は眠らずに済むスキルなの、レアスキルの1つなんですよ。


「サリー様聞いても良いですか、どうして専属兵士のお話を断るのですか?本来なら名誉に思って二つ返事ですよね」


やっぱり来たかと、私はお茶を飲んで思いました。冒険者は最終的にどこかの貴族や王族に着くのが夢です。だからこの話は断るはずのない話だから不思議なのよ。
でも私たちは断ったわ、クーシャ様はその訳を知りたくて、わざわざここに滞在したのかもしれないわ。


「私たちにしか出来ない事があるのよルーさん、それは兵士になるよりも大切で、使命だと私は思ってる。だから悪いとは思ったけど断ったのよ」


本来は嘘を言うべきでしょう。でも私は素直に答え、ルーさんから目を離さなかった。そうしないとクーシャ様は、父親である領主様にお願いして無理やりって可能性もある、それを止めたのよ。
ルーさんはそれを聞き、複雑な顔をしてお茶を飲みます。ブロンズクラスの冒険者がとか、個人で出来る事の少なさを考えてるんだわ。でも、専属兵士を断るくらいだから混乱してるのね。


「それにねルーさん、私たちは冒険者で一番下のブロンズクラスよ、そんな人を専属にしたら名誉に関わるでしょ」

「それはそうなのですが・・・皆さんは女性だけですし、強さも本物です。ここからワタシたちを発見して救ってくれたのは、それだけで評価出来ますよ」


緊急時だから、兵士にしてもそれほど名誉には傷つかない。ルーさんの答えに確かにそうかもと相槌を打ちます。
実力があるのだから、冒険者のクラスもその内上がるとルーさんは引きません。
どうしても兵士に勧誘したいのが分かってたけど、まさかこれほどとは思ってまさんでした。
これは何かある?そう考え、私は警戒したわ、これは向こうに着いても注意した方が良い状況です。


「サリー様、ワタシからもお願いいたします。どうか兵士の件、お受けして頂けませんか?」

「ルーさん、悪いんだけどそれはダメ。私たちは今、その為だけに動いてるの、どんなにお金を積まれてもそれは変えられないし譲れないわ、分かってね」


これ以上は流石に許容出来ないと、私は遠回しにくぎを刺します。領主に言っても私たちは意見を変えず、場所わ変えるだけだと伝えたのよ。
ルーさんは、それが分かりしょんぼりしてしまったわ。容姿からして年上なのに少し子供っぽいと感じたの。
もしかしたら、シュンさんも私たちをそういった目で見てるのかもしれない、大人として見てほしいと頭に飛び込んで来ました。
お茶を飲んで少しため息を付くと、ルーさんがしょんぼりしているので、どうしてそんなに必要なのか聞いたのよ。


「実は・・・遠征軍が招集され、自由に使える兵士がいないんです。国に兵士を取られ、頭首であるアーノルド・ラザーランド様を守る、兵士100人だけしかいません」


アーノルド・ラザーランド様は男爵です。常備兵は1000人と聞いた事があり、子爵は2000人と上がって行くけど多い方じゃない。
つまり、下級貴族の兵士まで招集させる程、危機的状況だと言う事です。
魔族が活発になってると噂だけど、予想よりもひどいのかもしれないと、背中がゾクっとしたわ。


「他の冒険者じゃダメなの?」

「名のある冒険者様たちも招集されていますから無理です。他の者は信頼性が低くて任せられません」


嫌そうな顔をしてるルーさんに、私は「ああ~」っと返答したわ。
冒険者は、自分の身の安全を第一に考えます。雇い主を守るのは誇りを持つ上位のクラスだけなので、今いる者は逃げ出す可能性があるわ、更に裏切る事も考えられる。
そんな人達を雇いたくないんだと納得です。助けに入った私たちだから、ランク関係なく誘ってるんです。でもそれは無理な相談ですよ、私たちにはやるべき事があります。


「学園が休校になり、お嬢様は戻って来たのですが、暇で仕方ないのに兵士がいないから外出は出来ません。これなら王都にいた方が良かったのかもしれません」


1人娘のお迎えにも兵士を出せない状況だと、ルーさんは深刻です。王都でも勇者が倒れたと大騒ぎになってるそうですよ。
ルーさんの気持ちも分かるけど、領主の館で大人しくしていれば問題ないわ、彼女を守っていても世界は安定しないのよ。


「ラザーランドに着けば安心でしょ、その後は100人の兵士に守ってもらいなさい」

「でも・・・そうですね、仕方ないです」


何か言い掛けてルーさんはやめました。凄く気になるけど、貴族のご令嬢を守ってる場合じゃないのよ、まずは食料を増やさないといけないわ。
諦めたルーさんは、私に頭を下げ御者席に向かいました。外套を纏って眠り始めましたよ。


「100人の兵士じゃ不安なのかもね、でも諦めてもらうしかないわ」


信頼できる女性兵士がいないのかもしれないし、色々理由はあるでしょう。でも苦しんでる人は他にいます、そっちを優先するのは当然です。
お茶を飲み夜空を見ながら、静かな時を過ごしました。
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