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1章

16話 先輩に会いに行く

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「既に動いている?根回しだけではダメだぞ、兄さんに手を出した事を後悔させるんだ、一人も逃がすなよ」

「チミニや・・・何やてっ!!捕まえたら報酬は2倍欲しい?3倍だす!せやからその社長は海に沈めるんや、女はウチの【ひそひそ】・・・そうやそうや」


僕の運転する車で、助手席の千穂と後ろの吾郎さんは、なんだか怖い電話をしています。千穂は、僕をチラッと見てコソコソ話し始めた。
きっと僕の会社が関係しているんです、たまに僕でも知ってる、偉い人の名前も聞こえてきた、ほんと怖いんだよ。


「そ、そんなに大事なんだね、僕みたいな普通の会社員は、踏み入って良い事じゃない気がする・・・というか、千穂はどうしてそっちにいるのさ」


幼馴染なのに知らなかった事だと知り、僕は恋人なのにすごく疎外感を覚えます。でも生き生きとした顔の千穂は、とても輝いてるって思うし、それがちょっとドキッとさせるんですよ。


「さて、こちらの準備は終わった、兄さんに報告だ・・・な?」


先輩のいる田舎の屋敷の駐車場に着いた僕は、ふたりの電話が終わるのを待っていました。
ここまで3時間掛かるのに、ふたりは何度も電話を掛けていたんだ。
そんな怖い吾郎さんが車を降りると、疑問の言葉が出ていました、僕がどうしたのか分からず、車を降りてその理由が目の前に広がります。吾郎さんと同じ様に固まり動けません、そんな中千穂だけは違った、ここに来た事なかったから、何処に屋敷があるのと見渡してるよ。


「ど、どうなってるんだ、屋敷はどこに行った?」


最初に我に返ったのは吾郎さんでした。僕も続きますけど、何処にも屋敷は見えず、広い平地があるだけです。


「なぁ学、ここに屋敷があったん?」

「そうだよ千穂、平地になってる場所全てだったんだ、どうしてか庭はそのままだね」


庭の部分は草が生い茂っています、どう見ても変です。
僕は、玄関だった場所に足を踏み入れます、するとそこから先が歪み、目の前に曇りガラスの引き戸が現れたんです。どうして?っと後ろを振り向くと、吾郎さんと千穂はいません、怖くなって後ろに下がるとまた扉が見えなくなり、後ろの二人が僕の名前を叫んできました。


「へ、平気か学君」


吾郎さんが叫んで近づいて来て、千穂が僕に抱き付きます。吾郎さんが言うには突然僕の姿が消えたそうだよ、僕もふたりが見えなくなったと伝え、その先の空間の事を話したんだ。
吾郎さんは、顎に手を置いて考えています、僕も考えてるけどよく分かりません。そんな空気を両断して、千穂は何となくと言った感じで口を開きました。


「これって転移なんと違う?」

「「はい?」」


僕たちは疑問の声を揃えます、転移ってそんな映画とかじゃないんですよ、そんな事あるわけないです。
そう思っていると、千穂が玄関の方に歩きます。僕はやめるように追いかけますが、千穂の姿が消えたんだ、吾郎さんはさっきと同じだと言ってます。


「い、行って見ますか?」


恐る恐る吾郎さんに提案して、僕たちは千穂の後に続いたんだ、すると玄関が見えてきて、千穂が呼び鈴のボタンを押してます。僕は咄嗟に叫んだけど既に遅かったです。


「なに?ダメなん?」

「な、なんで押しちゃうかな!先輩がそれで出てくれば世話は無いんだよ」


先輩はこれでは出てきません、まずメールで伝え許可を貰ってから呼び鈴を鳴らさないとダメなんです。
これは、先輩の心の準備をする時間が必要って事なんです。それも僕や吾郎さんならいざ知らず、初対面の千穂が玄関のカメラに映っていれば、絶対に出てきません。
そう思っておでこを抑えていると、扉が開き子供が出てきました。


「どなたですか?」


僕たち3人は、その子を見て言葉が出てきません。先輩の家にいるだけでも驚きなのに、その子は普通じゃないんですよ。
獣の耳が頭にあるし、長い尻尾が後ろに見え、手足はちょっと大きめで、毛に覆われ肉球が見えたんだ。僕でも知ってる、あの有名な生き物かと、驚いてるんだよ。


「あの~」

「はっ!?ごめんなさい、あの先輩は、茨城竣さんはいますか」


僕は獣耳少女に何とか聞きくと、少女は頭をコテンと傾けて不思議そうです。
ここは先輩の家なのだから、いるのは当たり前じゃないのかな?と千穂に言われてしまい、少女が頷いて来ます。しかし僕と吾郎さんは二人に言いたい!!たとえ子供であっても、先輩と一緒に暮らしているというのは、とてつもなく異常な事なんです。
先輩は他人を信じません、社交的に話すので誰も気付かないけど、必要以上近づくことはしません。


「君は、兄さんと一緒に暮らしているのか?」

「うん・・・お兄さんたちはシュンのお知り合い?シュンはお風呂を洗ってるよ」


ここのお風呂は、とても広いので時間が掛かると思い、僕たちはここで待とうと思っていると、少女が横に移動し「どうぞ」って招き入れてきました。千穂は気にせず入って行ったけど、僕と吾郎さんは顔を見合って、どうしようか迷います。


「ど、どうします?」

「兄さんの許している子供が招いてるんだ、良いんじゃないかな」


吾郎さんは僕の先を歩きます、先輩も怒る事はしないでしょう。
僕たちがここに来たと言う事は、それだけ緊急事態だと思ってくれるはずで、それだけ僕たちを信じてくれてるんですよ。


「君は、どうしてここにいるのかな?」


吾郎さんがリビングに座ると、早速と言った感じで少女の事情を聞きました。
少女はミーシャと名乗り、ここに迷い込んできたと話してくれます。そして先輩に助けて貰ったそうですよ。
話を聞いているうちに、先輩が来ました。僕はまず千穂を紹介します、心の底では怒ると覚悟したんです。でも先輩の顔を見て驚きました、その時の先輩の顔は、とても嬉しそうな顔をしていたんです。
今までの先輩とは違う、そう瞬時に感じ取れましたよ。


「せっかく来たんだ、食事でも一緒に取るか、吾郎手伝ってくれ」

「分かったよ兄さん、それとちょっと話があるんだ」

「作業をしながら聞くさ、佐々木君たちは寛いでいてくれ」


吾郎さんと先輩が台所に向かうと、千穂がミーシャちゃんを見て質問を始めます。僕はミーシャちゃんの反応を見て分かった事があります。この子は先輩と一緒で人を信じていません、だから同じ匂いのした、ミーシャちゃんを先輩は助けたんだ。


「これがわかるのは、僕も似た所があるのかもしれない、似たようなショックを受けてる人は放っておけないよ」


僕の時もそうだったかもと思い返します。そして千穂が色々と聞き、少し疑問が残った、ミーシャちゃんは明らかに日本には住んでません、ここはどこなのかと思うんです。
その答えにたどり着く前に先輩たちが帰って来て、僕たちは食事を始めます。そしてある程度話しが進み、今はお風呂に男性だけで先に入って、僕は戸惑ってますよ。


「自分の家が無くなってるのか・・・まぁ良いんじゃないか?」


頭を洗ってる先輩が吾郎さんに答え、僕たちはどういうことなのか聞くと、先輩も分からないと返って来ます。
デリバリーも届くし、仕事もちゃんと来るから問題ないって答えて来ました。僕としては困ると思うんですけど、本人は困ってませんし、会えないわけではありませんから、このままと言う事になりました。
吾郎さんがその時、その方があいつら動いてこない、そんな呟きが聞こえたんだ、でも聞かなかったことにします。


「今後は吾郎さんの会社で仕事を送ります」

「変わった仕事が来てたのはそのせいだったんだな、これからも頼むよ」


良く分からない返事が先輩から来て、ハテナマークを浮かべたよ。でも仕事はしっかりとする人なので不安はありません。
内容を聞かないで良いのかなとか思いますけど、先輩ですから良いんです。
もし変な事が起きても、しっかり会えますし、危険はなさそうですよね。


「あがったよ千穂」

「遅いやん!じゃあミーシャちゃん、一緒にいこな~」

「うぅ~アタシはシュンと一緒が」


ミーシャちゃんが言い終わる前に、千穂が手を引っ張り連れて行きます。
僕と吾郎さんは、今の言葉を聞いて先輩を見ます、先輩もそれを察知して、リビングに座ってお茶を入れ出しました。


「ふたりの言いたいことは分かる。しかしミーシャはまだ子供だし、道具の使い方も教えないといけないだろ、それは仕方ない事だ」


先輩の家には、不便が無い様、最先端の物が揃っています。なので仕方ないと頷き、その後は最近の事を話したんです。
先輩は、話しを聞いてもそれほど驚いていないので、情報は見てる様でした。
千穂も帰って来て、僕たちは泊めてもらう事になり、僕は2階に初めて上がります。布団に入った所で吾郎さんに質問します。


「吾郎さん、どう思います?」

「どう思うも何も異常だろう、宅配業者も不思議に思わなかったのかと思うし、兄さんが心配だ・・・しかしだ、今は世間に見つからない方がこちらも動きやすい、丁度良いと言っては何だが良かった」


吾郎さんが凄く黒い笑顔です、これは相当大変なことになるかもと、僕はそっちの方が心配になりました。


「でも、先輩が無事で良かったです、ここに来た時、すごく心配したんですよ」

「そうだな・・・あんな兄だが、これからもよろしく頼むよ歩くん」


吾郎さんにもちろんって返事をして、僕は眠りに付きました。朝に起きた時、窓から見える庭が異世界の景色だったのは、とても心臓に悪かったです。
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