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1章

13話 勝ち戦

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「そこで止まるのだ!」


ワシは馬に乗っていた騎士に告げたのだ。騎士はこちらを見て驚き、獣種と呟いておったのだ。なので、ワシは魔族だと告げ、ダンジョンから出陣してきたとも情報を与えたにだ。騎士に何様だと問いただすと、騎士は慌てて何も言えないでおるよ。


「親分、いきなり情報を与えすぎです、相手はここに誰がいるのかくらいしか調べに来てないのです」


急ぎ過ぎたと、下の騎士から見えない小梅の頭をポンポン叩いたのだ、そしてここに砦を築いた目的を話したのだよ。ここから交易をしたいと告げると、騎士はそれを聞き戻っていったのだ。


「どう出ると思う小梅よ」

「こちらに人質がいるのは分かってるです、交易を了承するはずです」


ワシはその答えに「表向きはだろ?」と返したのだ。小梅は頷き相手の次の手を口にしたのだ。沢山の騎士を連れ、交易を任せている大臣が来ると読んでおる。その間に街の住民たちにはある作戦を知らせているのだ。
これで戦になっても、住民たちは動揺せずに芝居と思って終わる、人気があるとこんな事も出来るのだよ。
ワシたちは、団子を食しながら午後まで待ったのだ。小梅の予想通り、騎士と兵士を連れ大臣っぽい服の者が馬に乗ってきたのだよ。


「騎士が5人に兵士は10人か、随分少ないのだ」

「油断を誘い奇襲と考えるとそんなものです、さぁ迎え入れる準備です」


お茶を飲んで門を開けさせた小梅は、大臣たちを喜んで招いたのだ。そして仮設とは思えぬ部屋まで案内をした、大臣たちは驚きを隠せないでいるのだ。小梅は休む間を与えず要望を提示したのだよ。


「ふむ、街に入る時の税を免除してほしいと」

「そうなのだ。ワシらは力があまり強くない、人数を入れないと品物を運べないのだ。だから税が取られると困るのだ、それ以外は何も要望はせんよ」


ワシの話をかなり良い笑顔で聞いてるのだ。しかしその笑顔は、ワシたちが弱いと分かったから出ているモノなのだよ。
大臣が手を上げると、後ろにいた騎士たちが剣を抜き、あろう事かワシたちに向かって構えたのだ。ワシと小梅は座ったままで顔色を変えない、大臣は恐怖で動けないと思って笑ってるのだ。


「こんな街の近くに砦を築いてきたから、どんなすごい魔族かと焦ったが、ただ弱いだけのラットで安心した。そなたらの交易など認めるかっ!!全て奪ってくれるは!」

「いいのです?領主様の息子さんがどうなっても知らないのですよ」


小梅が告げると大臣たちは声を出して笑った、そして言ってきたのだ。騎士の一人が探査系のスキルを持っていて、既に救出に動いていると、一人いなくなっているのも分かって無かったのかと笑っているのだ。
しかしワシたちは知っていたのだ。それを踏まえて聞いてるのに、それすらも読めておらんのだ、そして外も騒がしくなってきて大臣がニヤニヤしているのだ。


「あれが聞こえるだろう。そなたらがのんびりと、意味のない交渉をワタシとしている間、領主様の軍が進軍していた。もうここを取り囲みいつでも攻め込める体制だ。近くに作りすぎたな無能なラットよ」


言いたい放題であるのだ。ワシはため息混じりに思っておるが、小梅は扇子を開いて笑っているのだ。きっと怒ってるのだよ、予想通り過ぎてつまらないと怒っているのだよ。


「ああ~つまらない!これで詰将棋で終わりです」


口調の変わった小梅が扇子をパタパタさせてるのだ。大臣たちは何を言っていると怒鳴ってきたが、ワシも詰将棋とはなんだろうかと思ってるのだ。


「あのねぇ~ここが森に覆われてるなら分かるですけど、ここは見晴らしの良い平原です。兵隊が動いていたらわからない訳ないのです。それに包囲とか、馬鹿じゃないかです?」

「な、なんだと!?」


分かっていないと、口調を戻した小梅は説明を始めたのだ。包囲しても、門は正面に1つだから入れるのはそこだけ、攻めて来るのは誰だって気付くと呆れてるのだ。しかし、それを聞いて大臣たちは高笑いを上げた、そして「バカはそっちだ」と言ってきたのだ。


「我らの軍には魔法士がいるのだぞ!木でできた柵ごとき簡単に破壊できる。一夜にして砦を築いても無意味なんだよ、それにここを一度に破壊できる魔法士だっているんだ」

「騎士は馬鹿でもなれるです?」


騎士の発言に、小梅が呆れて一言だけ答えたのだ。ワシも同意見だが、騎士は顔を赤くして怒ってるのだ。誇りを汚すつもりかと怒鳴るのを聞き、小梅はやれやれって感じで口を開いたのだ。


「あなたたち、アチキたちが何処から来たのか聞いてないです?普通の木じゃないのだから、簡単には破壊できないのです。それに大魔法を使うにしても、まずは人質の救出が先なのです、撃ったらその子も道連れですからね」

「ぐっ!?」


騎士がぐうの音も出せず、小梅に言い負かされたのだ。ワシたちの中には、土の中を自由に動ける者がいる、そして今頃兵隊たちは穴に落ちていると、小梅がわざわざ教えたのだ。


「更に言うとですね、穴に落ちて直ぐ拘束です」

「そ、そんなはずがあるかっ!オレたちがオルランド様を救えば、まだ大魔法士のオバス様が」


騎士が途中で言葉を濁したのだ。喋っている間も小梅が扇子をパタパタさせ始め、まだ分からないのかと雰囲気を出したからなのだ。騎士はそれも防がれてると悟り言い返すのを止めたのだ、これが詰将棋という奴なのだろう。


「わ、分かった、ワタシたちの負けだ、交易を許可するからオルランド様を返してくれ」


やっと観念したかとワシはほっとしたのだ。しかし小梅が扇子を閉じて目をギラつかせた、それに気づいたのはワシだけらしく、大臣たちは下を向いているのだ。


「返すわけないでしょ馬鹿ね、それに親分がどうしてもっていうから、交易の条件を【あれだけ】にしたの、そっちが一度断ったのよ、そのままで行くはずがないじゃない」


小梅が口調を変えて1枚の紙を大臣に渡したのだ。それを見て大臣は気を失ってしまい、騎士がそれを支え兵士が紙を拾ったのだ。その時、ワシも内容を見たが、倒れるわけだと思った。


《交易条件》
その1
・こちらが持ち込んが物は全て税を免除。
その2
・街からの出入りは砦を経由してでないと行ってはならない。
その3
・出入りの際は金貨1枚を税とする。
その4
貴族及び騎士は財産を没収、また地位をはく奪し平民として暮らす事。
その5
武器の携帯を禁止、こちらが管理する。


「これは交易条件ではなく、降伏条件なのだ」


ワシは座ったままで呟いていたのだ。小梅はやはり恐ろしいと、仲間なのが頼もしく思えたのだ。
騎士たちは、大臣を抱え退散の準備を始めた。まだサインはされておらんから、ワシは止めたのだ。了承は領主にゆだねると言ってきた、それを聞いて小梅は更に言ったのだ。


「ああ、言い忘れたデス、捕獲した兵隊の身代金は一人金貨1枚と銀貨3枚、それと銅貨2枚デスからね。全員を救ったら、領主様の財産と同じかもデスが、それは【偶然】だと伝えてほしいデス。もし断ったら・・・分かるデスよね?」


小梅の表情を見て、騎士たちは一斉に頷いておった、ワシも一緒に頷きそうになるほどの迫力だったのだ。その後は小梅の予定通り、ワシたちが街を統治する事になり、平和な街を目指したのだよ。
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