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1章

11話 お次は支援

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「シュン、朝だよ」


今日は、自分よりも先にミーシャが起きた様だ。ここの暮らしにも慣れたミーシャは、朝食を作る様になってくれた。厚切りトーストにスクランブルエッグ、それと手でちぎったレタスを添えた皿がテーブルに2つ並ぶ、ミーシャが向かいに座り、自分と一緒に食事を取る、何とも幸せな時間だ。
誰かとこうやって食事を取るなんて、この生活を始めて弟以外にはいなかった・・・いや、人見知りだから前は大抵断ってただけではある。しかし自分はもう裏切られたくない。
ミーシャは特別なんだと昔の事が頭をよぎった。ミーシャは人間をヒューマンと呼び、そいつらに酷い目に会った子供だ、自分の様に裏切られ逃げて来た仲間だった。そんな子を拒絶する事は自分には出来ない、だから特別な存在だ。
ケチャップを口に着けていたミーシャの顔を拭いて自分は思う、ここは今までの田舎ではないのかもしれない、しかし生活に支障はないし、自分のやる事は変わらない、のんびりとした幸せなひと時を過ごせればそれで良いんだ。


「さて、ウサギダンジョンを作って2週間、そろそろ次が来ないかな?」


仕事がなかった2週間、ミーシャの為に全力で時間を使った。一緒にテレビゲームをしたり、簡単な計算を教えたりしたんだ。
一番変わったことは庭に出たことだ。ミーシャとキャッチボールをして過ごした時間は、とても楽しくて満たされたんだ。自分から外に出るなんて、自分でも驚いたよ、それからは庭で遊ぶようにもなった。
まぁ、ほとんどは庭で遊ぶミーシャを窓際から眺めて終わってたんだ。遊んでいるミーシャをスケッチブックに書いたりもした。たまに景色を書ていた自分だが、人を描くなんて初めての事だったよ。


「う~ん・・・やっぱり変だよな」


2階に上がり、パソコン画面を見て自分は唸る。仕事のメールが来たんだが、またしてもダンジョンを作ってくれと言う内容だ。こんなに立て続けに変わった仕事が来たことはないと、唸って悩んでいるんだよ。


「ゲーム会社と揉めてるんだろうか?だが、前のダンジョンは好評だったよな」


感謝のメールは貰っていた。もしかしたら、もっと作ってくれと追加要請が来たのかもしれない。佐々木君には、そこら辺全てを任せている。しばらくはこの仕事が続くんだろうと納得だ。
佐々木君を信頼する決め手はそれにある、普通なら自分に一度相談をしてくるのが普通だろう。しかし、できうる限り人と話したくないのが自分なんだ、いちいち連絡をしてほしくない。やれと言われたら、自分の作れるものなら作るし、断る場合はほんとに無理な時で説得されても困る案件になる。
説得の為に話をしても意味がなく、長引くのがとても嫌だ。無理な物は無理なのに、いちいち聞くなと言うことだよ。
そこが分かっている佐々木君に感謝をしつつ、いつもの様に1階に戻って日向ぼっこだ、そしてミーシャも横に寝転がり書類を読んでいる。


「今回は、人を入ないんだねシュン」


文章を読んでミーシャが不思議そうだ。良く読めたと撫でてやりながら自分も読み進める。内容は外にいる貧しい人たちを支援したいと言うものだ。もちろん、悪い奴らがダンジョンに入ってくるのは同じで、その対策も考えてほしいとあるぞ。


「この前見た、ドロボウさんのお話に似てるねシュン」


ミーシャを撫でながら肯定した。ミーシャと見たのは時代劇で、悪い代官からお金を盗み、それを貧しい人たちにそっと配る内容だ。
ミーシャはそういったお話が大好きなんだ。他にも、貴族からしか奪わない森の狩人や海賊の奴も見た。あの有名な映画、お城にとらわれたお姫さまを、女ったらしで有名なドロボウさんが救い出すというあれだ。
思い出したら見たくなったと、後で見る約束を交わし、どんなダンジョンを作ろうか考えを巡らせた。今回はミーシャも考えるのに参加してくれる。
ミーシャが作っているダンジョンは、徐々に人が入る様になっているんだ、このゲームは自由度が高くて助かると思ったよ。


「支援って事だから、衣食住の確保が基本だろうな」


ミーシャが衣食住と聞いて首を傾げてしまう。読み書きと計算を教えてるがそこら辺はまだだ、そろそろ難しい道徳も教えようと、ダンジョンとは違う事を考えてしまった。しかし、自分にとってミーシャは何よりも大切だ、仕事のダンジョンなんて後回しにしても良いとさえ思う。だから、まずはミーシャに理解してもらう事から始めた。


「ミーシャは食事をしないと死んじゃうだろ?それに住む場所がないと寒くて凍える、それに着る物がないと恥ずかしいよな」


分かりやすく説明すると、そのたびにミーシャは頷いてくれた。最後の衣類の時はちょっと困った「シュンになら見られても恥ずかしくない」とか言って服を脱ぎだしたんだ。
一緒にお風呂に入る仲だし、寝る時も一緒だから今更ではある。しかし、ここでは衣食住が必要って話なので、無いと困る事を何とか説明したんだ。


「人が生活をする上で必要な物って事だ」

「なるほど、シュンはすごいね」


自分がすごいんじゃなく、世界がそうなんだとミーシャをなでておいた、そして人が生存する上での優先順位も話したんだ、それを聞いてミーシャはまた首を傾げてるよ。


「体温調整?」

「そうだぞミーシャ、人はそれが出来ていないと、1日だって生きていけない」


サバイバル知識の中にあるものだ。人は体温調整が出来ていないと3時間で死に至る、水分を取らないと3日しか生きられず、3週間食事を取らないと死んでしまうんだ。
ここで衣服の話も加える為、衛生面が悪いと病気になると伝えた。ミーシャは怖くなったのか、震えて自分にしがみ付いて来た、怖がらせてごめんと、ヨシヨシと撫でて安心させた。


「つまりなミーシャ、今回のダンジョンはそれの順に支援できるようにする。モンスターはラットしか設置できないが、数は1000匹設置可能だ」


前回と前々回は100匹までだった。しかし、今回配置できる数が一桁違う。
もしかしたら、ランクの高いダンジョンなのかもしれない。自分がそう思う理由は、設置数以外にも決め手がある。設置出来るモンスターのランクが今までと違うんだ、なんとユニーククラスまで設置できるようになっている。これは今までダンジョンボスになっていたクラスだから、そう予想できるというわけだ。


「ダンジョンに設置できる物は、広範囲フロアが増えてるだけで他はない、しかしモンスターの種類は結構存在していた、コックラットにコンストラットと、この為にいるような職場で働けるラットたちだな」


ユニーククラスには、他にも映画通りのドロボウたちの姿をしたラットもいた。モンスターたちが上手く動ける様、ダンジョンは10階すべてを広範囲フロアの森にしてみた。木を伐り加工まで済ませ、現地では組み立てるだけという工程にするんだ。ダンジョン内には森も湖もあるので飲料水や食料なども十分に採れる。


「すごいねシュン、後は悪い奴をやっつけるだけだよ」


こぶしを胸の前で握り、張り切っているミーシャはとても可愛い、なので沢山撫でておく。しかし、今回のそれが一番の難所と思い悩んでしまう。
映画や漫画を見たミーシャの言うように、悪い奴をやっつけてもめでたしめでたしにはならないのが現実だ。新たな者が代わりを務め、何も変わらないとか良くあるんだ。
自分たちが見た映画や漫画はフィクションだ、現実ではそう簡単にはいかない。今回は、ダンジョンを守れば良いわけじゃないと悩んでしまう。外にいる支援した者たちがとても重要で、支援しても奪われては意味がない。


「じゃあどうするの?」

「簡単だよミーシャ、悪い奴らの目を支援者から遠ざければいいんだ。標的を今まで通りダンジョンにする」


支援するだけではそうはならない。しかし悪い奴らに嫌がらせをすれば、そいつらは必ずこっちに目を向ける事となる。映画では、支援者が人質になり大変な目に会うが、分かっているなら対処も出来る。モンスターにもそういった利口な奴はいるし、それを設置すれば作戦を考えてくれるだろう。


「今回はダンジョンと言うよりも、隠れ里って感じだな」


ダンジョンの設計を済ませて自分は呟く。10階までを作ったが、家が建てられ外で必要な物を作る作業場など、いろいろな物が建てられている。
ダンジョンには見えない仕様だと、自分でも思ってしまったな。モンスターも職人ばかりで服が作業着だったりしている。もちろん、防衛用もそろえてはいるぞ、隠れ里と言ったのは、モンスターたちの容姿を見ての呼称だ、忍者ってかっこいいよな。
そこまでを設計し、2階に上がって早速メールで届けた。返事が返ってくるのが楽しみだが、これでダンジョンとして良かったのかと疑問も残る。だがミーシャが映画を見たいとせがむので、直ぐに疑問を忘れお楽しみの時間となった。
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