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2章 大盤振る舞い

27話 土塊ではなかった

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「なぁジンジャーあれで良いんだよな?」


我は、海岸沿いの土塊を一緒に見ている部下と、とても異様で意味がないと思っていた。


「アレクス隊長、あんな使えないヘンテコな壺よりも、兵士を並べましょうよ」
「ジンジャーそう言うがな、援軍で来た部隊が並べたんだ、邪魔になるわけでもないし、魔法兵はその遥か後方だ」


船が接舷されそうになってからでも遅くはないし、魔法兵を守るのが優先だ。
土塊を置いた部隊は、他にも違う場所に置いたらしいが、戦いの役に立つとは思えなかった。


「まぁいい、我たちは街を守るだけだ」
「ですね、命に代えても」


相手は勇者が率いる男の大軍隊で、船を沈めなくては我らに勝ち目はないと思っていた。
だからこそ、ウエキバチとか言う土塊が置かれても何も言わなかったんだが、ついに敵軍の船が見えて来てそれどころではなくなった。


「来ましたよ隊長」
「ジンジャー落ち着け、あのような数は男のいつもの数だろう」
「で、ですけど大型の船が30はあります」


あれに300人は乗っているから、ジンジャーはかなり怯えてしまった。
前ならそんな事は無かったが、勇者が乗っていると言うだけでこれほど士気は下がってしまったんだ。


「魔法兵の攻撃だ、ジンジャー急ぎ合図を」
「隊長まだ魔法の射程ではありません」
「っく、我としたことが慌てていた、後どれくらいだジンジャー」
「あと2時間と言った感じでしょう・・・か?」


海の方を見るジンジャーが、指を振るわせて口を開けて驚き始め、我もその光景を見て何が起きているのかが分からなかった。
海岸沿いから、巨大な口をした緑の物体が海に飛んでいき、その遥か上空には魔法の弾が飛んでいたんだ。


「ど、どういう事だジンジャー」
「じ、自分に言われても・・・魔法兵の射程ではありません」
「も、もしかしてこれは」


他に置かれた土塊の効果なのかと、我は急ぎ海岸沿いに走ったが、あの土塊から緑の茎が伸びていた。
葉っぱも付いていたので植物なのが分かり、遠くの船が沈んでいるのも見えたよ。


「た、隊長」
「ジンジャー・・・どうやら、これは相当凄い魔道具の様だぞ」
「そ、そうなんですね」


海に伸びた緑の茎が縮んでくると、あの大きな口が戻ってきて、口の中から拘束された敵兵が海岸沿いに捨てられていった。
大きな口の植物は何度も往復し、敵兵が海岸沿いに山の様に置かれたが、我たちが勝利している事を理解していなかったよ。


「これを置いた者たちは何処に配属されている」
「たたた、確か魔法士が配置された丘の上だったかと」
「遠すぎる!これでは聞きにいけないではないか」


この場を守らねばならないから、我はまず男たちを運ぶように指示を出したよ。
既に船は見えなくなったが、あの攻撃で撃沈したようで、兵士たちは喜び始めたんだ。


「もしや、我たちは勝ったのか?」


実感の湧かない戦いになったが、どうやら勝利した様で男たちは命乞いをしてきたよ。
あの草が怖いのか、我たちよりも草に視線を向けて震えていて、他に部隊は来ないのかと尋問を始めた。


「そ、それは」
「隠すとあの草に食わせるぞ」
「ひっ!わわわ、分かったしゃべるから勘弁してくれ」


それだけ怖い思いをしたんだろうが、撃沈した所を助けられた感じなのに、どうしてここまで怖がるのかと思って話を聞いたが、どうやらここに向かった船以外もいるらしい。
陸からも攻め込む事になっていて、そこにいる魔法士たちが危険と焦った。


「お前らは囮か!」
「こ、殺さないで」


我の殺気に怯えだす男たちだが、これしきで怯えるなら戦いなんて挑むなと、男の首を掴んで持ち上げ言い放ってやった。
その男は泡を吹きだしたから放してやったが、こいつらにかまっている場合ではないので、ジンジャーと共に兵をまとめ丘の部隊に合流を急いだんだ。


「あれアレクス隊長じゃないっすか、海沿いは良いんっすか?」


息を切らせて丘まで来た我たちに、事態をまったく把握してない魔法士の部隊長のジュミナスが間抜けな質問をしてきたよ。
海に向かっての攻撃もしてないし、我たちも合図を上げてないから仕方ないのだろうが、あの空の攻撃を見てないのかと指摘したよ。


「あれっすか、だって届かないっすよね?」
「それがなジュミナス、全滅させたんだよ」
「え?・・・マジっすか」
「ああ、おかげで海からの敵は全滅だ」


捕縛をしたことは伝えたが、今はそれよりも注意しないといけないから、まず部隊を180度向きを変える様に伝えたよ。
陸から進軍してくる敵に対しての対応だったが、攻め込まれなくて良かったと間に合ったことを安堵した。


「ほ、本当にくるんっすか?」
「あの怯えた男の話だからな、あれが嘘とは思えない」
「離れた陸に上がって後ろからとか、男たちが使いそうっすけど、まだ来ませんね」


船を街に着けるための襲撃と考えると、そろそろ来なくては意味がないのだが、待っていても敵兵は姿を現さず、嘘だったのかと思う前に他の憶測が頭に浮かんだ。
他の場所に向かい、我らを孤立させる作戦と読んだ我は、追撃班を作る為に街に一度戻る事にしたんだ。


「急げ、馬を集めて追撃だ」
「アレクス隊長、どうしたのだ?」
「そなたは、あのウエキバチと言う魔道具は何なのだ」


やっと会えた者たちだが、その者たちは拘束してる男たちを連れていたんだ。
陸から襲撃する部隊がその男たちだった様で、捕縛したから戻ってきたと言ってきたよ。


「それを聞いて安心した、他にはいないか吐かせたか?」
「勿論だが、いても途中で捕まるようにガウガウフラワーたちを配置している、他の隊が向かっているよ」
「そ、そうなのか」


計画的に動いてくれていて、我の立場が無かったが、とても頼もしいと安心したよ。
そして、それを計画した者が到着すると言う事で、我は出迎える準備を男どもそっちのけで始めたのだ。


「捕虜の男どもは倉庫にでも入れておけ、まずはイバラ殿を出迎えるぞ」
「うっす、既に兵たちに運ばせてます」
「でも隊長、勇者ってどこ行ったんですかね?」


そこは確かに疑問ではあったが、捕まえた男の中にいるだろうと兵士に調べさえる指示を出したんだ。
そして、日が落ちる頃にその者が到着したんだが、変わった形の馬車1台だった。


「じ、ジンジャーこれはどういう事だ?」
「分かりませんよ隊長」
「急いできたから、部隊を連れてこなかったんじゃないっすか?」


きっとそうだと思って馬車の扉が開くのを待ったが、開かれて更に驚かされた。
扉からは、冒険者たちが何人も出て来て、いつまで続くんだと言うほどの数が並び始めたんだ。


「あ、あの馬車は魔法の馬車なのか」
「さ、さすがっすね」
「兎に角、凄い人なんですね」


どんな人物がイバラ殿なのかと期待していたら、とても小さくてかわいい者がその人だった。
しかし、一緒にいる者たちの信頼はさすがと言う雰囲気で、我は小さいながらも大きな何かを感じたのだ。


「た、隊長」
「そ、そうだな、まずは挨拶だな」


こうして、我はイバラ殿と対面したんだが、凄い者という印象とは違い、やはり凄い方だった。
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