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2章 モフモフ同志の為に

29話 最前線はボロボロ

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「途中から砦は見えてたけど、これは参ったね」


僕たちは、遠目から見ている砦に入る予定だったのだけど、そこは既に敵軍に包囲され、籠城している最中でした。
それと言うのも、学園の学生部隊は各所の最前線に3ヵ所に別れ、僕たち1年が担当のアリオーダン砦が移動中に取り囲まれてしまった訳です。


「どうすんだよグゥガ」
「想定内だよサズラ、フォーミに任せよう」


偵察を任された僕とサズラは、急いで仮陣地に戻ってフォーミと集まってたリーダーたちに報告したよ。
誰もが険しい顔で、もう撤退しかないと言う感じです。


「皆さん、少し落ち着くのですわ」
「で、ですが包囲されていては合流は無理ですよ」
「そうです、連携も出来ませんし、相手は4000もいるんですよ」


こちらは300と言う事で、ゴブリンよりも多い数に誰もが逃げ腰です。
でも、相手もこちらのリーダーたちも分かっていません。


「あなたたち、もう少し考える事を覚えるのですわ」
「で、ですけど」
「グゥガとサズラに偵察させたのは、敵の数を確認する為ではありませんわよ」
「ち、違うんですか?」
「当然ですわよミルティーさん」


フォーミの言う通りで、みんなに伝えた情報は空からの偵察部隊からで、僕たちには更に補給部隊が付いています。
それは敵の知らない事で、こちらでも上層部のごく一部だけが知ってる事で、ここでも教えず頭の中で考える事を伝えたから、声にならないくらいビックリしていたよ。


「そして、これはリーダーである皆さんにも出来る様になってもらいますの」
「「「「「うぇっ!!」」」」」
「相手はどうして籠城してる砦を攻めないのか、分かりますかしら?」


この戦いは勝つことが大前提で、それ以外にみんなの教育もしなくてはなりません。
学園の教育がダメダメだったので、体力だけを強化して来た僕たちに出来る最良の方法で、主人公のミルティーを導かなくてはならないから、僕の視線はそっちに向いてしまったね。


「それは・・・戦力が足りないとか?」
「ミルティーさん、それはどうしてかしら?」
「籠城された場合、戦力は倍以上が必要だからです」


ギリギリ正解とフォーミは伝えたけど、それだけではなく相手の状況も考えようと頭を使わせます。
ヒントとして、ここまで帝国は止まることなく攻めて来ている事で、あいつらはここで初めて止まったんだ。


「ちょっと待ってくださいよフォーミさん、戦場が長引いた場所なら他にもありますよ」
「それはですわねミルティーさん、ただ単にこちらの兵が多くて持ちこたえたに過ぎませんわ」
「そ、それじゃあどうして」
「それが今回の問題ですわよ、良くお考えなさい」


ミルティーがう~んっと考えてて、答えは兵力が各門に分差して不足している事だけど、フォーミはどうしてそうなっているのかも聞いてるんだ。
だけど、誰もそこにたどり着けず、フォーミは僕に視線を向けて来て、戦線が伸びきったことが原因と答え、その為に今までの作戦が出来ないでいるから攻めあぐねていると教えたんだ。


「そう言う事ですわ、だから相手は援軍が到着する時間を稼ぎたいのですわよ」
「籠城は相手にとっても助かった訳ですか?」
「それならどうするんです、このままでは兵士が」
「皆さん落ち着きなさい、冷静に考えれば簡単な事ですわ」


いったいどんな方法があるのかと、リーダーたちは期待したけど答えは簡単で、ワタクシたちが攻めるのですわっとフォーミが答えを示しました。
数が少ない僕たちには正直それしか方法はないけど、それを聞いたリーダーたちは困っていて、無謀と言って来たよ。


「し、しかしですよ、相手は4000ですよ、勝てるわけがない」
「あらあら、準子爵家のローバトル様ともあろう者が、あの砦を見て分かりませんの?」
「ど、どういうことだ?」


4000と言っても籠城している砦を囲むには、兵を分散させるしかなく、4ヵ所の門を1000人で見張っているんです。
そうすると、僕たちが戦うのは1000人という事になり、それなら作戦でどうにでもなる範囲とフォーミが余裕で伝えたよ。


「で、でもどうやって」
「ミルティーさん、2週間ではありましたが、あなた達はどんな訓練をしてきましたか?」
「それは・・・なるほど」


そういう事っと、フォーミは一枚の地図をテーブルに広げ、攻め込む位置を指で差しました。
それこそが僕とサズラが偵察に行った目的で、崖の近くの北門が奇襲の出来る場所だったよ。
、距離もほどほどにあるから、奇襲にはもってこいの場所だったよ。


「崖を登った先が林で待機する場所もあります」
「グゥガの言った通りですが、よじ登る事が出来ればですけど、皆さん出来ますかしら?」
「忘れるわけがない」
「あの厳しい日々はこのためだったんですね」
「その通りですわよミルティーさん、では装備を最低限にして向かいましょう」


リーダーたちが返事をしてテントを出ると、フォーミはため息を漏らしたよ。
ここまで説明しなくてはならないのかと、先が暗いのが見えていて、僕に涙目を向けて来た。


「お疲れ様フォーミ」
「まったくですわ、どうして戦線が伸びきっているのかも分かってませんし、それを知っている事にも疑問を持ちません、お先真っ暗ですわよ」
「そ、そうなのか?」


サズラも分かってないけど、それは少し考えれば分かる事だったんだ、こちらが弱くてどんどん進軍してしまったから、相手は補給が間に合ってないんだ。
そして、それはこちらの策でもあり、ここから挽回する算段でいます。


「要は、勝ったと思わせて引いていたのですわよ」
「じゃ、じゃあ、さっきの話で出た戦線が意地出来ていたのって」
「そうだよサズラ、指示を聞かなかった部隊が頑張ってしまったせいだった」


負けて引くわけだから、領地は荒らされボロボロになってしまうけど、こちらが弱いのがいけなかった。
相手の数が多いのなら、少なくすれば良いという考えで、僕たちが3つに分けた場所で対等になるようにしたんだ。


「だから、今度はこっちが急ぎ足で攻める番と言う訳さ」
「その為の訓練が、あの走り込みって訳か」
「それもありますが、どんな作戦でも実現可能にする兵が必要だったのですわ」


崖だろうと川だろうと、最低限の装備を着けて攻め込める兵士、それが唯一の勝つ方法でした。
補給は途切れず、奥の手である僕の私兵を使わずに、自分たちだけで勝つにはそれしかなかった。


「ゲームとは違い、早急な戦線後退で兵力にも余裕がある、これなら行けますわ」
「ゲーム?」
「それは良いから、僕たちも行くよサズラ」


ファシミアたちの待つテントに向かい、僕たちも準備を始めます。
荷物は革の軽鎧にショートソードのみ、集まる生徒は全員がそれで、フォーミは整列する生徒を見て満面の笑顔です。


「出来れば、これをミルティーさんに指揮してほしいですわね」
「笑顔を崩さないとか凄いねフォーミ」
「当然ですわよグゥガ、これはワタクシのお仕事です」


前に出ている僕たちは、フォーミの説明を聞いて崖に向かい、登り始めます。
時間が夜なので気づかれることもなく、僕たちは登りきった先にある林に集合です。


「良いですわね、作戦通り一撃離脱ですわ」
「「「「「了解」」」」」


リーダーたちが返事をして、僕たちは門から500m離れた場所の陣地に突撃します。
敵は、まさか後ろから攻められるとは思わず、ほとんどが反撃できずに倒れて行ったよ。


「よし、崖を降りて逃げますわよ」
「「「「「りょ、了解」」」」」


引きつった返事をリーダーたちは返し、僕たちは崖を駆け下りたよ。
その際、訓練でも辛そうだったメンバーは僕がフォローしたけど、敵からの攻撃で負傷した兵はいません。


「作戦は成功ですわね」
「で、ですけど、それほどの成果は出ていませんよ」
「ミルティーさん、作戦はこれだけではありませんわ、ワタクシたちはこのまま西に前進ですわよ」


えっ!?っと言った顔をリーダーたちは見せて来たけど、先ほどの作戦の続きでリーダーたちに勉強してもらうんです。
相手にとって一番嫌な事、それは補給路を断つことで今回の目的です。


「彼らは恐らくこう考えるのですわ【敵兵が近くに潜んでいる、籠城する味方を救う為また攻めて来る】ですわね」
「まぁ普通はそうですね」
「ですが、ワタクシたちはそんな事をしないで補給路の断絶を計るのですわ」
「み、味方を見捨てるのですか」


リーダーたちが怒って来るけど、そもそも助ける必要はなく、物資が底を付かないから出来る作戦です。
それを知らせる訳にもいかないので、補給路を断つことの大切さを語ったんだ。


「で、ですけど、300人じゃ勝てませんよ」
「普通に戦えばそうですわね、でも待ち伏せならやりようはありますわ」
「罠を張ると言う事ですか」


ミルティーさんがやっと先を少し読める様になり、正解とフォーミは嬉しそうに反応しました。
更に言えば、輸送隊は一列に並んでの進軍で、襲われるとは夢にも思ってないんだ。


「やりたい放題ですわ」
「なるほど、道を通らない訓練はその為でしたか」
「そうです、ワタクシたちは隠れて進むのですわ」


リーダーたちが分かった所で、置いた装備を回収して僕たちは進軍を開始しました。
そして、数日後に敵の補給隊を殲滅し、物資を頂いた所でいよいよ砦を囲む敵の排除に戻ったんだ。
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