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1章 モフモフの為に

18話 王都の非常事態

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「ジャオン帝国が宣戦布告だと!」


ライデンシュバ公爵が声を荒げたけど、この会議はその為に開かれたので慌てる事ではありません。
アタシはミア、ローゼンパークス侯爵家の当主で、学園の責任者よ。


「落ち着けライデンシュバ公、事態は既に動きだしていて、こちらはかなり押されている」
「しかし、国王」
「うろたえるなと言っている」


ガルロン国王が一喝し、進軍の指示を出したけど、問題はそれだけにとどまらなかったわ。
力の差ははっきりしていて、このままでは勝てないから策は無いかと聞いて来たのよ。


「急すぎますよ国王、策と言われても」
「そうだろうがなイクソーン爵、既に西側の領地は占領され始めている、急ぎ策を考えねばならない」
「国王、全軍を集め総戦力で当たるべきです」


ライデンシュバ公爵が進言したが、それは策と呼べるモノではなく、これから国王が述べる最低限の事だった。
それで勝てるなら世話はなく、他にないかと聞いて来たわ。


「国王様、よろしいですか?」
「ローゼンパーク侯か、言って見てくれ」
「はい、我が国と帝国にはかなりの力の差がありますが、相手はこちらに攻めて来ています」


そこで、優秀な指揮官を育成するのが急務と進言しました。
学園に指揮官育成科を作り、爵位などは関係の無い本当に優秀な者を探す事を提案したのよ。


「ふんっ!何を言うかと思えば、結局お主の懐に金を集めたいだけではないか」
「ライデンシュバ公、国が無くなるかもしれない時に、お金の心配をしてどうしますか」
「言うではないか、では言わせてもらうが、前線を知らぬ学生に何が出来るのかな?」
「その為に訓練をするのよ、今からでは遅いかも知れないけど、優秀な人材を集めるにはこれしかないわ」


そう、平民でも良いから集めるのが先決で、兵も同時に育成するのがアタシの考えでした。
前線を知らないなら、安全圏で空気だけでも感じさせれば良いのよ。


「ふむ、実戦形式の教育と言う訳か」
「その通りです国王様、安全圏とはいっても戦場ですし、遠征に費用は掛かってしまいますが、今までの訓練とは違うと感じるはずですわ」
「確かに良い案かもしれんな」


国王様が了承してくれて、軍の招集も宣言しました。
その動きを見て、戦争が始まる事は直ぐに伝わり、何処まで戦えるかも問題ですが、戦う為の何かが必要になると考えています。


「英雄の育成こそが必要で、士気をあげなくてはいけないわ」


そんなアタシの呟きは誰にも聞こえてませんでしたが、国王様は会議の解散させて顔色は悪かったわ。
退出した貴族たちも良い表情はしてなかったけど、アタシもその一人だったわ。


「商人が嗅ぎつければ、物資は回らなくなりあっという間に底を尽く、勝てる見込みを見せつけないと終わりなのよ」


帝国が相手では、降伏しても待っているのは地獄で、それなら戦うしか道はないわ。
でもね、商人は隣の国に逃げれば良いだけで、住民も少しはそんな者もいるでしょう。


「今一番必要なのは、兵士でも指揮官でもなく、誰もが引かれる英雄なのよね」


学園でそれが生まれる事を願うけど、それまで戦線が持ちこたえられるのかも心配です。
何もかも最悪な状態で、アタシはそんな事を考えて席を立ったから顔色が悪かったけど、そんなアタシに声を掛けて来た人がいたのよ。


「あなたは?」
「ラビルス伯爵と申しまして、南の領地を統治しています」
「南ですか」


国王会議にも参加できない伯爵家程度だから、普通なら話を聞かないのですが、ちょっとした噂を聞いていて気になったの。
3ヶ月前に飢餓で滅びかけた南の領地、それが急に息を吹き返したと噂なのよ。


「それで、お話と言うのは?」
「実は、商売を広げる為のお力をお借りしたくてですね」
「いきなりね、そんなストレートに来て、はいそうですかと言うわけないでしょ」
「それは重々承知です、ですが我が領地の噂を知ってますよね?」


つまり、ここでは言えない何かがあると言う事で、話しだけでもと言って来たわ。
話しだけならタダなので、取り敢えず城の応接室を借りたのよ。


「それで、どういったお話かしら?」
「商売を広げると言うのは本当なんですが、学園にも卸せるようにしてほしいのです」
「それは条件次第ね」


それはそうだと、ラビルス伯爵は売り上げの半分をアタシに渡す事を約束してきたわ。
それはかなりの利益になるけど、商売としてはかなり問題で、どうしてそこまでするのか聞いたのよ。


「不思議に思うのも分かります、こちらの領地は弱小ですしね」
「それならどうしてなのかしら?」
「一言で言うなら、もう自分たちは弱小ではなくなったのですよ」


それだけの何かが起きた様で、商売を広げる余裕があるみたい。
そして、5割をアタシに渡しても、それだけ利益を得られるそうなの。


「いったいどうやって」
「それは契約してからお話します、今約束できるのは、戦争がどんなに激化しても物資を送る事をお約束します」
「ほ、本当ですの!?」
「ええ、実はそれが目的で、勝利の為にあなたに声を掛けたんです」


戦争の事を知り、それでも勝利の為に動いてくれるそうで、知っている疑問よりもその力を借りる事にしたの。
奇跡を起こした南の領地、またその奇跡を期待したかったのよ。


「奇跡、起こして見せますよ」
「その言葉、信じて良いのかしら?」
「少なくとも、物資が枯渇する事は無くなります」


それだけでも十分奇跡なんだけど、それ以上をくれると言う彼の言葉は、絶望してたアタシに信じる方を選ばせたの。
約束を交わして、アタシは南で起きた奇跡の内容を聞いたわ、そして一言言葉に出したのよ。


「信じられないわね」
「ええ、自分も当事者でなければそう思います」
「でも、本当に起きたのよね?」
「そうです、それを可能にしたのが、ある者のクウユと言う輸送手段です」


クウユ?っと首を傾げたけど、空から物資を運ぶそうで、それこそ大量には運べないと思ったわ。
でも、それを可能にしたのが収納鞄を使う事で、希少価値の高い魔道具を使っているから信ぴょう性はあったわ。


「だけど、1個や2個じゃ安定はしないわよ」
「ご安心ください、それなりの量を所持しています」
「奇跡が起こせるほどと言う事ね」


無言で頷くほどで、それこそ奇跡の様な量と言う事なんでしょう。
それはとても頼もしくて、絶望的な状況なのは変わらないのに安心できたの。


「では、明日から物資は売り出しますので、準備の方よろしくお願いします」
「明日って、準備が出来ているって事かしら?」
「それもありますが、クウユならその日に補給が可能です」


そんなに早く動けるのかと、アタシはまだまだクウユの力を分かってなかった様で、ほんとに頼もしいと思ったわ。
戦線の維持が出来そうなのでアタシはホッとしたけど、一番の問題は英雄の存在で、誕生するかなんてわからないわ。


「信じるしかないのよね」
「ええ、その為の時間を自分たちが稼ぎます、なので学園は頼みます」
「分かったわ、任せなさい」


どれだけの生徒が集まってくれるか分からないけど、アタシたちはそれでも託すしかありません。
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