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1章 モフモフの為に

15話 街の様子がおかしい

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「くそっ!忌々しいモンスターのなりそこないが」


森を抜け、俺は停めていた馬車の中で怒りを向かいの席にぶつけていた。
金貨10枚というふざけた金額を提示され、何処の誰がそれ以上を提示すると言うのか、非常識にもほどがある。


「森に行く前に渡された品は、確かにそれなりの稼ぎを引き出した、しかし売ったのはこっちだ」


輸送だけで、ほとんどの利益を奪うなんてありえない、許せるわけがない。
街に帰ったら領主様に知らせて、相手は利益を奪う敵だったと伝え、兵士を動かして貰うと決めた。


「見ていろ、そっちが奪おうとするのなら、逆にこっちが奪ってやる」


森の利益は全て俺の物、そう考えれば気持ちが高まって来た。
それを現実にする為に、俺は2日を掛けて街に戻ったんだが、門番に馬車が止められてしまった。


「どういうことだ、いつものは素通りだろう」


何かあったのか心配になり窓を開けてみると、護衛の者たちが話を聞いていて、何やら怪しい雰囲気だ。
別の門番が馬車の扉を開け、俺に出る様に言って来たよ。


「どういうことだ、俺はササキ商会のアルファ・ササキだぞ」
「存じています、ですが領主様の命令ですので、あなたを拘束します」
「何だそれは、どういうことだ」
「お話は領主様から聞いてください・・・正直、今すぐあなたをぶち殺したいです」


門番が怒りを俺にぶつけて来たが、ほんとうにどういうことなのかが分からなかった。
兵士の後に続き街を歩くが、その間も住民たちが睨んで来ていたよ。


「本当にどうしたんだ、何故俺を睨む」
「あんたほんとに分からないのか?」
「どういうことだ?」


前を歩く兵士が睨んできたが、連行される理由なんて分かるはずがなかった。
呆れた顔をされ、俺は領主様の屋敷に到着したが、どういう訳か応接室には行かず玄関の床に座らされたよ。


「な、何なんだこの対応は、これではまるで罪人だ」
「そうだよササキ、お前は罪人だ」
「りょ、領主様」


2階から姿を見せて来た領主は、目の前の階段をゆっくり降りて来るが、その手にはショートソードが握られていたよ。
これはまずいと、俺はまず何があったのかを問う前に謝罪し、そして聞いたんだ。


「私は何をしてしまったのでしょう」
「簡単な話だ、お前はこの街を危機に追い込んだんだよ」
「なっ!?」
「今も危険な状態だ」


そんなバカなっ!!と、俺はどういうことなのか詳細を聞いた、そして自分のしたことの重大さを痛感した。
あいつらは、俺が戻る前に街との話を付けていたんだ。


「片道30分ならそれも可能なのか、それでしたら戦いましょう」
「バカか貴様、勝てるわけがないだろうが」
「ど、どうしてですか!!」


相手は多くても200しかいない雑兵、この街に駐屯してる兵士は300人で、徴兵すれば1000にはなるから俺は勝利を宣言した。
しかし、領主は一枚の紙を俺の目の前に落として来て、俺はそれを読んでゾッとした。


「兵士の招集を空から見ている」
「そうだ、あいつらはそれを見た瞬間襲ってくると言っている、そんな奴らにどうやって勝利できる」
「し、しかし建物の中ならば」
「その紙を全て読めササキ、その場合の対応も書かれている」


そう言われたので俺は先を読んだが、進軍中に空からの攻撃をすると書かれていた。
馬車で2日の道のりで、兵士の進軍ならば4日は掛かるだろう。


「何人が森まで行ける?」
「し、しかし、相手は飛ぶ事しか能の無いオースズメ族ですよ」
「収納鞄を持った相手にそんな事は関係ない、魔法の届かない高さから何をされても抵抗できないんだぞ」


これは、完全に詰んでいると言われ、進軍と同時に街にも攻撃をされるそうなんだ。
迂闊な事が出来ず、動けない状態の中で更なる追い打ちとばかりに、あの犬っころが商品の販売を中止してきたんだ。


「あの獣人の商品は住民の生命線だった、それをお前は止めたんだよ」
「わ、私がですか」
「ああ、獣人本人が喋った内容で、住民は誰もがしっている」


圧力をかけて来たという事で、俺のせいと言う事が街全体で統一されているそうなんだ。
だから、門番も文句を言いたそうで、殺されてもおかしくなかった訳だが、俺は悪くないと弁明したよ。


「ほう、商談に失敗したお前が先に圧力をかけて来たと聞いているぞ」
「そ、それは」
「護衛の奴らからも話を聞いた、どう責任を取るつもりだ?」


金貨10枚と言う暴利を許せなくて、ついカッとなってしまったからだが、負けるなんて微塵も思っていなかった。
その事を領主に伝えたんだが、その冷たい視線に段々と声が出なくなっていったよ。


「こちらも出来るだけ費用を下げろとは言った、だが見下せとは言っていないぞササキ」
「で、ですが領主様、金貨10枚ですよ」
「聞くところによると、森に行く前に商売でその金額を得ていたそうだな、私は聞いてないぞ」
「うっ!」


情報は既に領主様の手にあり、俺の逃げ道が無くなっているのが伝わって来た。
それだけの情報をあのチビネコはこちらに提示し、だからこそ俺が悪いと領主に言われてしまった。


「更に言えば、往復すれば余裕で利益になるとも言われ、軍の協力も了承してくれたそうではないか、どうしてそこで戦争と言う話になる」
「それは・・・金貨10枚以上を要求されたからです」
「お前はそれでも商人か?」


領主様に言われ、どうして金銭以外に話を向けなかったのかと言われ、俺は自分の失敗を悟った。
あのチビネコは、確かにそれ以上を求めたが、金銭とは言っていない。


「グゥガと言うワーキャット族は、森の発展を求めていたそうじゃないか、それなら労働力で尽くしても良かった」
「た、確かに」
「それなのに、お前は蹂躙を宣言したんだぞ」


その時点で戦いが始まってしまい、本来なら空からの攻撃で俺が帰って来る前に始まり、街は跡形もなかったかもしれないと言われた。
今も残っているのは、俺の処罰がどうなるのかに掛かっているらしく、俺はこれからどうなるのかと緊張したよ。


「お前には、グゥガ殿に商会を引き渡して貰う」
「なっ!?」
「当然だろう、このままでは破産どころではなく、街が無くなるんだ」


その責任としては、全然安い事と言って来るが、俺にとって商会は先祖代々受け継がれてきた大切な物だ。
拒否したんだが、それが責任と言うモノで、嫌なら俺の首を差し出すと言われたよ。


「もう一度森に行き、謝罪した後にグゥガ殿の下で働くか、それともここで死ぬかだ、さぁ選べ」
「そ、そんな」
「言っておくがなササキよ、この話し合いも本来は無かった事だ」


領主が言うには、住民たちの怒りを抑える為、即刻捕まえて処刑したかったそうで、それをしなかったのはチビネコからの提案があったからと説明された。
住民たちの信頼を失った俺の商会には、もはやその道しか残っておらず、俺は謝罪する方を選んだよ。


「それが賢明だろう、私の娘と護衛を連れ早速出発しろ」
「は、はい」
「まったく、お前を信じた私が間違っていたよ」


兵士に立たされ、俺は屋敷を出たんだが、そこには鉄格子の付けられた馬車が待っていた。
俺はそれで運ばれるから、罪人扱いなのが良く分かったよ。


「では、行ってまいりますお父様」
「うむ、頼んだぞフォーミ」
「お任せください、そこの男の様な失敗は致しませんわ」


領主の娘は成人したばかりの12歳で、家庭教師で教育を受けているだけの箱入り娘だ。
俺からしたら、世間を知らない子供という認識で、そんな奴にチビネコを何とか出来る訳がないと、牢屋に入って笑っていたよ。
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