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最終章 平和に向かって

64.1話 唯一の鳥種

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「良い陽気だなぁ~」


俺は今、フワフワの椅子に座り港で釣りを楽しんでいる。旅の準備が大体出来たので、今日は久しぶりにみんなでのんびりしようって事になったんだ、みんなで空を見上げ釣竿は放置だ、竿の先端に鈴をつけているので釣れれば分かるんだぞ。

まぁ釣れることはないとは思っているよ、何せエサにしたのはスイカだ。


「あたいは直接海に行った方が捕まえられるにゃ、これは必要にゃ?」


チェミーシャが丸いクッションの上に猫の様に丸まって呟いている、そう言ってても釣りはしてるんだ、みんなと一緒にいるのが良いのかもしれない。あの話の後、俺たちと一緒の事が増えた、俺の膝の上とかよく来るんだよ。


「おとしゃん、鈴が鳴ってるの」


俺がチェミーシャの事を野良猫から家ネコになったのかな?とか思っていると、なんと俺の竿の鈴が鳴った。


「んなバカな!?スキルも使ってないはずだ、エサはスイカだぞ、地方でやってる所があるとか聞いた事があったから、遊びでしていただけなのに」


半信半疑だったんだがほんとに鈴は鳴っている、それもかなりの引きだ。俺は竿を掴みリールを巻いた、みんなも興味津々だぞ、なにせ餌がスイカだから、いつものように昼寝が目的だと思われていたんだ、影が見え始めスキルは関係ないのが確認できた、チェミーシャの事を考えたのでネコタワーとかが釣れるのか?とか想像したんだ、だが黒い何かが掛かっている。


「もう少しですよ先生!」

「ジャンプしたら私がとどめを刺していいですか先生」

「ネニネイ任せる、行くぞ!」


ネニネイの提案に乗り、俺はリールを早く巻いた、これをすると魚は抵抗しジャンプをする、あの大きさなら高くジャンプするだろうっと思ったんだ。だがそうはならなかった、いきなり引っ張られる力が無くなり普通に釣れ、そして今、糸を持った俺の前で獲物がプランプランと揺れている。


「こ、これは驚いた!?色々な意味で」


今、俺の前でプランプランしているのは、ペンギンだ。それもタキシードを着ている変わったペンギンなんだ。


「ペンギンさんなの!?」


亜生奈がすごく喜び、俺の足元でジャンプしている、俺は針を取ってやりペンギンを降ろすと亜生奈が抱き上げてしまった。ペンギンは意識がないから首をブランブランさせている。


「アイナちゃんは何をそんなに喜んでいるんだろう?」

「そうだなハル、普通のペンギラーじゃないか」


俺もすごく触りたいのを我慢していると、横にいたネニネイたち異世界メンバーは素っ気ない反応だ、どうやらそれほど珍しくない種族らしい。


「こいつはどういった奴なんだ?」

「先生たちは見たことないんですね、こいつらは海を泳いで旅をしてるんです、目的地は寒い場所なんですよ」


ハルサーマルが教えてくれてみんなが頷いている、寒い場所と言うと北か南になる、今の位置だと北が近いな。


「ペンギンは北極にいるものだったかな?どちらだったか忘れた・・・まぁいいか、亜生奈そろそろ降ろしてあげなさい」

「はいなのー!」


俺はペンギンをブランブランさせている亜生奈を止め、回復魔法を使った、しばらくするとペンギンがパチッと目を開けたんだ。


「わ、吾輩は死んだのか?」

「まだ死んでないぞ、ここは俺の作った島だ、出来れば名前を教えてくれるとありがたい、俺は健吾だ」


寝たままで起きないがしっかりと目を開け反応はしている、そして自己紹介をしてくれた。彼はペンギラー種のギランだそうだ、北を目指して進んでいたが暑さと空腹で困っているところに、変わった食べ物が浮いていて口に入れてしまったらしい。


「スイカが仇になるとはな、何だかすまん」


スイカをガブガブ食べているギランに俺は謝った、ギランは口を拭いて助かったから別に気にしないと言ってくれた。

スイカの食べ方がとても可愛いのは、俺は何とか抑えたよ。


「し、しかしそんなに空腹だったのか?魚を泳ぎながら取って食べてるんだろ?」


俺は衝動を抑えるために素朴な質問をした、ペンギンの種類である皇帝ペンギンの狩りはテレビで見た事がある、泳いでいるのがとてもカッコ良かったはずだ。


「それが・・・吾輩美食家である、普通の魚をずっと食べていて飽きたであるよ」


俺はカクッと体勢を崩した、空腹でフラフラになるまで食べないとか、どう考えてもやり過ぎだ、途中で考え直していれば狩りの出来る力は残っただろう。

そうツッコミを入れたいが、残った力で俺のスイカにかぶり付いたと言われては言い返せない。


「まぁなんだ、ここには食べ物はある、しばらく暮らしても良いぞギラン」

「それはありがたいである、しかし吾輩急いでるである、早く北にたどり着きたいであるよ」


なんでそんなに急いでいるのかと聞こうとしたら、ハルサーマルが耳打ちしてくれた。ペンギラーたちは繁殖を氷で覆われた北で行い、子供が泳げるようになると食べ物の豊富であたたかな南に移動する、なので今から北に急がないとお嫁さんが見つけられないと焦っているらしい。


「でも、ここからじゃまだ氷の地域には何日もかかりますよ、僕が知ってる限り2週間はかかるかと」


メナーサちゃんがそう言ったので俺たちはギランを見た、どう考えても何も食べずに移動は出来ない、となるとやるべきことはこれだ。


「じゃあ俺が特別な船を作ろう、食料をそれに積んで行くと良い」

「ほんとであるか!?・・・いやしかし、吾輩操縦が出来ないである」

「安心しろギラン、それも織り込み済みだ」


ノームと一緒に船を作り水面に浮かべた、大きさ的には俺の大型クルーザーくらいで船内は大きな冷蔵庫様に冷たくなっている、食料をそのまま積んでも平気なようになっていて、ギランたちも快適だろう。そしてそんな寒い船内で運転手を務められるのはテトラアンドロイドだ、凍らないようにちょっと改良して数体用意する。

そして、これはギランを助けるだけでは終わらない、アンドロイドたちに映像を取ってもらえば、ペンギンの赤ちゃんたちの成長やギラン以外のペンギンも観れるというものだ。


「こ、こんなに直ぐに出来るのであるか!?そ、そなたは何者なのだ」

「元旅人だ、今はここの統括をしてるってだけの普通の人だぞ、さぁ乗り込んで見てくれ」


テトラアンドロイド3体改良している間に船の説明を軽くしている、どうせアンドロイドたちが操作するんだが、少しは覚えてもらった方が良いと思ったんだ。それに子供が大きくなったら、ここに寄るようにも伝えた、どんなに大人数でも大歓迎と言っておいたよ。


ペンギンが大勢で来れば、それだけ亜生奈も喜ぶし、俺も見たいからな、今から楽しみだよ。


「食料はこんなもんか・・・それで、もう出発するだろギラン」


アンドロイドたちも乗り込み、直ぐに出発できるんだが俺としてはもう少し話しをたい、食事に誘おうかとギランの方を見たんだが俺はやめた、ギランはかなりソワソワしているんだ。仕方ないので船から降りてみんなでお別れの挨拶だ。


「すまぬケンゴ殿、次はもっとゆっくりとすると約束するである」

「そうだな、その時は仲間とお嫁さんと子供を連れて来いよ、約束だからな」


ギランが良い笑顔で手をあげていた、きっとあれは親指を立てているんだろう、そして船は出発し見えなくなった。


「まさか俺の結界ブイが海中には効かないとはな、後で改良しておくか」


新たな改良点を見つけ、俺の仕事が増えた。そんな事を言っているとハルサーマルが言ってきたんだ。


「どうして先生があそこまでしたのかが分かりません、魚人なんて珍しくないでしょ」

「何を言ってるんだハルサーマル、ペンギンは鳥だぞ?魚人じゃない」


ハルサーマルにそう言うと、他の者たちも首を傾げている、鳥というのを分かってないようだ。この世界では食用の鳥すらいない、前にクイーンが鳥の肉がどうのと言っていたがあれは知識であるだけだ、それを思い出し俺はホロホロを召喚して見せた、こいつと同じ仲間だと説明すると、みんな驚いているよ。


「で、でもペンギラーは飛べませんよ、ホロホロは僕に手紙を届けてくれたじゃないですか」

「メナーサ、飛べない鳥もいるんだ、あいつはそれなんだよ」


それを聞いてみんなが固まっている。飛べるから鳥とは限らない、つまりチェミーシャたちと同じ絶滅しそうな種族って訳だ、俺が贔屓するには十分な理由だろう。それに可愛いしな。


それから1週間後、テトラアンドロイドたちから映像が届き、みんなでペンギン観賞をした。そして更に数か月後、ギランがお嫁さんと2人の子供を紹介してくれた、もちろん仲間も連れてきたんだ、今後ここを中間地点にすることを約束し、南に旅立って行ったよ。
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