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3章 異世界巡り

49話 緊急事態

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「ダメです先生、返事がありません」


俺たちが出発して1週間が経っていた、そして3つの船がくっ付いた小さな船団が見えたので、ハルサーマルに乗船できるか連絡をしてもらっている、だがどういうわけか返事がない。

エリアサーチでは確かに人はいるんだが、どういうことだろうか。


「そうか・・・仕方ない俺が一人で行って見る、みんなはここで待機していてくれ」


そう言って俺は翼を出した、念のためにウンディーネと玄武を召喚し、防衛を任せて飛び立ったんだ、上空から近づくと俺は異変に気付いた。


「人がみんな倒れている、どういうことだ」


俺は鑑定が出来る距離まで近づき、倒れている人を鑑定した、最初は伝染病ではないかと思い直ぐには降りなかった、結果はそうではなかったよ。


「空腹で倒れている・・・他の者たちも、みんなそうみたいだな」


どうしてそうなったか分からないが、どうやら物資が底を付き、動けなくなってしまったのだろう。船はみんな機械だけの物でテイマーもいないようだ、生産が間に合わなかったか、尽きてしまったのかもしれない。


「子供たちにこれは刺激が強いかもしれない、ここは俺だけで対処するか」


ウンディーネに念話で連絡をしてこないように伝え、夜に戻ると言っておいた、そして俺は船に降り、とうもろこしをすり潰したコーンスープを作り始めたんだ。回復魔法では空腹は満たせない、こう言った時は食事を提供するしかないんだ。


「ほら、食べ物だぞ」

「うぅ、この匂いは」


近くに倒れていた子供を抱き起しコーンスープを口に近づけた、子供は匂いを嗅いで少しだけ目を開けたよ。


「気づいたか?ゆっくりでいいから飲め」

「あ、ありがとう」


ひと言だけそう言って、子供はコーンスープを少しずつ飲み出した、この船団にいる人の反応は1043人、それを俺一人で全員対処することは出来ないので、収納からテトラアンドロイドを1000機出し、スープを飲ませるように指示を出し、ロボットたちが皿をもって鍋に並び始めたよ。

このロボットたちは言うまでもないかもだが、AIを搭載した人型ロボットだ、他にも小さい物や空を飛ぶ物と色々作ったが、こんなに早く活躍するとはな。


「こんなことなら、もっと人に見えるようにしておくんだった、骨格だけだから後で怯えられるかもしれない」


テトラアンドロイドたちは皮膚などはない、ロボットとひと目で分かってしまう容姿だ。テトラアンドロイドたちは本来、戦闘後の捕獲作業をさせる為に作った、威嚇の為にそう言った物は要らないと思っていた。だがこうやって救護を任せるなら人に近くし、服も着せた方が良いだろう、今後の課題として考えておく。


「とはいっても、倒れてしまうほどの空腹となると直ぐには回復しないか・・・アンドロイドたち、今度はこれを飲ませて回れ」


ロボットたちが倒れていた者たちを運んで集めてくれている。俺が状態を見て、栄養ドリンクをアンドロイドたちに持たせそれを飲ませるように指示を出した。スープを先に飲ませたのはドリンクの効果が高すぎるからだ、空腹時だと負担になる、鑑定でもそう出ていたんだ、空腹時はお控えくださいってな。スープである程度腹を満たしたから、これで明日には動けるようになるだろう。っと言うか、俺の周りにいる者たちはドリンクを飲んで、起き上がっている者が出始めた。

さすがチートドリンクだな、こんなに回復が早いとはな。


「あ、あの」


俺はもう少し食べれそうだと思ったので、更に魚の串焼きを作り始めた、すると最初に助けた子供がオドオドしながら近づいてきたんだ。

それにしても髪がボサボサだ、背丈からしてメナーサちゃんと同じ位か、ちょっと上と言った感じだ、女の子なのは鑑定で分かっているが服もボロボロなのが気になったな。


「もう直ぐ焼けるから待っててくれ・・・ほら焼けたぞ」


魚の串焼きを少女に渡すと貰った魚と俺を交互に見ていた、そしてしばらくして一口食べたんだが、その後勢いよく食べ始めた。


「そんなに慌てなくても良いぞ、飲み物もあるからな」

「あ、ありがとう」


飲み物も渡すと今度はジッと俺を見てきた、他の者たちもアンドロイドたちが焼いた魚を貰い食べ始めた。

これなら話は出来そうだな、元気になって良かった。


「あの、あなたは誰なのですか?」

「俺か?俺は旅をしてる健吾と言う者だ」


俺が名乗ったら少女もその後名乗ってくれた、少女の名前はリーナと言うそうだ、歳は14と言っている、他の子たちはもっと小さそうだと思い、更におかしいこともある。


「リーナ、俺の仲間が遠くで乗船許可を待ってるんだ、そう言った事の許可を出せる大人を呼んできてくれるか?」


俺がおかしいと言ったのは、見える範囲に大人がいないことだ、アンドロイドたちが連れて来るのは子供ばかりだし、どうもおかしい。


「それが・・・ここには大人はいません、あたしたちは子供だけで逃げてきたんです」


リーナがそう言ったと思ったら泣き出してしまった。これは何かあったのだろう、他の子供たちもリーナが泣いているせいなのか、泣き出してしまった。俺はリーナをハグしてやり気が済むまで泣いて貰った。

ため込むと心が持たない時もある、きっと彼女たちはつらい体験をしたんだ。


「だが、子供だけを逃がすほどの事があったと言うになる・・・見て見ぬふりは出来そうもないな」


リーナと他の子たちを見て俺は呟いていた、悲しみの涙を見てしまったんだ、なんとかしてやりたい。


「グズ・・・ススン」

「落ち着いたかリーナ」


リーナは30分くらいずっと泣いていた、他の子たちもそうだが、アンドロイドたちに抱き着いたりしていた。あの骸骨のような容姿にすがるほどだ、余程の事があったんだろう。


「はい・・・すみませんでした」

「それは良いんだが、事情を話してくれるかなリーナ」


リーナがなんとか頷いてくれて、震えながら事情を話してくれた、内容を聞き俺は怒りが込み上げてきたよ。


「無理やり賭けを持ち掛けられ、それを断れない状況にされた挙句負けるのが濃厚だった、大人がそれを察知してなんとか逃がしてくれたんだな」

「はい、父さんが出来るだけ子供を集めたんです、勝てないと分かっていたので・・・でも、この船は自動で出発してしまって、父さんたちは乗れなくて・・・きっと父さんたちは途中で見つかって、捕まってしまったんだと思います」


リーナたちは、俺たちが今向かっているカジノの船団、カジット船団から来たらしい、そして逃げてきたが子供だけになってしまい、積んでいた食料が尽きてしまったそうだ。


「自動で動いている割には遅かった気がするが、船は何処に向かっている?操縦は出来るか?」

「いえ出来ません、どうやら機械が壊れてしまったみたいで自動で動いていたのは最初だけです、今は潮の流れに乗ってここまで来ました、もうダメだと思っていたんです」


恐らくリーナの親は、壊れそうな自動航行装置を使ったのだろう、自分たちが来れない可能性を考えてな。俺たちが会えたのは、なかなかのタイミングだったというわけだ。

これは、そのカジノの船団に行くのは考え直した方が良いのだろうか?だがこの子たちの親も心配だな。


「兎に角だ、助かって良かったリーナ」

「はい・・・でも私たちには返せる物がなくて、すみません」


リーナがかなり震えだした、恐らくその先を言うのが怖いのだろう。普通は払えないなら体でとか、奴隷になるとか報酬を払わないといけないと思っているのだろう。確かに何も無しで助けることはこの世界ではしない、だがリーナは間違っている、その船団で仕事を貰い払うと言った感じになるんだ。カジノの船団で怖い思いをしたからそう言った考えが先に来てしまっているのだろう。


「心配するなリーナ、俺の欲しい物は貰った、情報ありがとな」

「え!?」


輸送船や旅人は、情報交換をしたりそれに見合う品を渡したりする、だがリーナは情報も報酬になると分かっていない、キョトンとしている。


「俺たちは、君が来たカジノ船団に向かう途中だったんだ、だがどんなところか知らなかった、リーナの情報が無かったら俺たちも罠にはまり賭けをしないといけなくなるところだったよ、これはかなり有益は情報なんだぞ」

「は、はぁ~そう言う物ですか?」

「ああ、助けた位では足りないくらいだ、そこで相談なんだが俺の島に住まないか?」


俺の提案を聞いて良く分かっていないみたいだ、まぁ船団と言わず島と言ったからだ、普通の人は島なんて見たこともない。ヨースドの本を読み昔のことを知ってる者しか知らない単語なので、俺は仕方ないと思い簡単に説明した、段々とリーナの顔色が変わっていったよ。


「そんな、おとぎ話みたいな事」

「それがほんとなんだ、仕事はしなくちゃいけないのは船団と同じだが、このまま宛てもなく航行しているよりは良いだろう、自動航行装置も俺がなんとかする、どうかな?」


装置を直せなくてもアンドロイドたちを残せばいい、島にはホロホロを使って連絡をすれば攻撃はされないし、それまでの食料も渡す。大体の対策案を言って答えを待ったのだが、どうやら色々言ったから頭が追い付いていないらしい。


「かか、考えさせてください」

「そうだな、直ぐには決められないか・・・俺はあの船に戻る、明日また来るから、その時答えを聞かせてくれ」


俺はアンドロイドたちを半分残し翼を出した、リーナが突然の事で驚いている。そう言えば翼を出すのは、最近当たり前だったから気にしなかったが、普通の者たちは寝る前のお話などを聞いて天使や神の存在を知る、リーナもその口だから驚いている、俺は失敗したかと頬を掻いた。


「ちなみに言っておくぞリーナ、俺が神とか天使だから助けたんじゃない、情報の報酬を渡しただけだからな、そこを忘れるなリーナ」

「で、でも・・・だって、あなたのその姿は」

「似てるだけだ、そう言った者じゃない」


俺は何とか誤魔化そうとしたが、リーナは余計訳が分からなくなってしまったようだ。仕方ないので俺はリーナの頭に手を置き、撫でながら笑顔になった。


「リーナ、君の父親はこの船を君に託した、子供たちの命は君に掛かっているんだ、しっかりと考えないとダメだぞ」

「ケンゴさま」


まだ成人していないリーナには酷だろう、だがこの船でリーダーが出来そうなのは彼女だけだ、アンドロイドたちの報告では、10歳を超えている子供はいないと聞いている、それだけ大変な状態だったのだろう。


「リーナ良く考えるんだ、大人は嘘をつく、俺のこの姿もそう言ったトリックかもしれない、うまい話には裏がある、リーナが警戒するのは正解で当然だ、今回の俺の提案は信じてくれとしか言えないが、信じてくれるか?」

「私は・・・ケンゴさまを信じたいと思います、いえ、信じます!」

「ありがとリーナ、それと様はよしてくれ、照れ臭いしガラじゃないんだ・・・それじゃゆっくり休んで明日話し合おう」


少し宙に浮いて俺はリーナに手を振り飛び立った、リーナは両手を胸の前で握って覚悟が決まった顔をしていた。そして俺は船に戻りみんなに状況を話したんだ。
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