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4章 繁盛

78話 海は怖い

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「良い気持ちウサ」


甲板に出たオイラの隣でピョンが気持ちよさそうに潮風に当たってるよ、オイラはベトベトネチャネチャして嫌だ、でもピョンは気持ちよさそうだね、何が良いんだろうって思うよ。


「ピョン、遊びじゃないんだからね、オイラたちは今から魔族の大陸に渡るんだよ、戦うわけじゃないけど話し合いが失敗したら、大変なんだよ、わかってるの?」


オイラがそこまで言ったら、ピョンに頭を叩かれた、痛くて頭を抑えしゃがんでると「当然でしょ!」とか言われたんだ、分かってるなら叩かないでほしいよね。


「それにねビュン、この話し合いは成功するウサ」

「ど、どうしてそんな事が言えるのさ、相手は魔族だよ、強さがすべてで戦いこそが生きがいの魔族なんだよ」


そう言ったらまた後ろから叩かれた、痛くて涙が出たよ、ピョンは「バカね」とか言ってる、そんなにポンポン叩くピョンの方がバカでしょって思うけど、オイラはこれ以上叩かれたくないから黙ってるよ。


「スライム農夫殿があたいたちと仲良くなったのは、これが狙いだったウサ、ビュンの様に怖がって話し合いの誘いを断って来ると思ってたウサ、それを越えてあたいたちは来た、その時点で話し合いは成功ウサ」


オイラは確かにって思ったよ、でも話し合いの場に付けさせただけだよ、どんな事を言ってくるか分からないんだ。


「ピョンは怖くないの?ミサット様の護衛として来たけど、オイラ達の強さってそんなにないよね」

「それでも護衛はしっかりとこなすウサ、農夫殿もいるウサ、きっと平気ウサ」


この船にはオイラ達と他にも獣人の族長たちが乗ってるんだ、でもみんな強そうなんだよ。
オイラの顔を見てピョンがやれやれって顔してる、心配なんだから仕方ないって言ったんだよ。


「ほんと心配性ウサね、強いと思っておくウサ、それに海で怖いのはモンスターウサ、そいつらが襲ってこないウサよ、心配はないウサ」


海のモンスターたちは下から襲ってくるんだ、船を壊されたらオイラたちはひとたまりもない、その心配がないって言ってる。
オイラがそうだよねって思って立ち上がると、マストの上で見張りをしていた狼耳族の人が、敵襲の鐘を鳴らしたんだ、方角を指差していたからみんなで視線を向けた、相手は船だったんだよ。


「あれは・・・もしかしてハイヒューマンウサ!?」


船の多さと大きさでピョンが言ったよ、オイラも望遠魔法を使って帆のマークを見たけど、ハイヒューマンだったんだ。


「オイラ達が魔族側に付こうとしてるから、その妨害に来たんだよ、どうしよう」


みんなは既に戦闘の準備を始めてます、オイラも怖いけど、農夫殿が配った武器を抜いたんだ、チャクラムって言って投げると戻って来るんだよ、何でもキャッチは難しいとか言ってたけど、耳に付けたリングで操作できるんだ、オイラ達専用なんだってさ。


「5隻もいるじゃんウサ、何処からでも掛かってこいウサ!」


ピョンも同じチャクラムを手に持って、変な構えを取ってる、農夫殿が教えたのかな?そう思っていたんだけど、相手の船が勝手に1隻沈んだんだ、どうして?とか思って見てたら海が山の様に盛り上がったんだよ、そこからオレンジの体をしたクラブが出現したんだ。


「ああ、あれって!?海のモンスターだよピョン、ににに逃げよう」

「逃げるって何処にウサ、まずは農夫殿に聞くウサ」


オレンジのモンスター以外にも、触手のような手足の長い体のモンスターが出てきた、白くてプニプニしてそうだよ、頭に三角の帽子をかぶってる。


「農夫殿、あれはいったい何ですかウサ!」


舵を取っている農夫殿に聞きに行くと、モンスターたちは味方だと言ってきよ、オレンジの奴はスライムキャンサーで、白いのはスラクラーケンって言うそうだよ。


「だから武器は降ろすだ、ハイヒューマンの船は沈むだが、こちらとは戦いは起きないだよ」


相手の船を見ると、大きなモンスターたちに囲まれどんどん沈んで行ったんだ、オイラはそれを見てゾッとした、本来ならあれはオイラ達が戦うモンスターなんだ、あれに勝てるとは思えないよ。


「海って怖いね」

「そうウサね、そこはビュンと同意見ウサ」


ピョンがもう海には来ないとか言ってる、さっきまで気持ちいいとか言ってたのにね、でもほんとに海は怖いよ。


「美味いウサ!美味いんだウサ!」


その日の夜、オイラはピョンに突っ込まずにはいられなかったよ、意見には賛成なんだけどね、それと言うのも農夫殿が焼いたスラクラーケンの足を食べて喜んでるんだ。
確かに美味しいんだよ、ショウユがとてもいい味を出してる、足をゆずって貰い食べてるけど、あれだけの戦いをしているのを見てるんだ、食欲は無くすよ。
それにね、ピョンがまた海に来て食べたいとか言ってる、オイラは最初、賛成出来なかったけど、足を食べて考えを変え、賛成したんだ、でも違う気がして仕方ない。


「やっぱり、ピョンの方がバカじゃないか、確かに美味しいけどさ」


ピョンに聞こえないようにつぶやいたんだ、聞こえたら叩かれるからね、でも今の幸せそうな顔はどう見てもバカにしか見えない、ちょっと可愛いけどあれはダメだよ。


「元気がねぇだな、長ミミっ子、ゲソ焼きでも食べるだ」


農夫殿が串をオイラにくれたんだ、食べたけどほんとに美味しい、でも元気もなくなるよ、あんなモンスターを率いてる魔族とこれから会うんだ、怖くて不安になるよ。


「農夫殿・・・オイラ達、交渉がうまくいかなかったらどうなるのかな?」


オイラは聞いちゃった、魔族側のはずの農夫殿は、この後下手をしたら敵になるんだ、そうならない為に動いていたのは知ってる、でも怖いんだよ。


「長ミミっ子、上手くいかないなんてありえないだよ、なんせオラが既に族長たちの要望を聞いてるだ」

「それは知ってます、でもそれが全部通るとは」

「通るだよ、なんせオラはその為に準備してた、おめぇさんたちと仲良くなって作ってきただ、返事も既に聞いてるだ、だから安心するだよ」


オイラは要望が通っていると聞いて変だと思ったんだ、それならどうしてオイラたちは大陸を渡ってるのさ、終わってる話し合いに行くのは変だよね。


「長ミミっ子、話し合いってのはな、会って直ぐにしていたんじゃ遅せぇだ、全部決まってるくらいで良いだよ」


農夫殿が更に言ったんだ、ハイヒューマンたちの様な邪魔者を誘うのにも使ってるってね、オイラには難しいよ、でも要望が通ってるなら平気だよね。
オイラはその日、旅に出て初めてグッスリ寝れたんだ、気持ちの良い朝を迎える事が出来たんだよ。
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