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4章 繁盛

64話 縛りが役に立った

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「シンジ!?」


僕とミントが転移するとその部屋にはターシャたちが扉の前に立っていました、ここに来る前にはいくつもの部屋を作ってあるんだ、そこには他の人達が生活できるように作ってある、その一番奥にここはあります、この部屋は応接室の様に椅子もテーブルも配置してあり、寛げるように準備したんだけど、部屋を見渡してそれどころではなかったみたいです、僕の転移を見てターシャは走って来て僕に抱き着いて喜んでくれた、その後ろには侯爵様とクレスのご両親二人とルブランがいます。


「ターシャ、嬉しいのは分かるけど、ご紹介を先にしてくれるかな?」


僕はミントと同じような顔をしている侯爵様に危機感を感じています、すごく睨んでいて怖いです、クレスが『ボソボソ』っと説明しているみたいだけど、しっかりと自己紹介はしたいよね。
ターシャはシブシブ僕たちを紹介してくれました、侯爵様は嫌そうな顔を直して真顔で挨拶をしてくれたけど、いやそうなのは変わりません、クレスのご両親がそれを見てやれやれって感じを見せています。


「皆さんご無事でよかったです、外の騎士たちはもう撤退したので街に戻っても危険はありません、建物が壊れてたり食料などが無い場合が考えられます、そこは街を占領したことになってるミャオサーに言ってください、彼女は僕の仲間なので力を貸してくれます」


この後の事を侯爵様に伝えます、本当に良いのかと難しい顔をして聞いてくれました、街は魔族の物です、だから街の中で暮らしている人たちも物として扱います、それが占領された街の運命で、僕も当然そうすると思って暗いんです。


「街を出たいと言う人もいるでしょう、その時は暮らせる物資を渡して出ても良いです、僕たちは占領しましたが押し付ける事はしません、共存共栄を願っています」


侯爵様と同じ気持ちだと伝えます、世界には争いが絶えません、それはあの女神のせいでもあるけど、奪った方が楽だと思っているのもいけません、少ない資源を取り合うのは無くさないといけないんです、その準備を僕はしてきました、今こそ実行する時です。


「しかし、ほんとに良いのかね?魔王殿が勝ったのだ、それは勝者の権限だぞ」

「もちろんです、それに魔族側は奪う必要はありません、こちらには十分な物が揃っています、少ない所から取る必要が見当たりませんよ」


ハイヒューマンの土地はとても枯れ果てています、木は枯れ土には力が無いんです、砂漠化しないのは土に混合しているスライムのおかげかもです。
だからハイヒューマンたちは外から資源を奪っています、ここはそれをしないで済む最初の街になるんです。


「しかし、10剣王を倒したとなると、国王陛下も黙ってないだろう、それはどうするのだ?」

「そこは問題ありません、命を落としたのは10剣王のリーダーだけです、他は生きています」

「「「「「な!?」」」」」


侯爵さんたちが驚き、どういうことなのかと説明を求めて来たよ、ターシャも聞きたそうなので話します、僕のダンジョンは侵入者の命を奪う事は出来ません、それをすると強制的にポイントを使い復活させられてしまうんです、そのポイントは一人100万P、普通なら相当高い数値です。
でも僕は使っていないので沢山持っています、ここで使わない手はありません。


「もちろんタダでは帰しません、捕虜として捕らえたから条件を飲めと手紙を送ります」


相手に話し合いの場に立たせ、更には魔族の地位も確約させます、この時ハイヒューマンと同等かそれ以上に引き上げるんだ、10剣王を倒した僕たちの軍がいれば相手も応じるはずです、10剣王の存在を逆に利用するんだ。
侯爵さんたちは『なるほど』って顔して頷いています、これで行けると思ってるんですね。


「侯爵様、きっとそれだけでは駄目ですよ、次の手も用意しないといけません、その為の捕虜です」


相手が渋るのは分かっています、その間に準備をするんです、これから枯れ果てた土地を復活させます、相手はきっと兵士を集めるのに忙しくなるんです。


「捕虜をどうやって使うのだ?」

「簡単ですよ、相手に情報を渡す伝達係になってもらいます」


ソファーに侯爵様たちを勧めて僕は座って紅茶を用意します、ミントは部屋の端にある戸棚のお菓子を取りに行ってくれました、ターシャは僕の隣に座り楽しみにしていますよ、それを見て侯爵様はちょっと怒ってます。


「信頼のある10剣王ならばそうかもしれん、しかしそう簡単に行くわけないぞ」

「普通に帰したらそうです、でも捕虜である10剣王が帰るのを拒んだらどうです?こちらで暮らしたいと言い出したら不思議に思いますよね」


人の好奇心を刺激して相手に言葉を信じさせます、更に人は苦痛を我慢できても快楽には弱い物です、騎士の様に訓練をされていてもそれは変わりません。
十騎士の言葉ならば必ず信じる、紅茶のカップをテープルに滑らせて伝えます、侯爵様とクレスのご両親は『たしかに』って顔をしてカップを持ちました、そして一口飲んで驚いています。


「おいし~い、やっぱりシンジの紅茶は最高ね」

「ありがとターシャ、紅茶はタイミングが重要です、僕はここしかないと言うタイミングで入れて出しました、これは今のハイヒューマンの状況にも似ています、協力してくれませんか?」


味の違いが分かる侯爵様なら分かるはずです、上の街を魔族が占領したとなると住民はストレスを感じます、でも今まで通り侯爵が統治すれば抵抗は薄いです、その間に魔族は怖くないと信じて貰うんですよ。


「なるほど、タイミングか」

「はい、他の種族の戦いが始まってしまった所もあります、被害は出ますが出来るだけ少なくしたいんです、その為にもここを平和に統治していると実績を作りたいんです」


口で言っても信じません、でもそれが存在していれば信じないわけにはいきません、その一手と言う事で侯爵様たちに料理を出します、みんなで「いただきます」と揃えて食事をしました。
侯爵様たちが相手なので、僕の出来るコース料理を出しました、マグロのカルパッチョやコーンスープと作ったんだ、部屋にいい匂いがしててターシャがソワソワしていたんだよ。


「どれも美味であった、シンジ殿感謝する・・・それで少し気になる事があるのだが良いだろうか」


料理を全て出し終わり、デザートのアイスをテーブルに置いて侯爵様が話を始めます、内容は自分の失敗の事です、このままだと僕たちの持っている技術や資源も平和に使うのではなく、奪う方に傾くかもしれないと教えてくれました。


「10剣王が勝てなかったと理解してもそれは起きる、ハイヒューマンは必ず裏切り反撃してくるのだ、それは確実だと思ってくれ、すまない」

「争いは無くなりません、それは時代が教えてくれてます、でも限り無くすことは出来るんです、僕はそこを目指します」


1000年は平和にしたいと目標を伝えます、侯爵様は呆れたような顔をしてますが僕の真剣な顔を見て考えを変えたようです。
根拠はあります、必ず成し遂げて見せますよ、あいつに反抗するためにです。
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