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3章 支店

60話 異世界はそんなに甘くない

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「なぁ~森田」

「何よ坂崎」


あたしはうんざりしながらも返事を返したわ、だってこれは坂崎の最近の癖みたいなものなの、要するに飽きたのよ。
あたしもじつはそう、雑草みたいなトゲトゲした草を森で採取して、街に戻ったらギルドに依頼として渡すの、森ではたまにゴブリンやコボルトが出て来て、最初は張り切って倒したわ、坂崎も「ヒャッホー!」とか叫んで剣を構えて突撃していた、それももう過去の話、1月して飽きちゃった、だって弱いんだもの。


「やっぱさぁ~もっと強い奴と戦おうぜ」


坂崎が薬草と間違って雑草を抜いて収納に入れてるわ、あたしたちの収納は無限だけど、坂崎はあたしと違って鑑定魔法が使えないわ、だから注意して捨ててもらうの、でもその前に返答したわ「遠くて行けないのよ」ってね、ここに来るまでにお金を使い果たしそうになったのよ、食料とか色々高いすぎるの、おかげであたしが苦労してるわ。


「じゃあさ、ここの奥に行こうぜ、そうすりゃすぐだろ?」


手を止めて森の奥を見ている坂崎の目は輝いているわ、まるで子供だと思ったわよ、あたしは既にこの世界の大変さを実感してるの、ショタ先生の言ってた通り、大人になって社会に出ると学校がどんなに楽だったかを知らされる、社会に出ればとても大変な事が沢山あるわ、その為に勉強をして、その知識を使って乗り切っていかないといけない、誰も助けてくれないから努力をしなさいって言ってたけどこれだったのよ。
あたしはため息を付いて賛成します、ギルドでの情報もしっかりと調べているわ、この奥にはハードクラスがいる程度なの、今まで行かなかったのは、坂崎の限界を待ってただけ、これであたしが断ったら、坂崎は一人でも奥に行くわ、全く子供よね。


「気を付けてよね坂崎、この先にはオークがいるんだからね」

「分かってるよ森田、楽しみだぜ」


あたしたちのレベルは11になってるわ、ハードクラス1体なら余裕で倒せるはずなの、モンスターと戦って思い知ったけど、あたしたちって数値は高いけどそんなに強くないの、ステータスの数値ってそれほど当てにならなかったのよ。
この世界の強さは、状況や装備や体調などで一変するわ、能力差があればノーダメージとか、簡単に倒せるとかじゃないの、ゴブリンとかが弱くて最初は分からなかった、ウルフと戦った時に思い知ったのよ、その時は牙で噛みつかれた坂崎を見てゾっとしたんです、正直に言うと最初に遭遇したのがゴブリンで良かったわ。


「あれがもし、ハウンドウルフでもっとステータスが高かったら、ハードクラスの違うモンスターで、例えばオーガだったら・・・あたしたちの初戦で命は無かったわ」


坂崎の後ろを歩いてあたしは呟いていたわ、そして警戒を強めたの、この世界にはモンスターよりも厄介な相手がいるわ、それは盗賊よ、あいつらは頭を使って仕掛けて来る、それこそステータスなんて意味をなさないの、腕を縛られただけでも苦戦は免れない。
それなのにこの世界にはスキルや魔法があります、それを受けると麻痺や毒と状態異常を簡単に付けれるわ、とんでもなく危険な世界なのよ、坂崎はそれを実感してないわ、ゲームの延長だと勘違いしてる、ウルフに噛まれた時も恐怖する程の痛みじゃなかったそうよ、それはステータスのおかげだけど、あれをずっと続けられたらHPがなくなって終わってた、だから城では装備を良くしていたんだと思い知らされた、あたしたちの肉体の強度はそれほどでもないのよ、ドラゴンの様に固い鱗があるわけじゃないから仕方ないけど、それはかなりのハンデです。


「森田いたぞ、すっげー大物だ」


先頭で指を差して教えてくれた先には、ボアって言う3メートルはあるイノシシです、ボアは地面から出てる尖った植物を食べてるわ。
あたしは、毛皮を傷つけないよう坂崎に伝えようとしたんだけど、次の瞬間には突撃していたわ、そして覚えたばかりの剣技『スラッシュラッシュ』を使って毛皮はズタズタ、あたしはがっかりして近づいたわ。


「へへん楽勝ー!」

「楽勝じゃないでしょ!これじゃ売れないじゃない」


片手剣を肩に乗せてカッコつけてるわ、あたしはついに声に出して怒ったわ、坂崎の自分勝手さにさすがに限界を感じたの、お金を稼がないと生活が出来ない、坂崎はボアの肉だけでも高く売れるって言ってるけど、それに毛皮もプラスされればもっと良かったのは言うまでもないわ。


「い、良いじゃねぇか、次にすれば」

「そう言う問題じゃないわ!・・・あたしもう嫌よ、家に帰りたい」


その場にしゃがみこんであたしは大泣きしたわ、高校生にもなってとか自分でも思うけど、涙が止まらなかったのよ。
それからどれくらい経ったか分からないけど、やっと涙が止まったわ、こんなに泣いたのなんて生まれて初めてだったわね、顔を上げたら坂崎が凄く困った顔をしていた、あたしもそれを見て、ちょっと戸惑っちゃったわ。


「わ、悪かったよ森田、次からは気を付ける」

「そうしてよね!ボアを回収して帰るわよ」

「お、おう」


坂崎が戸惑ってボアを収納にしまってくれたわ、あれだけ大声で泣いたのに、他のモンスターは来なかったみたい、それだけが救いだったわね。
それにあたし決めたの、もう坂崎に気を使うの止めるわ、疲れるものね。


「な、なぁ森田」


あたしが顔を拭いて坂崎を待ってたらあたしを呼んだの、振り向いたら遠くを指差してた、あたしはモンスターを見つけたのかと思って、またなの?とか思ったわ、だけど少し違うみたい、遠くで何かが光ってるのが見えたわ、あたしたちは何だろうって近づいてみました、もちろん今回は坂崎にも警戒して貰ったわ、今までと態度が違うから驚いていたけど、なかなか素直に聞いてくれたわね。


「「これって!?」」


光ってる物が何なのか、わたしたちは見えてきて驚いたわ、それは竹が光っていたの、そこであたしは初めて知ったの、ここが竹の群生地だってね、さっきのボアはタケノコを食べてたのよ。


「森田、切ってみるか?」

「ちょっと待ってよ坂崎!童話と同じとは限らないわよ、もしかしたらモンスターかも」


あたしはそこで鑑定魔法を使ったわ、竹の中にいるのは子供みたいで【???神の子】っと表示されたわ、これは奇跡を期待しない方がおかしいわよね。
坂崎に竹を切るように言います、そして出てきたのはすごく小さな赤ちゃんです、収納から布を出して竹から抱きあげると、だんだん大きくなって普通の赤ちゃんくらいになりました、不思議に思いながらも顔を除くと、とても綺麗な顔をしてます。


「可愛いわね、この子美人になるわ」

「そうか?・・・赤ん坊だから分からなねぇよ」


坂崎は興味なさげの反応だけど、これはきっと運命です、この子を助けろって言ってるんだわ。
赤ちゃんは布の中でスースー寝息を立ててます、あたしはそこで考えます、一生分考えたかもしれないわ。


「坂崎、あたしと結婚しましょう」

「へ?・・・ななな、何言ってんだよ!?」


急な事で坂崎は驚きを通りこしてるわ、あたしもそれだけならおかしいとは思うの、だから説明したわ、この子を育てるには誰かの支援が必要よ、それはギルドや領主などの大きな組織、それを得るには街に定住する事が必須なの。


「サラトンの街では、孤児院で働く人を探していたわ、それを受けるのよ、更に坂崎にはギルドに就職してもらう、訓練官になって安定収入を貰うの」


坂崎は技の勇者よ、だから教えるのは適任のはず、あたしも魔法を教えても良いけど、まずはこの子を育てないといけないわ、それなら孤児院に預けて働ける状態にするのが良いわ。


「どうよ、凄くない?」

「ま、まぁ分かったけどよ、どうしてけ、結婚なんだよ」

「その方が都合が良いのよ、あたしが坂崎に押し倒されて子供を宿したって事にするの、そうすれば子供を抱いていても不思議じゃないわ」


急に子供を産んだとか思われる可能性はあるわ、でもサラトンに来たのは2日前だし、気にするほど親しい人はいないの、あたしの話を聞いて坂崎は唸りながらも納得していたわね。
そんなにあたしと結婚って嫌なのかしらと、少しイラっとしたけど、この子を見ていると心が晴れるわ。


「じゃあ決まりね、あたしたちは子育ての為に孤児院で暮らす、冒険者は定期的にするけど、基本はギルドの職員よ、坂崎はあたしの夫であたしは妻、この子の名前は・・・ルナね」


竹取物語が頭から離れないので、名前は月にしました、そして坂崎とあたしは夫婦になったの、坂崎とも名前で呼び合う事にしたわ、坂崎の名前は光って言うの、あたしは空ね、強引に決めたけど光は押しに弱いみたいよ。


「うぅ~うぅ~」


あたしたちがルナと街に向かっている時、ある場所で女性が苦しんでいました、それはレースのカーテンを手で掴みソファーから前のめりに倒れる程です。


「うっうぅ~苦しいわ、力も入らない、なんなの急に・・・最近力が戻って来たと思っていたのに、いったいどういう事よ」


訳が分からず胸を抑えて苦しみます、しばらくしてそれは収まりました、でも女神である彼女が病になるはずはありません、理由も分からずその苦しみは定期的に起きるるんです、理由が分からず彼女は苦しみます、そして戻り始めた力は次第に失われていったんです。
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