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3章 支店

57話 精霊族の挑戦

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「また来たか、みんな準備をするぞ」

「「「「「はっ」」」」」


オレは部下たちに指示を出し、相手のいる壁の見張り台に昇った、こちらに注目させ部下たちに背後から攻撃させる予定だ、その相手が見えてきて拡張魔法を使い止まるように叫んだ、相手は何処から聞こえるのかと周りを見回している、オレは説明を省き警告を始めた。


「オレはササート森のササトイア集落族長の息子、ササカイズ・サト・ササトイアだ、同族に次ぐ!その先にはオレの集落があるのが見えるだろう、直ちに進軍を止め武装を解除しろ、話し合いなら応じる、その場で停止し使者を送れ」


無駄だと分かっていてオレは告げている、これで4回目なんだ、同族として恥ずかしい、ハイヒューマンが愚かにも奉納を3倍に引き上げて要求してきた、誰もが混乱しているんだ、オレたちがスライム鍛冶屋殿たちの力を借り、救って来た者たちが今度は敵になっている、ここに食料があるのを知っているから略奪しにきているんだ。
オレの警告を無視して団体が前進を止めない、予定通り部下に光信号を魔法で行った、部下たちが次々に拘束しているのが見れたよ、その手際の良さを見てオレ誇らしい。


「スライム鍛冶屋殿たちのおかげだな、みな強くなった・・・さて、誇りを失った同族に会いに行くか」


めんどくさくて嫌なのだが行くしかない、今日はすごく楽しみにしている行事が待っていた、急な襲撃だった為、数名の部下を連れてオレは今対応している、途中から参加するが、最初から席に座っていたかったよ、とても残念だ。
こんな大事な時に、混乱して奪う事を選択した無様な同族を罰してやりたいと、オレは急いだよ。


「ササカイズ様、こいつがこの隊のリーダーらしいですよ」


オレが到着すると、ナルソロロが準備を済ませていてくれた、ナルソロロも早く宴に参加したいのだろう、オレもそうだ。
今日は、大豆に続く新たな主食の白米が収穫できたのだ、その宴が朝から準備され開かれる、それも妹の手料理まで用意され食べれるのだ、早くしないとせっかくの手料理が冷めてしまうと、こんな奴らの対応をしている。


「それで、ここには何しに来た」


分かっているが聞いてみた、普通は男の名前を聞いてからになるものだがそれも省く、男は無礼だろうなどとも言わず、食料を寄こせと言ってきた、それもかなり興奮している、この時点でこいつらが普通の精神状態ではないのが分かる。
オレはいつものように対応した、男たちに冷たい水を大量に掛けたのだ、それでも正気にならない場合数回に分ける、そうすると少しは冷静になるんだ、拘束され地面に座らされている男は、やっと冷静になり食料を分けてくれと言ってきた、3回も水を掛けるとは新記録だよ。


「食料が欲しいんだな、ならば働け!丁度収穫が終わったばかりだ、最初の食事は無料だ、しかししっかりと働いてもらうぞ、ナルソロロ連れて行け、急げよ」

「はっ!分かっております」


ナルソロロも笑顔で返事をした、こいつらのせいではあるのだが、本当に悪いのはその状態にしたハイヒューマンたちだ、そいつらさえいなければこんな争いは起きていない、先に来て働いている3つの部隊も、今は仲良く暮らしている、そろそろ最初の部隊の者たちが来た集落がここに合流する予定だ。


「オレたちが食料を配っても食料を作れていないのは前と同じだ、配給が無くなったらどうしようと不安なんだろう、その気持ちは痛い程分かる」


本来ならば真っ向から戦い、被害を受けていつかオレたちは落とされる、しかしスライム鍛冶屋殿たちのおかげで強くなり、被害もなく済んでいる、過酷な訓練をしていて良かったよ。
おかげで集落自体は大きくなっているんだ、オレたちはもともと500人以上の集落だった、精霊族の中では少ない方だ、それが今ではトップ5に入る数に膨れ上がっている、襲撃してくる以外も助けを求めて集落に来た者がほとんどなのだ、今度の精霊会議という大規模会議に出席する知らせまで来るほど、今のオレたちは大規模になったんだ。


「ハイヒューマンの侯爵貴族にも呼ばれたし、ほんとに変わったモノだ」


忙しいのも困りものだとため息を付いた、リリフォトも訓練や料理をしていたいと駄々っ子になるほどだ、そのリリフォトが料理の成果を披露するのが今日なのだ、まったく嘆かわしい。
オレはやっと集落の中央広場に到着し、賑わいを見て嬉しくなった、このように笑顔でいられた事が今までなかった、ほんとにスライム鍛冶屋殿たちには感謝しても足りない、モンスターとは倒すべき相手だと思っていたが、考えを改めさせられた。


「遅かったのね兄様」

「リリフォト・・・それがそなたの作った料理か?」


オレの席は舞台の上だ、父上と母上がいれば一緒に食せただろう、オレの隣には恩人のスライム鍛冶屋殿たちが座っている、リリフォトに「失敗したのか?」と聞きたくなるほどの茶色くて四角い料理が皿に置いてあるんだ、スライム鍛冶屋殿たちは食べているが躊躇ってしまう。


「何よ兄様、これはそう言った料理なのよ、決して失敗したわけじゃないわ、見た目は悪いけどとても美味しいのよ・・・嫌ならいいけど」

「いや、もちろん喜んで食すぞ」


妹が作ってくれたものだ、黒焦げでもオレは食す、例え虚勢を張ってる様に見えても食す、そう決意して一口食べた、しかし味は叫ぶほどに美味かったよ、生産の落ち着いたショウユと味噌を塗り込み焼いた白米だったんだ、妹がオレの答えを聞いてドヤ顔をしている。


「これなら何個でも食べれるな」

「それだけじゃないのよ兄様、これはお湯を注ぐと、また違う美味しさになるの、ちょっと待ってて!」


妹が先ほどとは変わり、笑顔でオレの為に料理を作り始めた、それだけでオレは幸せだ、本来は宴の最初から出席が出来て、この幸せを噛みしめ堪能できたのだ、あいつらには働いた分は与えるが罰が必要だろう。


「1食抜き、いやスライム鍛冶屋殿のブート訓練とやらをやらせるか」


凄く過酷だったあの訓練を思い出し、ブルっと震えた、あれのおかげでスキルも強さも手に入る、しかし心に傷を負うほどに過酷だ。
あいつらの罰を考えていると、妹が湯気が立ち昇るお椀を持ってきた、オレは考えるのを止め笑顔で受け取り食した、それがまた美味かったよ、更に梅干しや焼き魚を解した味をお代わりした、白米とはすばらしいモノだと、隣に座っているスライム鍛冶屋殿にお礼を述べた。


「お礼を言うのはこっちぜよササカイズ殿、ワシたちではここまで料理を上手くできんかったぜよ、それに量産もぜよ、協力感謝するぜよ」


ふたりで頭を下げ合い、顔上げると一緒に笑った、彼らは友と呼ぶにふさわしい、モンスターではあるがとても心穏やかな者たちだ。


「それでなササカイズ殿、折り入って話があるぜよ」


スライム鍛冶屋殿がかなり畏まってきた、いつもは簡単にお願いや指示をしてくるのに珍しいと思い、オレも緊張して聞いたよ。


「一つは食事を始める時ぜよ、神に祈らず作った者に感謝をして食してほしいぜよ」


スライム鍛冶屋殿たちが個別に言っている「いただきます」の事だ、あれは食材に感謝し、それを作った者にお礼を言っていると話してくれた、確かに神よりも先にそう言った者たちに感謝するのは大切だ。
オレは了承して集落に広げる事を約束した、そしてもう一つが問題だった、なんと今度の精霊大会議に護衛として、スライム鍛冶屋殿たちを連れて行ってほしいと言われたんだ、さすがにそれはまずいと思った、オレは良くても他の参加者には伝わらないだろう。


「もちろん、ワシも簡単にいかないのは分かってるぜよ、だから少し作戦があるぜよ」


スライム鍛冶屋殿が手招きしてきた、オレは耳を寄せ作戦を聞いた、なるほどという内容だ。


「生産の整った食料だけでも破壊力はある、それなのに武器やポーションもとなると考えを変えるかもしれない・・・しかし鍛冶屋殿、危険ではないか?」

「ササカイズ殿の不安も分かるぜよ、食料だけでも今の状況を引き起こしているぜよ、しかしハイヒューマンとの争いは近い内起きるぜよ、その時にワシを紹介しても緊急過ぎて受け入れて貰えないぜよ、今しかないんぜよ」


スライム鍛冶屋殿の考えは分かる、タイミング的にも今しかないだ、本来は今回の会議で話を出し、次の会議に出席してもらいたかった、しかしそれでは間に合わないのだ、それだけハイヒューマンの動きは活発化している、今しかないのは誰でも分かる。


「分かった、だが覚悟はしていてくれ、オレたちの様に受け入れてくれるとは限らない」

「それは承知ぜよ、危険を冒さねば奇跡は起きないぜよ、今それを起こさねばいかんぜよ」


スライム鍛冶屋殿が手を差し出してきた、オレは握手だと直ぐに分かり受け入れたんだ、会議は2週間後なので準備を始めた、丁度良い具合に働く者たちは増えたからな、人手は足りている、少し無理してでも急がせるとしよう。
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