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3章 支店

54話 秘密にしてること

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「また随分な量ですね、これでブルースフィアはシルバーに昇格できる資格を得ました、試験の費用は銀貨5枚ですがどうされますか?」


冒険者ギルドの受付嬢が私のギルドカードを返しながら聞いてきました、私はもちろん受けると答えたわ、ここまでは予定通り、問題はこの後よ。
私が思っている事を受付嬢が表情を曇らせて聞いて来たわ、私はまたかと思って答えたの。


「何度も言いますけど、狩り場の場所は言えません、私たちをオリハルコンクラスにしてくれるなら話は別ですけどね」


ミスリルクラスのあいつらを倒し拘束してギルドに渡したんです、その上のクラスである黒鉄か、次のクリスタルに私たちを昇格しても良いはずなんです、でもそれは却下されました、新人で飛び級は前例がないからです、それに昇格するには実績が必要です、難しいクエストを幾つもこなして行き、更に評判も良くないとだめです、だから秘密を持っている私たちは論外だそうです。


「それは流石に、前はクリスタルクラスと言ってたではないですか」


受付嬢が困った顔をしてます、クリスタルクラスはオリハルコンの下です、でも前回断られたから上げてやったんです、どうせ断られるんですから上げても同じよね。
私は交渉の余地なしと見てその場を離れます、入口手前のテーブルで、みんなが談笑してるわ、私が戻ると早速次のクエストの話よ、もちろんシルバーになれる事は話したわ。


「シルバーだと、何が出来る様になるでゴザルかな、教えてほしいでゴザルライチ殿」

「内容は変わらないよピエール、難しいクエストが増えて、アタシたちの立ち位置が変わるだけ」


ライチがスライム騎士のピエールに説明したわ、ギルドのランクはクエストの難易度で決めています、ほとんどは単独ですけど、護衛や大きな討伐クエストでは、ランクによって受け持つ担当が違うんです、ブロンズは新人なので指示を聞いて動きます、アイアンが新人を抜けた中堅者で、ブロンズを先導しながら動くようになります、そしてシルバーはそれを統括する上級者って感じです。
それを説明してピエールが補足します、ミスリルがギルドも信頼する上級者で、黒鉄はミスリルよりも腕の立つ熟練者、クリスタルになると国の軍を指揮できるレベルで、オリハルコンは英雄と呼ばれるランク、それで間違いがないか聞いてるわ、ライチは頷いてるけど、そこまで行けないよって笑ってる。


「それはそうでゴザル、英雄とは、なりたくてなるものではゴザラン、正義をなしていれば自然と呼ばれるモノでゴザル」


ピエールが悟ったような顔をしてるわ、まぁ兜を着けてるから、ほんとの表情はわからないんだけどね。
私は話を進めて、試験の話に切り替えます、みんなはそれよりも次の依頼を何にするか決めたいって顔してるけど、合格しなくちゃ意味ないんですよ、私はそこを言い聞かせて試験官を待ちます、ここで顔合わせをして明日に出発です。


「試験官によっては大変なクエストを振ってくるわ、私たちは今秘密を持ってるから、きっと大変な物を選ばれると思うのよ」


みんなに注意をします、きっと高ランクのクエストを依頼してくるわ、ピエールたちがいるからそれでも余裕です、私たちも訓練をしてレベルは上がっていますからね、それでも経験が物を言うクエストもあるの、だから心配事がなくなることはないんです。


「お待たせしたね、君たちがシルバーの試験を受けるPTかな?」


テーブルでクエストの予想をしていると、眼鏡をかけたヒューマンの男性が近づいてきて聞いて来たわ、見るからにデスクワークが主体のひょろっとした男性です、戦闘が出来ませんって顔に書いてあるわ、ライチの好みに合いそうだけど、ライチは表情を変えないわ。
私たちから自己紹介をして男性を椅子に勧めます、男性試験官の名前はオートランドと言うそうです、全員と握手をして試験内容を話してくれました。


「護衛依頼ですか」

「そうです、ですがただの護衛ではありませんよ、この街ナザランで知らない者はいない、ササーランド商会の長男様の護衛です、如何ですか?」


オートランドさんが眼鏡を指で上げて得意げです、私はそれを聞いてかなり怪しいと思ったわ、普通試験をするのにそんな重要な依頼を選ぶことはしません、それも私たちがここに来たのは1月前です、あいつらをサルトルで引き渡して、ダンジョンを秘密にしながら依頼を受けていたら、ギルドがうるさくなってきたの、だからこっちに移動したの、秘密を知りたければランクを上げてねっと伝えたの、じゃないと移動してしまうからねと無言の警告も加えてね、そんな私たちにこの依頼は無いわ。
そもそも護衛って時点でおかしいと思ったんですよ、難しい依頼である事には違いないけど、それが失敗したらギルドの顔にも傷が付きかねない依頼です。


「ササーランドの長男って、確かアルサレムって名前だったわよね」

「よくご存じですね」

「有名だもの、噂じゃ近々結婚するという話よね?」


そこまで私が話すと、オートランドさんは笑顔を見せて頷きました、その結婚相手に会いに行くための護衛だと、テーブルに身を乗り出して小声で伝えて来ました、私はなるほどって思ったわ。
襲ってくる確率が比較的低い護衛、それでいて警戒を怠れない難しいモノ、成功すればギルドとして跡継ぎの長男に顔を売れて、失敗したら私たちのせいに出来る、そうなればダンジョンの情報を私たちから取ろうって魂胆だわ、私はそこまで読んで了承したわ。


「では、出発は明日と言うことで宜しくお願いします」


オートランドが離れたので、みんなで作戦会議です、予想通りライチたちは険しい顔をしてるわ、私がその場で了承したのが気になる様みたい、もちろん直ぐに説明したわ、みんなもその線が濃厚だと思ってくれたわ。


「どうせ他の依頼に変えてもギルドの方針は変わらないわ、きっとダンジョンの情報はどうしてもほしいのよ、同じ危険を冒すなら利益がある方を取りたいじゃない」


これは私たちがピエールたちと組んだ日に決めたことです、アジトであるダンジョンの情報は、ピエールたちの事だけを話してギルドには秘密にする、アジトの力を使って依頼を沢山こなし、ワザと目立ってチャンスを手に入れるってね、これはそのチャンスが来たのよ、私たちはこれを待っていたの。


「しかし、あのオートランドと言う者、見かけ通りの男ではゴザランよ」


ピエールが腕を組んで告げて来たわ、私たちはどこがって思って注目したの、そしたらオーラを隠しているっていうのよ、強さをごまかしてるらしいわ。


「なるほど、だからあたしのアンテナに引っかからないのね、良い感じに見えたのにタイプじゃないのよね~なんでかな?」


ライチが自分の好みを宣言して不思議そう、私も最初にそう思ったわ、ライチは弱そうな人が好きだものね。
私はその時の会話を談笑程度にしか思っていませんでした、でもそれはもっとすごい重大な事が隠されていたの、その時の私たちは気づくことが出来ず護衛の準備を始め、次の日に街を出発しました。
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