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3章 支店

53話 どうして?

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「皆集まってくれて感謝する、国王陛下に進言する準備が出来たのにどうして集まったのか、皆も不思議であろうが聞いてほしい、これは隠してきた事なのだが、娘のターシャが誘拐され無事帰って来た、その時の話を聞いてほしい」


お父様がワタシを会議の参加者たちに紹介してくれました、この方たちは数日後、国王陛下に奉納を止めるように進言するメンバーです、全員上級貴族で伯爵や侯爵家の方たちで、隣の国との仲も良好です。
そんな叔父様たちが10歳のワタシを見てるわ、とてもかわいそうな物を見るように視線を向けてきます、誘拐されたのだから仕方ないけど、あれは結果的に良い事になったのよ。


「ワタシはその時子供でした、何も知らないわがままな子供、そのせいでクレスの姉であるキャミージェの罠に嵌って殺されるところでした、しかしそこにロイヤルハーピーが降り立ち助けてくれたのです、そして彼に会わせてくれた」


ワタシは彼に会い、とても素晴らしい体験をしたと語ります、皆さんとても驚いて聞いていました、魔族は野蛮で力だけの存在だと思っていたからです、話の内容を聞けば彼らはワタシたちに似ている、そう思わせる話しなんです。
シンジに会ってから4度目の会合です、既に第1王子との話し合いは噂になっていて、近寄って来る者が絶えませんでした、そこで振るいに掛けこの方たちが残りました。
奉納を止め、隣国と協力して枯れた土地を復活させる、それが戦争を止める第一歩となると最後に告げたんです。


「ワタシたちハイヒューマンも、他の種族を力で抑えて来ました、そんなワタシたちに誇れる物はありますか?」


ワタシは続けます、彼の様に素晴らしい食事を作れるかと、お洋服や建物を作れるかと、絶対にできないと誰もが思い顔色を曇らせます、ワタシたちはいつも奪うか貰うばかりです、料理人や職人は全員他の種族を奴隷にするか雇っています、ハイヒューマンでそういった職に就く者いません、管理する上の者になるだけだったのです。


「だからお父様は変えようとしています、自分たちで誇れる何かを得る為です、皆様どうか力をお貸しください」


ワタシの話は、別にここでする必要はありませんでした、しかしお父様の懸念を取り除きたかったのです、ワタシの様な子供でも分かる危機感を皆さまに持ってほしかったのです、これでほんとの意味でお父様に賛同してくれます、なぜ奉納を止めなければいけないのかを本当に理解できるのです。
どの種族よりも強く賢い者、その誇りを無くさない為にも奉納を止め争いを無くさなければいけません、奪うのではなく与える存在でなければいけないのです。


「皆分かってくれただろうか?我らは神に一番近いとされるハイヒューマンだ、今こそそれを取り戻そうではないか!」


お父様が最後の言葉を述べられました、皆様もそれに賛同してくださり頷いています、ワタシもそれは嬉しく思い誇らしいと感じました、彼にもそれを伝えると、全面的に協力してくれると約束もしてくれたんですよ。
それから数日して、お父様たちはお城に進言に行きました、そして暗い表情で帰ってきたのです、ワタシはその理由を聞き大変な事をしてしまったと嘆きます。


「ターシャ様、そう落ち込まないでください、きっと大丈夫です、お父様やエリック叔父様たちが止めてくれます」


寝室に戻り、枕に顔を埋めているワタシをクレスが励ましてくれています、彼から届いた紅茶を入れ、お菓子も用意してくれているわ、でもクレスも無理だと分かってる顔です、もう止められないのです。


「クレス、あなただったら我慢できる?今までだってつらかった奉納を3倍にすると言われるのよ、死の宣告に等しい行いじゃない、そんな事をされたらきっと始まってしまうわ」


お父様たちのお話を聞いた国王陛下は、変な方向に考えを巡らせました、それは他の種族から学ぶのではなく、奪おうと宣言してしまったんです、もちろん被害が出るのは望ましくないと、お父様たちも即座に止めたの、奪うのは良くないと説得したのよ。
陛下もそれを聞いて奪うのは良くないと考え直すわ、でもお父様たちが思ってる良くないと言う方向ではなかったのよ、陛下はこういったそうです「元気なうちに争えば兵士たち同胞が傷つく、ならば相手が弱ってる方が良いだろう、奉納を更に増やし少しでも弱らせるのだ、その後は戦争をするも良し、弱って技術を奉納として取るも良しだ」そう言って笑っていたそうです。


「食料の生産が良くなったところでもあったわ、だから余計悪いの、彼らは思うはずよ、自分たちの暮らしはハイヒューマンがいる限り良くならない、全て取られるのならば戦うしかない・・・もう止められない」


自分たちが戦争に向かう導火線に火をつけてしまった、お父様たちもそれを感じて相当ショックみたいでした、この後の流れは誰でも分かるわ、ハイヒューマンと他の種族との戦い、反乱を起こした他の種族が悪いとしてハイヒューマンが正義だと宣言する。
こちらにいる相手種族を先に戦わせハイヒューマンたちは後方待機、美味しい所を攻めるのはいつもの事、指揮を取るのがハイヒューマンだから当然よね、相手は混乱するわ、ハイヒューマンと戦ってるはずなのに、出てくるのは同族ばかり、疲労して心に傷を負って弱る、そう考えて悪い方に向かってしまっていると、ワタシは泣くことしかできません。


「被害が大きくなってもハイヒューマンには被害は出ない、だから陛下は即決してしまった、もうそんな未来しか見えますわ」


3倍の奉納は、取れても1度でしょう、それだけでも十分な量だし技術も同時に提示すれば良い、ワタシは半分諦めた感じで先を読み笑います、そして涙が止まりません、ワタシのせいでこんな事になってしまったと、責任が重くのしかかります。


「ターシャ様・・・彼に助けを求めてはいかかですか?きっと良い案を出してくれます」

「それはダメよ絶対ダメ!」


クレスに力の限り反対しました、彼だって今の状態では戦う以外の方法を見つけることは出来ないわ、そうなったら彼も戦いに参加してしまう、更に戦火が広がるのよ、彼の協力は平和を築く為の物なの、ハイヒューマンが他の種族と仲良く手を取り合うようになり、魔族ともそんな仲になる為のモノ、その時彼とワタシが婚約をすれば平和な世界が作れる、それがワタシの予定だったの、それなのに戦争に参加してもらうなんて絶対に嫌です。
ワタシはまた枕に顔を埋めました、クレスは諦めないでと励ましてくれるわ、でもどうすることもできないのよ、戦争は始まってしまうわ、今からでは止める方法はない。


「そんなのある訳ない、10歳のワタシが思いつく事なんて、戻って来る前にお父様が進言しているわ」


ワタシはシンジのリングを触って彼ならどうするか考えます、でも話したくなっただけ、それももうできないとワタシは涙が溢れて来たの。
それから数日して、国王陛下の奉納3倍が他の種族の国に宣言され、かなりの騒ぎになってしまったんです。
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